第114話
■side:U-18女子日本代表指導コーチ 霧島 アリス
「ホント、こういう時だけは動きが早い」
目の前の状況を見て、思わずそう呟く。
今回の大規模な装備追加とルール改定に伴い、発表即売会場は間違いなくカオスな状況になる。
だからこそ、日本として企業連に呼びかけを行った。
すると企業連の日本担当者達は、そりゃもう喜んで呼びかけに応えた。
そして今、目の前には『U-18女子日本代表選手のためだけの即売会』が行われている。
何故、企業連はこちらの要望通りにこんな限定的な場所を開いたのか。
答えは単純だ。
「そりゃまあ、確実に買うものね。……しかも大量に」
つまりはそういうことだ。
高価な商品が飛ぶように売れることが確定している。
そんな所になら喜んで来るだろう。
しかも『代表を優遇した』という貸しまで作れてしまう。
それに今回、少し事情も違う。
後継機などを含め、新装備の量が多すぎて流石に全てを揃えられるような選手はいない。
それどころか欲しいのに買えないという事態も考えられる。
ただ今回ただでさえ炎上した所に『日本代表選手だけ』を優遇すれば、まだどんな騒ぎになるかと協会側が警戒していた。
そのため企業連との交渉でキャンペーンをすることになった。
・新商品全て10%OFF
・装備を下取りに出しての買い替えの場合は50%OFF
つまり今ある装備を全て手放し、新装備に買い替えれば半額で新セットが揃うという形だ。
この割引分を協会側が出すという形になった。
そしてこれは『日本国籍の全LEGEND選手』対象である。
平等に値引きするとなればLEGEND選手の誰も文句など言わない。
これで大金を消費するのは協会だが、それぐらいなら何とかなるらしい。
……どれだけ儲けてるんだよ。
そして新製品だけでなく、後継機も結構な性能をしている。
まずアサルトライフル系。
正直、ガーディアンなどを相手にすると1マガジンで耐久値の2割削れるぐらいだった。
これが後継機だと1マガジンで何と平均8割ほど削っている。
マシンガン系など弾が弾かれていたのに1マガジンで平均5割ほど削っていた。
アンダーバレルのショットガンも至近距離からの1発で3割ほど削っている所を見れば、十分運用出来る武器になっている。
マシンガンの方も集弾性や射程距離を犠牲にしただけあって、1マガジンで平均6割近くのダメージだ。
これはアタッカーの認識を改める必要があるほどの火力だろう。
ストライカーも無理攻めしにくくなるはずだ。
ショットガンも全体的に2~3割ほどダメージが上昇している。
何よりグレネード2種の火力だ。
直撃すればガーディアンであっても一撃撃破する威力に上昇していた。
「これは火力インフレというか、もはやガーディアン包囲網ね」
そう言いたくなるほど各社とも『対ガーディアン』を想定した火力になっている。
軽量装甲など防御力が低いものは、間違いなく『当たれば終わり』の時代になるでしょうね。
逆にガトリング系や大型マシンガンなどのストライカーの武装類の後継機は肩透かしだった。
全体的に威力はほぼ変化なし。
集弾性や射程距離、連射力などメーカーごとに少し強化が入っただけだ。
誘導ミサイルも『ロックオン速度上昇!』なんて書いていたけど、計測したら0.3秒ぐらいの上昇のみ。
まあ全体的に新製品などの方がインパクトがあったのでこれぐらいで良かったのかもしれないわ。
支援関係も使用回数の増加など『少し便利になった』程度のマイナーチェンジ版である。
まあ色々あるが、これは全て前座だと言えるでしょう。
もちろん本命がある。
あの企業がついにアレの後継機を出した。
しかも何故か2つだ。
KAWASHIMA社製:零式ライフル『紫電』
KAWASHIMA社製:零式ライフル『天下無双』
である。
もちろん速攻で試射をした。
感想があるとすれば『やっぱりあそこは馬鹿だった』である。
『紫電』は弾速が上昇したマイナーチェンジ版だ。
しかし結構な弾速になっており、偏差撃ちなどがやりやすくなっている。
引き金を引いてから当たるまでが短ければ、それだけ当てやすくなるのはいうまでもない。
ただ次の『天下無双』がヤバイ。
更に威力を追求した馬鹿げたものになっていた。
1発撃つと反動を殺しきれず銃口が上に思いっきり跳ね上がってしまう。
足を踏ん張っても僅かに後ろに後退するほどだ。
一体これで何を狙うつもりだという威力になっていた。
これなら多脚戦車の装甲すら抜けるのではないだろうか?
実験をしてみたが、ガーディアンフルセットを正面から盾ごと貫通して頭部破壊が可能だった。
もう絶対馬鹿だろうって感じだわ。
そして威力を追求し過ぎて誰も使えないようなものになっている。
反動だけでもアレなのに、更に集弾性も悪くなっているのだ。
真面目な話、まともに使わせる気が無いとしか思えない仕上がりになっていた。
……それでも天下無双をコッソリと練習しているのは内緒。
「おう!これでどうだっ!」
色々なことを考えていたら大場先輩が新装備一式で登場してきた。
手にマスターキーを持ち、サブアームで両肩ショットガンが2丁。
片腕にはバックラーといった感じである。
自信満々でドヤ顔しているのが妙に腹立たしい。
「えい」
「ああっ!」
たまたま持っていた零式ライフル『紫電』の銃口を握りしめ、鈍器として大場先輩のサブアームを薙ぎ払った。
衝撃でショットガン2丁共に落下する。
「サブアームはアサルトライフルなら何とかなりますけど、ショットガンじゃ反動でこうなりますよ」
「ちぇ~、良い案だと思ったのになぁ~」
そう言いながらまた武器を選びに行った。
何を遊んでいるのやら。
まあ気持ちは解らなくもない。
今回追加が多すぎて、特にアタッカーとストライカーは方向性で迷う選手が多くなるでしょうね。
「お~、アリス!これどうよっ!?」
そう言って目の前に来たのは、晶だ。
サブアームにショットガンが2丁ついていた。
「えい」
「ああっ!」
鈍器状態の『紫電』でサブアームを薙ぎ払った。
衝撃でショットガン2丁共に落下する。
「こうなるでしょうね。あと、同じことをさっき大場先輩がやってたわよ」
「えぇ~!」
サブアームにショットガンが持てないことよりも、ネタが被ったことに対してのショックの方が強いらしい。
「今度こそ、もっと誰も思いつかないような感じで―――」
そう言いながら晶も去っていった。
「いつからネタ大会になったのやら」
思わずため息を吐く。
いい加減さっさと装備を決めて欲しい。
「アリス、丁度良い所に!」
今度は誰だよと思って振り返ると、そこには晴香が居た。
満面の笑みを浮かべ、手にはアサルトライフル。
アンダーバレルにはショットガン。
腰にグレネード2種。
肩にはショルダーシールド。
そしてサブアームに……グレネードが2種。
「……一応念のために聞くのだけど、そのサブアームに付いてるのは?」
「グレネードに決まってるじゃない。これでグレネード4つ持てるようになるのよ、凄くない?」
「お、おぅ」
まるで子供がお気に入りの玩具を自慢するかのような、そんな純粋な目をした晴香に思わず返事を濁す。
「あ、こんなところに居た」
晴香の扱いに困っていると京子ちゃんがやってきた。
「あ~、京子。探したよ~。これどう?凄くない?」
「はいはい、凄い凄い。凄いのは解ったからちゃんとした装備を選びましょうねぇ~」
「え?いや、だから―――」
こちらに『ゴメンね~』と謝りながら、京子ちゃんは晴香の背中を押して会場へと戻っていった。
コイツら真面目に選ぶ気無いだろうと思いつつ、ふと横を見るとストライカーコーナーで見てはいけないものが見えてしまった。
恋が装備を選んでいるようだが、その中身が何ともコメントし辛い感じになっている。
手には大型ガトリング
両腕には腕部一体型小型ガトリング。
両肩には両肩用ツインガトリング。
そしてサブアームに小型ガトリングを無理やり載せていた。
「これだけの火力があれば、どんな装甲でも一瞬でしょ~」
謎のドヤ顔を決める恋の姿を、とりあえず見なかったことにする。
公式のサブアームは、頭部装甲と連動して感覚的に動かせる反面、重量制限など非常に厳しい制限が多い。
そのためまだ自由に何でも装備出来る訳ではなかった。
まあいきなりそこまで便利な追加をされると流石に困る。
そしてブレイカーだけどうしてここまで省かれているのかなぁ。
もっと色々出せよと思いながらも時計を確認する。
思ったより時間が経っていたので全体に声をかける。
VR世界なので全体通信が出来るのがありがたい。
「もうそろそろ良い時間なので早く装備を決めないと強制終了とします」
そう連絡を入れた瞬間、全員が慌ただしく動き出した。
ようやく真面目に選ぶ気になったのでしょう。
「貴重な練習時間を削っているという意識……たぶん無いんでしょうねぇ~」
気づけばまた、ため息を吐いていた。
説明回が続いてしまいましたが、これで一旦終了して指導回へという感じを予定しています。
後継機は、全体的に火力を重視しておりアタッカーがストライカーに対抗出来るようにという努力が見えますね。
逆にストライカーは新装備が強力な反面、後継機はマイナーチェンジ程度となりました。
サポーターにも余計な追加火力が増えなかったため、まだマシだったと言えるのではないでしょうか。
そしてブレイカーの圧倒的不遇感と満を持して登場したロマン銃の後継機。
これが今度、どのような展開を齎すのでしょうか?
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