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第120話






■side:U-18女子日本代表指導コーチ 霧島 アリス







 スペイン戦の大敗から1週間後。

 再び日本代表が集められた。


 今回の集まりは、試合後に急遽決められたもので集まったメンバーの表情も良くない。

 そりゃそうか。

 負けたことで集合がかかれば、誰だって良い話だとは思わないでしょう。


「まずは、この前の親善試合。ご苦労だったね」


 監督のそんな言葉からミーティングが開始される。


「今年は特に異常でね。各国どこもが馬鹿みたいに強くなってる。もはやその辺のプロじゃ相手にならないレベルさ」


 『その辺、琵琶湖女子のメンツなら解ってるだろ?』と苦笑しながらこちらを見る監督に、とりあえず知らない顔をしておく。

 その後も国内と世界との差を延々と説明する監督。

 簡単に言えば『だから日本はLEGEND後進国』なんて言われるんだよという感じだ。


 愚痴にも近い話が終わると今度は私の番となる。


「という訳で、前々から用意していた訓練を前倒しで行います」


 合図と共にスタッフが選手達に大量の紙束を配り始める。

 選手達から『何で紙?』という声が聞こえてくる。


「意識させるためにわざわざペーパーで出したのだから、ありがたく思って欲しいわね」


 『どうせメッセージで送った所でロクに見ないでしょ』と付け足しながら話を始める。

 皆スグに中身を読み始めるが、途端に表情が険しくなり紙をめくる音も止まる。

 中身は、それぞれ個人の全体評価から始まる酷評の数々。

 特にスペイン戦での評価は暴言祭りだ。


 『あんな見え見えの手に引っかかるとかLEGEND初心者でもあり得ないわ』

 『自分の装備と相手の装備を見比べればどうなるかぐらいわかるだろ、何年LEGENDやってるんだ?』

 『連携も取らずただ撃つだけなら、いっそ盾だけ持って壁になってくれる方がマシだ』

 『何度も同じ注意をされて恥ずかしくないのか?お前の頭は、ただの飾りか?』

 『狭い場所でただ無駄に動き回るだけとか、レースがしたいなら他所でやれ』


 などなど、徹底して罵倒しまくってある。

 何人かが反論しようとして……スグにそれを辞める。

 そんな動作が繰り返された。

 そりゃそうでしょう。

 徹底解説も載せてあるのだ。


 自分の何が長所で何が短所なのか。

 他人から見ればどう見られているのか。

 今後の方向性や解決策など。

 これで反論などしてくる奴は、もはやそれ以上成長出来ないと切り捨てても良いぐらいだ。


「あ、あの~……」


 そんな中、手が上がる。

 一人だけ他よりも大量の紙束を抱えた鳥安だ。


「なに?」


「私のだけ、パッと見ただけで他の人の3倍ぐらいあるんですけど~……」


「全部読め」


「うぐっ……ひ、酷い」


「文句があるなら書かれる量を減らす努力をしてから言え」


 そう言うと鳥安は、涙目にながら紙束に向き合う。


「とりあえずそれの最後の方にそれぞれの目標をこちらで設定したものが書いてあります。それを1週間ごとにクリアして貰うので意識するように」


「1週間ごとってのは?」


 立ち上がりながら声をあげたのは新城先輩。


「1週間ごとにテストをして目標クリア出来ているかどうかを確認します。そこでクリア出来ていれば次の課題をその場で出します。それをまたクリアという形ですね」


「つまりエンドレスってことかぁ~。……ちなみにクリア出来なかった場合は?」


「別に?再び同じ課題を1週間後にテストするだけです。まあ、同じテスト繰り返してるような人が試合に出れるとは思わないですよね?」


「……なるほどねぇ」


「この後ろにある『それぞれに対しての文句を書く(敬語禁止・全て苦情として書け)』ってのは?」


 納得して座った新城先輩の代わりに今度は神沢先輩が声をあげる。


「言葉通りです。1週間のテストの時に毎回それを回収しますので他メンバーに対しての意見を全て罵倒するような感じで書いて下さい」


「……どうしてそんなことを?」


「優しく『もう少し射線を気にして貰えると助かります』なんて書かれた所で誰も気にしないでしょ。それなら『お前邪魔なんだよ!毎回射線塞いでんじゃねえ!』って書かれた方が気にしますよね?」


「まあ、そうりゃそうなんだけどさぁ……」


「そうして指摘されたことを全部実力で黙らせて下さいな。それがそいつの目的です。それが出来なきゃずっと言われ続けますよ」


 そう言うと渋い顔をして紙束をまた読み始めた神沢先輩。


「という訳で、そういった文句を書かれても今後全て口ではなく実力で黙らせてもらう形になります。そしてこうして説明しているにも関わらず相手の文句に口論を仕掛ける馬鹿は、代表を辞退して頂きますので注意してくださいね?」


 『別にメンバー足りなくなって出場そのものを直前で辞退しても、こちらは一向に構わないので』と言って更に選手達に圧力をかける。

 これで周囲からの厳しい声に『見返してやる!』と根性見せれる奴と、そうでないのが分別出来るでしょう。 

 そして根性がある奴だけ重点的に育てていけばいい。

 正直な話、これだけやっても世界戦までに何とかなるかは微妙な所ね。


「でもさぁ、例えば射線塞ぐのだって攻撃回避とか味方庇っただとか色々あるじゃない?それに関して相手が『射線塞いだ!』って意図を理解せず文句言ってくるのもアリなの?」


「そもそもそう見られる時点で射線塞いだ人間の技量不足か、互いに理解し合えてないだけでしょ。そんなの文句以前の問題だわ」


 桂子の意見を一撃でバッサリと斬り捨てる。

 相手にそう思われているという時点で、それがどういう理由であろうが既にアウトなのだ。

 せめてチーム内メンバーでそれなりのコミュニケーションぐらいはしておけよって話である。


「専用の練習会場は、常に開いておくことになってます。そこでお好きなだけ練習をどうぞ。スタッフの居る時間帯などは専用の箇所に記載してあるので読んでおいてください」


 『他に質問は?』と聞いても誰も何も言わなかったので、そこで私の話が終了する。

 次に話をする香織が少しやりにくそうにしているが、そんなことを気にしている彼女が悪い。

 そもそもコイツらが温いからスペイン勢に完敗したのだ。

 しかも言い訳が出来ないほどの実力差でだ。


 あのスペイン勢は、エースの三騎士と呼ばれる3人とリーダーであるバネッサ以外は例の集まりに参加していない。

 しかし彼女達は彼女達で、他の選手達の実力を底上げするために色々指導したりしていたのだ。

 そしてあの独特な戦術もそうだ。


 エースである3人を筆頭に突撃出来るだけの腕がある人間が突撃して相手を崩す。

 それ以外は、徹底して射撃戦などで相手を足止めする。

 決して無理をしない。

 あくまでエースが切り込むための状況を作り出すという支援に徹する。

 その代わり、エース達が確実に撃破を取って試合を動かす。

 それこそが今年のスペイン代表だ。


 自分達と彼女達の差は何だったのか?

 そこに今回、気づけた人はどれだけいるのかしらね。


 香織がデータを見せながら解説をしているが、誰もが大量の紙束に夢中で話をほとんど聞いていない。


「私だって何時間もかけてデータ用意したんだからねっ!?」


 香織の悲痛な叫びにより、ミーティングは一旦休憩を挟むことになった。







スペイン戦が終わり、遂に日本代表育成計画がスタートしました。

しかし残り時間も少ない中で、果たして間に合うのでしょうか?



**返信コーナー**

ご意見が多かったことに関して少し返信をしたいと思います。


Q:スペイン代表強過ぎね?

A:そもそも琵琶湖女子が例の集まりに参加した頃には世界代表選手達は既に調整モードに入っていて『手加減』している状態でした。これは世界戦に向けて戦うであろう選手達に手札を見せないためです。なので交流中心になりがちだったところに入ってきた形になります。

 しかし琵琶湖女子はその手加減状態でも強い世界のエース達と戦い、それなりに良い勝負が出来るようになったことで『これで世界とやり合える』と勘違いしていた感じですね。

 そして世界戦に出なくなったので実力を隠す必要が無くなったスペイン代表との試合でボコボコにされたという状態です。

 それに日本勢は前回優勝しているメンバーも多いです。

 徹底的に分析され対策も考えられていて当然でしょう。


Q:安田ァ!は結局撃破されたの?

A:彼女は地雷で周囲を防御して徹底して近づけさせないという戦術で撃破されていません。

 これは地雷を直接アリスから指導された際に教え込まれた戦術なので元からやってきたことですね。


Q:ガトリング専だから新城はその利点を活かせばいいのでは?

A:車と同じで相当な重量物が急に止まったり直角に曲がれる訳がないですよね。

 そして何よりLEGENDは撃ち合いをして押し込むゲームです。

 格闘戦に持ち込むために特攻するための速度なら理解出来ますが、同じような場所をウロウロするなら速度を出した所で切り返すたびに速度落ちますし、オーバーヒートも早くなる。

 そして後方に下がれば下がるほど他の味方を放置にすることになります。

 攻撃を受けたからと早々にラインを捨てるほど逃げてしまえば、確実に戦線崩壊ですよね。

 なので速度があってもそれを活かせる状況でない限りは結局火力勝負になりがちなのがLEGENDです。

 新城に関しては速度を活かそうと思えば完全に単独行動になるしかなく、撃ち合いをするなら火力が足りずという所でしょう。

 そして単独で戦うなら当然様々な武器を持たないと状況変化に対応できません。

 何より味方の支援も期待出来ない以上、相当なレベルでないと単に孤立して撃破取られるだけになります。


Q:バネッサは安田ァ!を警戒してた?

A:今の安田はラッキーショットよりも堅実なショット重視になりつつありますが、バネッサが知る安田という選手は黄若晴の動きを見切ってヘッドショットを決めたようにしか見えない一撃だったり、他のエース級選手を何度か仕留めている『要注意選手』です。

 なので確実な勝利のために安田を避けた形ですね。


 今回は以上で終了です。


*誤字・脱字などありましたら修正機能もしくは感想などからお知らせ下さい。

◆誤字脱字報告を下さる方々に、改めて感謝を。

 修正報告ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 徹底解説。 代表選手側にこれが出来る人が果たしているのか。その解説のレベルが高ければ、そしてそれを理解できる頭があるならば、反論しようとは思はないでしょうね。 ただ、以下は疑問。 >これ…
[一言] 1人だけ3倍のレポートを渡されるクソバードさん... それだけ教えを真面目にインプットしない鳥頭さんに内心イラッと貯まりに貯まってた物が形になって表に放出されただけの話ではあるが ヘッドショ…
[良い点] 安田ァ!に仕事させないのはうまいなぁ 解説助かる
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