竜王戦場1
いよいよ竜王級同士の戦闘です
まあ、まだ序盤ですが
ぎゅるり、と。
そんな音が響いた気がした。
もちろん、それは空耳だ、実際には大気を揺らす音は何も起きてはいない。だが、それにはそういう表現が相応しい気がした。
「竜を模った(かたどった)模型?」
思わずそんな馬鹿馬鹿しい言葉が洩れてしまった。
火の竜王を取り込んでいるからか、彼の竜王より一回り以上巨大ではある。
だが、見た目は火の竜王を模した植物で出来た模型、そうとしか呼びようのない代物だった。もっとも。
「やはり動くか」
模型ではない証拠に、動き出した。
見た目とは異なり、作り物めいたものは一切なく、生物を思わせる滑らかな動きではあった。もっとも、その中に火の竜王が取り込まれているのだと考えると、とてもではないが感心など出来ないが。
だが、その動き出した姿を見ても攻撃には躊躇いを感じた。
弱そうだから、という訳ではない。
(あの中で、まだ生きているのか?)
火の竜王の安否が不明だったからだ。
既に滅んでいると考えるのが妥当かもしれない。だが、なまじ竜王という存在がどれほど理不尽なものか知っているからこそ、「もしかして」という事に意識が行ってしまう。
その一瞬の躊躇いの間にも事は動く。
【■■■■■■■■ー!】
声とならない声、そうとしか言いようのない声が響き、そして。
「なんだと!?」
空中から膨大な蔦が何本も噴き出すように出現して向かってくる!
「どういう事……ッ!そうか!!」
種だ。
動いていないようでいて、種をばらまいていた。
植物の種というものは大き目のものもあるが、極めて小さなものもある。それこそ砂粒並に小さな種もあり、それを先程の形状を変えた一瞬でまき散らしたのだろう。現状、周囲は力に満ち溢れていて、小さな、発芽前の種では意識しないと気づくのは難しい。
いや、仕掛けに気付いてしまえば後はそれを忘れぬようにすればいいだけだが、どうせ相手もこんな手品の種は初見殺しの感覚だろう。
そんな事を考えつつも回避する。
投網を広げるかのように広がって来る蔦!
これら全てが属性を吸収してくるのだとすれば、捕まるのは拙い。
分割した思考の一つによって本体を監視しながら、回避。垂直上昇!そのまま斜め前へ速度を落とさぬまま突き進み、そこから再び上へ!上へと広がりかけた蔦へは全力の炎の属性の力を解き放つ!
轟!!
地上に向けて放てば、それこそ火口がもう一つ出来上がるだろう。
最悪、竜の味方となっている人族の方まで巻き込みかねない。そこら辺の配慮も出来ないようでは竜も単なるそこらの獣と同じだと思う。
「この火力なら問題ないようだな!」
さすがに吸収するにも限度があるのか、蔦が一瞬持ち堪えた後、燃え上がり、灰となって焼滅する。
むしろ……。
(あれだけの火にも一瞬とはいえ、一本一本の蔦でさえ吸収して持ち堪えるか!)
火の竜王を呑み込んだ本体であればどうか。
あれだけの蔦や樹木の塊のような存在となれば……並大抵の火力では無理だろう。
面倒な、と思考の片隅で思う。
別段放つ事は構わないが、下手な方向に着弾すれば余波だけで人族程度は壊滅状態に陥りかねない。……こういう時はなまじ味方してくれる者がいる方が厄介なものだな。生まれたばかりでまだ小さな頃の、キアラと冒険していた頃はまだここまでの力はなかったので、そこまで心配する事はなかったのだが、当時とてキアラ以外にも人族と共に戦う事が多ければ厄介な事になっていたかもしれない。ああ、いや、当時はこんな機竜などなかったか。
ドン!ドン!
地上の蝕樹竜が何かを上空へと打ち出してくる。
いや、これは種?違う!いや、正しいが微妙に違う。
植物には種を大量に含んだ実を、あるいは流し、あるいは食わせて運ばせる。これはその類、種を多数含んだ莢を上空へと打ち出して……なら次に来るのは!!
即時、莢から強引に距離を取る。
案の定、そこから大量の種がまき散らされ、襲い掛かって来る。おまけに、こうした分かりやすい種だけではなく。
「またかっ!」
ぎゅるり、と音がしそうな勢いで体を半回転。超高速で狙撃するように撃ち出された種を回避する。見た目に分かりやすいまき散らされる種とは別に、一つ一つ丁寧に撃ってくる高速弾。この組み合わせは面倒だ。かといって地上に降りるのは避けたい。植物となれば、土の属性。地上こそ本分だろう。
それに、竜ならばブレスがあってもおかしくはない……。それは果たしていかなるものとなるか。
戦いは未だ始まったばかりだった。
注:焼滅は誤字にアラズ
先日の地震でなった筋肉痛も数日もすれば大分楽に
今日は鍼灸院行ってきましたが、この後歯医者も……あ、鍼灸院はもう半年以上行ってる行きつけのとこなので今回急にではないですけどねw




