竜が舞う
エイプリルフールの短編を活動報告にて一旦上げました
まだご覧になっていない方で見たいという方はどうぞー
昨日は熱出して寝込んでました。耳鼻科で喉が真っ赤(めっちゃ痛かった)というから風邪引きかけたんだろうか……
『天空を数多の竜が覆いつくした』
後に、その日の事を記したものだ。
その日、空を多数の竜が舞った。
単なる翼竜程度ならまだ良かっただろう。弱い下位竜はその分、繁殖力が高く、数も多い。それでも増えすぎれば、周囲に被害が出かねないという事で定期的な間引き作業が行われている以上、これだけの数の飛行は滅多な事では見られるものではないが。
だが、その日舞ったのはいずれも上位の竜だった。更に言うなら、明らかに異質な形状を持つ竜達がいた。
巨大な岩塊としか見えない飛行体がいた。
長く伸びた、岩の連なりにも見える尻尾がかろうじて竜であると推測させるものだった。
光輝く輪があった。
ちょっとした街程度ならその輪の中に入りそうな巨大な輪がくるくると緩やかに回りながら空を動いていた。
森が竜の形状を取っているかのような竜がいた。
樹木をより合わせて竜の形を作り、そこに木々が生い茂っているかのような姿だった。
巨大なクラゲのような姿が浮かんでいた。
無数の触手に見える中から一本、一際太い触手にも見える頭が持ち上げられて、動いていた。
彼らもまたその姿が示すように自然へと帰りつつある存在ではあったが、それでもまだ枯れてはいなかった。
そんな彼らの姿があったからこそ、空を埋め尽くすような印象があったのだろう。彼らの巨体は周囲の上位竜と比較してもまだ巨大だったのだから。
これらを上位竜達が付き従うように飛ぶ。
特に巨大な集団が二つ、それらは王国と連邦、双方の首都の上空を通過するコースを取っていた。
『告げる』
重々しい声が王都と連邦首都双方に響き渡る。
『人が我らと争う道を選んだならば、我らも戦おう』
『挑んでくるがいい。人の総力を挙げて』
この宣言は旧帝国領でも行われていた。
竜の数は少なくても、人族の領域では声が宣言を伝えていった。
『戦いたくなくば、選べ。この大地から海を越えた異なる大地へと移るか』
『あるいは都を捨て、大地と共に生きるか』
『さもなくば、戦い、果てるか。あるいは勝利を得るか』
『決意を固めて、挑んでくるがいい』
そんな姿を王国の王や上層部は決意を込めて見つめていた。
竜達も覚悟を決めた、それを知り、改めて自分達の覚悟を固め直していた。
連邦ではそこまでは統一されてはいなかった。
ある者は「これでまた武器が売れるな」とほくそ笑み、またある者は竜の威容に「本当に勝てるのか?」と疑問を感じ、またある者は竜がそこまで人を敵視するという事に恐慌を来していた。
そして、これは王国の辺境の貴族も似たようなものであった。
滅竜教団では来るべきものが来たと決戦をどう進めるかを考える者がいる一方で、遂におおっぴらに竜を殺せると喜色を浮かべる者もいた。
そして、大多数を占める一般人は混乱していた。
彼らの大多数からすればどこかで「自分達には関係のない事」だと思っていた節がある。それがいきなり竜達の宣言で「三つの内、どれかを選べ!」と告げられたのだから大混乱だ。
竜に手を出したからだと国や貴族を批判する者がいれば、竜に対して「自分達は何もしていないのに!」と憤る者もいる。かと思えば、都を捨てて逃亡を図る者もいる。
ただ、その中でも連邦の大富豪らは竜の別の言葉に関心を持っていた。
「海を越えた異なる大地と言っていたな」
「噂や伝説と思っていたが、やはりあるという事か」
「リスクはあるが、リスクを恐れていては他に遅れる」
「ブレイズの研究をそういえば公開していたな……」
商人の国でもある連邦はブレイズ帝国の研究の一部公開によって可能になった遠洋航海を試みだす。ブレイズ帝国では新造船だけではなく、旧来の船を強化しての外洋航海も研究していた。そうでもしなければ、船が足りなかったからだ。戦艦のような高い戦闘力を持つ艦はさすがに新造ではあっても、補給や兵の運搬までは旧来の船を活用出来なくては到底足らない。そのお陰で、商人達が持っている船でも全部ではないが、一部は改良すれば外洋航海に用いる事が出来る。
そして、それを目論んでいるのは商人達だけではない。
「連邦、王国双方も船に関しては動いておる」
「商売だけではあるまい。万が一に備えねばならんという事だろう」
「それは我らにも言える。勝てば良いが……」
勝てるのか?
その言葉は誰もが口には出さずに飲み込んだ。
「見極めが厳しい時代になりそうですな」
誰かの声が場に響いた。そうだ、見極めに失敗して落ちぶれる者もいれば、成功して新たな大富豪が生まれる可能性もあるだろう……。
竜達の宣言
人の側も決断を強いられます




