第171話 世界大会・スペイン戦 開始
■side:U-18日本女子代表 岡部 奈緒子
被弾に注意しつつ慎重に撃ち合いたいが、それが出来ない。
前に出たくても、まともな援護がない。
隣の国友先輩も前に出てくれない。
これでどうしろと。
「チッ!」
思わず舌打ちが出る。
特にアイドルが邪魔だ。
射撃したいなら前に出るなり別の所から行って欲しい。
援護したいならせめて私のためにスペースをあけてくれ。
強引に前に出て勝負してみる。
しかし出た瞬間から集中砲火を浴びてしまい、更に相手が追撃とばかりに距離を詰めてくる。
我を通して単独で出た挙句に撃破なんて話にならない。
勢い良くブースターを使って全力で下がる。
「――――――――」
すれ違いざまに相手に何か言われた気がしたけど気にしてられない。
こっちは相手の攻撃を回避するので精一杯だ。
目の前にはスペイン三銃士と呼ばれる連中が居る。
接近戦重視の装備なのに接近戦より撃ち合いを愉しんでおり、先ほどからあまり前に出てこない。
それだけでも苛立つが、更にムカつくのは、味方である。
三銃士に圧倒され、前に出ないわロクな援護はないわで私も前に出られない。
決して舐めていた訳ではない。
しかし下手に前に出れば先ほどのように危ないことぐらいは理解出来る。
「……このままだと交代ってわかってるのかしら?」
■side:U-18日本女子代表 温井 幸
こいつらホントふざけてるのか?
思わず味方を罵倒したくなる。
前に出たいなら前に出ろ。
無理なら射線をあけろ。
「そんなところでゴチャゴチャしないで!」
「わかってるわよ!なら援護してよね!」
「わ、わかり―――」
「その援護出来る射線を塞いでるのはそっちでしょ!」
狭い場所で動き回られたら迷惑でしかない。
ただでさえ射線を綺麗に通さなければならないのに相手の圧に負けて前に行けず渋滞を起こすなんて……。
それなら別方面から動けば良いのに、それを誰もしない。
私だけが位置を変更した所で意味が無い。
あくまで私の一撃は視覚外からの奇襲がメインなのだから。
孤立すればブレイカーのように隠れながら撃てないし、目立ち過ぎて対策されるだけ。
現に先ほど反対側に行ってみたがブレイカーの圧が強すぎてまともに発射体勢が取れなかった。
だから仲間に当てないよう、後方からの正確な一撃を追求してきたのに、これでは論外だ。
アレだけ啖呵を切った癖に撃破を恐れて前に出れないなんてね。
■side:U-18日本女子代表 福田 理央
必ずリベンジを成功させる。
そう意気込んでの挑戦だった。
今ならきっといい勝負が出来ると。
しかし現実は残酷だ。
中央付近では喧嘩のような言い合いをしながらの試合。
反対側は、相手ブレイカーとの勝負でまともな援護が出来ない。
みんな理解してるのかしら?
このままだと交代だって。
三銃士には数えられていないけど、スペインのブレイカーと言えば彼女というのが私が撃ち合っている相手。
特に曲芸的な射撃をしてくる訳でも超人的な動きをしてくるわけでもない。
ただひたすらに普通の動きを追求したかのような正確で素早い攻撃。
まるでロボットを相手にしているかのような一撃に、思うように頭を出せずにいた。
何とか牽制をしたいのだけど下手に射撃体勢に入ると撃たれてしまう。
幸いと言っていいのかわからないけど、ヘッドショットではないことが救いかな。
おかげで耐久値さえ回復出来れば何度でも挑める。
……と言っても気を抜けばヘッドショットを決められる可能性は高いけども。
おかげでこちらは比較的スペース的に余裕があるにもかかわらず誰も来ない。
喧嘩しているぐらいなら狙撃対策装備でこちらに回ってくればいいのにと思わなくもないが……。
……ダメダメ!
私がここを抑えれば良いだけの話だ。
弱気になるな! 心で負けるな!
他人に責任を押し付けても成長なんてしない。
気に入らないなら自力で全てを変えてみせろ。
そう彼女に……霧島アリスさんに言われたじゃない。
■side:U-18日本女子代表 谷町 香織
目の前の相手リーダーと最奥で撃ち合うなんて面白いことをするハメになった。
まあお互いに深く踏み込む段階ではないため、そこまで苛烈な撃ち合いではないものの、互いに隙あらば仕留める気だったりする。
問題があるとすれば渋谷と2人で抑えきれるかという点ぐらい―――
「互いに立ち位置確認ッ! 個別で騒ぐなッ! 馬鹿やってるのは問答無用で交代させるわよッ!!」
と思っていたら中央で三銃士に押し込まれてグチャグチャになっているのが確認出来た。
しかも喧嘩を始めるのだから話にならない。
相手に上手く立ち回られて団子になった所に突っ込まれれば一気に撃破を取られかねないというのに。
まだまだ序盤なのに焦り過ぎだ。
撃ち合いの最中に隙を突いて射線が通っている場所からマシンガンを牽制にもならない程度で撃ち込む。
それが全く効果的でなかろうが、やはり予想外からの攻撃というのは相手のリズムを少なからず崩す。
そうして出来た僅かな時間を全て立て直しに使わせる。
「相手の圧に負けるなッ! 相手の作戦に乗るなッ! こっちのペースで相手を振り回せッ!」
「は、はい!」
「り、了解!」
バラバラの返事に思わず苦笑する。
こんな序盤で何をそんなに不安がっているのかわからない。
「だって、まだまだここからスタートでしょ!」
■side:U-18日本女子代表 南 京子
研究所マップ
「あら~、これは厳しそう」
ベンチは気楽なものだ。
開幕から相手に押し込まれ出す味方に思わず声が漏れてしまう程度で済むから。
占有率は何とか5割を維持しているが、これは相手が前に出てこないからそうなっているだけ。
普通ならとっくに押し込まれて劣勢になっている頃だ。
相手は遊んでる?
いや、違う。
「そうか、相手は中央を一気に潰したいのね」
「そうみたいね。わざわざ相手を団子状態にしてるのだから」
私のつぶやきにアリスちゃんが答えた。
「中央潰して有利取って『メインメンバーを出せ』ってアピールするつもりなんでしょ」
「ああ、そういう……」
本来なら強いメンバーが出てくる前に試合を終わらせるのがセオリーなのに。
やはり遊んでいると思うべきなのかな。
「あれ? みんなは?」
ふと気づくとかなりのメンバーの姿が見えない。
アリスちゃんに聞くと無言で合図を送ってくる。
そちらを見ればウォーミングアップ用のVRで準備を開始するメンバー達の姿。
「……みんな出る気満々ね」
「このまま良い所無しだと確実に交代入るからね」
「そういうアリスちゃんは?」
「馬鹿な試合やらない限りは、3人に任せるわ」
控えとして残っているブレイカーは冴ちゃんと明美ちゃんと千佳ちゃん。
そう考えるとブレイカーの層も厚くなったなぁ。
対してあまり対戦相手に興味を示さないアリスちゃんは、試合そっちのけでコーヒーを入れ始めた。
そんな様子に監督も苦笑している。
「さ~て、私も準備運動ぐらいしておくかなぁ」




