第98話 VS京都青峰決勝戦(2年目)
■side:京都私立青峰女子学園3年リーダー 高橋 翠
「私達は、負けにきたのではないわ。勝つために来たの。そうでしょう?」
「はいっ!」
「だからこそ勝ちましょう!」
「おおぉ―――ッ!!」
掛け声と共にVR装置に入るみんなを見送ると監督の方へと振り返る。
「では、行ってきます」
「ああ、行ってこいっ!」
そして私もVR装置の中へと入る。
戦場に到着すると既に全員が開始合図を待っている状態だった。
*画像【地下通路:初期】
決勝の舞台は地下通路。
この時点で既に運が無い。
このマップは非常に乱戦となりやすい。
そして一気に流れに乗って突き進むことも出来るため非常に試合が動きやすいからだ。
そう、どちらも琵琶湖女子向きと言える。
思わずため息が出そうになるのを堪える。
リーダーである私が最初からこんな状態ではダメ。
自身に気合を入れ直し、スタートの合図を待つ。
そして……運命の合図が鳴り響いた。
―――試合開始!
その瞬間、全員が飛び出すように走り出す。
今回のマップは、特に上下が重要になってくる。
北側は押されやすく、南側は押しやすい。
軍事施設の配置の関係もあるが、そういう感じで中央は上下からの攻撃もあるため、開幕突出することはない。
「南側、予定よりも数が少ない!一気に行きますッ!」
そんな声が聞こえて一瞬迷う。
もし万が一そこで押し切れれば中央を挟撃で一気に試合を決められる可能性があるからだ。
琵琶湖女子がそんなことを理解していないとは思えない。
だが『もしかしたら慢心しているのでは?』という可能性も捨てきれない。
迷っている間に南側は、一気に4人が突撃する。
レーダー上も南に1人で中央に2人ほどカバーしてきそうなのが見えるが、一気に突き抜ければ問題ないかもしれない。
「一応、罠の可能性もあるから注意して!」
「了解!」
まともにやって勝てる相手ではないと解っているので、この降って湧いたチャンスに賭けてみた。
だが、それが間違いだったとスグに理解することになる。
*画像【地下通路:開始】
南側で相手側アタッカーが抵抗するが南側はブースター装備を含めた強襲装備のメンバーばかりだ。
開幕相手側の南防衛が3人までなら仕掛けてみるのもアリかもしれない。
そういう作戦で配置したメンバーである。
だから多少の攻撃など無意味だ。
そう思っていたら―――
―――ヘッドショットキル!
特殊キルアナウンスが鳴り響く。
ログに表示される名前を見て思わず眉を顰める。
『霧島アリス』
一番見たくなかった名前。
その名が何を意味するのかなど、LEGEND選手なら誰もが知っていることだ。
―――ヘッドショットキル!
―――ヘッドショットキル!
―――ヘッドショットキル!
恐ろしい速さで連続して特殊キルアナウンスが鳴り響く。
零式ライフルは、1発撃つごとにリロードが必要なはず。
というよりもだ。
ログの時間を見て思わずフリーズする。
狙って撃つまでの時間。
撃った後、リロードを行う時間。
これらを含めて1人につき5秒程度の時間しかかかっていない。
そんなことどう考えてもあり得ない。
ほぼノータイムで狙い撃っているような状態じゃない。
「……訳が解らないわ」
何とか口から出た言葉。
それすら理解出来ない状況を受け入れられない私の気持ちそのものだった。
完全に呆然としかけた私だったが、目の前で爆発音がしてハッとする。
気づけば正面では恋がブースターストライカー2人を相手に大苦戦していた。
彼女の切り札である一斉射撃は、足を止めてしまう。
だからこそ使えない。
そうなると彼女は重装甲ストライカーでしかないわ。
ブースター装備の高機動型とは完全に相性負けしてしまう。
「援護するわ!」
そう通信で声をかけつつ隣に居る後輩の子と一緒にカバーに入る。
相手のブースター型は、非常に面倒な相手だった。
一定の距離を取りつつも変則的な動きで攪乱することも忘れない。
何より2人とも互いの位置を完全に把握しているようで、常に連携が崩れない。
「南のカバー入ります!」
「中央も押しこんで来てるぞ!」
そんな間にも中央も押され始めたようね。
でも最低限、上側だけでも死守してみせる。
そう思った瞬間。
「ヤー、ヤー。我ガ名ハ、シャーロット!イザ、ジンジョーニ、ショーブー!」
カタコトの日本語と共に相手側の後ろからブースター全開でストライカーが飛び出してくる。
「ダメ!下がって!」
恋をカバーするために前に出た後輩に向かって叫ぶ。
だが既に遅かった。
物凄い速さで迫ってきた相手に対応しきれず、彼女は相手のブレードによる一閃で撃破されてしまった。
「―――恋!下がってッ!」
恋にそう声をかけながら自身も後退しつつ、ブレード特攻をしてきた相手にマシンガンを撃ち続ける。
相手はブースターで器用に攻撃を最小限の被弾に留めつつも、こちらを窺うような動きを繰り返す。
恐らく隙を見せれば突っ込んでくる気でしょうね。
「馬鹿ッ!下がれ!」
通信でそう聞こえた直後にログが動く。
中央でも押し込まれているようね。
*画像【地下通路:開始2】
開始数分で既にボロボロ。
ホント何なのよ、これ。
一瞬、操作盤を呼び出しかけて……やめる。
頭に『サレンダー』という言葉がよぎるが我慢して踏み止まる。
もう既に解っている。
相手がその気ならもう終わっているのだろう。
でも、だからこそサレンダーする訳にはいかないわ。
「そんなあからさまに舐められたままでは、終われないわッ!」
後退しつつ恋が耐えきれるようにひたすら援護に徹する。
そんな私を狙うように、ブレード持ちのストライカーが不気味な位置に陣取ってきた。
これだって3人で恋を攻撃すればとっくに終わっているでしょう。
そうしないというだけで、どれだけ舐められているのかが解ってしまう。
「みんな!絶対に一矢報いるわよ!舐められたままじゃ終われない!そうでしょ!?」
「当然だッ!」
「当たり前ッ!」
「やってやりますよッ!」
残っている3人が元気良く返事を返してくれる。
それでもやはり人数差もあって厳しい。
「チッ!リペアも切れた!」
恋が追い詰められていく。
元々鈍足なストライカーで逃げれる訳がないのだ。
これは流石に無理かと思った時だった。
「それで少しは耐えれるでしょ!」
中央の鈴が恋の前に出て盾を構える。
「中央どうした!?」
「捨てたよ、そんなもの!1人で守れるか!」
2人はそんな会話をはじめる。
確かにもうこんな状況だと、まとまった方がマシだ。
―――ヘッドショットキル!
南側で頑張っていた子がアリスによって倒された。
それでも負けを認める訳にはいかない。
「先輩!あとは任せますよ!」
そう言うと鈴が恋の前に盾を張ったまま前進する。
もちろんそんなことをすれば2人のストライカーに集中砲火を食らうでしょう。
だけどそれでも鈴は前に出て肩ミサイルを撃つ。
狙われた側のストライカーが器用にそれを回避した。
ミサイルを撃った鈴は、そのまま一斉攻撃によって撃破されてしまう。
◆キル
x 京都青峰 :渋谷 鈴
〇 滋賀琵琶湖:笠井 千恵美
しかし時間差で飛んできた私のミサイルに驚き、何とか回避するも体勢を崩す。
「もらったぁぁぁぁーーー!!!」
その瞬間を逃さず、恋がガトリングの一斉射を撃ち込んだ。
スグにもう片側のガトリング専のストライカーがガトリングを恋に撃ち込んで止めようとする。
だけど恋は止まらない。
自分がやられても、このチャンスを逃さない。
そんな気迫だった。
◆キル
x 滋賀琵琶湖:笠井 千恵美
〇 京都青峰 :一条 恋
そしてその直後、恋も耐久度を失って撃破される。
◆キル
x 京都青峰 :一条 恋
〇 滋賀琵琶湖:新城 梓
「ヨソ見、ダメヨーッ!」
気づけば横からブレードが迫っていた。
慌てて盾で軌道を逸らして回避するも、盾の上半分が斬り飛ばされ耐久値が無くなって消滅する。
正面からガトリングが飛んでくるが、それを何とか回避しつつ逃げる。
先ほどのブレード持ちが追いかけてくるがマシンガンで牽制すると、横からショットガンが飛んできた。
舌打ちしつつも片手で大型マシンガン、もう片手でハンドガンを持ちストライカー2人に攻撃しつつショットガンを撃ってくるアタッカーとの距離を取ろうと動く。
しかしそんな牽制無意味だと言わんがばかりにブレード持ちが迫ってきた。
勢いに任せた振り下ろしを真横に転がりながら回避する。
ガトリングによる追撃を走って逃げるが、逃げた先にショットガン持ちが走り込んできた。
リロードをしている暇がないため弾切れしたハンドガンを投げ捨て、向けられた銃口を片手で掴んで逸らす。
すると相手はスグにショットガンを手放し、違うショットガンを手にして銃口を向けようとしてきた。
それを咄嗟に蹴りで銃を弾く。
目の前の相手にマシンガンを向けようとするがその瞬間、横からの嫌な気配に咄嗟にしゃがむ。
すると相手も同時にしゃがむ。
頭の上をブレードが通過する。
「あぶねぇ~だろっ!シャーロットっ!!」
「ダイジョ~ブ~!ダイジョ~ブ~!」
まさか味方ごと狙ってくるなんて―――
そう思った瞬間、足元に丸い金属製のものが落ちてきた。
咄嗟に全力でその場から逃げ出す。
爆発と共に発生した爆風に押されて倒れる。
「おいぃぃー!晴香ぁぁー!!」
「ダイジョ~ブ~!ダイジョ~ブ~!」
まだだ。
まだ終われない。
スグに立ち上がる。
だけど立ち上がった瞬間、目の前にはいつの間にか復活カウントの表示。
吹き飛ばされた段階ではまだ大丈夫だったはずだ。
そう思っていると答えがやってきた。
―――ヘッドショットキル!
◆ヘッドショットキル
x 京都青峰 :高橋 翠【L】
〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス
この直後、監督によるサレンダーによって試合が終わりを告げた。
この瞬間、琵琶湖女子の2連覇が決まる。
そして、私の高校最後の夏も―――終わった。
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