龍も怒る
頭痛で寝込んでました
朝方は平気だったんだけどなあ……
機竜という代物を見た。
醜悪でした、まる。
……なんだ、あれは。
それは攻撃を受けた龍にとっては冒涜的な何かにしか見えなかった。
下位の竜を殺すまではいい。別に下位の連中なんぞ龍や竜とは呼べない紛い物だとかそういう意味合いではなく、純粋に生物が他の生物を殺すのは当然の事だからだ。
本当の意味での竜や龍以外の生命は他の生命を奪う事でしか、自らの生命を維持出来ないのが普通だ。
無論、果実などで極力命を奪わぬよう生きる者はいる。だが、そうした者達とて本当の意味で全く命を奪わずに済むという事はまずない。足元を歩く虫を意図せず踏み潰してしまったり、同じく歩いた事で植物を踏みつけて枯らせてしまう事だってある。
完全無欠に命を奪わずに生きていける物などそれこそ最上位の竜王か龍王ぐらいのものだろう。
だが、生きる為に命を奪う、というものとあの機竜とか呼ばれている物は死者への冒涜でしかない。
こう考えればおぞましさが分かるだろう。
『死体を弄りまわした挙句、兵器として死骸に入り込んで操っている』
せめてこれが頑丈な部位、骨だのトゲだの牙だの爪だのを利用したならまだ良い。
だが、食うでもなく、命を繋ぐでもなく、ただ殺され、死骸そのものを道具として利用されるなど、道具として利用する為に殺されるなど許せるような事ではない。いや、それだけではなく。
(私もこやつらに殺されれば、利用されるのか、自らの屍を)
させてなるものか!!
おぞましさからくる恐怖と、怒りで咆哮を上げた。
『撃て!!』
奴らは砲撃を続けてくる。
だが、その程度!!
咆哮すら上げずに即座に水のような塊を飛来する砲弾の前方に展開する。
水のように透明ではあるが水ではない。粘度を上げた油だ。
一部の砲弾はそれだけで爆発するが、一部はそのまま貫通しようとする。だが油の塊の内部を高速で攪拌していた事で砲弾が直進する力を失う。そのまま、攻め込んできた兵士達の直上で圧力を高めて爆発させる。
「「「「「「ぎゃあああああああ!!!!!」」」」」」
高熱の油が頭上からかけられたらどうなるか。
それは攻城戦で防衛する城側が高熱に熱したお湯や油を頭上からぶっかけるというのが真っ当な防衛手段の一つであるという事からも分かるだろうが、重度の火傷を負う可能性は高い。特にそれが粘度の高いものとなれば一瞬で流れていくお湯と異なり、熱いまま体にべっとりと張り付き、悲惨な事になる。
ゴロゴロと転げ回り、悲鳴を上げる兵士達に、龍は視線すら向けない。砲弾を警戒しての事ではあったが……。
(ふんっ、さすがに味方への攻撃に利用されるとなれば話は別かっ!)
やや苛立ったように睨みつけると、一旦そちらは後回しにして機竜へと意識の大部分を向ける。
砲撃の為に一旦後退していた二機の機竜が再び接近してきたからだ。
最初は四機で接近してきた連中も既に一機が撃破され、慌ててもう一機が後方へと引きずっていった。引きずっていった一機に仲間を助けようとした瞬間を狙っての攻撃に少なからぬ損傷を受け、前線に立てるような状況ではないのだろう。実際、それは未だに戻ってきていない事からも推測出来る。
……とはいえ、隙を伺っている、応急処置を済ませて戻って来るという事もありえるので油断はしていないが現在の所戻って来る気配は感じられない。
(ならばさっさと終わらせてやろう!!)
水の竜王の一体たる我が力でもってな!!
蛇のような体を宙でくねらせ、力を伸ばしてゆく。
警戒して一定の距離を保っているようだが、砲撃部隊とやらも我が「庭園」の範囲内にある事に気づいた様子もないな!
「庭園」の範囲内はそれぞれの竜や龍が自らの力が使いやすいように整えた場所であり、射程内だという事に気づいた様子はない。愚かな、湿地帯から外れればそれだけで「庭園」の範囲の外だと思ったか。
力を伸ばし、液体へと瞬時に変換する。
もう、連中の居場所は全て把握したし、隠し玉もあるまい。
沈む。
連中の全てが高粘度の液体の中へと呑み込まれる。
水中で動く事が前提ではない地上を生きる生物というのは当然だが、水の中では動きづらい。呼吸も出来なければ、抵抗も大きい。それが水より更に高粘度となれば尚更だ。
未だ生き残っている機竜の乗り手らしき声が液体の中に響く。
『おのれ!よくも仲間達を!!』
『殺してやる!殺してやるぞ!!』
……愚かな。
そもそも我が「庭園」に侵入してきて、殺そうとしてきたのはそちらであろうに。
殺される覚悟がないのならば、最初から来るでないわ!!
圧力を高め、圧殺してやった。じわじわと苦しめる趣味はないのでさっさと仕留めた訳だが……。
(だが、このような外道のものを用いているとなると見逃せぬな……)
そういえば、火の連中がこの間来ていたな。
私からも水の連中に声をかけてみるか。
テンペスタ以外の龍が動きました
ボルシオン火山だけじゃなく、こういう事も起きています
そして、討伐に成功されてしまった所もまた……




