第145話
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 霧島 アリス
時間というものは意識していない時ほど早く感じるものだ。
春が終わりを告げ、次第に夏らしくなったかと思えば……もう全国大会の予選である。
監督と話し合った結果、予想通りな感じとなる。
そしてPVEに関しても、やはり出場選手は全員1年生となった。
実力や可能性などを考慮すれば何人か試合に出しても構わなかったのだが、やはり様々なことを考えて止めることにした。
それにどちらかと言えば同世代でチームを組ませた方が将来的にも良いだろう。
今よりも来年、再来年を考えて1年生にはPVEで度胸を中心に心構えから勉強させる。
どうせ技術的なものは後からいくらでも叩き込めるのだ。
ならばここ一番の精神力から鍛えた方がいい。
まあそんな訳でPVEは全員1年生になった。
リーダーにはブレイカー候補の園谷を指名するつもりだ。
まだまだ粗削りだが素直で努力家な点やここ一番での集中力の高さは評価できる。
ある意味真面目な千佳みたいな感じだろうか。
……最初はどうかと思ったが、結果的にアレも最後の最後まで食らいついてきたことを思えば感慨深いものがある。
良くも悪くも教え甲斐のあるというより手間がかかった子だった。
そう思えば初心者3人組なんて呼ばれていた彼女らも今では立派なレギュラーだ。
―――やはり時代の流れは早いものだと思う。
「……そういやこんなものもあったなぁ」
ふと手元にあったものを見て思い出す。
それは未だ学習と言う言葉を知らぬ連中がばら撒き始めたものだ。
ルール改定と称してまたも装備制限の緩和を中心に色々とやり始めた。
この全国大会が始まろうという時にである。
といっても基本的にはアタッカーとサポーターの武装が一部共通になったりサブアームに関しての調整などがほとんどだが。
それにしたってもっと前か後で良いだろうと思うのは私だけだろうか。
どちらにしてもブレイカーは今回も特に目立った変更点が無い。
それを喜べば良いのか悲しめば良いのか、微妙なところだ。
「まあ、どちらにしろ装備変更含めて全国までには修正出来るでしょ」
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 北条 蒼
私は大きく深呼吸をする。
先輩方とは違い、試合前はいつも緊張から始まる。
それが良いか悪いかは別として。
「失敗出来ないわね」
思わず呟いてしまう。
今年の3年生は9人。
そして私達2年生は4人。
それだけで既に13人となり3人がベンチだ。
更に1年生でベンチ入りした子達も『もしかしたら』とチャンスを待っている。
そんな中でしっかりと結果を出すことが絶対条件だ。
「動きが悪かったら問答無用で交代させるから。あと予選で結果残せなかったのも交代ね」
予選前のメンバー発表で霧島先輩が言った言葉。
あまりにも一方的だけど、誰も何も言えなかった。
今までもあり得ないほど強くて強引だった先輩は、今年に入ってより一層それらが加速した。
練習でも最低限しか他人の面倒など見なかったのに、今では最前線に立つリーダーシップ全開の隊長様といった感じで監督の存在感を消し飛ばす勢いで大暴れ。
そしてサラっと今みたいな重要なことも平然と言ってくる。
「結果を出し続ければ残れると思えば楽勝でしょう?」
まるで結果を出せて当然といった感じの発言。
試合前にこんな爆弾を投げ込んだ先輩は、その後も淡々とメンバーを発表していく。
・大谷 :アタッカー
・北条紅:アタッカー
・卯月 :アタッカー
・三峰 :アタッカー
・北条蒼:サポーター
・南 :サポーター
・宮本 :ストライカー
・笠井 :ストライカー
・神宮寺:ストライカー
・安田 :ブレイカー
予選から手加減など不要だと言う霧島先輩とミスをしてさっさと私達と交代してくれと冗談っぽい感じで言いながらも一切冗談ではない目をしている黒澤先輩と長野先輩。
ある意味、非常に殺伐とした空気の中で試合の時間を迎えた。
―――試合開始
色々と思い出していると試合開始のアナウンスが鳴り響いた。
早速自分の割り当てられた場所でまず牽制射撃から―――
「ちゃっちゃと押し込むよっ!」
「おっけ~!」
隣で同じく牽制射撃から入ると思っていた大谷・南先輩方が一切停止せずに相手に向かって突撃していく。
相手側もまずは軽く挨拶からと思っていたのだろう。
思いっきり驚きながら何とか射撃で先輩方を止めようとするが―――
「遅いッ!!」
相手が銃を構えた瞬間を狙って大谷先輩が投げた手斧が相手の足に刺さって相手がバランスを崩す。
そしてそのままマシンガンを撃ちながら援護しにきた相手サポーターとの距離を一気に詰めて押し込む。
バランスを崩した相手の方は、同じく突っ込んでいた南先輩に至近距離から大型マシンガンを叩き込まれて粒子となって消えた。
気づけば大谷先輩も相手サポーターを撃破していて、更に前へ進もうとしていた。
「―――マズイッ!!」
このままでは交代候補になってしまう。
同じくそう思ったのか、紅も急いで私の隣に並ぶ。
「私達も行くわよッ!!」
「ええっ!!」
声を掛け合うとブースターを吹かして一気に前へと進む。
一切止まることなく次々と突っ込んでくる私達に防戦一方だった相手側だが、その防戦すらまともに出来ず一瞬にして試合が終わってしまう。
こうして今年の全国大会の地方予選も去年に続き圧勝での優勝となり、全国への切符を手にしたのだった。
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