激動
昨年、一年ありがとうございました。
今年もよろしくお願いいたします。
「なんだと!?」
凶報は突然の事だった。
滅竜教団と連携を取り、竜との戦いを決意した国は中央大陸に三つ。
山脈に分断された三つの地域それぞれで、北から東部にかけて広がる地域に我がレグザ王国、北から西部にかけて広がる地域をブレイズ帝国、そして南部の蓮華連邦の三つだった。
我がレグザを含めた、この三つの国は多額の資金を投入し、滅竜教団の技術を大幅に導入。他国を圧し、順調に国力を伸ばしていた。
とはいえ、試しに戦ってみてもこちらの力が増大すればするほど、本物の竜というものがどれほど強大な力を持つか理解せざるをえない為にまだ時間がかかるだろうと思われていた。そんな矢先に、ブレイズ帝国が先走って竜に対して大規模な攻撃を仕掛け、敗北、壊滅したという情報が入って来たのだから驚かない方が無理だ。
「それで被害は」
「ブレイズの帝都は壊滅し、皇帝陛下は行方不明。おそらく亡くなられたものと……」
「研究施設やあちらに設けられた滅竜教団の施設も同じく壊滅。研究資料も大部分が失われたものと思われます」
「軍も帝都に詰めていた近衛はもちろんですが、帝国の第一軍から第七軍の七つの内五つまでが崩壊、残る二つが何とか部隊の態を保ち、帝国を離脱中との事です」
聞けば聞く程救いがなかった。
軍も司令官乃至副司令官が何とか生き残れた為に崩壊を免れただけで、戦闘集団としては壊滅状態。ボロボロの状態の軍勢を何とかまとめている状況だそうだ。
「加えて……」
今回ブレイズ帝国が帝都壊滅皇帝死亡(仮)となった為に、これまで征服してきた地域で一気に反乱が巻き起こったらしい。
「当然だろうな……」
時間をかけてその国の統治を受け入れさせていくのだ。
その時戦った世代ではなく、その次の世代。そのまた次の世代へと移り変わる内に自然とその国の国民となるよう教育し、統治してゆく。或いは明確な差をつけて心を折る、段階的な差をつけて忠誠を見せる事で他の者より良い待遇を与える事で彼らの分裂を図るなどやり方は色々だが、一つだけはっきりしているのは占領して間もない国では不満分子がまだまだ燻っているという事だ。
それでも力がある内は彼らは沈黙していた。
これらは早々に暴発した連中より性質が悪い。状況をきちんと見る力があった連中が、此度の大敗北で帝国が実質的な崩壊に陥った事でそれらが一気に「好機」と見て、反旗を翻した。
本来ならそれを抑えるはずの軍勢は近衛含めた八つの軍団の内、二つしか残っていない上、その二つも本来のそれに大きく劣る力しか残っていない。
それではあちこちで噴き上がった反乱の炎に抵抗する余地もなく、今は軍団は帝国の旧来の領地に戻り、要塞都市に籠っている状態だそうだ。
「それではブレイズ帝国は良くて元の領地を維持するのが手一杯か」
溜息が出た。
実際にはもっと国力は落ちるだろう。
皇帝のみならず、帝都そのものが壊滅となると皇太子ら諸共な可能性は高い。
となれば、後は残った帝室の血を引く連中による次期帝位を巡る争いだ。
(さすがに周囲が敵だらけという状況で互いに軍勢を率いての行動にまでは出るまいが……)
その分、内部抗争は熾烈かつ凄惨なものになるだろう。
遠く、望むべくもなかった帝位を手に入れるかどうかの瀬戸際だ。ましてや負けた時命が残っているかは怪しい……。
「……ブレイズ帝国は此度の協力体制の立場から転げ落ちた、そう判断して良かろうな」
「まことに」
ブレイズ帝国が此度のような行動に出た理由だが……どうやら焦っていたようだな。
現在、竜の力を用いた技術の内、最先端を走っているのが我が王国だ。少なくとも知る範囲では。
滅竜教団と協力体制を敷いたとはいえ、互いの軍事機密まで明らかにしている訳ではない。と、同時に竜と戦う以上、ある程度の手の内は互いに知る事が出来る。その情報に基づけば、我が王国に次ぐのは蓮華連邦という事になるだろう。
彼らは滅竜教団の武器、それらを更に洗練させ、更にそれを「大量生産」する事で竜に対抗を図った。
……蓮華連邦が王国に劣る、と称したのはそれらを王国もまた真似する事が出来るからだ。
機竜の開発には様々な技術が必要だった。そして、そこまで発展するためには膨大な基礎が築かれている。それらを駆使すれば間違いなく蓮華連邦と同じ事が出来る。そして、まず間違いなく蓮華連邦もまたそれを理解している。
理解した上で、あの国はそれを認めた。
機竜の開発には膨大な金と手間と人手がかかる。その分だけの見返りもあるが、あの国はどのみち山脈を隔てた上に多数の国を呑み込んだ両国同士が竜を倒す事に成功したとしても、その後立て続けに大陸統一目指して争う事はないと見切った訳だな。
事実そうだろうな。
我が王国は一気に大きくなった。
それが必要だったとはいえ、歪みは大きい。王国が本当の意味で大陸の三分の一を統治する国家となるまでには長い時間がかかるだろう。
蓮華連邦はそれまでにじっくりと時間をかけて開発するという道を辿った方が安上がりだと見た訳だ。
最前線を我が王国に押し付ける分は兵と兵器を多めに出すという事で折り合いをつける訳だな。腹が立たない訳ではないが、あちらの考えも間違っている訳ではない。機竜の存在を明らかにした時点では蓮華もブレイズも機竜に相当するものを構築していなかった。
今から機竜に相当するものを構築するには膨大な時間と手間と金がかかる。
金だけなら連中も惜しむまいが、時間はどうにもならない。
蓮華連邦はそれならいっそ今の方針を推し進め、同時に機竜の研究を開始。
今回の戦争には間に合わないならとすっぱり割り切って、そちらは「将来」追いつく事を目指したらしい。
逆に……焦ってしまったのがブレイズ帝国なのだな。
あの国は我が国にも蓮華にも遅れていた。
仕方あるまい。あの国のアプローチは我々と異なるものであり、それには我々の機竜以上の更なる時間と手間と金がかかった事だろうから。だが、同時にだからこそ私は期待もしていた。竜と戦い、その後、勝利するにせよ敗れたにせよその時、ブレイズ帝国の研究していた技術は輝きを増すはずだったであろうから。
「それでも一部だけでも逃れただけマシか……」
ブレイズ帝国の皇帝は自らの国の崩壊が避けられぬと悟った時、滅竜教団の一部、そして自らの研究施設の者達を近衛の特に信頼出来る者達に託して皇女の一人と共に脱出させた。皇女の方が利用価値が他国にとってはあるからだ。利用価値が高い方が生き残れるだろうとそう考えて。もちろん、その価値を高める為に最重要の資料を持たせて。
まったく。
観測される竜の中でも最強の一角。
リヴァイアサン。
何故、そんな相手に挑んだのだ……。
「船か」
我が国も蓮華連邦も後に回していた。回さざるをえなかった技術。
何故滅竜教団がそれを彼らに託したのか、それを理解して欲しかったが……。
「対竜汎用戦艦。機竜技術と組み合わせる事は可能か?」
さすれば足りなかったものが補えるかもしれない。
もしかしたら、保険にはなるやもしれぬ。やらせてみるか。
「帝国の生き残り達を保護せよ。最低でも彼らの技術は確保するのだ」
「かしこまりました」
さて、賽の目はどう出る?
そう考え、私は玉座に背を預けた。
三国の一角が脱落しました
一応これまで登場した四大竜の場所は王国方面に大地、帝国方面に水
蓮華と王国の海沿いの境界付近に風、そして三国が接する中間地点に火となります




