ルナ日和2
えー……寒さに負けました
なんで、エアコンもホットカーペットも故障すんだよおおお!!!
「貴方達が移住希望の方ですか」
「え、ええ。そうです」
ブレイズ帝国の重鎮アルジャンセン公爵からすれば相手は(見た目は)まだ若い女性ではあった。
衣装も豪華な公爵に比べて、良く言えば実用的、悪い言い方をすれば質素でもあった。
「侯爵位を持たれるレグザ王国の建国期よりあり続ける王宮料理長。噂はかねがね聞いております」
しかし、公爵の側からすれば、自分達は既に滅んだ国の公爵。
相手は帝国の同盟相手でもあり、今も尚大きな国力を持つレグザ王国の、それも建国来よりあり続ける王室とも密接な関わりを持つ大侯爵と呼んでもいい相手。
到底大きな態度に出れる訳がないのもまた理解していた。
最初に彼女が訪れた時、門番は貴人に対する行動としてはかなり失礼な態度を取ったらしい。
もっとも事情を知れば、公爵としてもそれを罰するつもりはなかった。いきなり若い女性が一人で、先触れも供もなしに訪れて「アルジャンセン公爵はここにいますか。いるならすぐ会わせなさい」などと言われたら不審者扱いして当然だろうとは公爵でも思う。ただでさえ、反乱軍その他との関係で緊張状態にあるのだ。
『帰れ!公爵閣下は貴様のような相手とはお会いにならん!!』
それでも武器を向けはしたものの、暴力を振るうといった行動には出なかったのだから、褒められても良いだろう。
「そうですか、ではこの手紙渡しておいてください。私は帰るので」
あっさりとそう告げて差し出された手紙を警戒しながらも受け取った門番は渡された手紙を見て、硬直した。
きちんとした家の門番というのは実の所、貴族の紋章などにも詳しい。
当然だろう、やって来た他家の使いに対して、失礼な対応を取れば貴族自身の顔に泥を塗る事になりかねないし、相手次第では非常に拙い事になりかねない。考えてみてほしい、伯爵家にさる事情から公爵家がお忍びでやって来て、紋章を密かに見せられた。その時に紋章を知らなかった為に「とっとと帰れ!」と武器など向けたりしたらどうなるか?
当り前だが、要件など吹き飛ぶだろうし、雇われた貴族の家自体も公爵を怒らせるだけでなく周囲の貴族からバカにされて落ち目になりかねない。そうなれば門番など間違いなく首が飛ぶ。物理的なものになるかさえ運次第だろう。
門番とはまさに貴族の家における最初の顔でもある。
アルジャンセン公爵家の門番は職務に忠実であり、だからこそ紋章に関してもきちんと覚えていた。そう、渡された手紙に記されたのがレグザ王国の紋章であると即分かる程度には。
後は簡単だ。
『申し訳ありません、レグザ王国の使者の方とは露知らず!』
即行彼は頭を下げた。
見た目など関係ない。
正式な書類を持つ者こそが正式な使者となる。
ましてや、こんな非常時だ。だからこそ、敵味方を分けるのは使者の姿でもなく、恰好でも儀礼でもなく、「使者としての立場を示す書類」だった。
以後は言うまでもないだろう。即座にアルジャンセン公爵へと連絡が行き、ルナはレグザ王国の侯爵として奥へと案内されたのだった。
「門番の方には処罰などはないように。彼は職務を果たしただけですので」
「ありがとうございます」
最初はそんな言葉から始まった。
「さて、我がレグザ王国はあなた方を受け入れると正式に決定しました。ですので移住を望む方は他勢力よりの侵攻前に移動をお願いします」
「それはありがたい話です。ですが一つ問題がありまして、山脈を超えるには妨害する軍勢が」
「なくなりました」
「は?」
「消してきましたので、さっさと行ってください」
この時、アルジャンセン公爵の脳裏には「何を言ってるんだ、この人は」、そんな思いで一杯だった。
「その、消してきたとは一体」
「文字通りの意味ですが?」
「…………」
しばし考えたアルジャンセン公爵は傍と気づいた。
(そうか、レグザ王国が軍を動かして砦を破壊してくれたのか)
そう理解した(と思った)アルジャンセン公爵の対応は早かった。
「分かりました。では早速レグザ王国へ向け移動したいと思います」
やがて砦が見事なまでに破壊されている様を見たアルジャンセン公爵はレグザ王国軍の力に感嘆の声を上げたという。
……彼が真相を知るのはもう少し後、王と対面した時の事になる。
「いや、我が王国軍は一切動かしていないが……」
「は?」
「ああ……ルナ姉が一人で壊したんだろうなあ」
「……は?」
助けてー!おかあちゃーん!!
あんなの相手に出来るかああああああ!!!
逃げろ、蒸発するぞおおおおお!!!




