第157話 VS東京大神戦(3年目):決勝戦後編
今回は少し視点移動多いかも?
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 霧島 アリス
選手交代が終わるとVR装置から北条姉妹が出てきた。
どちらも余裕が無く、倒れ込むようにベンチに座った。
2人のことはドリンクとタオルを用意している監督と後輩達に任せる。
「さて、これで試合が動く訳だけど」
指で卯月の居る場所を一定間隔でタップしながら考える。
「やっぱりタイミングが大事よね」
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 安田 千佳
「―――強い」
私だって今まで頑張ってきた。
アリスっちに頭下げて、カラオケもショッピングも我慢して、必死になった。
もう二度と足手まといはゴメンだって。
なのに。
顔を出す度に的確に狙われる。
鳥安 明美って1っこ下の子に。
たまにアリスっちとの練習の時に話す機会も戦う機会もあったけど、何だか私を嫌ってる感じの子。
そりゃあの子だって譲れないもんがあるって解るよ?
でもさ。
私にだって、それがある。
いい加減な気持ちで始めたLEGENDだけど。
今は私の気持ちで、ここに立ってる。
「負けられない」
相手の発砲音を聞いてから顔を出して、スグ正面の相手に銃口を向ける。
そこまで正確に狙っている時間がない。
だから感覚で撃つ。
何とか相手の足に当たった。
でも次の瞬間―――
腕に衝撃と共に耐久ゲージが大きく減る。
正面の高台には既に第二射を構える相手の姿。
―――そういう時は、後ろに倒れ込むように飛ぶのよ
思い出した言葉と共に後ろに倒れ込むようにしつつ飛ぶ。
その直後に発砲音がしたけど、当たった様子はない。
―――ブレイカーは耐久値が無い。だから減ったら即回復しなさい
アリスっちに言われた通りに下がって回復をしつつ弾も補充する。
さっきから何度も折れそうになる心。
でもその度に、通信越しに聞こえてくる恵理ちゃんや灯里ちゃんの声で冷静さを取り戻す。
あの2人だって、何度も苦しみながら立ち上がってきたのを見てきた。
なのに私だけが、諦める訳にはいかない。
―――試合残り時間 8分
■side:東京私立大神高等学校2年 鳥安 明美
「あ~、クッソ外した」
弾を補充しつつ舌打ちをする。
変な弾を当ててくるかと思えば、今みたいな正統派な狙撃をしたりするよくわからないギャル。
それが彼女の印象であり、アリス先輩が育てたにしては中途半端だなと感じる先輩である。
さっさと潰してしまおうと思うのだけど、何故かさっきみたいに決定的な場面になるとあんな上手い回避をしてきたりする。
強いのか、弱いのか、ハッキリしろと言いたくもなるけど、正直な話としては弱い。
まだまだ基礎が出来てないし、何より一撃必殺のライフルで一撃が取れてない時点でお察しである。
それよりも問題なのは、私と鈴木先輩で撃破を取る感じだったのに、それが全然取れていないという点。
むしろ全体的に押されているから支援に回るしかない。
谷町先輩が、突撃に向けての調整をしているので、恐らくはアリス先輩が出てくる前に決着をつける気だろう。
でも突っ込むなら突っ込むで早くして欲しい。
先ほどから下側が怖い。
選手交代で黒澤先輩と長野先輩が出てきた。
そのせいで今まで援護に徹していた笠井先輩までが動き出してジワジワを下を押し始めている。
こちらの援護攻撃を受けてもなお前に出ようとしてくる姿勢に、湯沢が焦り気味になっていて水橋に負担がかかり始めていた。
「だからこそ、正面が邪魔ってね」
私が全力で支援するためにも、万が一を考えれば―――安田が邪魔だ。
残り時間が僅かな状態で、相手も積極的にとは言えないものの、顔を出す頻度は下がっていない。
なので一度大きく牽制を入れて引っ込ませることで、こちらが自由に動けるようにすべきだ。
万が一、そのまま勝負を続行するなら速攻で狩ってしまえばいい。
去年のような変な一撃が、今年は無いのだから安心してもいいだろう。
「一度誘いを入れてから確実に、一撃入れる」
―――試合残り時間5分
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 安田 千佳
あれから何度か撃ち合いになるも、相手には弾が当たらない。
運良くこちらも当たってないけど、時間がもうない。
点数が動いてない以上、私が下手にやられる訳にはいかない。
けど―――
「私は、足手まといで終わりたくないッ!」
そう思った瞬間だった。
周囲の景色が変化した。
空の色が違う。
建物の色が違う。
人の色が違う。
風の色が見える。
障害物の奥の人が見える。
人の動きが解る。
「へ?」
思わず間抜けな声を上げる。
ついに私はおかしくなったのかと。
でも、それでもここで止まる訳にはいかないのだ。
障害物に隠れているはずの鳥安が見える。
飛び出して銃を構えてこっちを誘っているのが、建物越しに見える。
だからあえて顔を出すと、相手が一度引っ込む。
だけどこれは誘いだ。
でも、私はあえてその誘いに乗る。
こちらが銃を構えた瞬間、相手が顔を出してこちらを狙う。
銃口を見れば左肩に当たる角度に見えた。
だから関係なく彼女……ではなく―――
その瞬間、発砲音と共に左肩に衝撃が走る。
体勢が崩されて後ろに大きく倒れ込むような感じで押されるような感覚。
大きく減る耐久ゲージ。
でもそんな中で私は―――
「彼女の左下、障害物の上側の奥3mm」
そう口にして、そこを目掛けて引き金を引いた。
そして吸い込まれるように弾は、狙った場所に命中する……そして―――
ガンッ!!
と跳弾によって2度ほど大きな音が鳴る。
私はそのまま倒れ込み、銃の反動と撃たれた衝撃によって高台から落下した。
VRなので痛みが無いのが幸いだ。
そのまま大の字に倒れた私は、次の瞬間に鳴り響いたアナウンスを聞き、ログを見た。
◆ヘッドショットキル
× 東京大神 :鳥安 明美
〇 琵琶湖女子:安田 千佳
大の字に倒れたままの私は、そのままの体勢で思いっきり右手を天高く突き上げた。
その瞬間、会場が揺れるほどの大歓声が響いた。
東京大神 :990
琵琶湖女子:1000
その差、僅か10P
―――試合残り時間2分
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