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異世界で僕は美少女に出会えない!? ~《ウェステニラ・サーガ》――そして見つける、ヒロインを破滅から救うために出来ること~  作者: 東郷しのぶ
第二章 獣人の森の少女

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猫族長老との面会

 長老の家はやはり平屋だったが、他の猫族の家より一回りほど大きく、風格があった。


 まず、先触れとして茶猫が中へ入る。長老の意向を確かめるためだ。

『面会の許可が下りたニャ』とすぐに茶猫が戻ってきたので、背負っていた巨大蟹の亡骸を戸口の前に下ろし、ミーアと一緒に家の中に入ることにする。


 ミーアは一時でもカニと別れるのが辛そうだ。地面に下ろしたカニの脚を凝視(ぎょうし)しながら、よだれを垂らしている。

 空腹なのかもしれないけど、食べ物への欲求が強すぎだ。


 それにしても、同じモノを指しても〝食材〟と呼ぶと美味しそうなのに、〝亡骸(なきがら)〟と呼ぶと途端に食べる気が失せるね。


 長老の家の中は、どういう仕組みになっているのか天井部分より光が差し込んでいて、けっこう明るい。

 広々とした空間の中央にテーブルがあった。


 テーブルの向こう側、僕と向かい合う位置に、椅子に腰掛けた白猫が居る。白猫以外に、テーブルの左右には2人ずつ、計4人の猫族が着席していた。

 ガウンらしき物を着込んでいる白猫は年老いているが、弱々しい感じは全く無く、自然と頭を垂れたくなるような威厳があった。


 あの白毛の猫族が長老に違いない。礼を失しないように、気を付けなきゃ。

 少し緊張していると、僕の隣のミーアが突然大声を上げた。


『アーッ、パパにゃ!』

『ミーア! お前は、またママの許しも得ずに村を抜け出したそうだニャ!』

 長老の向かって右側に着席している黒猫が、ミーアを叱りつけた。


 男性であることを考慮に入れても、随分と大柄な猫族だ。

 起立したら、僕より背が高いんじゃなかろうか? しかも、武人っぽい。上半身に革鎧をまとっている。


『ど、どうしてパパが? パパは狩りに出掛けて、夜まで帰らニャいはずなんじゃ』

『長老様に相談する用事があって、村に一旦戻ってきたニョだ。そしたら、お前が性懲りもなくワガママをしているとママから聞いてニャ。どうしようかと思っていたんニャが、ここで会えて良かったニャ』

『ワガママじゃ無いニャ! アタシは狩りに行ってただけニャ』

『1人での狩りは、お前にはまだ早すぎるニャ!』

『早くなんか無いニャン。遅すぎるくらいニャ! スナザ叔母さんは13の時に村を出たニャ。今では、もう立派な冒険者にゃ。アタシもスナザ叔母さんみたいになるんニャ!』

『スナザを手本にニャぞ、絶対許さんぞ。この馬鹿娘!』


 ミーア親子が、突然言い合いを始める。

 どうしたものかと困っていると、長老が咳払いをした。


『ダガル。娘が見付かって安堵したニョは分かるが、親子間の話し合いは、後にしてくれニャいか?』

『も、申し訳ありませんニャ。長老様』


 ミーアの父親が長老へ深々と頭を下げて謝罪する。


『それで、そちらの御仁(ごじん)が村を訪れた人間のお方かニャ?』

 長老が穏やかに僕を見つめる。


『ハ、ハイ、サブローと申しますニャ。この度は面会を許していただき、ありがとうございますニャ』

『ふむ。人間ニャのに、本当に流暢に猫族の言葉を操れるニョですね。まぁ、そう固くニャらずに。長老と言うても、無駄に歳を食っているだけですニョでな』

 長老はそう述べて、僕の緊張を(ほぐ)そうとしてくれた。


 けどな~。異世界モノに登場する〝村の長老〟と言ったら、けっこうステータスが高い印象があるんだよね。日本で言えば市長や町長みたいなもんかな? 日本に居たときに自治体のトップと顔を合わたことなんか無かったけど、もし会ったらプレッシャーで身体がカチカチになって、なかなか喋れないと思う。

 社会的地位ってのは、それだけ重いんだ。長老様に無礼を働くってコトは、この村に住んでいる猫族全体に無礼を働くってコトだからね。


 まぁ、どれほど偉くても、爺さん神みたいに敬意を微塵も払いたくない例外的な存在も居るけど。


 長老の勧めに従って、僕とミーアが着席する。


『サブロー殿は、何を目的にしてこの村を訪れたのですかニャ?』

 長老の向かって左側に腰掛けている赤猫さんが、僕に尋ねてきた。


 赤猫さんは女性の猫族で、ワンピース風の衣装を着ている。猫族の年齢は分かりにくいけど、ミーアより年上なのは確かだ。人間なら20代のお姉さんって感じ。でも、胸はミーアに負けず劣らずペッタンコだ。

 ウェステニラにおける猫族のお胸の事情は、地球の猫そのまんまだね。


 猫族女性の不憫さに心より同情しつつ、僕は村へやって来た理由を述べる。


『いえ、特に大きな目的は(にゃ)いんですが。ただ、猫族の(みにゃ)さんと仲良くなりたいニャ~と……』

 言葉が尻すぼみになっていく。


 僕を見る猫族の皆さん方の目が、「にゃんかコイツ調子の良いこと言ってんけど、胡散臭いニャ」という色合いを帯びてきたためだ。


『サブローは良いヤツにゃんよ! 巨大蟹も気前よく、くれたんニャ。カニにゃよ? カニ! パパでも、なかなか捕ってこられないカニにゃ!』

 ミーアが助け船を出してくれる。


 うう、僕のことを分かってくれるのはミーアだけだよ! 

 でもあんまり〝カニ、カニ〟って連呼しないでくれないかな。ミーアをカニで買収したみたいな雰囲気になってるから。


『確かに、巨大蟹ジャイアントキャンサーの贈り物には誠意を感じますけどニャン……』と赤猫さん。


 そうなんですか! カニの威力って、凄いんですね。


『しかし、安易に信じることは危険ニャ。人間は時に、我ら猫族に災いを呼び込むニャ』とミーアパパ。

 僕を睨む目つきは険しいままだ。


『サブローは悪い人間じゃ無いニャ! ちゃんと猫神様に「村に迷惑は掛けません」って誓ってくれたニャン』


 ミーア弁護人の発言を聞いて、長老以下の猫族皆さんの憂い顔が晴れる。


『おお。猫神様に誓ってくれたニョか……』『猫神様の保証付きなら、サブロー殿を信じられますニャ』


 猫族皆さんの猫神様への圧倒的信頼感はどこから来てるの? 僕、ちょっと怖いんですけど。


 場の空気が和んだところで、僕の呼び方から〝殿〟を取ってくれるようにお願いした。 

 年長者から〝殿〟つきで呼ばれても、こそばゆいだけだしね。


 ミーアのパパさんが、探るような口調で訊いてくる

『見たところ、サブローは武器を持っていニャいし、防具も着けていないニャン。それでどうやって巨大蟹を倒したんだニャ?』


 ミーアパパは凄腕の狩人って感じだし、その辺りは気になるんだろう。


『はい、魔法で倒しましたニャン』

(にゃん)と! 魔法ですかニャ!』

 驚く、赤猫さん。


 他の猫族も、どよめいている。

 そう言えばイエロー様が、ウェステニラの獣人族は基本的に魔法を使えないって教えてくれたな。


『僕は、風魔法を少々使いますニョで』


 本当は光・闇・火・水・風・土という全属性の魔法を使えるけどね。イエロー様直伝による〝気合いと根性〟の魔法特訓の成果さ! 

 いやぁ。いま考えても、あの訓練の無茶振りは酷かった。


 長老が、目を見開く。

『サブローは風系統の魔法使いだったニョですか』

『僕は、風と水の2系統を少しばかり扱いますニャン』


 魔法能力に関する猫族皆さんへの報告は、過小にしておこう。変に警戒されたくないしね。

 でも、いざという時の飲み水確保のために水魔法は使えるようにしておきたい。あと、カニのなれの果てを見れば巨大蟹を風魔法で倒していることは分かってしまうだろうから、ここは〝風と水の専門魔法使い〟と名乗るのが賢いやり方なんじゃないかな?


 ところが興奮状態となった猫族みなさんの話の内容を整理すると、魔法を2系統使えるだけでも充分凄いことらしい。

 殆どの魔法使いは、自分の体質に合った単系統の魔法しか扱えないそうだ。


 くそ! イエロー様は、そんなこと教えてくれなかったぞ。

 特訓中「6系統全ての魔法が使えないのは、サブローに〝気合いと根性と愛と熱意と勇気と希望と善意と優しさと向上心〟が足りないからだ! ああ、嘆かわしい。こんなことでは、ウェステニラに行ったとしても、サブローの未来は真っ暗だ。ヘルモードだ!」としかイエロー様は言わなかった。


 自身はズッと地獄(ヘル)在住のくせに、イエロー様め。ちょっと筋肉の火照(ほて)り具合が(なま)めかしいからって、調子に乗りすぎだ! いくら真美(しんび)状態が極上のビューティフル鬼っ()であっても、僕は容赦なんかしてやらないぞ! 寅縞ビキニは、没収だ!


 心の中でイエロー様に悪態を吐いていると、ミーアが僕を憧れの眼差しで見上げてきた。

 金色の瞳がキラキラ輝く。


『サブローは凄い魔法使いだったんニャね!』 


 その様子を、ミーアパパが面白くなさそうに眺めている。


『チッ!』


 ちょっと、ミーアパパ。舌打ちの音が大きいんですけど!


『そうニャンですか。サブローは〝風と水〟の魔法使いニャんですね』


 若干敬意を込めながら赤猫さんが今一度確認を取ってくるので、僕は気楽に頷いた。

 数日後に、僕は安易に魔法能力を誤魔化した愚かさを死ぬほど後悔することになるのだが。


『ところで、サブローはどこで魔法を習得したニョですか?』


 長老の質問に対して、僕はミーアにしたのと同じ内容を繰り返す。

 とある場所で師匠たちに魔法や学問を叩き込まれた挙げ句、修行の旅に出されたというストーリーだ。


 地球の日本出身だと正直に打ち明けようかと、一瞬思ったりもした。

〝いや~、僕は地球って言う別世界からやって来た異邦人ニャんです。ウェステニラに転移させてくれたニョは、神様。魔法はどこで覚えたニョかって? 地獄の鬼たちによる特訓ニャンですよ〟 …………うん。頭の中身が可哀そうな人扱いで、村の外に放り出されるに違いない。


 僕の話に、長老は納得してくれたみたい。

『にゃるほど。いきニャり森の中に転移させられて、その時偶然にミーアと出会ったという訳ですニャ』

『そうですニャン。師匠たちに「お前は、もっと世界についていろいろ知ってこい」と言われているニョで、ミーアちゃんと会えたニョも良い機縁だと思い、この村を訪問させていただきましたニョです。数日で良いにょで、滞在させてもらえませんかニャ?』


 長老にそう頼んでいると、僕の隣でミーアが『え!? サブローは数日で村を出てっちゃうニョ?』とショックを受けたように呟いた。

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― 新着の感想 ―
べ、弁護人が優秀すぎる……圧倒的弁護力。(╹▽╹) サブローは足りないものばかりのようですけど、速さは足りてたんですね〜。 ふと、クー◯ーの「速さが足りない!」というセリフが脳内再生されてしまい。 …
[良い点] ミーアパパの溺愛ぶりがうかがえてとても楽しかったです。猫神様への半端ない信頼感もまた。とても好奇心を刺激されました。なぜなのかと。サブローが頑張った成果とはいえ、いつか調子に乗りそうで、ち…
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