開戦前夜
次回より戦争開始です
竜達との交渉の結果、稼げた時間は一年。
長いようだが。
『他の大陸へと移るための船を用意するにも時間がかかるのです!!』
この言葉に竜達が納得してくれた事が大きい。
実の所、嘘でもなく、「船を作れ!」「はい、出来ました」なんて訳にはいかないのもまた事実。ある程度は改造でも何とかなるとはいえ、それだって時間はかかるし、そもそも船を建造、改造するためのドックの数は限られている。
そして、ドックを新たに用意するにもまた時間はかかるし、船大工だってやっぱり数は限られている。
だから実際は一年でもまだ短い。それでもさすがにそれ以上は稼げなかった、最悪竜達から「決戦敗北後、移住をきちんと開始するなら多少は待ってやる」との言質を得た事から、決戦までの時間は一年と決まった、というのが正しい。
さて、移住を決意出来るかどうかだが、これまた時間がかかった。
それでもまだマシだ。その理由は大きく分けて三つ。
一つは竜や龍を敵に回した事で逃げる事を考えた者が予想以上に多かった事。
二つ目は大陸が間違いなく海を越えた先にあると確定した事。
果たして住む事が出来るだけの場所が海に漕ぎ出した先にあるのか?それが分かった事は大きい。「進んだ先には何もなかった」といっても、これが陸地ならまだ助かる可能性はある。しかし、海では助かる可能性はほとんどない。
となると、いくら怖れ知らずの連中でもさすがに自殺する気はない、という事で二の足を踏む訳だが、今回は間違いなく大陸があると判明した。
交渉の際にもう少し詳しい情報も得られた。
お陰で、船の人員、その数にも問題はなかった。
最後の三つ目。
これは単純に金の問題だ。
それなりの大きさの船を作るには時間だけではなく、金もかかる。
しかし、今回は国が、豪商がこぞって金を出した。国が支援に金を出すのはもちろんだが、豪商達にとっても単に金稼ぎのチャンスというだけではない。それは競争であり、またこの大陸から逃げ出すつもりの者にとっては一刻も早く船が必要になる。正に、金の使いどころ。
最後にこれはおまけだが、木材などが優先的に船の建造に回された事もあった。
そして、一年はあっという間に過ぎて……。
「色々な意味で壮観だな」
王城の上から見れば、機竜が、対竜兵器の数々がズラリと並んでいた。
海側を見れば、多数の船が海に浮かんでいる。
現在では既に一部の者達が別大陸へと到達、帰還しており、それがより多くの人々を新大陸へと向かわせていた。やっぱり、そこら辺は実際にあるのを確かめるまで怖かった者が多かったらしい。なお、出航した位置の関係で辿り着いているのは西方大陸と南東大陸であり、新帝国が建国された北東大陸へはまだ辿り着いていない。
現状、ブレイズ帝国と連邦は西方大陸へ。
王国は南東大陸へと移住が進んでいる。
北方大陸があるという事は伝えられているのだが、同時にその環境の厳しさも伝えられており、そちらは後回しにされている。……信じず向かった者がいなかった訳ではないのだが、生還した僅かな者達からその極寒の環境が伝わり、即効で後回しにされた。なお、消息を絶った者達は全てが竜ではなく、自然環境の前に命を落としている。
「幸い、と申しましょうか。一部を除き、下位竜狩りに関しては竜達は文句を言ってきませんでしたので助かりました」
現実問題として、下位竜狩りは必須だった。
竜王や上位竜を得る事が不可能になった当時、機竜をこれ以上確保するには属性持ちの下位竜を使うしかなかった。
それだけじゃなく、余った部分は食肉に、船の建材に、と余す事なく利用された。
なにせ、可能な限りのマンパワーが兵器生産に、船の建造にと回され、農家や酪農家が土地を離れ、避難してくる。当然、食料生産はかつてより落ち込む。
だが、下位竜狩りなら話は別だ。元々、機竜のために狩る必要があり、更に、仕留める事に成功したら今度は狩った大型の下位竜の横取りを狙って更なる下位竜が現れ……また、そうやって狩った全ての下位竜が機竜に改造出来る訳でもない。
属性持ちの下位竜でも、破損が酷すぎれば機竜に改造出来ず、そうなると別用途に回さざるをえない。
だが、船の強化や建造になら丸ごと使えなくても機竜と違って十分使用出来、また、肉も案外美味い下位竜は結構いる。多少不味くても安ければ、やっぱり需要はあるし、激マズな代物でも毒さえなければ喰う物に事欠くスラムの住人などには案外ご馳走だったりする。
正に、王国と連邦を主体とした対竜戦争の準備のみならず、別大陸への移住も下位竜達の数多の犠牲によって成り立っていたと言っていい。
(お陰で、下位竜の数は激減してしまったが……)
少なくとも、人の領域に近い辺りに生息していた下位竜達という所を見れば、家畜として飼育されていた物を除けばほとんど姿を消してしまった。
「征くぞ、出陣だ!!」
この一年で、人族の方針も随分と別れた。
移住を望む者、移住を強制された者(血を残す為に乗せられた王族など)。
竜に味方する者、竜に屈する事を選んだ者。
そして……。
「我ながら、いや我らながら度し難いものだな」
「は?」
「なに、竜と戦い、勝利する。それも下位竜ではなく、竜王、上位竜と戦って……そんな夢物語に付き合おうという者が存外多くて驚いているよ」
「そうですなあ。ヤケクソな者や、強制的に、という者がいるのも確かですが……案外多かったですな」
憎しみ、怨みだけではなく、憧れ、夢、挑戦。そんな者達も多数いた。
「さて、我が国も元々は義務感から始めた事だったが……最後ぐらいは派手にやりたいものだな」
「まったくですな」
などとのんびり語る国王と宰相だった。
「……昔から悪ガキぶりは変わりませんね。くだらない事言ってないで、さっさとご飯食べなさい」
「「いただきます」」
とはいえ、王と宰相でも頭が上がらない相手はいるのだった。
人族、頑張って機竜をたくさん揃えました
数だけは竜達を大幅に上回っています
まあ、上位竜だの竜王だのの数が少ないのも大きいんですが……




