クリスマス記念SS
本編には一切関係ありません
無事狩る事が出来た。
倒す事自体は問題はない。問題はこの魔獣はとにかく見つけるのが面倒だという点にある。
まず純粋に数が少ない。
次に一時的に活動する以外は仮死状態で眠りについている為、生物を探すような魔法では見つからないというのもある。かといって、普通の犬などを訓練して用いるにしても、仮にもこれは魔獣。通常の犬では仮死から目覚めた瞬間に逆に飼い主諸共ご飯にされてしまうのがオチだ。厄介な事に、この魔獣は戦闘力もそれなりに高いのだから。
「さて、それじゃ久しぶりに腕を振るいましょう」
そうルナは腕まくりをする。
『……それを喰うのか?』
「見た目は悪いけど、美味しいのよ?」
今のルナを見れば、昔からの知り合いや弟子達も驚くだろう。顎を外しそうになるか、自分が見た物が信じられないか。
というのも、ルナは普段は雄弁な性質ではない。むしろ寡黙な部類に入るだろう。そんなルナがこうして会話を交わしているなど滅多にない、だけではない。
「兄さん、そもそも料理なんてまともに食べたの相当昔でしょう?」
そう、ルナが料理を振る舞うのは自らの兄。巨大な竜だからだ。
『むう、確かに食ってはいないな。数百年は』
本当の意味で大人になった竜は食事を趣味や嗜好以外で取る事はまずない。
ある意味、それこそが本物の竜と下位の竜とを分ける決定的な差と言ってもいい。
「なら楽しみにしていて」
『……トカゲの肉まで食うのか』
「これも美味しいからね」
兄がトカゲと呼んでいるのも人族の間では竜呼ばわりされている相手だ。
下位竜の一体、蜜竜シュガーペグ。
見た目は黒い体に白い斑を持つ大きなトカゲだ。
はっきり言おう、見た目は悪い。
でもこのトカゲ、蜜竜などという名前の通り、蜜や甘い果実が大好物で森をうろついては大型の蜂の巣から蜜をすすり、果物を喰う。
それだけなら蜂にとっては大迷惑だが、この竜は蜂と共生関係にあり、蜂から蜜を貰う代わりに巣を襲撃から守る習性を持っている。本当の所は単に自分のご飯の得る縄張りを守っているだけじゃないかとは思うのだけど、肉は柔らかく、香り高く、調理方法次第で甘い匂いと味を持たせる事も出来れば、柔らかく僅かな甘みを持つジューシーな肉にもなる。
これと先に述べた魔獣を用いて料理を作る。
シチュー。
ステーキ。
その他諸々。
シンプルだが、ルナの手にかかれば極上の美味になり、ごちそうになる。
『ふむ、良い匂いだな』
「兄さんの場合、料理としての匂いとして指している訳じゃないのが癪にさわるわね……」
それこそ人が花の香を嗅いで評するように言っているのだろう。
空中に炎を浮かべ、調理を済ませてゆく。
この場を見る人族がいない事もあり、どんどん力を活用して料理を作ってゆく。さすがにこの時代に上空三万メートルの彼方を見れる者はいないだろう。
「さあ、どんどんめしあがれ」
そう言われて料理を口にしたテンペスタはぼそりと呟いた。
『理不尽だな』
「何が?」
『何故昆虫のような見た目で肉があって、おまけにこのとろけるような旨味があるのだ?』
「魔獣だからじゃない?私達も大概おかしな生物だし」
それもそうか。
そうテンペスタも納得した。
ルナが狩って来た魔獣、その見た目はどう見ても巨大なアリジゴクに触手をはやしたような代物だった。
これでも人族の間では滅多に食えない美味な食材として知られている。
『よくこんなもの食おうとした奴がいた者だ』
「それには賛成かな?」
お陰で、これが食べられる食材と分かってるんだから私としては有難いんだけど。
そうルナは内心で呟くのだった。
何となく、他の方のクリスマス記念など読んでる内に書きあがってました…




