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第95話 VS東京大神戦:準決勝決着(2年目)






■side:東京私立大神高等学校2年 大野 晶






 残り時間半分を過ぎ、牽制合戦がそろそろ厳しくなってきた時だった。

 南側で大きく状況が動いた。


 立て続けに表示されるログは、残念ながらこちらが不利であることを知らせるだけだった。

 もしこのまま南側から勢いに乗って侵攻されたら?

 そうなったら非常にマズイことになる。


 そんなことを考えていると相手側のミサイラーが居ないことに気づく。

 恐らくだが弾の補給で一時的に離れたのだろう。


 これはチャンスだ。


「水橋!」


「は、はいっ!」


 私と同じく北側で戦う水橋に声をかける。

 こいつは1年生であり、高校生デビュー組でありながらレギュラーになった奴だ。

 特に天才という訳ではないのだが、狂ったように努力をし続ける。

 その狂気じみた姿は、かつての白石先輩を思い出すほど。


 しかし周囲の心配など無意味だった。

 彼女からすればこれぐらい普通らしい。

 そんなちょっとおかしな子ではあるものの、そのガッツは誰もが評価している。


「相手ミサイラーが不在だ。仕掛けるなら今しかない。……行けるか?」


「行けます!任せて下さい!」


「よく言った!行くぞ!」


「了解!」


 配置的に私が発電所の上側から、水橋が下側から突っ込む。

 すると相手側からも1人飛び出してきた。



*画像【市街地:後半】

挿絵(By みてみん)



「チッ!新城は向こうか!」


 相手は大盾とマシンガンによる防御重視のブースターストライカーだ。

 情報通りなら高校デビュー組らしい。

 LEGEND歴1年ちょっとで特に天才でもない、人数不足でレギュラーになった奴という印象だ。


 水橋だと新城の相手は流石に無理がある。

 さっさとコイツを倒してカバーしなければ。


 威力の高いアサルトライフルで攻撃すると大盾でガードしつつ大型マシンガンを撃ってくる。

 片手撃ちの癖に命中精度がやけに高い。

 そしてブースターが厄介なのは知っていたがここまでとは思っていなかった。

 前に出ようとすると距離を取り、こちらが下がると前に出てくる。

 徹底した距離管理と防御性能でこちらを一方的に削ろうとしてくる。


 しかしこちらもU-18女子日本代表をやってきたのだ。

 歴の浅い新人に早々やられる訳にはいかない。

 例え相手が天才であろうとだ。


 何度目かの押し引きでそれなりに耐久値が削られはしたものの、ようやく相手の機動力を奪うことに成功する。

 常にブースターを使用することを迫ったためにオーバーヒートはしていないものの、かなり限界に近くなったのか使用を控えだした。

 ここがポイントだと時限式グレネードを投げる。 

 流石に相手が見ている時に投げたので、相手も余裕を持って回避する。

 しかしその瞬間、勢い良く相手との距離を詰めるために走った。


 宮本は一瞬迷った素振りを見せたが、その場で大盾を構えてマシンガンを撃ってくる。

 それを耐えながらアサルトライフルを撃ちつつ迫る。

 そして相手との距離を詰めた段階でライフルを捨て、マスターキーを手にした。

 銃口を構えても大盾を構え続ける相手に『やはり素人か』と思いながら引き金を引く。

 マスターキーは、盾ごとガーディアンを貫くことすら出来るぶっ壊れ武器なのだ。

 本来なら何が何でも撃たせないか、回避行動を取るだろう。

 マスターキーの発砲音と共に飛び出した弾が、相手の大盾を貫く。


 だが、次の瞬間―――


 大盾の向こう側に相手は居なかった。

 ブースターを全開にしたのか、一瞬で横に移動してマスターキーの一撃を回避されてしまう。

 この銃の欠点は、リロードの手間だ。

 至近距離で呑気に出来る武器ではない。


 相手はそのままブースターで速度を上げ、体当たりをしてくる。

 まともにぶつかれば吹き飛ばされてしまうだろう。

 そうなれば倒れている所にマシンガンを撃たれてアウトだ。

 即マスターキーを投げ捨てると、腰をおとして両手で相手のタックルを受け止める。

 身体全体に衝撃が走るも何とか受け止めることに成功した。

 だが完全に止められる訳もなく、そのままズルズルと滑るように押し込まれ続ける。

 足から砂煙が立ち昇り続ける。


 そんな状態で宮本は、超至近距離でマシンガンを構えてきた。


「―――させるかぁッ!!」


 吹き飛ばされるのを覚悟で片手を離すと、腰にある接近用ナイフを手にしてそれをマシンガンに差し込む。 

 鈍い音と共にマシンガンにナイフが刺さって使用不能判定が出る。

 それと同時に私は後ろに吹き飛ばされた。


 2度ほど転がってからスグに膝をついて相手を見る。

 宮本はマシンガンを投げ捨てると腰から棒を取り出して、その場で一度振る。

 すると棒がそこそこ伸びた。

 ストライカー用接近装備の大型警棒だ。


 対して私は、もう1つのサブ武器であるハンドガンを手にして立ち上がると、その場で片手で構える。

 そしてもう片手でもう1つの『アレ』を手にする。

 宮本は、ハンドガンが脅威ではないと判断したのか真っ直ぐに突っ込んできた。

 先ほどの一瞬の睨み合いでブースターもそれなりに回復したのだろう。

 ブースターを全開にしての超高速だった。


 私はひたすらハンドガンを連射して応戦する。

 弾が命中してもほぼダメージになっていない。

 そりゃそうだろう。

 ハンドガンの火力程度では至近距離でヘッドショットをしてもダメージぐらいは入るだろうが特殊キルなどは発生しない。

 それこそ威力重視のリボルバークラスでないと。


 だからこそだろう。

 綺麗に警棒を構えて突っ込んでくる宮本の気持ちも解らなくもない。

 だが、だからこそ。


 宮本が直前まで迫る。


 私はハンドガンを投げ捨て『アレ』を手にする。


「……舐めるなよ」


 正直、気が進まない。

 しかしこのままでは終われない。

 それでも私は『アレ』のピンを抜く。


「―――私を」


 宮本が大型警棒をこちらに向けて振り下ろしてきた瞬間。


「『大野晶』を舐めるなぁぁぁぁーーーーッ!!!」


 私は、相手の大型警棒に対して『着発式グレネード』を叩きつけた。



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:宮本 恵理

 〇 東京大神 :大野 晶


自滅 東京大神 :大野 晶



 そして目の前には復活カウント。

 私は、それを確認すると思いっきりシートを殴りつけた。


 『慢心』という一番やってはいけないことをしての事実上の敗北。

 それが何より許せなかった。






■side:東京私立大神高等学校1年 水橋(みずはし) 向日葵(ひまわり)






 中学までは『野蛮なスポーツ』だと思っていたLEGEND。

 だけどそれは違っていた。

 無理やり友達に連れていかれたプロの試合で、初めてLEGENDというものとまともに向き合った。


 そこでは女性達が激しくも輝いていた。

 誰もが仲間を信じ、勝利を信じて汗を流す。

 その日、私のLEGENDに対する印象は真逆となる。


 そして高校の時に一般入試でLEGENDの強豪校を目指した。

 LEGEND未経験者が推薦などあり得ないからだ。

 努力したおかげで無事入学することが出来、念願のLEGEND部に入部することに。

 そこでは想像以上の血の滲むような努力がされていた。


 最初はあまりの厳しさに無理だと思った。

 でも無理だと思った時ほど、あの日見た光景が甦る。


 ―――私もあの場所に立ちたい。


 その気持ちが私を強くしてくれた。

 そのおかげか、奇跡的に1年生ながら試合に出して貰えることが多くなった。


 そして今。

 私は『優勝候補筆頭』とされる琵琶湖女子と戦っている。


「水橋!」


「は、はいっ!」


 今までのことを思い出していると大野先輩から声がかかる。

 厳しい先輩ではあるが、U-18女子日本代表に選ばれるなど凄く頼れる先輩だ。


「相手ミサイラーが不在だ。仕掛けるなら今しかない。……行けるか?」


 その先輩に今、私は頼られているのだ。

 なら私が言う言葉なんて決まっている。


「行けます!任せて下さい!」


「よく言った!行くぞ!」


「了解!」


 大盾を構え直し、腕部一体型ガトリングと共にブースターを吹かして前に出る。

 すると相手側からも相手が飛び出してきた。


 新城という選手だ。

 大野先輩と同じくU-18女子日本代表に選ばれた1人。

 私程度でどこまで抑えられるか解らない。

 でも、それでも私がやらなければならない。


 腕部ガトリングを構えて撃つ。

 相手はブースターで回避しつつガトリングを撃ってきた。

 それをブースターで回避し、大盾でガードしつつ戦う。

 相手は適度な距離を保ちつつ継続的に攻撃してくるが、こちらも防御に徹して攻撃は牽制程度に留める。


 大野先輩が援護に来てくれるまで足止めするのが私の役目だと思っているからだ。

 相手はそれが気に入らないのか、ジワジワと距離を詰めつつ攻撃の手を強めてくる。

 それでも私にはブースターと大盾があるのだ。

 徹底して防御を固めて決戦を避ける。


 必死過ぎてどれだけ戦ったのか記憶が曖昧だ。

 しかしそんな中で、キルログが動いた。



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:宮本 恵理

 〇 東京大神 :大野 晶


自滅 東京大神 :大野 晶



 思わず声が出そうになった。

 あの先輩が、相打ちになったのだ。


 信じられない想いでログを見ていた私だったが、スグにブースター音でハッとする。

 相手は今こそチャンスだと思ったのか、全力で突っ込んできた。

 至近距離での高機動勝負に強引に持ち込まれてしまう。


 こうなると私ではどうしようもない。

 どんどんと盾の耐久値も減らされ、攻撃によるダメージも相手の方が圧倒的だ。

 私がやられたら後方には鈴木先輩だけになる。

 先輩は、砲撃手でありブースター装備のストライカー相手なんて無理だろう。

 ここで私が相手を足止めするか倒すしかないのだが、どちらも無理そうだ。


 ―――なら、もうこの手しかない。


 足を止めて徹底して盾で防御しながら腕部ガトリングを撃ち続ける。

 相手は高機動勝負で急に足を止めた私に違和感があるのか、警戒しつつもチャンスとばかりに攻勢を強めて来る。

 私は、通信を入れる。


「鈴木先輩、あと―――お願いします」


 それだけ言うと耐久値が無くなった盾を投げ捨てブースター全力で相手に突っ込む。

 急に予想外の動きをした私に対応出来ず、私のタックルをまともに受ける相手。

 しかしストライカー同士であり、相手もブースター持ちだ。

 上手く制御されてしまい押し倒せない。

 だがそれでも構わない。

 全力でブースターを吹かし続けて、ひたすら相手に抱きつく。

 相手は私を引き離そうとするがブースターに押されて後ろに下がり続ける。

 そして私達は、近くの壁に激突した。


 その状態でもブースターを緩めることなくオーバーヒートさせる気で吹かし続けて相手を壁に押し当て続ける。

 すると、通信が聞こえてきた。


「水橋、よくやったぁぁぁぁーーー!!!」


 鈴木先輩の叫び声という貴重なものを聞きながら、上から降り注ぐ砲弾の雨の直撃を受けた。



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:新城 梓

 〇 東京大神 :鈴木 桃香



 ◆フレンドリーファイア

 × 東京大神 :水橋 向日葵

 〇 東京大神 :鈴木 桃香






■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 安田 千佳






 撃っても撃っても当たらない。

 今までだって何度もあったことだ。

 でもそうじゃない。


 私はずっと練習をしてきた。

 みんなの足を引っ張らないように。

 毎日練習して、ようやく少しづつだけど当たるようにもなってきた。


 でも今、相手には一切当たらない。


 ふと足元に相手の弾が刺さる。

 驚いて逃げるが爆発に巻き込まれて少しだけ耐久値が減ってしまう。

 こっちの弾は全て相手に避けられてしまい、ダメージが入らない。

 何度撃っても相手がその瞬間に動くせいで当たらない。

 これが天才って奴なのかな?


 でもこれじゃみんなの役に立てない。

 またお荷物に戻るのは、もう嫌だ。

 だからこそ、必死で撃つ。

 何度でも撃つ。


 そうしている間に試合がどんどんと動く。

 あまりのログに去年の決勝戦を思い出す。

 あの時は、もっとテンパっていた。

 でも、それでもアリスっちが全てを私に託してくれた。

 今だって自分で試合に出ず、私に任せてくれている。

 だからこそ私はここで頑張らなきゃならない。


「―――あの時を思い出せ、私」


 一度、大きく深呼吸をする。

 そして相手のブレイカーが飛び出してきた瞬間に撃つ。


 その直後、足に衝撃が入る。

 見ればそれは相手の弾だ。

 驚く暇もなく爆発で吹き飛ばされる。


 何とか起き上がってみるが耐久値が4割ほどになっていた。


 『半分以下になったら逃げろ』


 そう言われていたのを思い出す。

 だから逃げようと思った瞬間、前の2人が動いた。

 相手に向かって突撃していく2人。

 当然相手も反撃して激しい撃ち合いになる。


「―――ここで逃げたら、ダメ」


 正直に言えば未だに怖い時もある。

 特に今みたいに攻撃を受ける瞬間は、特に怖い。

 だけど、私が逃げたらみんなが困る。

 私だけが負けるのなら構わない。

 でもみんなを巻き込むことだけは、もう二度とゴメンかな。


 私は、ただ真っ直ぐに立つ。

 相手のブレイカーもそれを見て真っ直ぐに立つ。


 そして、先に相手が撃ってきた。

 それと同時に私も引き金を引く。


 瞬間、肩に衝撃が走って大きく体勢を崩す。

 その瞬間に引き金を引いてしまったので、変な方向に撃ってしまった。

 そして、肩に刺さった弾が爆発して私は撃破されてしまう。






■side:東京私立大神高等学校1年 鳥安 明美






 ちょっと信じられなかった。

 確かにマイマイ先輩並みだと思っていた時期もあった。

 だが、撃ち合いをしてみて思う。


 『コイツ、素人だ』


 なら今までのは何なのか。

 説明がつかない。

 でも見た感じも私の勘も『コイツは素人だ』と言っている。

 だから少し警戒しつつも撃ち合いを始めた。


 そして5分もすれば更に意味が解らない。

 確かに素人だ。

 撃つ瞬間も解るし、狙いが素直過ぎて少し動けば当たらない。

 そんな命中精度なのに生意気にも零式を使っているからだと心の中で呟く。


 だからこそコイツなんて放置していつの間にか琵琶湖女子に移籍した先輩方を仕留めようと思った。

 なのにどういうことなのか。


 放置すると足元など当たりそうな一撃が多くなり始める。

 でも警戒すると大したことはない。

 面倒になって撃破を狙うと何故か全て避けられる。


 悪いけどこっちもブレイカー歴が長いのよ。

 なんでこんな子相手に私がここまで翻弄されなきゃならないのか。


「冷静になりなさい」


 何度も谷町先輩にそう言われるが、時間が経つごとに苛立ちが募る。


 脅威ではないのに放置も出来ない、かといって倒せない初心者。


 本当に何なのだろう。

 しかもそんな腕で私を倒せると思っているかのように諦めが悪い。

 それが更に私を苛立たせた。


 アリス先輩は『こんなの』で私を止められると思っているのだろうか?

 だとしたら舐められたものだと思う。

 確かにアリス先輩を相手にしたいとは思わない。

 でも……それでも先輩を追いかけ、そしていつか追い越そうとする私からすれば、相手にして貰えないのは非常に悔しい。


 だがそんな私の苛立ちを嘲笑うかのように、見える範囲内で深呼吸などし始めるとか何を考えているのか。

 これ以上調子に乗らせる訳にはいかない。


 私は、確実に当てるというつもりで相手に向かって銃を撃った。

 その直後、腕に衝撃が入る。


 ―――弾が当たったのだ。


 流石は零式ライフル。

 一気に耐久値が7割も減った。

 対して相手にも弾が当たったようで耐久値が半分以下になっているようだった。


 思わず舌打ちをしつつも、これで相手も下がるだろう。

 そう思っていた。


 だが相手は下がらなかった。

 それどころか前の2人が突っ込んできた。


 私の追撃を知らないのかな?

 まあどちらにしても良い度胸だと思うよ。


 そして何をトチ狂ったのか相手ブレイカーは、棒立ちでこちらを狙ってくる。


「―――その挑戦、受けようじゃない」


 だから私も防御を捨て、ただ狙って……そして引き金を引いた。

 弾は相手の肩に命中する。

 命中した瞬間、相手が発砲したようだが体勢を崩した直後の発砲だ。

 そんな変な方角への攻撃などどうでも良い。


 それよりも相手の肩に刺さった弾が爆発して、ようやく全てが終わ―――



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × 東京大神 :谷町 香織【L】

 〇 滋賀琵琶湖:安田 千佳



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:安田 千佳

 〇 東京大神 :鳥安 明美



「―――なんでそんなことになるのよッ!?」


 通信障害が発生する中、私は叫びながらも状況がマズイと判断して後退することにした。






■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 黒澤 桂子






 激しくログが動き始めた後半。

 そろそろ動きたい所なのだが、誠子と共に足止めされ続けていた。

 理由は簡単。

 香織のせいだ。


 相手のリーダーである谷町香織は、私達元U-15メンバーでは絶対的リーダーとして印象的な存在だった。

 それはリーダーシップもあったが、それ以上にこの牽制攻撃の上手さだ。

 両肩のミサイルと大型ガトリングという火力ストライカーでありながら最前線でも戦える。

 そして何より撃破されないという試合をコントロールする上手さ。


 今、敵としてそれを実感している最中という訳よ。

 でもそれもここまででしょうね。


 周囲が一気に動いたことで私達が動ける場所も増えた。

 誠子と目が合う。

 向こうもその気のようね。


 今頑張って撃ち合いをしている後ろの千佳が、そろそろ限界そうだと思った瞬間に被弾した。

 これ以上は厳しいでしょう。

 相手は明美だ。

 時間などかけてられない。

 そう考えて一気に走り出した。

 誠子も一緒についてくる。


 すると香織が両肩ミサイルを撃ってきた。

 それを誠子が大盾を犠牲にすることで守ってくれる。

 黒煙の中を飛び出し、さあ香織を潰すぞと駆け出した瞬間だった。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × 東京大神 :谷町 香織【L】

 〇 滋賀琵琶湖:安田 千佳



 ◆キル

 × 滋賀琵琶湖:安田 千佳

 〇 東京大神 :鳥安 明美



 一気にログが動いたかと思えば香織が光の粒子になって消えていく。


「―――はぁ!?」


 一瞬、意味が解らなかった。

 だがスグに隣を誠子が通り過ぎながら『ボケっとするな!』と叫んできた。

 そのおかげでスグに武器を構え直して、もう一人いるはずのアタッカーへと狙いを変える。


 相手アタッカーも何が起こったのか解らないといった感じだったが、残念ながら勝負の世界だ。

 私と誠子の2人で一斉攻撃にて瞬殺させて貰う。

 そして次は明美の奴だと思って、居るであろう方向を見るが……既に明美の姿は無かった。







■side:東京私立大神高等学校2年 鈴木 桃香






 砲撃で水橋もろとも新城を潰した。

 水橋がそれを望んだのもあるが、ここで万が一にでも新城が生き残ると絶望的だったからだ。


 しかし味方を犠牲にしなければ当てられなくなった砲撃に、自分自身が一番苛立つ。

 これで砲撃の天才だって?

 馬鹿らしい。


 そう思っている時だった。

 いきなり左足に何かが当たる。


 それは拳ぐらいの丸いボタンのようなもので、足に引っ付いて離れない。

 何事かと思えば、補給で下がっていたミサイラーが帰ってきたのだ。

 向こうから小型ミサイルが連続で飛んでくる。


 ここでアレを相手にしても勝ち目は無いと判断してガトリングでミサイルを撃ちながら下がる。

 数発は食らったが、小型故に大したダメージではない。

 障害物である壁を利用して射線を切り、後退する。


 流石にこれで安全だろう。

 そう思いながらボロボロの自軍の状況を考え、もう少し下がろうかと思った時だった。


 独特な射出音と共に空に向かって5つのミサイルが撃たれた。

 それはグングンと大空へと昇っていく。


 『何なのだろうか?』


 そう思っているとミサイルは、少しづつ方向を変える。

 そしてミサイルがほぼ真上から落下するようなコースになった段階で気づく。


「―――まさかッ!?」


 思わず足に引っ付いたままのモノを見る。


 『ビーコン誘導』


 脳内にそんな言葉がよぎる。

 ミサイルは、ほぼ真上から落下してくると途中で装甲をパージした。


 すると小型ミサイルがばら撒かれるように登場する。

 1つのミサイルにつき30発。

 それが5つなので150発。


 ミサイル本体5つと、そこから出てきた小型ミサイル150発が落下してくる。

 その馬鹿げた状況に恐怖しながらもガトリングを上に向けて撃ち続けた。


 今更逃げようもなければ、真上からなら障害物でやり過ごすことも出来ない。

 ミサイルを撃ち落とそうにも数が多すぎる。

 落ちて来る範囲もどうしようもなく広範囲だ。

 何よりこの足についているのをどうにか出来ない時点で終わりだろう。


「クソがぁぁぁぁーーーー!!!」


 私は、心の底からこの馬鹿げた武器に罵声を浴びせた。

 その直後、文字通りの『ミサイルの雨』が降り注いだ。



*画像【市街地:ミサイル範囲】

挿絵(By みてみん)



 戦場全体を揺るがすほどの衝撃と爆音が響き渡る。

 そのあまりの衝撃に会場も静寂に包まれた。


 『クラスターミサイル:ブリューナク』


 あまりの広範囲・高威力攻撃に制限がついた武器。

 1試合に1回しか使用出来ず補給なども一切不可。

 それが制限として付くほど馬鹿げたものだった。






■side:私立琵琶湖スポーツ女子学園2年 霧島 アリス






 私は、VR装置のドアをノックする。

 返事が無いので無理やり起動して開ける。


 中では千佳が泣いていた。


「アリスっちぃぃぃ~!!」


「大丈夫、よくやったわ」


「わだじぃ~なにもじでないよぉぉ~~~!!」


「……やっぱりログ見てないのね」


 そう言ってログを表示する。



 ◆ヘッドショットキル

 × 東京大神 :谷町 香織【L】

 〇 滋賀琵琶湖:安田 千佳



「―――へっ?」


 先ほどまで号泣していたのがウソのようにピタっと止まる。


「最後の一撃、あっちに決まったみたいね。ホント意味解らないわよね」


 体勢を崩して全然違う方向に撃ったものが『たまたま』で相手リーダーに当たったのだ。

 もはやオカルトの世界だろう。


「確か『大神リーダー撃破出来たら手本を見せる』だったわね」


「―――うん」


 未だよく解っていませんという顔をしている千佳。

 彼女とは冗談半分ではあったが、そういう約束をしていたのだ。


「なら、ちゃんと見ておきなさい。―――手本を見せてあげるから」



 戦場では、琵琶湖女子側も疲労していたためにカウンターを警戒して一度下がることになった。

 無理をする必要がないからだ。


 一連の状況をようやく理解し始めた会場は、盛り上がって凄い歓声になっていた。

 だがその歓声が更に大きくなる。


 互いに撃破された選手が復活するタイミングで会場だけに表示されるログが更新された。



◆交代:滋賀琵琶湖

 

 OUT:安田 千佳

  IN:霧島 アリス


 OUT:北条 蒼

  IN:大谷 晴香


 OUT:北条 紅

  IN:南 京子


 OUT:宮本 恵理

  IN:笠井 千恵美



 普段交代などしない琵琶湖女子が一斉に選手交代をしたのである。


 そして戦場に降り立つとスグに中央に移動する。


「―――居た」


 馬鹿鳥が見えた。

 なのでハンドサインで合図を送る。


 急ぐ・私が・撃破


 つまり『さっさと私に撃破されろ』という意味で。

 それが通じたのか、それとも私だと気づいたのか露骨に慌てる獲物に零式ライフルを構える。


 そしてまずはその手に持つライフルを吹き飛ばす。

 相手の驚く顔を見ながらリロードを行う。

 リロード大会王者に相応しい最短・最速のリロードで獲物が逃げ出す前にもう1発撃ち込んだ。



 ―――ヘッドショットキル!



 ◆ヘッドショットキル

 × 東京大神 :鳥安 明美

 〇 滋賀琵琶湖:霧島 アリス



 ここからは、一気に琵琶湖女子による総攻撃が行われた。

 大神側も必死の抵抗をするが先ほどよりも更に強力な攻勢に抵抗出来ず、ついにリーダー権限によるサレンダー。


 こうして事実上決勝戦とも呼ばれた戦いは、幕を閉じた。








誤字・脱字などありましたら修正機能もしくは感想などからお知らせ下さい。


*久しぶりにそれなりの文字数になりました。

 やはり前半にもう少し振るべきだったか……。

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― 新着の感想 ―
いやー、ハイエナ視点だと安田ほんとイライラするだろうな…。アリスに実力で蹂躙されるのはまだ納得できるだろうけど。
[一言] チカちゃんにはきっと、超必殺技ゲージがあるんだよきっと。 ゲージが貯まると、因果を超えてリーダーを殺す弾が発射されるんだ。
[一言] 安田には神様憑いてない?そして鬼神アリス出撃。 ああいうのはな・・・ 『鬼神』って言うんだよ(エスコン風)
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