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竜に生まれまして  作者: 雷帝
幼竜編
9/211

第八話:竜の怒り、それは利己的な

次でド派手に暴れられそう

 二人目の救出対象は男性だった。

 結婚を機に引退して雑貨屋を経営していた、という元・冒険者であったとかで彼も城壁での戦いに参加していたのだそうだ。

 が、衆寡敵せず、暴食竜ガルジャドに食われる寸前バランスを崩して城壁の向こうへと落ちた。

 その痛みと直後に崩れた瓦礫がぶち当たって意識を失い、気付いた時には全て終わった後だった、との事だった。どうやら、ちょうど城壁の影となる位置に落ちた為に、そしてガルジャドがいちいち戻ってくる、という事をしなかった為に彼の上を上をと次々乗り越えていき、結果として気を失った彼は食われずにすんだらしい。

 もっとも、足を瓦礫に砕かれて身動きがとれず、何とか折れた槍を添え木代わりに、服を裂いて固定し、這いずって奇跡的に無事な井戸を見つける事が出来たものの、それ以上動けなかったそうだ。

 

 「いやあ、助かったぜ。このまま腹減ったままおっ死んぢまうかと思ってたからよお……」


 とりあえず冒険者用の携帯型流動食を分けてもらった男は苦笑しながらそう言った。

 この携帯型流動食は冒険者用に工夫された食料で、逃走中などでのんびり食事をしている時間がない、けれど腹に何か入れる必要がある!といった場合を想定して開発されたものだ。

 実は冒険者がそんな状況に陥る事は決して珍しい事ではない。

 火が焚けない、といった状況になる事もあるし、かつてはそんな時には干し肉などを齧るしかなかった。

 だがしかし、それでは口寂しさは紛らわせる事が出来ても、腹が膨れた実感はない。それに、干し肉というのは固いので、そのまま飲み込むのにも向いていない。腹を満たす、という事には余り向いているとは言えない食品ばかりだった。

 そこで、ギルドが料理人と協力して新たに開発したのがこれで、野菜を細かく刻み、形がなくなるまで長時間煮込んだスープを冷ましたものを密封。煮沸消毒して販売、といった感じだ。これなら栓を取っ払えば急ぎ流し込む事が出来るし、湯を沸かしてその中に放り込めば立派な献立の一つともなる。味にもバリエーションをつけ、今ではすっかり冒険者に愛用されている品だ。とはいえ、基本的に一度仕事に持っていったら次回は新しいものを仕入れていく事を推奨されてはいるのだが……。

 という訳で、キアラも幾つか準備している。今回はその中から提供した訳だ。

  

 「……なあ」

 「はい?」

 「……救助されたのはあいつらだけ、か?」


 ちょいちょい、と呼ばれて近づいたキアラは男に小声でそう尋ねられた。

 

 「……はい」

 「……そうかい」


 男が声を潜めた理由はキアラもわかっている。

 あの少女達は建物の残骸の下に閉じ込められていた。

 とはいえ、石を積み上げて作られた建物だ、巨大な塊があるでもなし、ただ石をどけるだけなのだから人海戦術で十分救助活動が可能だ。 

 しかし、あの少女達に助けは来なかった。それは既に彼女らに確認している。

 父親だけ、というのならばまだ可能性がないでもない。防衛に既に向かっていたなどの理由で母親がそこに子供達を隠したという事を知らなかった、という事もあるし、防衛戦を行いつつそのまま後退した、怪我を負って後送された、といった可能性もあるからだ。

 しかし……姉妹を地下室へと隠したのは母親だったという。

 もし、母親が生き残っていれば、当然姉妹の事は伝えられただろう、しかし、救助が来なかったという事は……。


 「脱出上手くいかなかったんですか?」

 

 キアラもセーメの街の脱出がどの程度の成功を収めたのか詳細は知らない。

 だが、相当な被害が出た事は知っている。

 原因は退避までの時間が絶望的に足らなかった為。

 無論防衛戦に関わった者達は皆必死に戦ったのだろうが、街の防御施設には甚だ難があり、戦える者の数は圧倒的に足りず、人の不足を支える絶対的な強者も存在しなかった。これに加えて、街の住人も長い平穏な時に慣れ、竜からの避難という事態に対応出来なかった。

 災害一つとっても、その災害に慣れている者達なら「この災害の時にはこういう対応をすればいい」「災害の後、こんな事が起こる危険があるからこういう対応をしよう」「災害の被害がこれだけだから、まずこれから対応しよう」という事を自然と認識出来、焦りも少ない。事が起きた後の復興も経験のない地域に比べて圧倒的に早い。

 これに対して、そのような災害への経験が全くなければ対応は鈍くなる。

 そう、セーメの街の住人はいざ竜の接近が告げられ、避難が呼びかけられた時、何を持ってどこに逃げればいいのか、それが全く分からなかったのだ。そして、避難誘導を行うべき兵士達が総出で防衛線に張り付いた事もそれに拍車をかけた。……まあ、この街の場合、兵士も果たして誘導がまともに出来たかは怪しいし、そうしなければならない状況だったのも確かなのだが。

 

 「……ってな次第でな。まあ、うちはかみさんも元・冒険者だからさっさと荷造りして子供連れて脱出したはずなんだが……」


 そうした避難の仕方を理解している者が声をかけたお陰で何とか彼らについていって逃げ出せた者が街全体の一〇パーセント程。 

 そうした動きを見て、どうしたらいいか分からなかったのでとりあえずついていった結果、助かった者が更に追加で二〇パーセント。

 助かった者の割合の内、残る一〇パーセントに当る人々は実際に竜の襲撃が始まった時点でまだ街に残っていて、逃げ惑った末に運良く生き残った者達だった。逆に言えば竜が街に襲い掛かった時点でまだセーメの住人の内、七〇パーセントがまだ街に残っていて、その内八十五パーセントが死亡したという事になる。

 まあ、そこまでの詳細は後の調査でも分からなかった訳だが、街の防衛にあたっていた彼からすれば絶望的な程に避難の手際が悪かったという記憶ぐらいはあった。姉妹が地下室に隠された事から、最早街の外への避難が不可能な段階になっていた可能性が高い、つまり逃げ損ねた、という事だ。

 せめて一緒に地下室に入っていれば、とも思うかもしれないが、あそこは構造上鍵などを閉める事は出来なかった。母親はだから、おそらく蓋が跳ね飛ばされないよう重石を載せるなり何なりの対策を外から行ったのではないだろうか。……当然そうなれば逃げるのは更に遅れる。

 瓦礫がどけられた時に遺体は見つからなかったから、一旦蓋をした後で外へ出るなりしたのだろうがそこで亡くなったのだろう。


 「まあ、最悪これも何かの縁だ、うちで引き取るぐらいはするさ」

 「……大丈夫なんですか?」

 

 男の言葉にキアラは心配そうな顔になる。

 この世界、そこまで孤児に優しい世界ではない。成人前に親の庇護を失った子供の末路は大概ろくなものじゃない。

 ましてやこの男性も店を失ったばかりのはずだが……。


 「なに、こっちの店は支店だからな」

 

 ……話を聞けば、雑貨屋というから勘違いしていたが、実は王都のそれなりに大きな商人だったようだ。こちらにあったのは支店なのだが、元々彼も奥さんもこの街の出身、休暇と里帰りを兼ねてこの街へとやって来て、今回の災禍に出くわしたらしい。無論、王都最大の、なんて訳ではないが姉妹二人ぐらい店の従業員として雇用する形で引き取るぐらいは問題ないそうだ。

 見捨てるのも寝覚めが悪い、という事もあるだろうし、同じ竜の襲撃で生き残った者同士、という事もあるだろう。と、同時にこれは元・冒険者という経歴も影響していたかもしれない。

 冒険者、というのは仲間を見捨てるのは最低の行為だとされている。

 最も、そこには少数で動く以上、頼れるのは仲間と同じ冒険者だけ、という厳しい現実がある。街中ならまだ顔見知りもいるだろうが、一度野外へと出れば近くにいて何かがあった時に見知らぬ誰かの助けを期待するのは偶然以外にはなく、そして商人などと異なり冒険者はその仕事が危険を冒すのが前提となる事も多々あるからだ。

 だからこそ冒険者は仲間同士助け合う、という倫理観を構築せざるをえず、それを破った者への制裁も厳しいものがある。引退した今も彼の根底にはその観念が根付いているのだろう。

 

 そんな会話をしながら、テンペスタの発見した最後の一人の下へと向かっていた。

 その方角は……。


 「ありゃ、この方向って事は果樹園か?」

 「果樹園、ですか?」


 男がそう呟いた。

 街から外れる方向へと向かっている。

 そうなると……。


 「そちらへ逃げ出した、って事でしょうか?」

 「かもな」


 街からの脱出ルートとして用いられた街道、王都方面のそれとは全く別の方角にその果樹園はあった。

 だから彼らも当然のように、竜に追われて逃げた先がそちらだったと思ったのだが……。


 「ありゃ、あの爺さんは……」


 姿を確認した時点で男が呟いた。


 「ご存知なのですか?」

 「ああ」


 竜の接近には気付いたはずだ。何せこちらは姿を隠しようのない大空を飛行しているのだし、魔法で姿を隠している訳でもない。

 これが姉妹や男のように逃げようもない状況ならともかく、老人は見た所普通に動き回っているし、こちらに視線も向けた。

 気付いていないという事はありえず、逃げられないという事でもないであろうに、老人は逃げるでもなくただ淡々と果樹園の世話をしている、ように見える。

 上空から見る果樹園の状況は決して良くない、いやはっきり言ってしまえば悪い。こちらにも暴食竜の一部が暴れたのだろう、それに広大な果樹園の内、老人一人で世話が出来る範囲など限られている。果樹栽培というのは、いや農業全般に言える事だが簡単なものではない。ましてや、この世界には機械化、なんてものはなく、また魔法で世話をするのは非効率的、そもそも人の魔法は瞬間的に属性へと干渉して短時間のみの発動がもっとも効率が良い事と竜という分かり易い脅威が存在する為に攻撃魔法が発展しており、便利系の術というのは余り存在しない。

 故に、丘陵地帯の果樹園となれば必要ならば水を桶に入れて運び、多数ついた実から出来の良い一部を残して取り除き、虫にやられないよう確認を行い、とやる事は多々ある。

 当然、人手が必要となり、老人一人では広大な果樹園と言ってもその一部しか世話のしようがないのだ。 

 敵意がない事を示す為にもゆっくりと降下するテンペスタと、その背に乗った一同の姿に老人も気付いたのだろう、立ち止まってこちらが降りてくるのを待っていた。 


 「おおい!ゲルト爺さん!!」

 「?……ジャコモか、お前さん無事じゃったか」


 少し離れた所から男が声をかける。

 老人は一瞬気付かなかったようだが、すぐに声などから誰か分かったようだ。知り合いなのに酷くないか?と思うかもしれないが、王都でもそれなりの規模の商人というならば普段はこざっぱりした姿をしていたのだろう。それが今は激しい戦闘を行った後、怪我をして這いずり回り、何日も水と僅かな携帯食で生き延びてきた後なのだ。

 匂いと汚れの酷さに顔をしかめた(気付いたのはキアラだけだったが)テンペスタによってざっと魔法による洗濯消臭が為されたものの、それでも鎧や衣類は戦闘でボロボロ。顔は痩せこけ、髪はぼさぼさ、髭は伸び放題。さすがにこれでは普段が小奇麗な程、相手が誰だか分かるまい。

 無愛想にも見える老人だったが、知り合いの無事は喜ばしい話だったのだろう、顔がほころんでいた。


 「おうよ、いや、戦いこそ生き延びたけど怪我して置いてかれちまってな。水飲んでしのいでたが、もうダメかと思ったぜ」


 そう言って笑う豪快なおっさん、といった様子のジャコモと呼ばれた男の様子を老人は黙って見ていたが、しばらくして顔を緩ませて言った。


 「ふむ、普段のすまし顔に比べると随分と違うの。そちらが素か?」

 「あ?ああ、そうだな。普段は商人だからなあ。きっちりした顔してねえと顔をしかめる奴らも多いから、何時の間にやらあれがこびりついちまったぜ」


 冒険者も必要な時はある程度の儀礼を示すが、普段はそんなものは必要ない。

 だから大体こんなものだが、あの戦いとその後の救助までの時間の為に、商売に成功する為に抑え込まれていたかつての彼が顔を覗かせた、といった所だったのだろう。

 

 「けど、良かったぜ。爺さんも無事だったようでよ。……避難しなかったのか?」


 爺さんなら避難生活を送る金だって十分あっただろうによ、そう告げるジャコモだった。

 事実、この老人はこの街が出来た頃から代々住んでいる家系で、結構な広さの果樹園を経営していた。

 裕福な人物であり、だからこそジャコモとも顔見知りだった訳だが、そんな経歴故に十分な金を持っていたはずだった。無論、家財などは失っただろうが、老人も王都に屋敷を有している。はっきり言ってしませば、残りの余生を遊んで暮らすぐらいの蓄えはセーメの街から離れても十分にあるはずだった。 

 そう言われた老人は……。


 「避難か……そんなものする気はない」

 「はあ!?」


 きっぱりと言い切った。

  

 「おいおい、ゲルト爺さん、今この街は壊滅状態なんだ。たった一人でどうすんだ?」

 「生きていくだけなら問題ない」

 

 キアラの目の前で説得するジャコモと、断固としてそれを断り残ると言い続けるゲルト老人のやり取りが繰り返されていた。

 姉妹はといえば……姉は呆気に取られ、妹はといえば最初は「喧嘩してるの?」とキアラに聞いてきたりもしたが、キアラが時間をかけてそういう訳ではない事を理解してもらってからは黙って二人の激しい口論を見ていた。

 

 「ああ、もう……おい、嬢ちゃん、お前さんからも何か言ってやってくれねえか?爺さんもいい年なんだ、若い時分ならともかく、この年で一人でなんて無茶だぜ!」


 遂に自分だけでは説得出来ないと諦めたのか、ジャコモがキアラへと声をかけてきた。

 

 「うーん、と言っても……ええと、ゲルドさん、ちょっとお聞きしてもいいですか?」

 「なんじゃね?」

 「何故残ろうと思われるんですか?」


 それがキアラの疑問だった。

 話を聞いていればゲルドが最初からこの地へと残る事を決めていた事は分かった。

 それはいい、いや、良くないが災厄が近づいた時、「どうせなら生まれ育ったこの地で死にたい」という老人はどこの街や村にもいる。見知らぬ土地で果てるぐらいなら……、傍からすれば「そういう訳にもいかない」以上迷惑かもしれないが、同時に「若い者に迷惑をかけたくない」という気持ちも……いや、話が逸れた。

 キアラが気になるのは、ゲルドにそれ以外の何かを感じるものがあったからだ。

 前述のような老人にはどこか生き疲れたような、死を覚悟した者特有の気配がある。

 だが、ゲルドからはそれを感じない、むしろ……何か目的があるように感じられる。目的ある者特有の何かを感じる。

 そう告げると、ゲルドはしばし黙っていたが、やがて近くの果樹へと歩いていった。


 「この木はの、この街の特産品の一つが生る」


 軽くぽんぽんとその幹を叩きながら、そう呟くようにゲルドは言う。


 「じゃが、この木とて最初からあった訳ではない」


 人の食べる物、というのは試行錯誤の歴史の積み重ねだ。

 より甘い果実、より美味い野菜、得る事が出来れば、そうした植物の種同士をかけあわせ、より美味を追う。

 

 「これらが生まれるまで、生み出すまでこの街の住人は大変苦労したんじゃ。じゃが……所詮は人が作り出した歪なもの。放置してしまってはやがて失われてしまう……」


 セーメという街の特産品、それは街を支える根幹だ。

 この木々が残っていれば、何時かセーメの街の住人達が戻ってきた時にかつての味を復活させる為におおいに役立つ。 

 だからこそ、自分はここに残る、そう語る。

 何時か、この街が復興するその時の為に……。

 そう言われて、ジョコモも苦い顔になった。一度失われたものを取り戻すには大変な苦労が必要だ。ましてや、植物の改良となればただ家を建て直す、他から移住者を求める、というだけでは済まない。確かにこれが完全に失われてしまってはセーメの街の復興はかなり厳しいものになると言わざるをえまい。 

 それが分かる、分かってしまった為にジョコモも難しい顔になったのだった。

 

 「むう……確かに、そりゃ……」


 しばし、考えていたジョコモだったが少しして顔を上げるとキアラに向き直った。


 「仕方ねえ。俺も元々はこの街の出身だ、そういう事言われたら見過ごせねえよ……すまねえが、帰る前に隣街に寄ってもらえねえか?」

 「いいですけど……何を?」

 「ああ、うちのかみさんは隣街へ脱出したはずだからな。王都へ戻ってるかもしれねえが、まだいたらそっちへは手紙を、後は……避難した連中で爺さんを手伝ってもいいと思える連中だな……事情を知りゃ動く奴らはいるだろ」


 果樹はセーメの住人達にとっちゃ自分達で育て上げた誇りだからな。

 そう言って胸を張ったジャコモを見て、ゲルド老人も少し笑顔を見せた。

 まあ、王都へと帰る途中に寄り道するぐらいは問題ないだろう、そう判断したキアラはそれを了承した。今から出ても、夜までには十分戻れるし、そもそもテンペスタは夜の飛行も全く問題としない。彼にとっては夜の闇もまた己の属性であり、視界を遮る事はない、らしいからだ。

 ここまでは良かった。

 後にキアラは振り返って思う、思えばこの時さっさと離陸していればまだ事は本来の流れ通りに進んでいたのではないか、と……。

 事態が変わる原因となったのはこの直後の一言だった。


 「しかし、今年はロンギの実もガオレンもどれだけ出来るやら……」

 「え、ロンギとガオレンがどうかしたんですか?」


 どちらも比較的一般的な果物だ。

 だが……。


 「……その最大の産地がこの有様、っていうかこの国のロンギもガオレンも殆どここで育てられてたからなあ……」 

 「正確には他の地でもロンギの実もガオレンの実も育てられてはおる……じゃが、一般にロンギだガオレンだと言われておるのはここで改良されたものなんじゃよ」

 「ここのに慣れて他のを食ったら、すっぱいだけだの、小粒にすぎるだの文句が出るだろうぜ」


 成る程、そう思った所でキアラはふと寒気がした。

 

 『そっか……』

 「……テンペスタ?」


 周囲は感じていない。

 今、テンペスタは明らかに怒っている。けれど、周囲の人は誰も気付いていない、テンペスタの背に乗っている姉妹でさえ平然としている……。

 つまり、きちんと制御は出来ている……これは……テンペスタと繋がっている私だけが感じ取っている?

 そう理解出来た故にキアラも小声で呟くに留めた。


 『許せないね!』

 

 何がだろう?

 そう思ったキアラへの解答はすぐに与えられた。

 

 『僕の好物をダメにするなんて!!!!それじゃなに!?しばらく僕の好物、お預け!?』

 「はっ?……ああ、いえ、何でもないです」


 思わず声が洩れたらしい。

 話していたゲルトとジョコモ、姉妹から一斉に注目を浴びて慌てて誤魔化す。

 ……そういえば、テンペスタはロンギの実の甘さもガオレンの少し酸味のある味も大好きだったと今更ながらに思い出す。

 そういえば……とふとキアラは余計な事を思い出してしまう。


 「ここってシイナやゲルパに関しても一大産地だったような……」

 「おお、そうじゃよ?」


 ゲルド老人の返答にますますテンペスタの怒りが高まるのを感じ取って、キアラは内心冷や汗をかいていた。

 ……これまでは目立たないように彼には抑えてもらっていた。

 何せ、彼女とテンペスタが裏で引き受けている依頼は少し格好良い言い方をすれば「法で裁ききれぬ悪を討つ!」という事になる訳だし、間違っている事をしているつもりはないが、どう言い訳した所で法には反しているのが実情だ。 

 けれど……ここまで怒っているテンペスタを抑えきれるかは……果たして疑問だった。

 

 【食い物の恨みは恐ろしい】


 キアラの脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった……。

テンペスタの怒った理由はこういう至極単純なものでした

……というか、まだ子供なので感情的になりやすいのです、竜としてはですが


地震大国日本では地震への対応は誰でも身につけてるけど、海外では大混乱に陥る人も多いそうですからね

災害への経験豊富かどうかで対応やその後が違ってくるのは当然です

もっとも、海外で日本人、地震が起きた時に平然としていて建物から逃げなかった為に後で「日本とは違うんだぞ!早く逃げないと危ないだろう!!」と怒られたという話もあるそうですが

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