第七話:最初の生存者
今頃気付いた事
なろう大賞10万字以上に今月末までに到達せんとあかんのか……
現在55000ぐらい
……あと一月足らずで今の倍近く……?(汗
ギルドはキアラとテンペスタによる連絡にかかる時間として丸一日を取っていた。
無論通常用いられる下位の飛竜でも到着だけなら一日もかからないし、より上位の竜であるテンペスタがそれより早く着けるのは確信していたが、当然ながら長距離を移動すれば疲労が溜まるのはどんな生物とて変わらない。
長距離を飛行した後はしばらくゆっくり休み、それからまた飛ぶ。
もし、時間的に夜になりそうならば翌朝出立する。それが通常の下位の飛竜を用いる場合のやり方であり、今回テンペスタにもそのルールが適用された訳だ。
何しろ、無理をする意味がない。
ギルドの長達もさすがにキアラとテンペスタだけで火竜一体に暴食竜の群を同時に相手させる気は毛頭なく、送り込む部隊と連携しての迎撃戦を考えていた。その為にも、下手に無理をさせて計算が狂ってしまう方が困るのだ。
ただ、想定外だったのはテンペスタの飛行速度だっただろう。
この世界の魔法とは属性の操作にその根幹がある。属性を精霊と言い換えれば分かり易いかもしれないが、竜の場合、魔法を使用する場合には自らの持つ属性によって直接自然の属性へと干渉し、魔法を発動させている。
これに対して、人が魔法を使用する場合、人は属性を持たないので魔力で持って属性に間接的且つ強引に干渉する事になる。
根本的にそれぞれの持つ魔力量に差があるのに加えて魔法を用いる際の消費量も持続性も段違いだ。前者が殆ど魔力を用いないのに対して、後者のやり方は極めて無駄が多い。
この事が一般どころか専門家にも知られていないのは一重にこれまで人と共存した竜が語らなかった為だ。
知性がない竜は言うに及ばず、人と契約や約定を結んだ竜王なども敢えて語る事はなかった。……魔法発動の理論を研究している変わり者の竜王など世界中探しても殆どいない、というのも大きいが。テンペスタもそうだが、竜自身にとっても実益のある魔法の改良というものに手を出すのが一般的で、何故魔法が発動するのか、人との違いは何なのか、といった事に手を出す竜はさすがにそうそういるものではないのだ。
結果として、テンペスタは己の持つ風の属性を用いて魔法を使用し、その補助によってギルド側の想定よりはるかに早く到着した。
しかも、全く疲労していないというおまけつきだ。だからこそ、キアラもセーメの街へと寄り道をする気になった訳だが……。
「……酷い、ね」
『確かに暴食竜というのが通るとこんなになるんだねえ』
反応は多少異なる。
上空から見下ろしたセーメの街は荒れ果てていた。
この街がほんの少し前、十日程前までは穏やかで美しい街並みが広がり、大勢の人で賑わっていたなど誰が信じられるだろうか。
暴食竜と思われる死骸は確かに存在している。
だが、いずれも早くも腐りきっていた……。
通常の竜種はこのような事はない。例え下位の竜種であっても元々魔力に満ちた存在、肉でさえ放置状態でも一月は食用に足る。……美味いかどうかはさておき。
だが、歪んだ成長を果たした暴食竜の場合、その肉体を強引に『食事』によって補充した魔力で補っている。その為に、死亡によって魔力の補充が切れた途端に肉体の維持が不可能となり、極端に魔力の不足した肉体は異常な速度で骨まで腐敗する。
それは土地も同じであり、魔力をガルジャドによって食い尽くされた土地も腐敗してしまう。
故に……。
「匂いが酷いね」
『少し待って』
上空にもその腐敗臭が漂ってくる。
思わず顔をしかめたキアラだが、それもテンペスタが魔法を用いたのだろう、すぐに消えた。
「……便利だよね」
『?そうだね』
キアラ自身は長時間持続型の魔法をこうもあっさりと用いる事に対しての呟きだったが、テンペスタは当然の事を何故言うのだろう?と不思議そうな声で答えた。キアラの呟きももっともで、人であればこのような場合は魔法ではなく、香草などを仕込んだ口元を覆うタイプの仮面などで対応するのが普通だ。
とはいえ、そこら辺の事情は今更の事と飲み込んで、キアラはテンペスタに高度を落としてくれるよう頼む。
着地する気はないし、テンペスタにもその気はないだろう。
竜はその飛行において下位の竜であっても無意識の内に己の属性を利用する。ただ翼だけで飛行するには竜の肉体は大きすぎ、重すぎるからだ。
その中でも最も飛行に向いているのは実は風と地だ。
風は分かるとして、地は疑問に思う人もいるだろうが、重力もその属性に属していると言えばわかってもらえるだろう。結果として現在、テンペスタはその硬質感を漂わせる翼を羽ばたかせる事もなく、無論音もなくその高度を下げていた。
「誰かいますかー!」
テンペスタの力によって拡声されたキアラの声が街に響く。それを幾度か繰り返しながら街中を移動する。
「……どう?」
『都合四名って所だね』
目立つ所にいる者はさすがに既に拾われているだろう。
動ける者は既に脱出しているだろう。
大きな怪我をしていた者は既に何日も過ぎた今、この中で生き残れるとは到底思えない。
従って、キアラは現在街中に残っているとしたら軽い怪我であっても足などを怪我した事で動けないか、或いは地下室などに隠れたはいいが瓦礫などで閉じ込められているか、もしくはそれ以外か、いずれにせよ今更自分が声を掛けただけで出てくるようなら、それが可能なぐらいなら既に何らかの反応を見せているだろうと判断していた。その為、自分は声を出すに留め、探知はテンペスタに任せていた。
そして、テンペスタは音を集めると同時に熱を探り、自分が感知する事が出来た対象をキアラに伝えた訳だ。
「よしっ、じゃ順番に助けていきましょう!……乗せられるよね?」
『了解、まあ、大丈夫だと思うよ』
重さよりむしろスペースの問題でちょっと心配そうなキアラだったが、こればかりは助けてみなければ分からない。
全員横にするしかない、というのでなければ何とかなるだろう。
横になるにしても、小さな子供だけというならテンペスタの背に乗せる事も可能かもしれないが、大柄な成人男性ばかり、となったらさすがに厳しい。とはいえ、テンペスタに大人の男性や小柄な子供かどうかまで判断して、というのは無理な話だ。根本的にサイズが違いすぎる。テンペスタから見れば、大人も子供もサイズ的には似たり寄ったりだ。
「で、一番近いのはどこ?」
『こっち』
上記に加えて健康状態も判断できない。
故に順番に行く事にしたキアラだった。
最初に到達した場所は……崩れた家屋だった。
『この建物の地下に二人』
「ふうん、じゃあ地下室に閉じ込められてるって所かな」
幸い崩れただけで食い荒らされてはいないようだった。
テンペスタ曰く『火の属性がちょっと強め』らしいので、おそらく火竜ウルフラムの火炎弾辺りが炸裂し、それが原因で岩を積み上げただけの建物が崩壊したのだろう、とキアラは推測した。結果、地下室から出れなくなったのであろうが、おそらくはウルフラムの攻撃が為された事でガルジャドが嫌がったのであろうから、結果から見れば良かったというべきだろう。
他の竜の属性に染まった魔力はガルジャドは嫌がるからだ。まあ、それでも食うものがなければ食うのだが、他に食うものがある時にわざわざ嫌いなものを食べる気にはなれなかったという事か。
「どけられる?」
『任せて』
ふわり、と今では瓦礫と化した家を構成する石くれが宙に浮く。
それらが風に押されるようにゆっくりと移動し、少し離れた場所に積み重なるようにして再び地へと落ちる。
間もなく……。
「あれかな?」
そう呟いたキアラが地上へと降り立つ。
この辺りはガルジャドが近づかなかった為に地面も瓦礫はあるものの、汚染されてはいない。
テンペスタが覗き込むように首を伸ばして見ている前でキアラは軽く手で落し蓋と思われる木の板を払い、ノックする。
「誰かいる?救助に来たの、開けるわよ!」
こうして声を掛けるのはキアラの苦い思い出故だ。
彼女が冒険者となって間もない頃の事、既に戦いに関しては一端の腕を認められていた彼女が請け負った仕事が盗賊団の退治だった。
ある裏街道一帯を縄張りとしていたその盗賊団に浚われた人々からの救出依頼を受け、テンペスタのお陰でさくっと全員捕縛した、そこまでは良かった。
捕らわれていた人々を救出するべく、閉じ込められている建物へと向かった時の事。
気軽に鍵を開け、扉を開けて入ろうとした時、その時使っていたマントがドアの脇にあった藪に引っかかった為に……命拾いした。
彼女が進みかけて、マントが引っ張られた為に足を止めた次の瞬間、そのまま進んでいれば自身の頭があった辺りを勢い良く棒が通り過ぎていった……。
そう、中にいた者の内の一人が、このままでは…!と思い定めて一か八かの脱出計画を考えていたのだ。
そんな事を考えていたのも時折、盗賊団の連中が一人二人やって来ては女性を連れ去ったりしていたからだというのは後に知った事。つまり、キアラが声を掛けずに入りかけた為に盗賊と勘違いされ、危うく助けに来た相手に殺されかけた訳だ。
おまけに、この後「失敗した!」と思った連中が死に物狂いで襲い掛かってくる始末……。
幾らキアラが詠唱破棄を前提とした魔闘士であるとはいえ、相手は救出対象。これが盗賊なら遠慮なく魔法を使っていただろうが、あんな混乱状況で下手に魔法を使おうものなら怪我人が出るのは確実。
結局、手を出すに出せず、『なんかにぎやか?』と、テンペスタが顔を出すまで揉みくちゃになっていた。あそこでキアラが怪我らしい怪我をせずに済んだのは運と、後は彼らが捕らわれていた間に体が弱っていたからにすぎない。
それ以後、キアラはこうして救助の際も声掛けは徹底するようにしている。さすがに冗談抜きで命の危機に晒されて、二度も同じような体験をしたいとは思わない。
しばし待っても返事は返ってこなかったが、その間にぱっと罠を念の為だが確認する。ないとは思うが、念の為だ。
そうして、そっと落し戸を開く……。
「誰かいる?」
そっと声をかける。中は予想通り暗く、一旦下がると手頃な木切れに火をつけようとして。
ボッ、と瞬時に火が着いた。
どうやら傍らのテンペスタがちら、と視線を向けて対応してくれたらしいので「ありがとう」と礼を言い、再び戻る。
落し戸の中を改めて覗きながらゆっくりと入る。
くるり、と火を回せば……一瞬見えた人の足。
「そこにいるの?」
そちらへ火を向ければ、そこには……二人の子供。
片方は十代前半、もう片方はまだ十にもなっていないだろうか……。
「お、お姉ちゃん、だ、れ?」
かすれた声で年長と思われる少女が声を発する。すぐに咳き込んだ所を見ると、喉が乾いているのか、と気付き慌てて駆け寄る。
……考えてみれば、何日もここで隠れていたのだ。おそらく食料庫代わりに使われていたと思われる場所故、食べ物はあったのだろうが、さすがに水まではなかったのだろう。
水分の多い果物などを齧ってもたせたのかもしれないが、それとて限界がある……。
駆け寄ったキアラは水筒からゆっくりと二人の口元に水を零す。
かさかさに乾いた唇を水が湿らすと殆ど条件反射のように口が動いて水を飲み込む。
少し垂らし、また垂らす。
幾度か繰り返した頃、ようやく少女の意識がはっきりしてきたようだった。
「大丈夫?」
「は、い……」
どうやら、幸いな事に二人共命には別状はなさそうだった。
「……あれ?お姉ちゃん、誰?」
おそらく姉妹なのだろう、よく似た顔立ちの妹の方から先程の姉と同じ質問を投げかけられて、思わず苦笑が浮かぶキアラだった。
助けに来た、という事を告げ、どうやら妹の方は体力がまだ残っているらしく自力で歩けるようなので姉の方を抱き上げる。
……おそらく、僅かにあった水などは妹に与えていたのだろう。
キアラとて女性だが、冒険者は体力が資本である。幾らドラゴンライダーとはいえ、少し全力疾走した程度で息切れを起こしていてはまともに戦えない。最後に物を言うのは矢張り体力、という事でキアラとてそれなりに鍛えており、少女一人を抱えるぐらい軽いものだ。
ただ……。
『大丈夫?』
地下室から出るなり、ひょい、と顔を近づけてきたテンペスタの顔を見た姉は……。
「……きゅう」
と短い声を出して気を失ってしまった。
それを見たキアラは内心で「しまった……」と頭を抱えていた。
よく考えてみれば、竜に襲われて壊滅した街なのだ、ここは。
キアラにはテンペスタが心配そうな顔を浮かべているのも分かるし、声も聞こえた。
だが、それはキアラの心がテンペスタと通じているから、の話。普通の人間から見れば、厳つい巨大な竜が唸り声を上げて目の前に鎮座しているのだ。気を張っていたなら彼女ももう少し気丈な反応を返せたかもしれないが、ようやく助けが来た、という事で張り詰めていた緊張の糸が解け、外の太陽の光の下で最初に見たのがテンペスタの、竜の顔だ。気絶も当然の話だろう。
妹の方が「わー!すっごーい!おおきー!!」と目を輝かせてテンペスタの顔を触っている方が珍しい反応だと言えるだろう。
『どうしたんだろ?』
「うん、まあ、さすがに驚いたんじゃない?」
分かってなさそうなテンペスタに乾いた笑いで返すしかないキアラだった。
【ドラゴンファイルNo.3】
飛竜ウォーキス
・脅威度:G
・討伐難易度:G
貴重ではあるが、比較的人族の勢力圏でも見られる下位の飛竜。
きちんとした調教を行えば人を乗せて運んでくれる為、貴重な連絡手段として各国の王家などの直属の組織が保有している事が多い。
残念ながらサイズの関係上、人一人+α程度の荷物を乗せて飛行するのが精々なので大量運搬手段としては用いられる事はない。
見た目は皮膜状の翼の生えた羊、といった外見で基本草食性。
見た目こそ羊に似ているが実際にはその全身を覆う毛状のそれは鱗が変質したもので手触りは割と硬質。
かつてはその外見から竜ではなく、魔獣の一種であると考えられていた。
区切りを優先して先アップ
うーん、早くテンペスタにもアバレさせてあげたいんだが……今しばらくお待ち下さい




