表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
82/211

王国悩む

 「竜と少女の物語」


 あるところに一人の女の子がいました。

 女の子は色々と運の悪い事が続き、とうとうある時、船が沈んでたった一人誰もいない島に流れ着いてしまいました。

 けれど、女の子はそこで生まれたばかりの竜と出会うのでした。 

 

 仲良くなった一人と一体はやがて島を出ると一緒に冒険の旅を始めたのです。




 ◆



 

 「てっきりおとぎ話の類だと思っていたんだがなあ」


 王国含めた周辺諸国で有名なおとぎ話の本を前に王はぼやいていた。

 もちろん、王宮の資料室から持ってこられた、王の前に置かれているような本だから装丁なども立派なものだ。

 竜と女性の物語、という事で昔から人気のある物語だ。女性が亡くなる時まで共にあり続けた、という最後もまた好まれている理由でもある。

 もっとも、中身はといえば、実際にテンペスタとキアラがやった事が元になっている話もあるにはあるが、大半のお話は後世に追加された創作ではある。ここら辺は仕方ないと言えば仕方のない話で、人族の女性と竜が共に旅をして、色々な事件を解決したり、悪い事をする奴らをやっつける!という非常に分かりやすく題材としやすい物語なだけに様々な人が独自のお話を作り、その中でも幾つかのお話が元のお話に組み込まれ、その一方で元のお話の大部分は長い時の中で忘れられていった、という訳だ。

 彼らがそれを知る機会はまずないだろうが。というか、どれが本当にあった事で、どれが後から付け加えられた話なのかはルナも知らなかったりする。興味ないし。


 「しかし、まさか料理長がこの竜と知り合いだったとは……」

 「睨まれた時は正真正銘命の危機を感じました……」

 「ルナ姉曰く、『昔からの知り合いを、生まれた頃から知ってる知り合いが悪く言う光景は見たくない』だそうだ」


 なお、彼らは「前」料理長であるルナを今も料理長で呼んでいるが、誰も疑問に感じたりはしない。何せ、彼らからすれば生まれてからこの方ずっと彼女は王宮料理長だったのだ。更に言うなら、現在の料理長自身が「自分はあくまで厨房を預かっているだけの代理」という姿勢を崩していない。現料理長にとっても、師でもあるルナを唸らせるような料理を一品でも作る事が出来ないのに料理長を名乗る気になれないのだ。

 

 「気持ちは分からんでもないですな。料理長からすれば私らなんぞより付き合い長いでしょうし」

 「お互い数百年単位を生きる種族同士ですからな……私共は料理長の感覚からいえばそう遠くない内に老いて死んでいく訳ですし」

 「それを考えるなら、昔の思い出を語り合えるほぼ唯一の知り合いですか……それは大事にするのも分かりますな」


 とにかく、そういう次第で彼らは先に出会った竜を悪者にする事を諦めた。

 何しろ下手を打てば、呆れた彼女はこの国を出て行ってしまうだろう。

 普通は築き上げた財産やら地位やら何やらを考えれば、それを捨てるなどという事を考えたりはしないものだが、彼女の場合、あっさりそれらすべてを捨てて立ち去ってしまうだろう。そして、それを止める手段は彼らにはない。

 あるいは機竜を使えば何とかなるかもしれないが、移動速度において圧倒的な差がある。

 しかも、勝った所で何の得もない。損だけだ。

 なので、王国の本来の役割とは別方向に利用する事になった。それは。


 『どうせ竜を殺し尽すなんて出来る訳がない』


 という事だ。

 あくまで現在、王国にせよ連邦にせよ滅んだ帝国にせよ、そして現在の滅竜教団上層部にせよ……彼らが竜を攻撃しているのは、特に竜王の支配領域を人の生活圏にしなければ人族の生活はやがて限界を迎えるという認識に基づいてのものだ。

 逆に言えば、人の生活圏を確保出来たなら多大な損失を出してまで敵対する必要はない。

 また、食肉や移動など人族の生活に密着している下位竜も存在している。つまり、絶滅させるつもりはない。

 ……まあ、言い方を変えると「人が使えそうな場所は奪って、家畜やペットとしてなら生かしてやる」という傲慢極まりない考えとも言える訳だが。


 「しかし、物語の竜が人をどこかへと連れて行き、そこに旧メスティア帝国の元貴族が関わっている、か……」

 「竜の餌、という訳ではないでしょうから、そうなりますと」

 「……どこかにメスティア帝国を復興させ、そこに移住させている」

 「……そういえばメスティア帝国の皇族で行方不明になった姫がおりましたな?確か……」


 彼らは決して馬鹿ではない。

 だからこそ、迅速に真実を割りだして行く。


 「そういえば」

 「「「???」」」

 「最近、旧メスティア帝国領担当の密偵が複数行方不明になっているのですが、これはやはり……」

   

 うーむ、と誰もが唸り声をあげた。

 

 「問題はメスティア帝国だけで終わるか、だな」

 「……うーむ」


 王の言葉に誰もが唸る。

 密かに亡命政権が作られる、未開の場所に新たに国が作られる。

 通常なら不可能な場所でも竜の支援があるなら、不可能は不可能ではなくなる……。

 

 「当面は降伏を促し、降伏した場合、ある程度の皇族王族を貴族として取り立てる、そういう形で行くしかあるまいな」

 「とはいえ甘い顔だけもしておれません。こうなりますと情報戦も強化せねばなりませんな」


 そう、王国は手を差し伸べたのに徹底抗戦を選んだその国の上層部が悪いと民が認識するように……。

 気づいてない所で、王国の重要な方針に影響を与えたテンペスタだった。

おとぎ話も昔話もなんですが、時代が過ぎれば嘘の情報が真実とされたりするのも事実なんですよねえ

日本でも、足利尊氏とされてきた絵が実は重臣の高師直の可能性が高いとなったり、愚将とされてきた北条氏政や賄賂政治と批判されてきた田沼意次の功績がきちんと評価されるようになってきたり……と、「過去言われてきた事と違うじゃねえか」と言えるような事柄が結構ありますしね

でも、一旦嘘が事実と拡散されてしまうと名誉回復にはえらい時間がかかるのもまた事実です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ