会談
職場の後輩が泊まりで遊びに来てくれたのはいいけど、この年になると若い奴の体力に付き合うのは疲れが出ます……
大学時代の友人と久々の飯も重なったので疲れで寝込んでました
案外早かったな。
それが自分ことテンペスタの感想だった。
今、目の前にはオーベルニエ帝国の宰相が謝罪の為に来ている。
竜を崇める部族の連中は若いとか、若すぎないかとか言っていたが、年齢が二十だろうが八十だろうがそんな大した差などない。
重要なのは相手が宰相、という地位にある相手を送って、謝罪に来たという点だからだ。
まあ、何故自分がと思わないでもないが、これには事情がある。ボルシオン火山の主とでもいうべき、というかそうとしか言いようのない大火竜サラマンダー殿はろくにマグマの奥深くから出てこない。今回も事前に頼み込んで宰相が来た時に何とか姿だけは見せてもらったが……。
『後は任せる』
これだけ言ってまた潜ってしまったからな。
もっとも、帝国の宰相達にはこれで十分だったようで宰相当人は顔を強張らせたぐらいで耐えたが、随員には気絶した者が続出した。
さて、そうなると誰かが交渉を受けなければならない、訳だが。
まず、竜を崇める部族達は「畏れ多い」と逃げた。
うん、逃げた。
なにせ、彼らは大きな国とのこうした交渉はやった事がない。それを引き受けて、失敗したら、竜の方々にご迷惑をと考えてしまったようだ。気持ちは分からんでもないので無理にとは言えなかった。
そして、やった事がないというのはボルシオン火山の他の竜達も同じだ。
竜達というのは世捨て人と同じだ。あくまで個体個体で暮らし、例外的にこのボルシオン火山のような火の属性に満ち溢れ、大火竜サラマンダーという圧倒的なボス的存在がおり、加えてそのボスが普段はマグマの奥深くで微睡んでいて地上で同族が暮らしていようが気にしない、なんて特殊な場所では共同生活を営んではいるが竜王級の個体が複数暮らしている場所は世界を探してもここぐらいだ。
上位竜ならまだそういう場所もあるが、それにしたって人と交流するのは精々村の猟師達や子供相手ぐらい。国家相手の交渉なんてやった事がある訳がない。
つまり。
今回みたいな事案を引き起こしておきながらここの連中は「きちんと謝ればいい」ぐらいにしか考えておらず、かといって儀礼というものを整えてやってきた連中の意図が理解出来る程度の頭はあり。オーベルニエ帝国の使節に対して、どう対応したらいいのか、どういう交渉をすべきなのか分からなかった訳だ。
お陰で、自分が対応する羽目に陥っている。
(こっそりでも聞いてるだけマシか)
気にはなっているんだろう。人族からは見えないようにしてはいるものの聞いてはいる。
それに押し付けた以上、文句を言うなと確認はしている。言わせるつもりは毛頭ないが。
『するとオーベルニエ帝国側は今回の一連の件は全面的にそちらが悪かったと認めるという事で良いのかな?』
「はい、そもそもは国の了承も得ずに軍を動かし、戦争を起こすという我が国の法においても叛逆罪に問われてもおかしくない話。責任者の処刑、関わった貴族は首謀者の一族は爵位剥奪、財産没収の上で国外追放。他の者も関わっていた度合いに応じて爵位を下げる、領地を一部没収する、罰金の支払いなどを行う事をお約束します」
ふむ、全面降伏といった内容だな。
もっとも裏も考えるべきだろうが。
『なるほどな、そしてそちらは反抗的な貴族を減らし、国の権限を強化。没収した資産で今回の損失の穴埋めといった所かね?』
周囲にいる竜達にも聞こえるように敢えて声にして言ってやる。
……一部のバカが怒って飛び出そうとしたり、怒鳴ろうとしたり、殺気を出そうとしたので止めておいた。
相手にも利があればこそ、きちんと行うだろうと確信出来るというものを。大体、事件を起こした責任者は処罰されるんだからそれで良いじゃないか。まあ、そこら辺は「あとでせつめいしてやろう」。懇切丁寧に、じっくりとな……。逃げられると思うなよ?
毎回こっちが対応するなんぞ出来る訳がないからな。
「さて、そこはご想像にお任せするという事で」
周囲の竜達に比べ、こっちはさすがだな。冷静なものだ。帝都を襲った巨大な竜の一体の前にいるというのに、平然としている。例え見かけだけのやせ我慢だとしても大したものだ。周囲にいる他の者など青ざめているぐらいで済んでいるのはまだマシで、蒼白になっている者や気を失っている者、果ては失禁している者もいる。
そうした者が出た時にこちらが『気にするな』と言っておいたから、いちいち起こすのは面倒と判断したのか放置されているのがまた哀れだな。
『しかし、果たして処罰される貴族達が素直に従うのかな?』
「それに関してお願いがあるのですが」
ほう?
なかなか図太いな。さすがそれなり以上の大きさの国で宰相となるだけは……ええい、貴様らは黙っておれ!!
力はともかく、交渉といった経験が皆無なせいでこういう事に関しては子供と変わらんな。
いい加減面倒になったので盗み聞きしている連中(交渉の勉強とは言えん)に関しては大人しくさせておくか。よっと、これでよし。
『してどのような事だ?』
「はい、処罰が竜からの正式な条件だという話にする事を認めて頂きたいのです」
なるほど、きちんと責任者達を厳罰に処する事。それが竜からの正式な条件とすれば恐怖を味わった帝都の貴族達や民達は内心どう思おうが表向き従うか。
主要な貴族や帝都の騎士団が従うとなれば、幾ら地方の有力貴族であっても抵抗は不可能……。
逆に竜からの正式なものでないとなれば、表立ってはともかく裏で非協力的な行動に走る者も出るか……地方の有力貴族となれば主要貴族に伝手や縁戚がいる者もいるだろうからな。
『よかろう、ついでだ持っていけ』
そこらの石を属性で加工し、力を籠める。
とりあえず見た目は赤みがかかった結晶を竜の置物に加工したような見た目……何故か自分の鱗に似ている気もするな。
「これは?」
『それを示した上で尋ねるがいい。その約束を守らぬ者がいれば』
「……いれば」
敢えて答えずおく。
ま、これで察してくれよう。
『だが、気をつけろ。それはお前が約束を守る限りはお前を守るが、破ろうとした時には逆に貴様に牙を剥く事になるだろう』
「心しましょう」
交渉終わったからといって抹殺するような馬鹿がいたら面倒だしな。
竜の前に出る度胸はなくても、同じ人族なら暗殺出来るような輩もいるだろう。
……いつの時代も人は変わらぬな。
立ち去る宰相を見送りながら、此度用いられたという兵器に思考を巡らせる。上位竜すら貫く程の攻撃か。もし、それが量産可能となれば……。
オーベルニエで量産されていない事と、あれが量産されていない事はイコールではない。厄介な事になるかもしれんな。しかしまずは。
『さて、交渉の邪魔をしようとした馬鹿竜ども。きっちりしつけてくれる』
休みなのに、休んだ気がしねえ
とりあえずは更新です
ワールドは間に合うだろうか……




