第172話 世界大会・スペイン戦 開始2
■side:U-18日本女子代表 温井 幸
開始たった2分で既にバラバラだった前の連中は、リーダーの一喝で多少マシになった。
あくまで多少マシ程度だけど。
結局は、技術力の差でしょうね。
前に出たくても出られないのは撃ち合いで負けている証拠でもある。
どちらかと言えば接近重視だったスペイン。
今年は多少射撃武器が多くなっているけど、内面は変化が無い。
だって前へ、前へと詰め寄ってきているからだ。
「そろそろ相手が突っ込んでくるぞ!」
「引き込んですり潰せ!」
そんな声が聞こえてくるが、ため息しか出ない。
突破力があって技量的にも押し負けている相手に突撃を許せば、誰がその勢いを止めれるというのか。
次の瞬間、相手が突撃してきた。
ガトリングを撃ちながら走り抜けてくるのと、マシンガンと大盾にサブアームのロケラン2丁を上手く使って動き回りながら射撃してくる奴だ。
三騎士の2人による堂々とした突撃で、早々に岡部が追い回される。
相手のオーバーヒートを考えていない全力ガトリングに撃ち負けていると判断したのか、後ろに後退しつつ牽制射撃を繰り返す。
私も一瞬のスキを狙ってビームキャノンを発射する。
狙いが僅かにズレたというよりは、相手に気づかれてしまい回避されるもガトリングの先端を破壊することには成功した。
すると相手はまるで未練が無いといった感じでポ~ンとガトリングを投げ捨てると変な形に固定されていたサブアームから大型ブレードを取り出した。
ブレードを手にするとサブアームが稼働して両肩のシールドみたいになっていたシールドがサブアームによって前へと展開される。
「……ああ、やっぱそっちが本命か」
宝月・近藤・福田の3人は、ロケラン持ちの相手で必死だ。
近づかれたり離れたりしながら高速で移動しつつ射撃してくる相手に大混乱状態。
そんな彼女達からサポートなど来る訳もなく。
岡部も相手を見ずにどこかへ行ってしまった。
大型ブレードを持った相手が、突撃してきた。
最初の一撃をビームキャノンの砲身で受け止める。
次に背中のエネルギーユニットをパージしながら、ユニットと砲身の連結部分を外す。
2回目の攻撃を鈍器と化した砲身で受け止めるも、嫌な音がして手放すと……そのまま真っ二つにされてしまった。
それでもスラスター等を使って何とか後ろも下がるも、相手もブースターを使っている以上、距離を取ることなど出来ない。
3度目の攻撃に腰に装備していた大型警棒を手にして何とか受け止める。
そのまま流れるように相手の連撃が来るが、しゃがむ、仰け反る、パワー勝負に持ち込んで引き分けるなどして計5連撃を回避した。
相手は驚きつつも冷静に距離を取ってブレードを構え直す。
「……たぁ!……はぁ!……はぁ!」
慣れない接近戦。
しかも運よく全て回避出来ただけ。
あまりの必死さに思わず肩で息をする。
ふとログを見ればまあ酷いことになっていた。
◆キル
x 日本:国友 昌枝
〇 スペイン:グロリア・ルエラス・オレジャナ
◆キル
x 日本:岡部 奈緒子
〇 スペイン:グロリア・ルエラス・オレジャナ
◆キル
x 日本:宝月 心愛
〇 スペイン:マリサ・パンプロナ・バラゲロ
◆キル
x 日本:佐藤 千秋
〇 スペイン:マリサ・パンプロナ・バラゲロ
必死で練習してきた結果が、コレか。
―――悔しい。
ただひたすらに悔しい。
だけど、ここで私までやられる訳にはいかない。
相手が突撃してくる。
これ以上逃げ回っても仕方が無いので警棒片手に迎え撃つ。
「せめて、相打ちをッ!!」
相手の力任せのタックルに真正面からぶつかる。
思ったよりも体勢が崩れずに済んだと思った瞬間、相手の一撃が目の前まで迫っていた。
それを何とかしゃがんで回避すると警棒を思いっきり相手に振り下ろす。
だがその一撃はサブアームの大盾が稼働して防がれてしまう。
「一度防がれただけだ!」
もう一度攻撃しようとすると、相手がそのまま強引にタックルを入れてきた。
それにより体勢が崩れる。
立て直そうとしたところに相手の一撃がやってきて警棒で受け止める。
何とか攻撃そのものは回避できたが、相手の一撃の重さから警棒を手放してしまった。
相手はそれを理解しているようで、威力よりもダメージを優先した最速の一撃がやってくる。
もう防ぐものが無い、武器もない以上はどうしようもない。
でも最後の悪あがきにタックルの1つでも決めてやろう。
そう思ってブースターを吹かせた瞬間―――
ダーンッ!!
銃声が響いたかと思えば、相手は私へのトドメをせずにシールドの片側で防御体勢を取っていた。
「ちっ、勘の良い」
気づけばスタート地点で片膝をついた状態で狙撃体勢に入っているブレイカーが1人。
思わずログを確認すると―――
◆交代
IN:三島 冴
OUT:福田 理央
どうやら福田が自分で無理だと判断して交代しに動いたみたいだ。
スグに2射目を撃った三島の一撃がシールドの隙間から胴体に命中したようで、相手は無理をせず後ろに後退していく。
「ごめん、助かったわ」
「お礼は理央ちゃんにど~ぞ。それより交代指示来てるわよ?」
「あ、繋がった? 聞こえ―――邪魔なのよっと! とりあえず悪いけど交代して!」
ログに交代指示が出ているかと思えばリーダーからも通信が入る。
それに返事をして私はスグにスタート位置へと戻った。
仮想空間から現実へと移動する。
真っ暗だった装置の中に明かりが灯る。
外にも帰還完了の表示が出たことで騒がしく別の誰かが試合に向かっていく声が聞こえた気がした。
「はぁ~、終わっちゃった」
シートに身体を預けたまま、呟く。
上には上が居るのは理解している。
でも、だからって諦める理由にはならない。
そんなつもりで頑張ってきたからこそ……
「うっ……うう……ああぁ……!」
悔しくて、悔しくて。
ただ涙が止まらなかった。
■side:U-18スペイン代表 マリアネラ・アブレウ・エルモーソ
「や~い、しくじってやんの~!」
マリサが嬉しそうに煽ってくる。
「そっちこそ1人逃がしたせいでこっちの邪魔になったんだけど~?」
「1人倒すのに時間かけ過ぎなんだよね」
「アリスを倒した訳でもないのに随分な浮かれようね~」
そう言いながらも私は悔しさから拳を握り締める。
あそこまで粘られるとは思わなかった。
明らかに格下と見くびっていた?
いや、途中からは確実に仕留めにいっていた。
それなのにあそこまで抵抗されるとは……。
「2人ともやめないか。まだ試合は終わってないぞ」
グロリアの一声で、マリサが詰まら無さそうにしながらも煽るのをやめた。
「それに見ろ、ログを」
一旦後ろに下がって装備を整えながらログを確認する。
すると日本側は、メンバーを一気に入れ替えだしていた。
「ようやく向こうもやる気になったようだ。気を抜くな」
「はい!」
リーダーも声をかけてきたことで全員が返事をする。
そう、まだこれからだ。




