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第102話 アリスレポート(2年目:コーチ視点)






■side:U-18女子日本代表指導コーチ 霧島 アリス






 あり得ないほどのゴタゴタから、ようやく選考会にまでたどり着いたU-18女子日本代表。


「それでは、悔いが残らないように精一杯自分の実力を出し切って下さい」


 あの騒動で文字通り鬼の如く暴れていたあの時の監督とは思えないほど温厚な女性の姿に、私は未だに慣れない。

 人は変わる。

 それは前世の頃から何度も見てきた。

 どうしようもないクズだろうが本人の意思さえ変化すれば、歴戦の鬼軍曹と呼ばれるオッサンになることだってあった。

 でも短期間でここまで変化されると、流石に驚いた。

 向こうはもう権力とか関係ないので、こちらに対して何かある訳ではないらしい。

 普通に私達に『大変な役目を押し付けて悪かったね。まあ一緒に頑張りましょう』と苦笑しながら挨拶してきた。

 敵対してこない以上は、私からも何か言うことはない。

 前世なんて昨日味方だった連中が敵になったり、その逆なんてことも日常だった。

 それに比べれば温すぎるとも言える話である。


 監督の言葉に返事をしながら準備を始める選考会に来た代表候補達。

 各兵科から8人で4種=32人。

 そして監督推薦枠も決まり、ここから3人追加となる。

 選考会は2日間行われる予定で、合計35人の中から10人ほど落選して25人が代表として世界と戦う。


 私の仕事はアタッカーとブレイカーを中心に候補である選手達の実力を正確に把握して、数値化や文章化をするだけ。

 まあ一応はストライカーやサポーターの評価もするが、あくまで予備みたいなものだ。

 私達と顔見知りの連中は『やりにくい』と苦笑していたが、それは私達も同じである。

 特に杉山先輩なんて『攻撃重視のサポーターしか居ない』って名簿の時点で頭を抱えていたぐらいだ。


 さて……そんなこんなでまずは決められたアスレチック&射的を行い、基本的な能力をデータ化する作業だ。

 そしてそれも特に問題無く一通り終わり、ようやく次は紅白戦である。

 今回は特にどこかと練習試合をすることもなく、選手達に平等にチャンスを与えて結果を見るだけ。

 まあこの紅白戦が一番のメインだ。

 それは選手達も理解していて、緊張している選手も居たりする。


 千佳なんて投票1位が発表されると煩かった。

 1週間ほどぎゃーぎゃー騒ぎまくりである。

 まだ代表に決まった訳でもないのにコレでは、代表にもしなった場合どうなるのだろうか。


 紅白戦が始まると香織は愉しそうに、杉山先輩は苦虫を潰したような顔で、それぞれ評価をつけていた。

 私も選手の評価をするために試合に集中する。



■アタッカー部門


1位:大場 未来

・ショットガン3種類(ポンプアクション式・オートドラムマガジン式・マスターキー)を使いこなす超接近重視アタッカー。

 その分だけ遠距離戦がイマイチなのでインファイトがしやすいマップで輝くだろう。

 実際琵琶湖女子は何度も彼女の活躍で、後方支援選手が逃げ出す間もなく撃破するという突破をしてきた。

 ある意味、突破力だけで言えば晶を超えると言える。

 逆に防御に回ると厳しいが、待ち伏せが出来ればそれはそれで強いと思われる。


 彼女の場合は下手に遠距離をカバーするよりも、単独行動を徹底して鍛えた方がいい。

 集団よりも単独でマップ隅での攻防を制して切り込むような運用が理想的。




2位:大谷 晴香

・グレネードを自分の思い通りの場所に投げることが出来る天才。

 最近は壁に当てたり回転をかけて隠れている相手の場所へと投げることも出来るようになっている。

 それ自体は強みではあるが、必ずグレネード用のサポーターとセットでなければ継続火力を出しにくいのが難点だ。

 本人もそれを理解しているのか、最近は純粋なアタッカー技術を磨こうとしているようだ。


 彼女が晶ぐらいの突破力を得ることが出来れば、また違った成長が期待出来る。

 比較的グレネードが届く中距離戦が彼女を活かす運用ではあるものの、中~近距離に適応できるようにしたい所。




3位:大野 晶

・銃撃戦の最中に前へと動くことが出来る圧力をかけていくアタッカー。

 アサルトライフル・ショットガン・グレネード。

 どれを見てもレベルの高い完成度であり、特に欠点らしい欠点もない。

 逆に言えばバランスが取れ過ぎているのが欠点とも言える。


 選択幅が広いことは良いが、LEGENDはどちらかと言えば何かに尖っている方が強い。

 これが実際の戦場とは違う点とも言えるだろう。

 なので彼女は『優秀な兵士』ではあるが『LEGENDプレイヤーとしては何かが足りない』と言われてしまうだろう。

 あと1つ何か強みを作るような運用にするのか、それともバランスを追求して正面の撃ち合いに特化させるのか。

 本人と話し合って方向性を決めるべきかな。




4位:神沢(かんざわ) (らん)

・福島県代表の所のエース。

 サブアームという本来は武器交換などをサポートするアームを利用して両肩にアサルトライフルを装備している。

 遠隔操作でサブアームを動かし、ライフルを撃てるため両肩から360度どの方向にも攻撃出来るのが強みだ。

 これによる手に持つアサルトライフルとの3丁同時一斉射は、恋のアタッカー版みたいな感じになっていた。

 しかしアレの操作は、あそこまで改造していれば非常に難しいだろう。

 そして何より彼女はグレネードを装備していない。

 恐らく苦手なのだろう。

 それであのスタイルを確立したと考えれば頑張っている方だと思う。


 面白いスタイルなので、アレをどうしていくのか。

 本人がどうしたいのかを確認するべきでしょうね。




5位:黒澤 桂子

・元U-15女子日本代表であり一時期は『KAMIKAZE』として有名だった選手。

 何故か今年、我が琵琶湖女子にやってきた。


 突撃してきただけあって接近戦は上手いと思う。

 昔と比べて単純な突撃だけではなくなったのが救いだろう。

 グレネードの扱いもアサルトライフルの扱いも悪くない。


 彼女の場合は『突撃する上手さだけ』だということ。

 これならまだ汎用性が高い晶の方が数倍マシだと言える。

 というかナイフでの格闘戦も出来る晶の方が確実に上かな。

 何か『黒澤ならでは』という強みか個性が欲しい所。




6位:三峰 灯里

・この子は頑張ったと思うよ。

 あまり絡みが無かったが、VRでの集まりでは積極的に試合に参加したり周囲の意見を聞いていた。

 最初の頃は気弱な感じで接近戦を苦手としていたが、今では接近戦の方が得意になりつつある。

 私に頭を下げてきた時も驚いた。

 まさか接近戦強化のために格闘武器の扱いを教えてくれと言い出すなんて。


 嬉々としてシャーロットが何か吹き込もうとしていたので全力で阻止したのは、今となっては笑い話かな。

 ショットガンの扱いが大場先輩とは違う方向で、突撃するスタイルも晶とは違う。

 ある意味、彼女独自の動きが出来ているので今後はそれを伸ばすことが重要だと思う。

 欠点をあげるとするなら、もう少しグレネードの精度が上がると良いかなという感じ。




7位:北条 紅

・人気投票って怖いねという感想が出てくる。

 彼女はようやくマシになったという程度のアタッカー。

 全体的にバランス良く強化されているものの、姉との連携が無ければ他校のエース級に勝てないレベルだ。

 そして姉と離れて単独運用すると、途端に性能が落ちる。


 代表戦で姉離れを指導するとか何の冗談だと思うよ、ホント。

 私がアタッカーの中で落選させるとするなら、まず彼女の名前をあげるだろう。




8位:石井 美羽

・サポーターも出来る堅実なアタッカーである。

 なのでサポーター枠でも投票が集まった貴重な兵科移動の出来る選手。


 琵琶湖女子との試合で三峰とのインファイトに負けた印象が強いが、瞬間的な遭遇戦であそこまで粘った実力は認めてあげるべきでしょう。

 ただ彼女も『バランスの良いアタッカー』なので目立った長所も短所無いのが厳しい所。

 サポーターが攻撃的過ぎるので堅実なサポーターとしてそちらに回って貰うのもアリかもしれない。

 アタッカーとしても接近戦より中距離戦を重視した今時のアタッカーなので、近距離をもう少し鍛えるべき。





■ブレイカー部門


1位:安田 千佳

・人気投票ってホント怖いわ。

 未だに努力を惜しまず毎日頑張っている子だけど、ようやく基礎が出来た所。

 一時期ブームになった謎のラッキーショットが注目されがちだが、あんなものに頼るような選手にしたくはない。

 しかし運が良いというのは実際の兵士でも、LEGEND選手でも重要なポイントだ。


 運を活かすなんて不可能なので、彼女にはもう少ししっかりと基礎を叩き込みながら『自分で狙ったものに確実に当てる』という技術を身に付けさせるべきでしょう。

 全体的には招集されたメンバーの中でも下の方かもしれないが、零式ライフルに慣れさせてきたこともあって『どんな装甲でも一撃必殺』という他にはない持ち味を持っていると言える。

 あとは地雷というオプションパーツもあったり。





2位:ハイエナクソバード

・クソ鳥。以上。


 え?ダメ?

 仕方が無いわね。

 レクイエムを使いこなせるようになって天狗になっている馬鹿。

 人の言うことを半分ぐらいしか覚えない鳥頭。

 今のままじゃアナスタシアや舞どころか、私達の集まりに参加しているどのブレイカーにもボコボコにされるレベル。

 狡猾なのは構わないが、失敗を受け入れて糧にすることが出来ないので成長が遅い。


 変なプライドを持ったベテラン兵。

 そんな感じだろう。

 言われた所で『わかってる』と返事だけするアレだ。

 コレを採用するなら真面目な話、一旦完全に潰さないとダメかもしれない。

 ……今更、新兵訓練ねぇ。




3位:三島 冴

・今年は予選で見事強豪だらけのブロックに入って散った、去年U-18女子日本代表にもなった選手。

 というか田所は、(南保)脳筋(安東)がレギュラーの時点で無理でしょう。


 まあ他校の批判は置いとくとして。

 典型的な連射型ライフルを使う手数重視型。

 ただガーディアンブームで完全に死滅した連中である。

 彼女も散々迷って多少連射力を落としてもガーディアンにダメージが、少しぐらいは通るライフルに持ち替えていた。

 手数を重視してどうこうしたいならレクイエムのような特殊なものにすべきだ。


 これはもう使いにくいとか慣れていないではない。

 今の環境に合わせて武器を変更出来なければ、待っているのは選手としての『死』だ。

 それを彼女はまだ正確に理解していない。

 そこに気づけるかどうかで彼女の方向性は決まるでしょう。




4位:根岸(ねぎし) (そら)

・鹿児島浦和館の2年生。

 ギリギリ大場・杉山先輩達とは面識が無いそうだ。

 

 G.G.Gの高威力スナイパーライフルを使う。

 威力は零式に負けるものの、精度や安定性は高いハイスペックな狙撃銃である。

 典型的な待ち伏せ型の一撃必殺タイプではあるが、慎重に狙い過ぎていて機会を逃してしまうことも多い。

 かつて接近されて撃破されたのがトラウマなのか、無駄に接近用装備を複数持っている。

 それを外して千佳のように地雷を持つか、接近戦をある程度練習した方が良い。

 使わない装備など不要でしょ。




5位:田中(たなか) (りょう)

・高校デビュー勢だったかな。

 最近全国に出れていない柏原国際からの登場。

 まだまだ粗が目立ちまくりだけども、スナイパーに必要な我慢強さを持っている。

 銃は、根岸と同じ3G製。


 ヘッドショットを狙わずに、相手の胴体を狙って確実にダメージを当てていくタイプだ。

 ブレイカーになる新人の大半が『ヘッドショットによる一撃必殺』に憧れている。

 そこから脱却出来ているのは良い事ではあるが、狙えるタイミングでもヘッドショットを狙わないのが問題かな。

 良く言えば、安定してダメージを出せる選手。

 悪く言えば、替えの利く長距離支援。




6位:神崎(かんざき) 小梅(こうめ)

・北海道からやってきた子。

 この子も高校デビュー勢だそうな。

 名前からして小柄な感じを想像したが、意外とモデルのような長身の子だった。


 銃は、ブルーム社が出している連射式ライフルだ。

 オートマタイプで面白いぐらい連射出来る長距離ガトリングみたいな銃である。

 軽量装甲相手だと刺さりやすく、ある意味初心者でも扱いやすい。

 人気投票で選ばれたのも予選でその連射力で相手のブレイカーを中心に、装甲の薄い相手を連続撃破していたという派手さからだろうと言われていた。

 ただこれもガーディアンには通用せず、世界大会のエース達には通用しない。

 なので、このままでは生き残れないかな。




7位:福田(ふくだ) 理央(りお)

・正直ブレイカーで外すとするなら第一候補は、この子だろう。

 現役LEGENDアイドルユニット【Twinkle star】のリーダーらしい。


 ビビット社装備フルセットとか、実際に見ると衝撃的だった。

 千佳で慣れたと思っていたが、上には上がいるらしい。

 彼女の装備は、彼女の所属するグループを運営する会社からビビット社に依頼されて作られた特注品だ。

 その彼女は千佳に積極的に話しかけていた。

 何でも『アイドル装備』の知名度と実用性を千佳がアピールしている形になるようで、しきりに『これからも頑張って!』と言っていた。


 肝心の実力は……語るまでもない。

 極々普通の凡人スナイパー。

 これなら地雷だけ装備して地雷職人になった方が、まだ敵の侵攻を食い止めれるのではないだろうか?

 正直な話『こいつの何を指導しろと?』という感じだわ。




8位:佐藤(さとう) 千秋(ちあき)

・個人的な落選候補第二候補。

 現役LEGENDアイドルユニット【Arcadia】の1人。

 先ほどのグループとはライバルらしいが別に仲が悪い訳ではないようだ。


 まあそんなことはどうでもいい。

 実力的にも先ほどのと大差が無い。

 当たり前のようにビビット社の特注品装甲を装備していた。

 ……別に特注品と言っても性能が変化とかではなく純粋に見た目が違うという感じ。

 それぞれのグループに合わせた衣装とでもいうべきか。


 そんなことにこだわるぐらいなら、性能の1つでも高い装備に変更して欲しい所だ。

 どうせ言った所で変更などしないでしょう。

 良くも悪くもそんな衣装で戦績をそこそこあげてしまった『安田 千佳』という存在が居るのだから。



 私はここから更に各種データや運用する場合のパターンなど様々な視点からの感想を付けて提出した。

 明日はそれらが出揃った状態から、色々と指示を出してみての総合的判断という形になるでしょう。


 こうした指導は前世で経験があったもののLEGENDという特殊なものでは、そこまで無かったのである意味新鮮ではあった。








誤字・脱字などありましたら修正機能もしくは感想などからお知らせ下さい。


*お知らせ

何と『ハーメルン』の方で安田千佳の雑誌の中身を書いてみましたという方が現れました!


如月遥 様

『努力はきっと報われる』努力で掴んだ栄光~特集・安田千佳選手~独占インタビュー

ttps://syosetu.org/novel/258040/1.html


安田らしい感じになっていて面白かったです。

もしよろしければどうぞ。

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― 新着の感想 ―
ハイエナって思ったよりアリスからの評価低いのね。
[良い点] とてもワクワクして面白いです! [気になる点] ここまで読んでいて、装備の幅があれば地雷はもう少し活躍しそうで勿体ないなと思いました。味方の切り込み組撤退でスモークで射線を切りながら、しれ…
[良い点] アリスの評価視点。 現在の戦力としての評価ではなく、先を見据えた評価をしていますよね。アリスの指導を受けられる連中はその幸せを噛みしめるべき。 >あんなものに頼るような選手にしたくはない…
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