我に迎撃の用意あり!(無駄
『最近は運送業に転職した気がするな』
はて、しばらく前まではのんびりと山で寝ていたはずなのに、何故こんな事をしているのだろう?とふと思う。
帝国の連中に頼まれて人を運ぶのはこれで三回目だ。
案外、帝国の連中は賭けに乗る趣味があったようで、結構な数の人が移住している。
もっとも、この連中の中には王国が潜り込ませた情報収集を目的とした配下連中も僅かながら混ざっている訳だが……放っておこう。どうせ何も出来ん。
連中の持っている魔道具程度では海を越えた遥かな先から母国へと声を届かせる事も出来んし、奇跡的に届いた所で相手のいる場所へと到達する手段がない。つまり、この諜報員の連中は帝国の開拓地で生きていくしか道がない訳だ。
であるならば、放っておいても良かろうて。今も呆然としているしな。
などと思っていたのが昨日の事。
「今だ、撃てーっ!!」
ただいま、攻撃されております。
帝国ではなく、王国とやらの軍勢から。
さて、何故このような事になっているのか?答えは実に簡単な話で、王国はマヌケではなかった、ただそれだけの話。
当り前だが、王国からすれば帝国は征服したとはいえ少し前までは敵国だった場所。当然、降伏した貴族達に関しては戸数調査という名の領土の探索を行っていた。
戸数調査自体は当然の話だ。それぞれの領地にはどの程度の戸数、すなわち家があり、人がいて、それぞれの村にはどの程度の若者や年寄り、猟師や漁師がいるのか。土地は肥えているのか、痩せているのか。そうした事を調べずして、税を幾ら取るかは決められない。
貴族達にしてみれば自分達の領地を調べられるのは嬉しい話ではないが、だからといって調査をせずいきなり無理な税額を言われても困るので、受け入れざるをえない。
さて、そうやって調査にあたる中、調査の終わった貴族から「村の住人が消えた」といった情報が上がってきたらどうだろうか?
果ては調査という名の追及を貴族に行った所、当の貴族当人さえ一族共々忽然と姿を消したりしたらどうなるだろうか?
当初、王国側はこう考えた。
『逃走して、どこかに隠れ里なりを作っている』
ある程度まとまった数となれば、早々隠れ潜む事は出来ない。なに、すぐに見つけられるだろう……。
しかし、当り前だが見つからなかった。
こうなると、王国側も本腰を入れた調査を行い、そうした中で偶然から掴んだ情報が「村人達が消える前におっきな竜を見た」という目撃情報だった。それも一件や二件ではない頻度であり、情報が集まるにつれて「同じ竜なのではないか?」、そう考える者が増えていった。
そんな中、元帝国貴族の中から裏切り者が出た。
より正確に言うならば、王国側に積極的に媚を売って、取り入ろうと考えた者であり、知り合いの元貴族からの誘いに乗った振りをして、王国側に情報を売った訳だ。もっとも、一概に話を持って行った元貴族を責める訳にはいかない。
話を持って行っても大丈夫だと確信出来るような人材には既に話を持って行っており、今は「多少リスクがあるけれど、可能性がある貴族」に話を持って行っている状況だったからだ。更に言うなら、今も貴族の側の方が人員的にも有利だった。
結果として、『悩んだ末に、自分達は行かないが移住を希望する者達を連れて行く事は許す』という態度を見せ、しかしその実連れて行くはずの移住者達は実は、という訳だ。
(さて、どうするかね?)
王国側の攻撃はなかなかに派手だった。
派手なだけだが。
とはいえ……竜との交戦経験を持つ王国がただこうやってただ歩兵のみで戦っているだけとも思えん。となると単なる時間稼ぎか。
そう判断して探ってみれば、なるほど、砲撃が準備されている。
幸いにも今回、本当に移住を希望する者も、勧誘に動いている元貴族もおらん。なら、少し体験してみるのも手か。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
もう少しだ。
王国軍からすればそれまで動くな、というのが内心の気持ちだった。
帝国がどうやって竜、それも最低でも上位竜を手なずけたのか、或いは協力を得たのかは分からない。
しかし、そんな相手が早々いるとは思えない。
『おそらくこの一体だけ』
それが王国軍の推測だった。
調査にあたっていた密偵も内部に潜入に成功した者はいても、どこに帝国が逃れたのかの報告がぷっつりと途絶えている。おそらくはこの竜に見破られて、殺られてしまったのだろう。ならば、そうした者達への弔いの為にもこの竜を倒す!
そう思って、攻撃を準備していた。
幸いにも、眼前の竜はこちらを侮っているのか攻撃を回避する様子もない。
(馬鹿め、その余裕が命取りだ!!)
そうして、攻撃の準備が整った。
「撃てえええい!!!!」
対竜砲撃が放たれ、直撃!すると思った瞬間だった。
『まあ、こんなものか』
「え……」
竜の眼前で砲撃が停止していた。
一発だけではない。五発放たれた攻撃、その全てが空中に光の玉となって停止していた。そして、口を開くとその口内に光の玉の全ては吸い込まれていった……。
唖然、呆然といった王国側をちらりと見た竜は翼を広げた。
『竜もどき程度には確かに十分だろう。とりあえず移住者はおらんようだし、これにて失礼する』
そう告げて、悠々と飛び去ったのだった。
尚、当初は王国はこの事を『人さらいの竜』として、さらわれた者はどうなったか不明という事実ではあるが、不安を煽る内容として広めるつもりだったのだが……さる事情から『伝説の物語に出てくる人の都で暮らしていた竜』として知られる事になる。その裏には某料理長の『兄をそんな風に言われるのは許せない』という気持ちがあった事を知る者はいない。
気温、一時に比べれば大分マシになった気もしますが、まだまだ寒い日が続きます
皆さんもお気をつけて
昨日は岩盤浴行ってきましたが、なかなか汗が出ませんでした。体内結構冷えてたって事なんでしょうねえ




