表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/191

第84話






■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 黒澤 桂子






 最初は何を馬鹿なと思った。

 でもこの学園を選んで正解だったと今では思う。


 U-18女子日本代表に選ばれなかった、あの日。

 私は一からやり直すつもりで練習に打ち込んだ。

 それでもどこか満足出来ずに悩んでいる時に、ふと思い出した。

 かつてスカウトに言われた言葉。


 『最高の環境を用意出来る』


 だからこそ私は、琵琶湖女子へと転校した。

 まさか誠子の奴も一緒だったとは思わなかったが。


 何度考えても、やはり琵琶湖女子は異常だ。

 レギュラー争い1つにしてもそうだ。


 U-18女子日本代表だった連中。

 新城、大場、大谷、南、笠井、霧島。

 既に6枠が、この時点で埋まってしまっている。


 残り4枠で何とかすればいいと思うかもしれないが、それも厳しい。

 

 堅実な戦いで隙が無いように見えるサポーター。

 ミサイルだらけで一撃の怖いミサイラー。

 素人に見えるのに狙撃と地雷で不思議とキルを稼ぐブレイカー。

 粗削りながらも連携が怖い双子。

 AC勢らしい予測不可能な動きからの突撃接近戦は、最近流行りのアレと同じで対処が難しい。

 旧式ストライカーのような砲撃スタイルのお嬢様は、防御を固めてひたすら一撃を狙ってくる面倒さがある。


 他は相手にならないが、軽く見ただけでもこれだけ居るのだ。

 しかもここに誠子まで入ってくる。

 佐賀大では感じたことのないほどの壁の厚さを感じてしまう。

 だがこれらを乗り越えてこそ先がある。

 むしろ最初の固定6枠すら脅かす勢いで上を目指すべきなのだ。


 そう思ってひたすら練習を続ける日々。

 そんなある日だった。


 唐突に決まるプロとの練習試合。

 これも勉強になった。


 今までは世界相手にロクな戦績を残せないプロを『弱い』と思っていた。

 しかし戦ってみて思ったのが『上手い』ということ。

 単純な強さでは勝てない相手に対して、どう戦えばいいのか?

 それを追求したかのような持久戦を中心に、非常にダメージコントロールも上手い。

 お互いが常にカバーし合って決して無理をしない。


 まるで自分達の力量を知っているからこそ、一切の無理をせず自分の出来ることだけをしているといった感じだった。

 それでいて決して攻めることも諦めていない。


「これが経験を積んだプロか」


 思わずそう口にしたほどだ。

 今までテレビで見たことしか信じず、評価してこなかった自分が情けない。


 プロとの戦いを経て、気持ちを新たにした頃。

 アリスが、とんでもないグループを作り始めた。


『Alice in Wonderland』


 不思議の国のアリスというやつだ。


 適当に声をかけたと言っていたアリスだったが、その中身がヤバイ。

 どうやら世界中の知り合いに声をかけたらしく、声をかけられた子がまた誰かに声をかけてと連鎖していったらしい。

 そうして集まったのは、世界選手権で登場した選手ばかり。

 しかも様々な国籍の選手が揃っていた。


 『黄 若晴』ら中国勢。

 『アナスタシア』らロシア勢。

 『ジェシカ』らアメリカ勢。


 他にもLEGEND強国と呼ばれるヨーロッパ勢などの選手達までが参加していた。

 みんなチームではなく個人参加らしい。

 何故ならいつの間にか『参加するための基準』とか言うのが出来たらしく、誰でも気軽に参加するようなものではなくなったとのこと。

 そのため各国のエース級ばかりが集まる謎の会合が誕生したという訳だ。


 そこに気軽に招待してきたアリスに私を含めた琵琶湖女子全員が猛抗議をしたのは、今では懐かしい。

 今では誰もが自動翻訳機片手に会話をしたり試合をしたりと自由に愉しんでいる。


 監督は、参加している選手達の中に紛れていた各国の代表監督などを見つけて頭を下げて挨拶しまくっていた。


 最初こそ馬鹿だろと言っていたが、考えようによっては世界最高の環境だとも言える。

 戦うだけじゃない。

 実際に何がどうだったのか、同世代の一流達の意見が聞けるし相談も出来る。

 逆に言えばこの環境を利用して上がれない奴なんてLEGEND辞めてしまえと言えるぐらいに残念過ぎるだろう。


 そうして一気に変化した日常だったが、今では最高に愉しい毎日になっている。 

 今の私にはレギュラーがどうとか関係が無かった。

 ただひたすらに上を目指すというのが愉しい。

 それだけだ。


 だから今日も私は、そこで上を目指す。

 最近は、アジア系の選手達と合同でヨーロッパ連合チームを倒すために戦うのが日課だ。


「今日こそ、勝つぞ~!!」






■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 霧島 アリス






 プロ選手との練習試合は、正直失敗した。

 あの年上パワーを舐め過ぎていた。


 何をしても可愛いだなんだとぬいぐるみ扱いされることなど前世から数えても生まれて初めての経験だった。

 おかげで全然愉しめなかった。


 だから今度は同世代。

 世界中の連絡先を交換した人達に連絡を取ってみた。

 LEGENDの良い所はVRであり、世界中がネットで繋がっている所だろう。

 おかげで気楽に繋がれる。


 こうして最初は僅かなメンバーと雑談をしつつ適当に遊ぶ程度だった。

 それがいつの間にか『Alice in Wonderland』という名前の集まりへと変化していた。

 元凶は、アナスタシア。


 彼女を中心に更に世界各国の強い選手が集まるようになってきた。

 そしてどんどんその規模が膨れ、入会制限が付くまでに成長したらしい。

 私がトップらしいが、そのトップが何一つ関わっていない、何一つ知らないという状況。

 そんな集団だったが、向上心が強い一流選手の集まりだけあって、誰もがLEGENDの話で盛り上がる。

 更に参加者を募集して即席連合チームを作って試合なども積極的に行っていた。

 試合後には反省会を開いて見学者にまで意見を求めるなど徹底していた。


 それを見ていて思ったのだ。

 『なら、ここに琵琶湖女子のメンバーを投げ込めば何か1つぐらい解決するんじゃないか』と。

 なので全員を投げ込んでみた。

 何故か最初思いっきり怒られたが、最近では各自勝手に自動翻訳機を片手に交流している。

 私はそれなりの国の言葉を話せるせいで、やたらと会話を求められる。

 自由さと気楽さが欲しかったのに、結局は自由になれない。


 世の中、なかなかうまくいかないなと思いながらタイマンを要求してくる若晴をどう拒否しようかで頭を悩ませた。






誤字・脱字などありましたら修正機能もしくは感想などからお知らせ下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] アリスインワンダーランドでボス戦やらないかなぁ……流石に過剰戦力か……
[良い点] ゾクゾクしました。 「Alice in wonderland」。 これ、時代を変えますよね。 U-18の世界中のエース級選手たちと琵琶湖女子の選手たちが、それまでとは一線を画すような戦…
[一言] サラっととんでもないことになっとるw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ