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第65話 VS新潟田所練習試合:後編

■黒澤 桂子:佐賀県立大附属1年。去年U-15代表。日本の『KAMIKAZE』と呼ばれた1人。真っ先に切り込むタイプ。

■長野 誠子:佐賀県立大附属1年。去年U-15代表。日本の『KAMIKAZE』と呼ばれた1人。黒澤の後ろに続く2番手突撃。






■side:新潟県立田所高等学校1年 三島 冴






 開幕早々の撃破合戦。

 やはりこのマップは、こういう所が怖い。

 互いの距離が近すぎるせいで好戦的になる選手が多くなる。

 普段は冷静に状況把握が出来る選手でも1歩多く踏み込んでしまう。

 だからだろうか。

 このマップはプロでもよく採用される。

 簡単に言えば『数字が取れる』というやつだ。


 自信満々に一番面倒な所に陣取った『お猫さま(南保 珠)(名前からのイメージで)』が早々に撃破されて思わず笑ってしまった。

 しかも世界戦などであれだけ有名になった大場未来の『マスターキー』を小盾でガードとか。

 ここまでの馬鹿っぷりを見せつけられると、以前あった提案を拒否したのがもったいなかったなと思えてしまう。


 U-15女子日本代表後の進路で、私も琵琶湖女子からのスカウトを受けていた。

 しかし『霧島アリスが居る』という話から断ったのだ。

 彼女と同じ学校に行ってしまえばブレイカーとしてどれだけ頑張っても2番手止まり。

 当時、ブレイカー枠はチームに1枠が基本だった頃でその選択だけは出来なかった。

 ……もしアリスが今のように色んな兵科を扱えると知っていれば、もしかしたら違ったかもしれないが。


 だが近隣で一番の強豪校に進学して出会ったのがあの2人だったときは、間違いなく私の顔は苦虫を潰したような顔をしていただろう。

 U-15の中でも特に煩かった2人。

 まさかこれと一緒かと自分の運の無さを恨んだ。


 なのでこの試合に期待してる部分もある。

 ぶっちゃけ相手は全国優勝チームでその半分がU-18女子日本代表選手だ。

 しかも今年の世界大会優勝という実績を持っている。

 思いっきりあの2人を言い訳出来ないほど徹底的にやって欲しいものだ。


 さて、そろそろ本格的に動きたいのだが正面に居る相手ブレイカーが謎だ。

 こちらに撃ってくるのは良いのだが、いちいち止まって狙いを定めて来る。

 思わず『素人かっ!』と思わずツッコミを入れてしまうほど。

 しかしその隣に居るアリスが邪魔で狙撃している余裕がない。

 更に言えばその素人は狙撃も素人で、散々狙ってから撃った一発はどこに飛んでいったのか解らない。


 このままでも良いような気もするが、あまり戦績がアレだとあの2人が煩い。

 いっそ誰かと配置換えをしても良いかもしれない。

 そう思っていた時、相手が動き出した。


 あの素人ブレイカーが下との境界になっている壁に大きな黒いものをセットした。

 一瞬何か解らなかったが、追加されたという地雷かな?と思ったが何故にそこなのかと思っているとスグに理由が判明する。

 急に下側の春枝に攻撃を仕掛けだした。

 インファイトに近い距離でいきなりブレイカーに喧嘩を売られた状況に、春枝は簡単に釣られた。

 左手の腕部装備型の盾を装着した腕部一体型ガトリング。

 見た目は完全に某ロボットアニメのシールドガトリングっぽいものを撃ちながら相手ブレイカーを追いかけ始める。

 そして曲がり角で例の地雷が起爆して春枝は大きく吹き飛ばされた。


 地面に2度ほど叩きつけられながら停止した春枝は、LEGENDゆえの痛みの無さからか即立ち上がる。

 しかしそこを棒立ちで狙いを定めるブレイカー。

 その一撃は、今までの命中精度の低さは何だったのかと思えるほど正確に彼女の頭部を捉えた。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × 新潟田所 :安東 春枝

 〇 滋賀琵琶湖:安田 千佳



「残念ながら、そこまで見逃すつもりはないわよ」


 私は、そう呟きながら引き金を引く。

 ライフルの発砲音と共にまたもログが動く。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × 滋賀琵琶湖:安田 千佳

 〇 新潟田所 :三島 冴



 ちゃんと命中したことをログで確認し、ふと前を見ると―――


「―――ああ、やっぱり」


 目の前の復活カウントに思わず苦笑した。

 そりゃ私が見逃さなかったのだ。

 相手も見逃すはずがない。

 少し遅れてまたも会場に特殊キルのアナウンスが鳴り響く。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × 新潟田所 :三島 冴

 〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス



 これで互いの点数は、互角となった。


 滋賀琵琶湖:970

 新潟田所 :970







■side:新潟県立田所高等学校2年リーダー 山梨 綺羅






 序盤から激しい撃ち合いは歓迎すべきなのか、それとも反対すべきなのか。

 リーダーとしてはどちらが正しいのだろう。

 なんて考え事をしながら下側を開幕から押し込むことに成功するもその後が続かない。

 本来なら下側から中央を切り崩していくはずが、何故か開幕上側有利。

 では上側から切り込めたのかと言われると『猫ちゃん(南保 珠)(本人に言うと怒るが)』は早々に撃破された。

 しかもやられた相手は、大場である。

 彼女に接近を許すとかあの子は、本当にもう……と思わずため息を吐く。


 更にその後のやり取りで結局、同点となってしまう。


「ホント、上手くいかないものね」


 苦笑しながら呟く。

 事前にあれだけ色々と戦術を組んだ所で結局出たとこ勝負がほとんどだ。

 じゃあ毎回何であれだけ苦労して資料などを作って……とやっているのだろう。

 リーダーなんて引き受けなきゃ良かったなんて思いながらも気持ちを切り替える。


 相手は、望んでもそうそう相手にして貰えるような所じゃない。

 完全な格上チームで自分達の実力を試すチャンスなのだ。

 今だけは普段の憂鬱なものを全て忘れて戦おう。


 ずっとこちらを踏み込ませないようにしてくるあの『大谷・南コンビ』の隙を狙う。

 正面に居る相手リーダーのミサイラーも、その火力だけは脅威だ。

 しかしそれも対処さえ解ればどうということはない。


 味方に頑張って貰い大谷がグレネード2種を使い切らせる。

 そして補充のために南が前に出る瞬間―――


 ブースターを大きく吹かして一気に敵司令塔へ突撃する。

 南の攻撃がこちらを狙うが高速移動している私に当たる弾は少ない。

 一気に司令塔前の壁裏へと回り込む。

 そこでは相手リーダーがこちらを向いてミサイルを発射しようとしていた。

 私も構えていた両手の大型ロケットを同時に発射する。

 ミサイル発射体勢だったこともあり回避不能な所へのロケット2連。

 どちらも胴体に直撃してキルログを更新した。



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:藤沢 花蓮【L】

 〇 新潟田所 :山梨 綺羅【L】



 そして私にも相手の置き土産とも言うべき大量のミサイルが迫る。

 だが―――


「このぐらいっ!」


 ブースターを逆方向に吹かしてギリギリ壁の反対側へと移動する。

 するとミサイルは全て壁に激突。

 逃げ切ることに成功する。


 思い通りに行ったと思った瞬間。

 進行方向に向けてグレネードが投げられているのが見えて、咄嗟に再度逆側へとブースターを吹かす。

 何とか逆側へと切り返すことに成功すると、そのままでは間違いなく当たっていたであろう場所で着発グレネードが爆発する。

 そのまま再度壁裏に逃げ込むと、そこに南が滑り込んできて追撃を行ってきた。

 こちらが大型ロケットを両方とも同時に撃つと、相手も肩ミサイルを撃ってくる。

 相手のミサイルと先ほどと同じく壁にぶつけるためにブースターを吹かす。

 発射したロケットは、相手の大盾を破壊するもそこで終わり。

 相手の撃破にまでは届かなかった。

 対して私はミサイルをまたも壁にぶつけることに成功するも使い過ぎたブースターのオーバーヒート音が鳴り出す。

 それでも味方の援護があれば何とかなると思っていた私は、移動しようとして足元にある何かにぶつかる。

 軽い金属音がしたそれを見て思わず声が出て―――



 ◆キル

 × 新潟田所 :山梨 綺羅【L】

 〇 滋賀琵琶湖:大谷 晴香



 目の前の復活カウントを見て苦笑する。


「補充した2種類をあのタイミングであんなに正確に投げ込めるって何なのよ~」


 悔しいというよりは、スーパープレイを見て呆れる感じだろうか。

 やっぱり世界戦に出場した選手は、どこかおかしいなどと失礼なことを考えてしまう。






■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園1年 霧島 アリス






「う~ん。野良猫は所詮、野良猫だったか」


 虎やライオンとまでは行かなくとも、せめてヒョウぐらいを期待したのだが……。

 もう片方に関しては、論ずるまでもない。

 千佳にちょっと仕掛けさせたらアレだ。


 初心者に負ける元U-15女子日本代表。

 それが彼女らがこだわったものの結果だ。

 正直話にならない。


「これなら同じネコ(亜目)という種類でもハイエナの方が圧倒的にマシね」


 でもバードが付くから鳥類?などと、どうでもいいことを考えてしまう。

 ハイエナは他が食べられないようなものまで砕く頑丈な歯と顎を、そしてそれらを消化する胃を持っている。


 アレは、まさにそんな感じ。

 他選手では狩り損ねるような微妙な相手まで全て狩り尽くす技術と獰猛さを併せ持つ。

 対してこの成長してない野良猫は何なのだ。

 近所の縄張り争いに勝ってご機嫌なだけの猫。

 ただそれだけの存在。


 中央に援護に来た相手選手を立て続けに2人ヘッドショットを決める。

 特殊アナウンスと共にキルログが動く。

 こいつらも不用意に顔を出し過ぎだ。

 中央にブレイカーが居ると解っていてどうしてそうも真っ直ぐ来るのか。


 ちょっと数を削っただけ。

 それだけで相手は一気に防御を固めて動かなくなった。

 急に膠着した戦場に次々とやられた選手達が帰ってくる。

 だがどうでもいい感情に任せて走って来る動物だけは排除しておこう。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × 新潟田所 :南保 珠

 〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス



「どうしてそう何も考えずに突っ込んでくるのか」


 本当に意味が解らない。

 その頭は、飾りか何かなのだろうか。

 ……ああ、ただの野良猫にそれを求めるのは酷か。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × 新潟田所 :安東 春枝

 〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス



 これならまだ多少マシな突撃をしていた黒澤桂子や長野誠子の方がはるかにマシだろう。

 とりあえず点数差が出始めた段階で帰ってきた三島冴が、何故かこちらを向いてサムズアップ(親指を立てるジェスチャー)をしてくる。

 本当に意味が解らない。


 数的有利を取った段階でジワジワと相手を押し込むことに成功し、司令塔を殴っても問題ない状況となる。

 この時点で詰みだ。

 相手もそれが解っていたのか司令塔が完全に殴り放題な状態になった瞬間、投了宣言により試合終了となった。






誤字・脱字などありましたら修正機能もしくは感想などからお知らせ下さい。


次話は 2021/04/01 01:00 になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冬季大会も終わったし、気の早い人は琵琶湖スポーツ女子への転校、編入を行う人もいるのでは? 案外三島ちゃんとか、チームに見切りを付けて転校しちゃうのでは(笑) 昨年度みたいな妨害が無ければ…
[気になる点] これでは……反省しない気がするな アリスさんにボッコボコに調教されないかなぁ……しないだろうなぁ
[一言] 安田ちゃんが地味に成長している‼︎ やっぱりヤル気が一番の上達への切符なんでしょうか。 アリスは隔絶しすぎて国内だとゲーム中でもフィールドを俯瞰しているのか。周りを仲間(戦友)と認識すれば…
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