第148話 NEWS・LEGEND
「さあ、今夜もお届けします!
水曜日の夜は、もちろんこれ!
【NEWS・LEGEND】のお時間がやってまいりました~!」
番組看板女性アナウンサーが、今日も元気いっぱいの声で今日もお馴染みの台詞を口にする。
「皆さん、こんばんは。司会の大館次郎です」
「司会補助の江口梨々花で~す」
2人共もはや慣れたやり取りだという感じで、非常に安定感がある。
「本日のゲストは、昨年現役を引退なされた田中 沙羅さんにお越し頂きました~」
紹介されたのは、ショートヘアでいかにもスポーツマンといった感じの女性だ。
「よろしくお願いします」
しかしその見た目の活発さとは違い、非常に丁寧な口調で返事をしていた。
LEGENDは未だ歴史がそこまである訳ではなく、引退後の活動に関しては非常に厳しい現実がある。
現役時代に人気があったり偉大な記録を残せたりすれば、こうして解説や監督などLEGENDに関わる仕事に就きやすい。
だがその他大勢のそうではない選手。
例えば成績不振による戦力外からの引退などになると、なかなか次の仕事というものが難しい。
そういう意味で今回の田中沙羅は非常にラッキーだったと言える。
持前のさわやかさと活発さは印象が良く、企業ウケも良いため解説にCMなど仕事に困ってはいなかった。
「では、本日のNEWS・LEGENDですが―――」
そう言いながら江口梨々花が空中に手をかざすとエフェクトと共に様々なデータが出てくる。
それらが勝手に色々と動くと画面には各学校名が表示された一覧が現れた。
「今年も始まりました全国高校生LEGEND大会・女子の部に関してです!」
各予選ブロック一覧が拡大されるとAブロックから表示された。
「まずAブロックですが、ここはAブロックでは早々に熊本県代表の私立天城女子高等学校と京都府代表の私立青峰女子学園がぶつかりました」
「京都府代表の青峰は全国常連校として有名で、優勝を何度もしてきた名門です。対して熊本県代表の天城も昨年は惜しくも全国を逃しましたが一昨年は決勝トーナメント進出を決めた強豪校です」
「そうなんです。どちらも二連覇中の滋賀県代表の琵琶湖女子に敗れましたが、今年こそはとリベンジに燃えているみたいですね!」
ずっと番組で協力してきた2人が流れるように進行する。
特に大館はLEGEND初心者にもわかりやすいよう簡単にそれぞれの学校紹介を挟む。
「それでは強豪校同士のぶつかり合いがどうなったのか、見てみましょう!」
江口の合図で画面にはダイジェストで青峰と天城の試合映像が流れ始める。
「まずは開幕僅か30秒の出来事でした。青峰リーダーであり昨年度U-18日本代表の一条選手と今年の熊本予選で撃破率トップだった天城の佐藤選手が中央でぶつかります」
画面にはサブアームで固定された両肩ガトリングと手に持っている大型ガトリングで一斉射撃をしつつブースターで左右に移動する一条恋の姿。
そしてその反対側では同じくストライカー。
サブアームに固定された2枚のシールドを前に展開して攻撃を防ぎつつ、その隙間から手に持った大型ガトリングで反撃する佐藤の姿。
流石に弾幕の差で佐藤のサブアームのシールドが2枚とも大幅に耐久値が削られていく。
形勢不利と見た佐藤はガトリングを撃つのを止め、左手一本で持つと空いた右手を腰に回す。
勢いよく右手を構えるとその手にはロケットランチャー。
それを佐藤が下がると踏んで追撃態勢に入っていた一条に対して引き金を引く。
だが―――
ブースターの勢いを止めることなく突っ込んだ一条は、ギリギリの所で飛んできた弾を回避しつつ前に出る。
まさか避けながら突っ込んでくるとは思っていなかった佐藤は驚きながらロケットランチャーを投げ捨てるとガトリングを構え直しシールド2枚を前に向けながらブースター全開で後ろに下がる。
しかし逃がすかといったばかりのガトリング一斉斉射しながらの特攻に佐藤は耐えきれずに撃破され粒子となって消える。
「まずは青峰リーダーの一条選手によって10Pリードします。そしてここから中央が優勢な状態のまま膠着が続きます。次に動いたのは試合開始47分」
青峰の攻撃が控えめだった南側から天城の選手がジワジワと踏み込んでいく。
それを突如、青峰の渋谷が肩部ミサイルを撃ちながら飛び出してくる。
思わぬ反撃に僅かに連携が崩れ天城の選手が1人逃げ遅れた。
それを見逃さず丁寧にダメージを与えて撃破判定を取る。
「青峰の渋谷選手がカウンターからの一撃で天城の森選手を撃破して更に10Pリード」
切り替わった映像は試合終盤を映し出す。
「試合終了5分前。天城の一斉攻撃がありましたが青峰は冷静に後退しつつ防御を固めてリードを守り切り青峰の勝利。見事全勝で決勝トーナメント進出を決めました」
「安定感のある見事な試合だったと思います。この試合に関して田中さんはどう思われましたか?」
ここでようやく解説を振られた田中は、前日から考えていた内容を話し出す。
「流石は強豪青峰といった試合でした。特に今回リーダーの一条選手は中央最前線を務める花形ストライカーです。つまり一番狙われやすく撃破によるリスクが高い訳です」
一旦話を切ると息を整えてから再度話し始める。
「そのリスクを背負いながらの序盤のあの攻防は流石としか言えません。プロ選手でも躊躇うようなことを全国大会で見られるというのはそれだけ彼女のレベルが高いということです。それに接戦の中、単独でカウンターを取った渋谷選手も素晴らしい判断でした。あそこでもし判断を間違えれば同点と言う場面で冷静に撃破を取れた精神力は流石です。そして最後の一斉攻撃に付き合わず冷静に処理したのも良かったですね」
「確かに一斉攻撃の相手をするということは相当なリスクですからね。ということは今年の青峰は一味違うということでしょうか?」
「間違いなく去年よりもレベルアップしてきていますね」
「はい!そんな京都府代表青峰女子学園ですが、何と明日の決勝第一試合であの学校とぶつかってしまいました!」
綺麗に流れに入り込んで主導権を取った江口が空中の画面を変更する。
「それがこちら!」
画面にはデカデカと学校名が表示される。
『決勝トーナメント第一試合。京都府代表:私立青峰女子学園 VS 滋賀県代表:私立琵琶湖スポーツ女子学園』
「夏の大会2連覇中の強豪校であり、今年3連覇が注目される滋賀県代表の私立琵琶湖スポーツ女子学園です!青峰女子は未だ一度も勝てていないという因縁深い相手です!」
江口が自分を見たことで自分に発言を求めているのだろうと察した田中がカメラの位置などを気にしつつ口を開く。
「琵琶湖スポーツ女子学園は世界戦を経験している選手が多いですからね。特に生きる伝説とまで呼ばれている霧島選手が居ます。今年も攻守共に隙が無い完璧な仕上がりを見せていますので青峰がどうやってその牙城を崩すのか、愉しみですね」
「非常に注目な一戦となることでしょう。しかし今年はまだまだ注目選手や試合がありますよね?」
「はい!今年注目の試合や選手を番組独自でピックアップしています!決勝トーナメントに勝ち上がってきた各学校紹介を含めてご紹介しましょう!」
江口がポーズを決めると派手なエフェクトによる演出と共にオフィス風だったスタジオ内がハイテクなメカメカしい部屋へと変化する。
「それでは次はこのコーナー!」
…………………。
……………。
………。
番組が進行する中、明日行われる決勝トーナメントに出場する選手達はそれぞれの想いを胸にその時を待っていた。
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