第138話
■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園3年 霧島 アリス
今まで様々なことがあった。
そうした日々の中で、ついに高校生活最後の1年がやってきた。
「―――よし、鍛えよう」
朝起きた私は、そう呟く。
思えば今年は大量の新入生に恵まれた。
色々なことが片付いたからだと言われたが、まさか一気に1年生が34名もLEGEND部に入部してくるとは。
中にはU-15女子日本代表だった子も居たりする。
しかし私に言わせてもらえば―――
「正直……微妙なのよねぇ」
そこまで弱い訳ではない。
特に強豪校から来た子や日本代表になった子は、確かにそれなりの動きをする。
だが―――それなりなのだ。
これだという長所も無ければ、可能性を感じるような子も居ない。
U-15がダメだった理由が垣間見えたのだ。
最初は自分に関係のない話だとスルーする気だった。
私が居る間はまだメンバーで困ることがない。
困るとすれば来年以降。
なら私には関係ない。
……でも最近になって思うことがある。
何だかんだやってきた高校生活。
琵琶湖スポーツ女子学園というある種の箱庭。
そこで一緒にやってきた仲間。
今までは毎日のように『何故、前世の記憶を持ったまま転生したのか』を考えていた。
答えのないものの答えを求め、いつも息苦しい毎日を過ごしてきたはずだった。
でも―――今、その息苦しさを感じるのか?と聞かれると―――
「……私は」
夢の中で、かつての仲間達にも言われた。
『せっかく二度目の人生なんだ。自由に生きなきゃ損だ』と。
それは私の心が見せる都合の良い幻想。
そう思っていた。
だからこそ、私はそれを受け入れる訳にはいかないと思って足掻いていた。
しかし―――
「私は……自由に生きてもいいのかしら」
少しづつ、そう思えるようになり始めていた。
そう思えるようになってくると次にこうして高校生活を振り返るようになってきた。
そして振り返ると自分でも不思議だが、段々と『何か残していきたい』と思うようになる。
こんな私が残せるもの。
それはやっぱり―――
「―――という訳で、全員を全力で鍛え上げることにした」
その日の部活。
私はそう宣言した。
結局、リーダーは私が引き受けることになった。
どうせなら神宮寺にやらせた方が良いと思ったのだが、リーダーの方が何かと都合が良い。
藤沢先輩からリーダーをと言われた時、誰も反対しなかったというのもあるけど。
私の宣言に最初は元から居たメンバーは『何言い出してるんだこいつ?』という顔をしていた。
新入生達は『やったー!直接教えて貰えるー!』と喜んでいた。
しかし私がやる気だと解ると元から居たメンバー達は全員嫌そうな顔をしていたのが印象的だった。
そうかそうか。
そんなにやる気があるなら全員まとめて育て上げよう。
かつて私が育て上げた部隊は、世界中の特殊部隊からも恐れられていた。
どんなに動けない奴でも最終的には一人前の軍人に仕上げたものだ。
まだ20年も生きていない小娘どもを育て上げるぐらい造作も無い。
さてどんなメニューを組んでやろうかと考えていると協会から重要なお知らせと書かれたメールが届いた。
『全国高校生LEGEND大会PVE部門新設のお知らせ』
そう書かれた中身には面白いことが書いてあった。
10名の選手達による完全自立多脚戦車型撃破のタイムアタック。
それを従来のLEGENDとは別に開催するという話。
唐突なその告知に私を含め日本中が騒動となった。
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