第76話 VS京都青峰・2年目練習試合
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園 監督 前橋 和歌子
新しい年にも慣れ、そろそろ夏に向けて本格稼働し始めた頃だった。
意外な所から練習試合の申し込みが来た。
京都私立青峰女子学園
去年から何かと縁がある所だ。
近場で強豪校。
何より互いに実力を確かめ合うには十分な相手だろう。
しかし相手にとってはウチは倒すべきライバル校。
手の内を明かすような真似をするとは思ってもみなかった。
「……いや、逆か」
向こうからすれば、自分達の手の内を明かしてでもこちらの手札を確認したいという所だろう。
私は、悩んだ末にこれを受けることにした。
近場ということもあり、実際の試合形式を取りたいと言い出した相手側の要望により去年と全く同じ感じになった。
つまり、相手側が学園に来るという形だ。
相変わらず選手が多いのはもちろんだが、去年よりも覇気がある相手監督に少し気圧されながらも試合の段取りを説明する。
実際と同じく一定時間のミーティングを挟んで、互いに選手のスタンバイが完了する。
そして試合が開始された。
*画像【軍事基地:初期】
本日のマップは、軍事基地。
広そうに見えて実は狭い、面倒なマップの1つだ。
ここは、より連携が取れないと厳しい。
互いに上下に3人、中央に4人というスタンダードな人数配置となる。
こうなると基本的な技量差などが勝敗に直結するため要注意だ。
開始直後は互いに様子見をしていたのだが、少しづつ戦闘が激しくなっていく。
そんな中、怪しい所がある。
中央だ。
相手の主力も中央なので完全に力勝負になっているのだが、まったくと言っていいほど抵抗出来ていない。
攻撃的な攻めをみせる相手に対して最低限の足止め程度しか出来ておらず、狭いマップ特有の射線の通らなさがそれに拍車をかけていた。
特に連携がうまくいっておらず、互いに邪魔をし合う状況は素人チーム同然に見えた。
―――ブルーチーム、発電所制圧!
そのせいか、あっさりと中央を押し込まれてしまう。
それでも何とか障害物の壁を利用して踏ん張れているのは、奇跡と言える。
今回、最初の試合はかなり出場選手を偏らせた。
経験が少ない・不調気味・戦い方に慣れていない等、不安定な人間を積極的に採用した。
これにより勝敗よりも、少しでも多くを学んでもらいたいという考えからだ。
それに練習試合だからこそというのもある。
真面目なチームを試すのは、それこそ最後の方でいい。
*画像【軍事基地:開始】
北側は、転校してきた元U-15の2人に安田さんを入れたチームだ。
2人は元々、突撃主体の戦術を得意としていたようだが最近は方向転換したいのか前に出なくなった。
足を止めての撃ち合いが多くなり、防衛気味なアタッカーになったもののイマイチそれ以上になれていない。
そんな2人の牽制攻撃を気にもせず相手はジワジワと前に出てくる。
そして中央の壁を越えた瞬間―――
ピッ!
電子音と共に爆発が起こる。
いつの間にか仕掛けられていた地雷だ。
その爆発によって横に吹き飛ばされた選手が地面に転がる。
次の瞬間、発砲音がしたかと思えばキルログが動く。
安田さんによる撃破だ。
最近彼女は、地雷からのキルが多い。
一時期、霧島さんから指導を受けていたみたいだ。
地雷で大きく被弾をして体勢まで崩れた相手ならヘッドショットを狙わずとも、適当に弾を当てるだけで耐久値が無くなる。
未だ狙撃がまったく安定しない彼女でもしっかりと撃破が取っていける、まさに生命線となっていた。
枚数不利になったためか、北側選手はスグに防御を固める。
対して黒澤さん、長野さんは攻めることなくゆっくり前に出て少し圧力をかけるだけに留めていた。
次に動きがあったのは南側。
最近流行りの高機動重装甲ストライカーが、前に出てきた。
スグに北条姉妹が攻撃を仕掛けるも硬すぎるガーディアンと高機動によって被弾が抑えられてしまう。
そのまま大型マシンガンを撃ちながら挑発をするかのように動く相手ストライカー。
しかし2人からすれば、挑発ではなく本格的な攻撃に近い感じになっている。
サポーターである姉の蒼の大盾に隠れながら反撃する妹の紅。
しかし2人が密集している関係で攻撃が集中し、既に耐久値がギリギリの大盾。
何とか反撃し続けるも効果的な反撃とはならず、追い詰められていく。
それに気づいたのか、相手ストライカーは一気に勝負を決めようと高速で距離を詰めてきた。
だが―――
相手ストライカーは物凄い速さで飛んできた何かにぶつかったかと思えば、まるで玩具のように思いっきり吹き飛ばされ地面に3度バウンドしたのちに地面を滑りながら壁に激突。
そのまま光の粒子になって消えていった。
スグにキルログが動く。
神宮寺さんの攻撃だった。
彼女は今時珍しい大型滑腔砲を背負ったストライカーだ。
何故珍しいのかと言うと、肩武器というものは攻撃時にその場から動けない。
高威力である反面、反動も凄いため動きながらでは反動を制御出来ず倒れてしまうからだ。
更に完全に止まってしまうため隙だらけになる。
特に滑腔砲などは一撃必殺であるが単発で精度もそこまで高くはない。
なので『狙う時間』が必要になってくる。
しかし肩部ガトリングなどのように『撃ちながら精度を高める』などと言うことも出来ない。
そうなると狙っている間は完全に隙だらけとなり、反撃出来ないわヘッドショットも狙われるわでどうしようもないのだ。
そうしたことから、次第に一撃必殺は捨てられ弾幕が優先されるようになっていった経緯がある。
そのため今では珍しい大型滑腔砲。
だがそれを今、彼女は使いこなし見事撃破を取った。
しかもあれだけ素早く動き回る高機動型をよく狙えたものだと思う。
相手選手は、見慣れぬ高火力兵器に驚いてスグに後ろに下がった。
対してこちらも姉妹が後ろに下がって大盾を交換したり耐久値を回復したりと立て直しをはじめている。
こうして見ると予想外に上手く物事が進んでいるなと思えてくるが、残念ながら世の中そんなに甘くない。
押し込まれた中央は、一条選手によって宮本さんが完全に押し込まれていた。
しかも彼女は後ろでカバーしようとしている藤沢さんが見えていないのか、射線を遮ってしまっている。
更に相手側の勢いに押され、無駄に肩部ガトリングを撃ってしまった。
それを隙と見られたのか、一条選手も足を止めた大型ガトリングと両肩ガトリングによる一斉射撃を開始する。
盾を持つ分、宮本さんの方が有利だと思う人も居るかもしれない。
だがU-18で活躍した選手は、そんなに甘くはないのだ。
圧倒的高火力を瞬間的に叩き込まれた宮本さんは、一瞬で大盾を破壊され逃げる間もなく撃破されてしまった。
◆キル
x 滋賀琵琶湖:宮本 恵理
〇 京都青峰 :一条 恋
両肩ガトリングでの反撃は、一応相手の耐久値をそれなりに削ったものの相手はまだまだ元気だった。
そんな一条選手を逃がすまいと藤沢さんがミサイルを撃つも、後ろから飛び出してきた相手リーダーの高橋選手の大盾によってガードされてしまう。
三峰さんも何とか攻撃しようとするが、相手アタッカーとその後ろに居る渋谷選手の肩部ミサイルによって上手くいかないどころか結構なダメージを受けて下がるハメになった。
一応杉山さんの支援により耐久値は回復するものの、その間に一条選手も回復を終えている。
相手リーダーは、サポーターという今では珍しい種類のリーダーだ。
リーダーと言えば最近はストライカーという風潮があるからである。
高耐久で自衛力も高いストライカーが一番やられにくいと感じるからだろう。
渋谷選手もサポーターであるため中央は支援が非常に手厚い。
なので早々に崩せそうな感じがしない。
……まあウチが連携取れてないのが一番の原因だろうけど。
それを示すかのように中央で一条選手たちが強引に前に出るフリをしただけで三峰さんが『釣れて』しまった。
勢いよく飛び出て防衛しようとしてしまい、それを待ってましたとばかりに一斉攻撃され杉山さんが庇うよりも先に撃破されてしまう。
◆キル
x 滋賀琵琶湖:三峰 灯里
〇 京都青峰 :渋谷 鈴
中央が手薄になり一気に勝負を決められるかと思ったら、意外と相手側が慎重だったようで前には出てこなかった。
まあ理由は解りやすい。
あと少しで最初にやられた宮本さんが帰ってくるからだ。
そうなると開始地点が近い中央では、余計な反撃を受けかねない。
そのため攻めるよりも確実にKD戦を仕掛けることにしたのだろう。
「今の所は互角に見えるけど……」
一見、互角に見える勝負だが明らかにこちらが押し込まれている。
時間経過と共にジワジワと地力の差が出始めた結果、1回戦目はウチの負けとなった。
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