第153話 TV放送A局
*ご指摘があり、一部加筆修正致しました。
■side:とあるニュースキャスター
「さあ、やってまいりました。全国高校生LEGEND大会・女子の部、決勝」
事前に用意した原稿を読みながらも時折、勢いが落ちないようにアドリブを混ぜて言葉を盛り上げる。
「まさかの3年連続同一カードという因縁の対決です」
ワザと低い声で、その因縁の強さを表現する。
本来なら高校生大会で、ここまで真面目な演出などしない。
しかし今回だけは違う。
注目度が段違いなのだ。
それこそワールドカップ並みというあり得ない話題性は、現在既に表示されている視聴率が示していた。
「まず入ってきたのは、2年連続準優勝。今年こそ悲願の優勝となるか?―――東京私立大神高等学校の入場ですッ!!」
自分の実況に合わせたように会場では大きな歓声が起こる。
選手が入るタイミング、会場が沸くタイミング、そして実況を入れるタイミング。
まさに完璧だと自画自賛しながらも、彼は手を緩めない。
もう片方が若干登場が遅れていることを察して、アドリブで繋ぐ。
あくまで対立を煽る形で雰囲気を壊さぬように。
「1年目は、最強のブレイカー対決と呼ばれたまさにブレイカーが主役な試合でした」
「2年目は、一瞬のミス、一瞬崩れたその瞬間から一気に勝負が決まってしまいました」
「3年目……今年は、どんなドラマが起こるのでしょうかっ!?」
声のトーンや言い回しで時間を稼ぎつつ、そろそろだろうと勝負を仕掛ける。
「さあ、やってまいりました―――対するは、現在夏大会2連覇中の強豪。その圧倒的な強さで前代未聞……夏の3連覇達成なるかっ!?」
王者を紹介する時は、挑戦者よりも大きくタメを作る。
そして一気に吐き出すように言葉を発する。
「―――滋賀私立琵琶湖スポーツ女子学園の登場だッ!!!」
完璧なタイミングで会場から歓声が沸き起こる。
ここからは最終チェック等が開始されるため、大体かかる時間が解る。
だからこそ、紹介する情報を手元に出しながらスタッフに合図を送った。
■滋賀私立琵琶湖スポーツ女子学園
スターティングメンバー
AT 北条 紅
AT 大谷 晴香
AT 三峰 灯里
ST 神宮寺 詩 【L】
ST 笠井 千恵美
ST 宮本 恵理
SP 北条 蒼
SP 卯月 結菜
SP 南 京子
BR 安田 千佳
■ベンチ
黒澤 桂子
長野 誠子
霧島 アリス
羽島 美桜
福井 珠希
「このスターティングメンバーについてどう思いますか?」
このタイミングで初めて解説役に来たゲストに話題を振る。
彼は元プレイヤーと言ってもかなり昔になるし、何よりあまり解説向きではない。
だから必要最低限に会話を振るだけで十分だと上からも許可を取ってある。
あくまでも視聴率、あくまでも番組優先だ。
「基本的に2年生を中心とした構成ですので、来年以降のことも考えているのでしょう。特に活躍している黒澤や霧島をベンチに入れていることから明白です。逆にこの2人を引き摺り出すことが出来るかどうかが試合見どころの1つとなるでしょう」
当たり前の話ではあるが、しかし予想外に手堅い意見に相手の扱いを心の中で上昇させる。
「確かに最近、公式試合に霧島アリスはあまり登場していません。一部では故障説なども出ています。その辺りはどう思われますか?」
「まったく問題ないでしょう。その一部登場した試合で3連続ヘッドショットを決めて早々に試合を決定付けています。これで故障というのは無理があるかと」
「あの試合は、まさしく出た瞬間に終わったと言う感じでしたね」
そこから注目選手などの話題を振るも、勉強してきているのか淀みなく会話が続く。
そのため予定以上に話題を振ることになり、時間管理がラクになる。
しかしそんな完璧さが崩壊する出来事が起こった。
「そう言えば思い出したのですが―――昨年の決勝戦は青峰ではありませんでしたか?」
「は?」
一瞬何を言われたのかと脳内処理に時間がかかった。
その間にゲストが更に追い打ちをかける。
「確か去年の大神は準決勝での相手だったような?それで決勝が青峰で、青峰側が一気に押し負けたと思ったのですが……」
その話に急いで目の前のノートPCで検索をかけつつスタッフに情報を持ってくるよう指示を出す。
すると目の前に揃ったデータは、ゲストの言うことを裏付けていた。
「はは、これは大変失礼しました。昨年の東京私立大神高等学校は準決勝で、決勝戦は京都私立青峰女子学園でした」
思わずやってしまった~と頭を抱えたくなったが―――
「まあ誰にでも思い違いはありますよ。特に今年の大神高校は気合の入り方が違いますからね。あれだけの気迫を見せられれば優勝を阻止され続けた準優勝校に見えるでしょうし、昨年はその悔しさをと挑んだ準決勝でしたからね」
「―――という訳で皆様、大変申し訳ございません。今年の大神高校は2年前の準優勝・そして昨年の準決勝での敗北を胸に、今年こそはと優勝を目指します」
その後の状況を確認しつつそろそろかとスタッフに指示を出しつつ会話を誘導する。
「では、対する東京私立大神高等学校のメンバーを確認していきましょう」
■東京私立大神高等学校
スターティングメンバー
AT 大野 晶
AT 小湊 南陽
AT 明永 杏
SP 甲谷 光紀
SP 稲富 愛
SP 神田 巳之
ST 谷町 香織 【L】
ST 鈴木 桃香
ST 水橋 向日葵
BR 鳥安 明美
■ベンチ
大川 園兎
小神 紅華
湯沢 有紀
今野 羚
内藤 昭子
「こちらに関してはどうでしょうか?」
「同じバランスでのメンバーとなりましたね。恐らくですが、バランスの良さで前半を維持しつつ状況に応じてメンバーを入れ替えるのではないでしょうか?」
「つまりは消極的な防衛ということですか?」
「相手に初手から霧島や黒澤が居ないと踏んでの様子見でしょうね。相手は安田選手1本ですが、自分達は鳥安選手だけでなく鈴木選手といった遠距離で撃破を取れる構成です。そこを上手く利用して先制が取りたいのではないでしょうか?」
「……なるほど、十分あり得ますね。特にここ最近の鳥安選手・鈴木選手の撃破率は1試合平均3.6や2.7とかなりの高水準です。対し安田選手は1.3とブレイカーの中でも平均よりやや下という状況になっています」
「その部分が試合にどう響いてくるのか?霧島選手の登場があるのか?その辺りを期待したい所ですね」
「そうですね―――おっと歓声が上がったが……練習で鳥安選手が的にヘッドショットを3連続で決めたことによる声ですね。どうやら絶好調なようです」
「今年こそ、という気迫が伝わってくる良い練習風景ですね」
「―――ですが、そろそろ時間となります。選手達も気づいたのか練習を切り上げて下がっていきます」
会場全体でアナウンスが鳴り響いてシステムが本格的に動き出す。
選手達と会場が隔離され、否が応でも期待が高まる。
「さあ、両陣営の選手達が再登場しました。―――おっとここで両陣営ともに……円陣を組んでいます」
「珍しいですね。ここまで両チームとも試合前にそのようなことはしていなかったのに」
「それだけどちらも気合が入っているのでしょう……負けられない戦いが今―――始まりましたッ!!!」
直後に試合開始のアナウンスが鳴り響き、両陣営の選手達が動き出す。
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