人の切り札
GW終わっちゃいましたね
まあ、自分の仕事は連休関係ないんですが……
砲兵隊第一部隊壊滅の報は即時総司令部にも伝えられた。
「そうか、案外早かったな」
もっとも、総司令部自体は冷静だった。
最初から全滅は想定済。
そんなに甘い相手ではない。
「しかし、想定より早かったせいでまだ第二陣が届いていないぞ」
「……少し早めだが、やむをえん。双塵隊へ連絡、出撃せよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
相乗と相殺というものがあるのだそうである。
互いに高め合い、単体で使うよりも大きな効果を生み出す物もあれば、互いに打ち消し合い、強みをなくしてしまう物もある。機竜研究の過程で明らかになった事の一つにそれはあったという。
火と風、水と地。
風が火を煽り、火が上昇気流を生み、生まれた風がまた火を煽る。
水が地に押し付けられ、地がそれに反発して圧力を高め、また水が。
それによって生み出される出力は単体で用いた時よりも遥かに大きな出力を生み出す事が出来るようになる。
『問題は耐久性なのです』
とは、当時の責任者や研究者が口をそろえて言った言葉。
それらを生まれつき備えているような竜ならば問題はないのであろう。
だが、機竜は違う。後から二体の異なる属性を持つ下位竜同士の心臓を弄って完成させた炉を更に合成させるのだから、相乗効果で高まる圧力に耐えられなくなってもおかしくはない。そうなれば、炉は壊れ、噴き出した圧力によって機竜自体が自壊しかねないのである。いや、自壊程度で済めば御の字。
それでも人はそれを作り上げてしまったのである。
単純な興味ではない。竜と戦うのなら何時かそれが必要になる時が来るかもしれない、そう考えたからである。そして、少なからぬ犠牲の上に、二種の炉を完成させた、させてしまったのである。
称して、これを坩堝之炉と圧潰之炉。
二つを合わせ、更にそれを抑えつける為に強化されたために大型のものとなったそれらを搭載した機竜で構成された部隊こそ双塵隊というのである。
これまで温存されていた彼らに遂に出撃命令が出た。
乗り込む者達の顔にふてぶてしさとか、怖れといったものはない。あるのはただ決意のみ。心の中を示すような冷たい、凍り付いた視線を向けながらいずれも小声で僅かに何かを呟きながら次々と機竜へと乗り込んでいく。
「連中、ついに出撃であるか」
「ですね」
我輩、コッペルマン子爵は副官と共に彼らを見つめていたのである。どこか冷めた目で見てしまうのは、彼らが乗って行く物が本質的にはどういうシロモノか、彼らがどういう連中なのかを知っていれば当然の事と言えるであろう。
「しかし、砲兵隊から転属になっていて助かったのである!」
「前のままの所属だったら間違いなく死んでましたよね、アレ」
かつて聞いた守り神的な竜王。
いやあ、そんな守り神でもやはり竜王は竜王なのであるな!怒らせると実に怖いのである……まさか、砲兵隊、それもあれだけの規模の部隊が一撃で消滅するとは予想していなかったのである……壊滅ではなく、消滅というのが怖ろしいとしか言えんのであるな。
あの攻撃があればこそ、連中に出撃が命じられたのであろうが……。
「何人生きて帰ってこれるであるかな」
「さあ……」
確かに上位竜にも通じるであろうな、あれならば。
だが、我輩はあの機竜に乗りたくはない。
「子爵、あの噂って本当なのですかね?彼らに投与……」
「それ以上は我輩は知らんのである。薬がどうこうなどという話は知らんのである」
なくても喜々として竜に突っ込んでいきそうな連中もいるのではあるがな。
それでも直前で迷ったり、いざ竜と対面した時に怯えてしまう奴が出る可能性はあるのである。それを考えれば、確かに必要な事ではあるのだろうし、それに……おそらくは彼らは事情を知った上で薬を使っているのであろう。自らの望みをかなえる為に。
まったく、人というのはこれだから……。
「竜の方がよほど優しく、理性的であるな……」
「まったくです」
とはいえ、我輩達も仕事なのである。
「連中の後は我輩達の番である。出撃の準備をせよ」
「はっ!!」
ああ、本当に戦なんぞろくなものではないのである……。
……この戦で、人が負けたら我輩、家は息子に譲って竜の支配する大陸で畑を耕して生きる事にした方が良さそうである。正直、これ以上は我輩の心がもたんのである。もし、人が勝利すれば普通に隠居すれば良いであろうが、負けた場合はより陰惨な戦いが人同士の間で繰り広げられるであろうな……何しろ、新たに行く先には人が築いた物は何もないのである。当然、人同士の争いも活発化するであろうし、それを抑える為に、少しでも犠牲を減らす為と称して、どんな事になるやら。
下手に今回みたいな秘密を教えられたという事は、今後も使われる可能性高いであるからなあ……。
思わず、深い溜息をつく我輩であったよ。
真っ当な手段ばかりじゃ勝てないのは理解してる
けど、勝ちたいなら、どうするか……
まあ、歴史上、色んな手が考えられてきた訳でして……




