第168話
■side:とあるファン
某都市部のスポーツバーにて、今日は開始1時間も前から盛り上がっていた。
今年のU-18女子は、霧島アリスが最後というのもあるが去年よりもしっかりしたメンバーになっている。
そのため「今年は間違いなく優勝」と言われていた。
その言葉を誰も信じて疑わず、こうして盛り上がっている。
俺も今日は、こうした雰囲気が味わいたくて一人でバーにやってきていた訳で。
「ではここで注目の日本のスターティングメンバーを紹介します」
気づけばもう試合直前。
特大モニターでは選手紹介が始まっていた。
BR 佐藤
BR 福田
SP 近藤
SP 渋谷
AT 宝月
AT 六角
ST 国友
ST 温井
ST 岡部
ST 谷町【L】
選手の一覧が出ると最初こそ動揺したような声もあったが「様子見か」という言葉で落ち着いていく。
確かに控え選手とも言えるメンバー構成だが、相手は日本よりも格下であり、様子見していると言われるとそう思えてくる。
実際、画面の向こうでも「これは様子見をするようです」と発言しており、自然と誰もが気にしなくなった。
肝心の試合が始まると、誰もが驚き……そして声をあげた。
廃墟街は基本的に北・中央・南の3ルートになる。
まあLEGENDは基本そういうルートが一般的なんだが、日本はまさかの全ルートに狙撃兵を配置していた。
北と南は、LEGENDアイドルの2人が居て、中央にはビーム砲の温井。
基本的な撃ち合いが続くが、相手側は攻めにくいといった感じで明らかに弾幕が違う。
相手のBRもどのルートに居てもカウンター狙撃を警戒しなければならず、顔を出しにくそうにしていた。
そうなってくるとジワジワとラインが押し上げられていく。
本来ならBRなどの多さからその分だけ前衛の数が減るのだが、そんなことは関係ないとばかりに押し込み始めた。
相手側も必死に抵抗するが、明らかに撃ち負けておりジワジワ後退し始めるが、それを許さないとばかりに圧が強まる。
普通なら背中を向けて一気に走ったりブーストを踏めばいいだけなのだが、LEGENDでは背中に急所となるコアが存在する。
これが安易に背中を向けて下がるということが出来ない原因となっており、一度前に出るとなかなか下がることが出来ない。
もっと言えばこの背面コアがあるおかげで何度も前進・後退を繰り返して銃撃戦のみに終始するような状態にならない訳で。
それでもどうしてもと言う時などに背中を向けて走ることもある。
しかしそれが敵が迫っている時にやると―――
バーが一気に盛り上がる。
逃げようとした相手選手が逃げきれずに撃破されたようだ。
しかし相手も何とか状況を変えようとATやSPの選手を大盾持ちのST選手に交代してゴリ押しで前に出ようとしてくる。
だが日本も負けてはいない。
射撃戦の中でもアイドル2人のBRによる狙撃が相手へのプレッシャーとなり北と南が逆に押し込み始める。
俺にとってというか、大多数にとってLEGENDアイドルというものはLEGENDの流行に乗っかっただけの存在だった。
まあ素人がやるよりも本格的な試合が見れるとか、アイドルという見た目の良い少女達による試合は確かに見栄えが良い。
更にそこに仲間との友情やライバル関係なども演出されていて、さながら青春ドラマである。
だからこそ今、LEGENDアイドルが日本代表として活躍している現状に、オタク達の盛り上がりはニュースで取り上げられるほど。
批判していた俺だって、彼女らに関して少しは見直したというかイメージは良くなっている。
そんなことを考えていると、リーダーの谷町が中央の最前線に現れて相手を押し始めた。
普通、リーダー撃破は最も逆転を呼び込んでしまうものであるため、基本的にリーダーは後方支援が多い。
しかし近年、U-18女子ではリーダーがこうして前線で戦いながら指示などを出すということが当たり前のようになりつつある。
プロでも難しいと言われるそれをやってのける谷町は、アリスの影に隠れた存在だが、非常に優秀な選手だ。
谷町の攻めに仲間達が奮起したのか、一層攻めが強くなる。
こうなるとあとはもう一方的な展開だ。
半包囲された状態からの一斉攻撃によって防衛線が崩壊。
崩れた場所から宝月が走り込んで司令塔攻撃を行う。
これを止めたくても弾幕を張られ、撃ち返せるだけの戦力も無い状態ではどうしようもなく……
宝月の司令塔攻撃からバーは煩いほどの大歓声。
そしてそのまま試合が終了すると、見知らぬ人間同士で先ほどの試合をツマミに大宴会。
外でも騒ぐ連中が出たのか、警察も大忙しのようだ。
「……今年は、優勝いけるだろ」
そう呟くと、見知らぬ女が空いていた目の前の席に座って「あったりまえでしょ~!」と上機嫌で答えた。
相当酔っぱらってるなと思いながらも、これでも若い時はLEGENDプレイヤーだったんだと言う女に、運ばれてきたばかりの唐揚げをわけてやる。
すると上機嫌なまま、唐揚げを頬張りつつLEGENDについて語り出した。
ちなみに余談だが、この丁度1年後。
目の前の女と結婚することになるのだが、この時の俺はまだそのきっかけとなる「酔っぱらってお持ち帰りしちゃった事件」が起こることなど知る由もない。
一方、LEGEND強豪国と呼ばれる各国では頭を悩ませていた。
近年急激に強くなった日本。
当初は『白石 舞』や『霧島 アリス』だけを警戒しておけば良かったはずだ。
しかし最近急激にその他の選手も侮れなくなっている。
そのため情報収集をしているのだが……。
「おいおい、せめてアリスとは言わないが、それなりの選手を引き出してくれよ」
某国の情報収集・分析担当の男は、そう口にするとPCの前に座ったまま天を仰ぐ。
たかが予選の1試合と言えばその通りなのだが、それでも明らかに2軍と思われる構成で試合に勝たれてしまうと、何の情報も得られない。
いや、正確には今回出てきた選手達のデータはある程度手に入ったのだが、正直これがどれほど意味があるのか……。
「控えの選手層ですらこれほどの強さになっている。つまりは選手層が年々厚くなっていると思われ―――」
上司にどう報告しようかと悩みながら文章を考える。
最近は残業続きでロクに娘の相手もしていない彼だったがこの後、家に帰った所でその娘に「パパ嫌い」と言われてショックを受けるのは、また別の話である。
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