第140話
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 笠井 千恵美
今年は新人が大量に入ってきたことにより部員不足をようやく解決出来た。
そう思っていたのだが、アリスの奴が新入生を延々と走らせ続けていた。
そこまで徹底すれば辞める者も出てくるかもしれない。
しかしそう声をかけると
「この程度で辞めるならどうせ続かない」
と身もふたもないことを言い出した。
確かにこの程度で辞めるようじゃ本格的な指導なんで無理だ。
それにアリスは今やリーダーである。
指導者も経験している訳だし監督もアリスの手伝いをしていて止めようとはしていない。
だったら私達がどういう言うことではないだろう。
そう思っているとアリスが今度は紅白戦をやると言い出した。
この前ので新人達の強さは何となく理解している。
ぶっちゃけ私の相手じゃない。
にも関わらず、発表されたメンバー分けを見て思わず眉をひそめた。
…………………。
……………。
………。
VR装置に入ってVR世界に飛ぶ。
マップはデュエルエリアだ。
とりあえずリーダー役は千佳の奴に押し付けた。
あんなもの背負ってたらいざって時に突っ込めないからね。
それに私はリーダーって柄じゃない。
メンバー的にも押し勝てると思っていた試合は、始まってみると予想外のことばかりだった。
*マップ
黒澤・長野コンビが北条姉妹相手に攻めきれず、完全に撃ち合いとなっていた。
しかもブレイカーまで居るらしく中央からサポーターまでウロウロしている。
これじゃこちら側からの攻撃は無理だ。
そう思って千佳に連絡を入れるも『どこも抜けないからKDやるしかないっしょ』と言うだけ。
まあ確かにそうなんだが……
大谷・南コンビも防御に徹され、下手に前に出ようとするとアリスが出てくるらしく無理だと言い出した。
中央も恵理や灯里が頑張るも卯月や神宮寺が徹底して邪魔をしてくる。
一度だけ強引に突破しようとしたらアリスが援護に入ってきた。
更に「突撃!突撃!」とウルサイ子が突っ込んでくるので、それも地味にウザかったりする。
ただでさえ神宮寺の滑腔砲が厄介なのにアリスまで来るとなると一撃必殺が怖い。
「あ~、こりゃ後で絶対文句言われるだろうなぁ~」
そう思うと自然にため息を吐いていた。
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園1年 園谷 蜜柑
冷静に相手の先輩方サポーター・アタッカーの動きを見て狙撃する。
ほとんどが盾などに命中してダメージになっていないが、盾を破壊すれば相手が新しい盾を用意するため後退する。
その時間が稼げれば良いと言われていたので、とにかく当てることを重視して引き金を引く。
私はアリス先輩に憧れてLEGENDを始め、そして先輩の居るこの学校を選んだ。
憧れの先輩の指導は非常に厳しいものばかりだけど、それでも何とか食らいつく。
その結果、何と直接指導して貰えるまでになった。
嬉しかった反面、最初に言われたのが『無理してヘッドショットを狙うな』という言葉。
あとは『あくまで役割は援護であって主役ではない』とも言われた。
確かに一撃必殺は非常に魅力的なものだ。
しかし本来の狙撃とはそんな華やかなものではない。
ひたすら援護をするだけの地味なものだと教えられた。
それらを胸に努力し続けた結果、今私は練習試合に出させて貰っている。
「―――相手の中心を狙って」
私の一撃は黒澤先輩のバックラーを破壊した。
すると黒澤先輩がめんどくさそうにしつつも私を睨みつけてくる。
その気迫に一瞬怯みそうになるも、何とか耐える。
牽制射撃が飛んでくるも、それを場所移動で回避すると向こうも盾を補充するためか下がっていく。
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園 顧問 前橋 和歌子
私は練習試合を見ながらため息を吐く。
「やはりこうなったか……」
今まで攻撃の起点となっていたのは上級生達だった。
特に新城さんと大場さんの突破力に藤沢さんの高火力援護。
これらが琵琶湖の強みだったと言える。
確かに最近では黒澤さんと長野さんによる攻めもあるし笠井さんも悪くはない。
しかしどうしても防御寄りな宮本さんや三峰さんを引っ張っていけるだけの突破力があるとは言えない。
大谷さんと南さんも元からKD戦寄りだった部分もあるから、ここも攻めという点では厳しい感じだ。
シャーロットさんのような強烈な突破力のある個人なんて、それこそ霧島さんぐらいだろう。
2年生に関してはまだまだ粗削りな部分も多く、今の3年生についていくのが精一杯。
1年生に至っては基本的なことから教え直さなければならないほどだ。
霧島さんからも『攻めっ気が足りない』と言われている。
確かに『いつでも攻めれる』というのと『攻められないこともない』では大きな違いだ。
特に逆転を狙わなければならないような状況で攻めれないのは致命的である。
実際、これからの攻撃の起点になってくれると思っていた黒澤さんと長野さんのコンビは北条姉妹によって止められていた。
あの姉妹も攻撃的な感じだったが、最近では霧島さんの指導でかなり防御を重視するようになっている。
中央の卯月さんもアタッカーとサポーターの兼用という立場になっているが、そのどちらも無難にこなせていた。
次期リーダーに早くも指名されている神宮寺さんも藤沢さんのような後方火力支援としての立ち位置が安定してきている。
現に大きく成長した宮本さん・三峰さん・安田さんの3人相手の中央でしっかりとKD戦が出来ていた。
開幕少ししての一斉攻撃にもちゃんと対応して引き分けを取っている時点で十分と言える。
その中でも1年の遠山さんはシャーロットさんのような突撃をしていて育てば大きいと言えるし、中央から2方面を支援してる園谷さんも安定した狙撃で存在感をアピールしていた。
「良い点も多いけど、改善点も多いとなると……これから大変だわ」
大会2連覇をしたウチは確実に対策を取られるだろうし、身内からも3連覇を期待されるだろう。
何より未だU-18女子日本代表が数多く居る以上、負けは許されない。
彼女らが卒業する来年こそ私の実力が試されるでしょうから、今年の間に私も精一杯成長しなければ。
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