第88話 2年目全国大会Cブロック予選:対大阪日吉
■武宮 菫:大阪日吉2年リーダー。堀川の指名を受けてリーダーに。両肩ミサイルの火力型ストライカー。
■岡部 奈緒子:大阪日吉1年。U-15政治闘争騒動に巻き込まれた1人。新城を師匠としており、いつか超える日を夢見る高機動ガトリング専の実力者。
■宮島 文:大阪日吉3年副リーダー。自分にリーダー適正は無いと辞退した。去年のU-18代表の1人で兵科を選ばない万能選手。一応最近はサポーター固定になりつつある。
■side:大阪府立日吉女学園2年 リーダー 武宮 菫
それを見た瞬間『運が悪いなぁ~』と思った。
今年の全国高校生LEGEND大会。
ブロック決めの抽選で引いたのはCブロック。
その瞬間、会場が騒がしくなった。
気持ちは解る。
Cブロックは、完全に死のブロックだったのだから。
・去年決勝に出てきた神奈川の栄女子。
・同じく決勝に出てきた山梨の大熊。
・更に同じく決勝トーナメントまで勝ち残った広島の芦見川。
・2年連続LEGEND強豪校と呼ばれている柏原国際を破って代表となった 長野の大黒。
・そして去年優勝校である滋賀の琵琶湖女子。
・最後に我らが大阪日吉。
名前だけ見れば完全な決勝トーナメントにしか見えない。
そりゃ騒がれもするよね。
しかもCブロック第1試合は、大阪日吉 VS 琵琶湖女子。
何の嫌がらせだよと思った。
堀川先輩からも連絡があった。
『お前、ホント運が無いなぁ~www』
先輩ながら殴ってやりたい気分になったよね、ホント。
それから試合までの間、ずっと対琵琶湖女子作戦を練習していた。
相手は、恐らくベストメンバーでは来ないだろう。
だから最初の撃ち合いで積極的に押し込んで優位を取る。
そこからKD戦を仕掛け、相手がメンバー交代をしたあたりで一旦後退する。
相手が『自分達を恐れて下がった』と勘違いして前に出てきた所を伏兵を含めて一気に仕掛ける。
そこで狩り尽くせれば司令塔まで押し込めばいい。
もし思ったより狩れなかった場合は、無理せず防御を固めて序盤の有利を維持する方向に切り替える。
そうすれば相手は後半無理してでも前に出なければならない。
そこを『集団突撃』で意表を突いて逆に踏み潰す。
これをひたすら練習しつつも想定外な状況も考えて派生作戦もいくつが練習する。
そうしている間に、決戦の日が来てしまった。
*画像【工業区:初期】
マップは、工業区。
予想していたマップの1つで安心する。
このマップでの戦い方も散々練習してきたのだ。
それが無駄にならなくて良かったよ。
「今日、この日を決勝戦だと思って全てを出し切れッ!!」
「了解ッ!!」
全員にそう言ってからVR装置に入る。
ベンチも会場から隔離され、私達もステージに移動する。
会場の声援がVR内にも入ってきて、気分が高揚する。
さあ、ゲームスタートだ。
―――試合開始!
アナウンスと共に鳴り響く試合開始の音。
仲間達と最前線へと走り出す。
最初のひと当てを強引に押し込んでまずはプレッシャーを―――
「ちょ、相手が―――」
「バカッ!!退くなっすッ!!」
「クソッ!!何なのよッ!!」
正面に飛び出した3年生の先輩と副リーダーの宮島先輩。
そして1年生ながら主力としてメンバー入りしたU-15の奈緒子ちゃん。
開幕押し込む予定だった3人から予定外の声が上がっている。
少し遅れて私も前に到着すると、ようやく状況を理解した。
完全に押し込まれているのだ。
目の前には大盾を構え、ブースターで動き回りながら大型マシンガンを撃つストライカー。
奈緒子ちゃんが、同じくブースターと大型ガトリングで対抗しようとするが……。
相手は攻撃を全て大盾でガードし、奈緒子ちゃんは相手の大型マシンガンによって削られ続ける。
そうなると結局、先に奈緒子ちゃんが下がるしかない。
こうして一方的に押し込まれる形になってしまう。
しかも相手アタッカーが、その大盾ストライカーの後ろで高台に居るウチのミサイル装備ストライカーをずっと牽制していた。
おかげでこちらのミサイル装備ストライカーは、グレネードまでチラつかせる相手アタッカーに翻弄され、迂闊に支援攻撃が出来なくなっていた。
更に私側の正面では、大盾持ちのサポーターが堅実に距離を詰めてくる。
宮島先輩も大盾持ちのサポーター装備なので前に出て牽制しようとするのだが、相手サポーターのスグ後ろにアタッカーが居るようで。そいつが上手く牽制攻撃をしていた。
流石の先輩も1人では無理だろうと思って私も前に出ようとすると、グレネードを構えられる。
思わず後ろに下がると『今のはフェイントだ』と言わんがばかりにアサルトライフルでまた先輩に攻撃を仕掛けていた。
「ふざけた真似を―――」
そう思って再度前に出ようとした瞬間、こちらに飛んでくるグレネードが見えた。
思わず後ろに下がろうとしたが、間に合わず爆発に巻き込まれる。
耐久値が半分ほど減っており、片側のミサイルが使用不能判定になっていた。
私は、ブースターに慣れないため大型ガトリングと両肩ミサイルという火力ストライカー装備にしているのだが、今回はそのせいで回避が間に合わなかったと言える。
とりあえず舌打ちしつつもスグ横にある施設を利用して、さっさと戦線復帰を目指す。
「何なのよ、アイツら」
補給しながら思わずそう呟いた。
明らかに事前情報とは違う。
去年のデータなど何の参考にもならない。
「地方予選のデータですら、まったく信用出来ないじゃない!」
この試合は、かなりの人が見ている注目試合。
ここで無様な真似は出来ない。
補給を終えて前線に戻るが、もう完全に押し負けた状態になっていた。
*画像【工業区:2年目開始】
正直、何が起こっているのか教えて欲しい。
これが相手のベストメンバーだというのなら納得も出来た。
でもU-18メンバーは1人も出ていない。
しかも相手にはLEGENDを今年はじめたという人間も混ざっているらしい。
それでこれ?
何の冗談?
じゃあ私達は一体何なのよ、ホント。
思わず心の中で愚痴ばかりが出る。
というか、そうでないとやってられないわ。
今まで必死に考え、練習してきたことが何一つとして役立っていないじゃない。
何をしようとジワジワ押し込まれ、相手は発電所の占領すらせず押し込むばかり。
あまり動きの無い上下も少しづつ押され始め、全体的に後退する以外に道が無くなる。
名門:大阪日吉が一切何もさせてもらえず、ただひたすら押し込まれる。
これはもうOG会とかから何か言われるだろうな~。
だからリーダーなんて無理だって言ったのに。
数人が無理をして踏みとどまろうとする。
下がれと言っても言うことを聞かない。
『大阪日吉の意地が~』とか『このままでは押し込まれるだけだ~』とか色々言ってくる。
もう私だっていっぱいいっぱいなのよ。
これ以上、手間をかけさせないで。
そしてやはり無駄に踏み止まった奴から撃破されていく。
「自分の感情優先して点数差つけられ、それで満足かッ!?」
腹が立ったので、思わず怒鳴ってしまった。
私にリーダー押し付けたのなら、せめて私の言う事ぐらい聞いてよ。
「気に入らないなら、今すぐ誰でも良いから交代してベンチに行けッ!!そうじゃないならさっさと後退して防衛固めるぞッ!!」
「り、了解ッ!!」
どうせ下がってもジリ貧。
逆転の目なんて存在しない。
そんなこと私が一番解ってる。
それでもこんなところで意地を張って無駄死にして更に逆転の目を潰す方がどうかしているでしょ。
どうしてそれが解らないのか。
「……やっぱりお前の方がリーダー向きっすよ」
「せんぱ~い。その辺は、試合後にでもじっくり話し合いましょう」
宮島先輩もどうしてこんな状況でそんなことが言えるのか。
後退しながら1人でも巻き込めないかなとミサイルを一斉射してみるが、綺麗に回避されてしまう。
やっぱりこんなのじゃダメか。
そうしてギリギリまで下がりつつ仲間の復活を待ってどうにか戦闘を続けているが、これはもうダメだろう。
戦闘時間が10分を超えた段階、まだまだ序盤でこれである。
*画像【工業区:2年目後半】
ここから逆転など無理でしょ。
純粋にそう思う。
ここまで押し込んで、ようやく発電所を制圧する所も何とも言えない苛立ちを感じる。
逆にここから何とか出来る手段があるとすれば、1つだけ。
『ラストアタック』
これしかないだろう。
そして琵琶湖女子には、去年これを1度使っている。
間違いなく対策される可能性が高い。
そんな中でこれを使用しなければならないというのは、どんな罰ゲームなのか。
それでも私はこれを指示しなければならない。
リーダーとして、最後まで諦めない姿勢を見せなければ……。
■side:大阪府立日吉女学園1年 岡部 奈緒子
正直、ここまでの差があるとは思わなかった。
私だって世界を相手に戦ってきたのだ。
最強などと言うつもりはないが、それでもここまで一方的にやられるとも思っていなかった。
正面の宮本という選手は、去年LEGENDを始めたばかりで防御型の両肩ガトリング。
そう聞いていた。
しかし今、正面に居るのはブースターを使いこなし大盾で防御しつつ片手で大型マシンガンを操るベテランストライカー。
対して私は、新城先輩直伝で世界でも通用した高機動ガトリング。
負けることはないと思っていた。
良い勝負が出来るはずだと。
だが結果は、一方的な負け。
世界戦でもあんな動きをするストライカーなど見たことが無い。
私が対戦出来るかもと愉しみにしていた先輩は、未だベンチ。
このままでは終われない。
しかし現実というのは残酷だ。
どんどんと逆転など不可能な状況に押し込まれてしまう。
撃ち合いを続けながらも、どうしたものかと思っているとついに指示が出る。
『ラストアタック』
全員で突撃する大阪日吉の代名詞となった戦術だ。
その指示に誰も反論する人は居なかった。
それはそうだろう。
反論するなら、この状況から逆転出来る手を対案として出さなければならないからだ。
相手に気づかれないように、それでいて素早く準備が整う。
そしてついに全員の準備が完了する。
「―――じゃあ行きます。全員後悔の無いように」
リーダーの言葉と共に真っ先に大盾を構えた宮島先輩が飛び出す。
そして先輩に続いて盾持ちが飛び出そうとした瞬間―――
宮島先輩めがけて飛んできたのは、グレネード4つ。
しかも2発は足元。2発は盾に直撃する。
予想外の展開と大爆発で思わず突撃が中断された。
―――ヘッドショットキル!
◆キル
x 大阪日吉 :宮島 文
〇 滋賀琵琶湖:三峰 灯里
立ち昇る黒煙。
◆ヘッドショットキル
x 大阪日吉 :武宮 菫【L】
〇 滋賀琵琶湖:安田 千佳
大量のグレネードが爆発する瞬間、その爆発音に紛れた一撃がリーダーを撃破した。
発生する通信障害。
生き残っている先輩達が色々叫んでいるが、通信が死んでいる以上は徹底した連携は無理だ。
まして連携突撃など不可能だろう。
―――だが、私は『諦めたくなかった』
「止まるなぁぁぁぁーーーッ!!!」
叫びながらブースターを吹かして黒煙に突っ込む。
そして黒煙を抜け、相手を確認してブースターを更に吹かしてフェイントを入れる。
勢いを出来るだけ殺さず、ガトリングを構えた瞬間。
―――高速で迫る何かが見えたような気がした。
岡部は胴体に直撃を受けると、まるで子供が人形を投げ飛ばすように勢い良く吹き飛ぶ。
地面に何度もバウンドしながら滑り、黒煙を抜けて味方側へと飛んでいく。
そしてスタート地点の奥側にある壁にぶつかってようやく停止し、光の粒子となって消えていく。
◆キル
x 大阪日吉 :岡部 奈緒子
〇 滋賀琵琶湖:神宮寺 詩【L】
黒煙が消えると、琵琶湖女子側の奥に固定砲台のような状態の選手が1人見えた。
大盾を2つ構え、その盾にある覗き穴から相手の様子を窺うストライカー。
背中には折り畳み式の大型滑腔砲が展開されており、砲身から煙を上げていた。
そのあまりの衝撃と一方的な展開に、大阪日吉の生き残っている選手達は攻撃することも忘れ棒立ち状態になっていた。
それを見た監督は『まさかこれほどとは……』と呟くとサレンダー申請を行う。
これによりCブロック第1試合は決着となった。
『滋賀:琵琶湖女子、大阪:大阪日吉に圧勝ッ!!』
このニュースは、日本中に衝撃を与え関係者を中心に騒動となった。
中でもこれから琵琶湖女子と戦う高校の選手達は、未だ霧島アリスを含めたメンバーが登場していないことに恐怖を感じたという。
ちなみに余談だが、この時琵琶湖女子側でも衝撃が走っていた。
集団突撃が来るという読みをした神宮寺によりグレネード投擲の指示が出る。
北条紅・黒澤・卯月・三峰のグレネードは、距離や技量の問題か卯月と紅のグレネードは相手の足元に。
そして黒澤と三峰のグレネードは相手に直撃し、結果として三峰のキルと判定された。
しかしこの時のグレネードの爆発音に驚いた安田がやらかした。
形だけ構えていたはずの零式ライフルの引き金を音に驚いて引いてしまったのだ。
何も考えずに引いたはずの弾。
それが何と相手リーダーに対するヘッドショットとなった。
試合後に『安田は何かに取り憑かれているのでは?』とベンチでは騒動になり、安田が大いにテンパった。
そしてそれをひたすらアリスが笑いながら見ていた。
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*数々の誤字脱字報告ありがとうございます!
■□■□設定変更のお知らせ■□■□
今まで全国編や世界編でキルログの表示を変えていましたが、全て日本表記で統一することにしました。
これに関して色々なご意見を頂いておりましたが、正直これでゴチャゴチャしていてもつまらないのでいっそ統一した方が早いという結論です。
*今まで
全国編
琵琶湖女子:霧島 アリス
世界編
ジャパン:アリス・キリシマ
*これから
全国編
琵琶湖女子:霧島 アリス
世界編
日本:霧島 アリス
ついでに海外勢の会話も全て日本表記に統一します。
*今まで
アリス・キリシマが~
*これから
霧島 アリスが~
ということですので、今後の表記に関してご理解頂きますようお願いします。




