第155話 TV放送B局
*要望があったので特定の話にサブタイトルを再度付けてみました。
■side:実況者 金山 瀬里
「ここで試合時間10分経過しました。依然として点数移動無しの互角という展開。牧柴さん、ここまでをどうご覧になりますか?」
現在3つのテレビ局が試合を中継している。
その中で一番視聴率が取れている番組。
しかしいつものメイン実況者ではなく、今日はアシスタントで現地リポートが多い金山という女性の方がメイン中継の実況を行っていた。
何故なら今日は偶然のアクシデントでメイン実況者が時間に間に合わなかったからだ。
急遽代役という形ではあるが、ここでしっかり実況も出来るというアピールが出来れば……そんな野心が彼女をいつも以上に饒舌にしている。
「一見するとほとんど動きが無い双方防衛ばかりの試合展開に見えがちですが、実はかなり神経をすり減らしながらの戦いになっていますね」
対して解説で呼ばれた牧柴は、元プロ選手であり引退後は解説を中心に仕事をしてきたベテランだ。
単純なことしか言わない解説者が多い中で、彼女はかなり本格的な内容まで語ることで有名であり、どちらかといえばライト層よりもヘビー層に好まれる解説が多い。
「と言いま―――おっとここで大谷の投擲を鳥安が止めて……いや南が援護に入ってイーブンか?あっと大谷のグレネードが綺麗に中央に向かいましたが回避されてしまいました」
「ああ、今のが良い例ですね」
「良い例ですか?」
「先ほどから琵琶湖女子の選手の方から仕掛ける展開が非常に多いんですよね。しかしそれを対面している選手や鳥安選手の援護で潰しているという感じです」
「つまり琵琶湖女子が優勢ということでしょうか?」
「優勢というよりは、怖い攻撃が多いということですね」
「と言いますと?」
「先ほどから攻撃が必殺系と言えばいいんでしょうか?撃破を狙った攻撃が多いんですよ。―――ああ、もちろん攻撃する以上は誰もが撃破は狙うんですけどね」
ここで実況ブース内の2人以外に外に居る中継スタッフからも笑い声が上がる。
「普通、LEGENDというのは流れの部分が強いんですよ。誰かの攻撃から何かしらで優勢になるとそこから一気に押し込むみたいな」
「確かにそういう感じが多いですね」
「その流れの押し合いの最中に大体は撃破が生まれて大きく傾いて点差が付いたり、逆に点差を返そうと逆襲による流れの逆流みたいなもので反撃を受けて~っといった感じです」
「そうですね。確かに動きが大きくなると一気に点数が動きますよね」
「しかし現在の攻防は、そんな動きを必要としていないんです。つまり今の撃ち合いの最中に奇襲で1撃破取るぞという感じと言えばいいでしょうか。流れ的な押し引きを必要としない撃破を狙ってきているというか」
「ああ~、確かに。先ほどの大谷選手の攻撃も当たれば一撃という投擲に特化したやり取りでしたね」
「そうなんですよ。そしてこれは琵琶湖女子だけでなく大神の方も同じなんです」
「ここまでお聞きした感じですと、琵琶湖女子優勢ですが?」
「確かに攻撃回数というか狙っているのは琵琶湖女子なんですが、それを利用したカウンターというか、隙あらば一撃取るぞという戦いを大神側も行っています。特にその起点になっているのが鳥安選手と鈴木選手でしょう」
「2人とも後衛支援で一撃必殺という戦績でしたね」
「なので私からすれば琵琶湖女子は、攻めから10P狙ってる感じ。大神はカウンターを含めて隙あらば10P取ってやろうという守りからポイントを狙っている感じという印象を受けましたね」
「はぁ~、そうだったんですか~」
「これは選手達が一番感じているでしょうね。自分が万が一にでも僅かなミスをすればそこから一気に試合が動きかねない。そのプレッシャーは凄く重いでしょう」
「なるほど―――ここで北条 紅選手がジワジワと相手を押し込んでいくが……あっとここで下がった明永選手が反転して水橋選手と挟撃体勢に入る!だがここで姉の北条 蒼選手が援護に入る!一旦下がって様子見―――ここで鳥安選手の援護が入ってくる!」
「しかしそのせいで神宮寺選手の迫撃砲が綺麗に鳥安選手に至近弾となったので、これは双方痛み分けといった所でしょうか。きっちり追撃で相手を元の位置まで引かせた鈴木選手の砲撃の腕も見事ですね」
「これは凄い展開ですね」
「先ほどから説明していたように、こうした1度の動きで撃破を取りに行くという形を双方共に狙っているので、動き始めると一瞬で勝負が決まるなんてこともあるでしょう」
「つまりは、一瞬も目が離せないということですね」
「そうですね。……正直ここまで緊張感のある試合は、プロでもほとんどありませんね」
会話を続けながらも試合がまた落ち着いた瞬間を狙って手元の資料や情報を整理する。
ついでにリアルタイム視聴率を確認すると、大幅に上昇していることが判明して心の中でガッツポーズを取る。
これは他局が当たり障りのない実況中継なのに対して、ここだけ専門的な解説用語が飛び交っているが、それでも詳しく内容が知りたい視聴者達が集まってきてた。
更に先ほどから説明しているように双方の戦術まで解説し、それが正解しているのだからドンドンと拡散されて視聴者が増えていくという好循環が起こっている。
この流れを上手く途切れさせないようにしようと金山はドンドンと会話を続けようとするが、対する牧柴はあくまでもマイペースで解説を入れる。
それが逆に停滞気味に見える試合を上手く利用した解説となっていた。
その後も何度か上下での攻防が続いた頃。
「おっとここで中央、動いた―――と思ったが安田選手の一撃を冷静に盾で処理した谷町選手。そこに鳥安選手のカウンターで安田選手堪らず後退といった感じか」
「本当にこの試合、鳥安選手が全体を見れてますね。的確な援護でチームの隙を綺麗に埋めていますよ」
「彼女もここ1年で本当に成長しましたからねぇ。―――おっとここで選手交代があるようです」
*選手交代:東京私立大神高等学校
IN
3年:湯沢有紀
OUT
3年:甲谷光紀
「ここでまた大神の選手が交代です」
「最初の稲富選手の場合は放心状態になってしまったので交代といった感じでしたが、今回は精神的なキツさでの交代でしょう」
「やはり決勝戦、1ミスが全てを決してしまうとなると相当でしょうからねぇ」
「おや、ここで更に大神が動きましたねぇ」
「確かに全体的に動いているような感じに見えますが……これは?」
「恐らく全体的な配置調整を入れるつもりでしょう。後半戦や最後を見据えた形にするのではないでしょうか?」
「ここで大神、人を動かしての配置移動を始めました!」
「上に居た大野選手を中央に配置して中央を厚めにしてきました。これで上に明永・小神・神田。下が水橋・小澤・湯沢。中央に谷町・鳥安・大野・鈴木となりましたね」
「対して琵琶湖女子もいつの間にか少し動いてますね。上に大谷・南・神宮寺。下に北条姉妹と笠井。中央に宮本・三峰・卯月・安田となっています」
「神宮寺選手に関しては上と中央兼任という感じの動きで、サポートに特化しているようにも見えます」
「こうなってくると後半戦が、どう動くのか非常に愉しみですね」
「間違いなく両チームともに方針を変更してきましたからね。どう動くのか?どちらが先に先制するのかによって大きく変わるでしょう」
「―――さあ、この時点で残り時間が遂に半分になりましたっ!今年の最強はどちらのチームとなるのかっ!!」
*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。




