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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
67/211

顕現

明日はワールドネイションを更新予定です

というか、新版を投稿予定?

 竜達は待った。

 彼らとて人族を滅ぼしたいと望んでいる訳ではない。

 だが、当初考えていた話は次第に過激化しつつあったのも確かだった。しかし。


 「人族共は何を考えているのだ!!」


 そういう声がどんどん大きくなっていった。

 街一つを滅ぼし、頭を下げてくるなら許してやろう、そんな考えが当初は支配的だったし、時間にした所でもう少し長い時間を考えていた。

 だが、そんな考えは他の竜達の支配地を巡るごとにどんどんヒートアップしていく事になる。

 竜の住処を荒らす、そんな動きを各地の竜の下を訪れた彼らは幾度も目にし、耳にした。

 下位竜と上位竜の間には明確な差があるとはいえ、下位竜の内、属性竜に関しては長い時間をかけて上位竜へと変わる個体もいる。そうした竜や龍の住処が急速に荒らされている現状を各地を回った竜達は否応なく見せつけられる事になる。

 そうなってくると竜達も不満が溜まって来る。

 

 『俺達の方が昔から住んでたのに何で邪魔者扱いされにゃならんのだ』


 分かりやすく言えばこういう事になる。

 憤懣を戻って来た竜がぶちまければ、他の竜達にまでその怒りは広がる。

 他の地に住まう竜達も知らぬ竜はそうした話を聞いて、実際に荒されている竜は同感の気持ちから怒りを募らせる。

 結果として……。


 「そんな……」


 帝都に住む住人の一人が絶望の声を上げる。

 空を見上げる誰もが絶望の表情を浮かべ、滅竜教団の者でさえもその中には含まれていた。


 「はは、なんだこの竜の群れは」

 「赤に青、黄色。あっちは紫、白、緑。綺麗だな」

 「なんだ、これ、なんなんだよ」


 火竜、水龍、雷竜。毒竜に雪龍、地竜。

 様々な属性の竜や龍達が群れをなして、王都の上空を占拠していた。

 見た目は色とりどりの竜達の鱗に陽光が反射して綺麗だが、それが無数の竜や龍によって為されている光景である事。更には先だってから広がっていた竜によって街一つが滅ぼされたという噂、更に最近になって急速に広まりつつある、この国の貴族が竜達を怒らせたという噂。二つが合わさり、王都の住人達の不安が急激に増大していく。

 そうして、その不安が高まった中。

 

 「うあ、ああああああああっ!!」


 一人の男が恐怖から悲鳴を上げて逃げ出した。

 それが引き金となった。

 元から破裂する寸前の風船、引きちぎれる寸前の紐というべき状態だったのに、最後の一押しが加わってしまった。


 「にげ、逃げろおおおおおおッ!」

 「殺される、殺されるんだ!死にたくないっ」

 「ひッ、ひいっ、嫌だ、嫌だ嫌だあああああっ」


 一旦パニックに陥った民衆は誰彼構わず押しのけ、我先に逃げ出そうとする。

 逃げ場がどこにあるというのか。

 ある者は帝城なら堅そうだと我武者羅に目指そうとし、またある者は滅竜教団の所へと駆ける。またある者は王都の外を目指して門に向かって駆けるとてんでんばらばらに動き出した上、恐怖によってパニックとなった彼らは誰彼構わず押しのけ、自分が助かろうと動く。結果。


 「あっ……ぎゃっ!踏むな、踏まないで」

 「ぼうや、私のぼうやはどこ!!」

 「き、貴様らやめろ!私を誰だと思って、道を開けぶげっ!」

 

 転倒した者はお構いなしに踏み躙られ、大混乱の群衆の中必死に繋いでいた手が離れた事で我が子を見失った母親が泣き叫び、集団という数が生み出した暴力に裕福な者も貧しい者も等しく呑み込まれていく。

 こうなってしまっては兵士とてどうにも出来ない。

 一国の帝都であり、貴族が多数集まっての会議が行われており、更に噂が広まった事で不穏な雰囲気が広まっている。こうした事情から通常より多めの兵士が街を巡回してはいた。

 だが。

 幾ら多いとはいえ、兵士の数は何千も何万も街を巡回している訳ではない。総数で言えば数百にはなろうが、全員が全員帝都を回っている訳でもない。今現在、帝都を巡回していた兵士の総数で言えば精々百といった所だろう。通常はこうした巡回も貴族街以外では行われる事はなく、街で困った事があれば衛士と呼ばれる帝室が雇用する帝都専門の警備兵が決められた駐留所や門にいるだけだ。今追加で回っている兵士は貴族が追加でつれてきた者達だ。

 それでも衛士と兵士、彼らが一塊にまとまっていれば何とかなった可能性はある。

 だが、現実には衛士も兵士も分散していた。精々、二、三名程度の少数で最低数十人からのパニックに陥った群衆を止められるだろうか?そんな訳がない。

 止めようと試みた者はいた。

 助けようと試みた者はいた。

 皆等しく暴徒同然の民衆に呑み込まれ、消えた。

 もちろん、こうした混乱に未だ呑み込まれていない場所もある。代表的な場所が帝城だ。滅竜教団?城壁も閉ざすべき門もろくに存在しない場所が暴走する民衆に雪崩れ込まれてまともに防衛など出来る訳がない。これが竜相手ならば勇敢に戦う者達であってもごく当たり前の民衆を片端から叩き殺すなどという真似などできるものではない。

 これに対して帝城は暴徒が押し寄せた段階で兵士を収容し、跳ね橋を上げた。

 結果として、押し寄せた群衆は後から後から押し寄せる群衆によって次々に水をたたえた堀へと落ちてゆく。

 

 「押すな、やめ、押すなって!うわああああ!」

 「がぼっ、たすけ、おれおよげな」

 

 この世界の住人というのは案外泳げない者は多い。

 なにせ、泳ぎを憶えるという機会自体が存在しないのだから、泳げる者など湖や海で漁をしている者や、そうした場所に発展した街で暮らす者を除けば、特別な訓練を積んだ兵士達ぐらい。水路とて浅い所で遊ぶ子供はいても深い場所で泳ぐような者はいない。

 かくして、堀に落ちた者は次々に溺れ死んでいった。もっとも多少泳げたとしても次々と上から新たに人が落ちてきて登ろうと試みる事も出来ないのだから無意味だっただろうが。

 こうした光景に帝城に勤める兵士も顔をしかめたが、跳ね橋を降ろそうという者はいなかった。降ろしたが最後、どうなるか分かりきっていたからだ。間違いなく群衆は城の中へとなだれ込み、最悪城内の宝物が荒らされ、貴族や王族が殺される事になりかねない。そもそも真っ先にあの群衆に対峙する事になるのは自分達だと分かっている。

 だから、跳ね橋を上げて閉じ籠った判断自体は正しい。

 けれども、この結果、貴族達も軒並み帝城から出られなくなってしまった。

 普通ならば落ち着くまで待っていればいい。こうした混乱が何時までも続く訳がない。何時かは収まる、もしくは兵士で鎮圧出来る規模の混乱に落ち着く。

 ただし、上空に竜や龍が乱舞している状況でなければ。


 「拙い」


 貴族の一人が焦った様子で窓から帝都の様子を見て呟いた。

 何時、竜達の攻撃が開始されるか分からない状況だ。本来なら迅速に皇帝や自分達の脱出を図らねばならない。なのに、帝城の外へ出られない。

 竜達が真っ先に攻撃する対象として、城が選ばれる可能性は高い。いや、というか怒りの矛先が真っ先に向かう先としては帝城はもってこいの場所だろう。何しろ目立つ上、竜達の所に攻撃するのに関係ある連中がいる可能性が一番高い訳だ。

 自分達は関わってない!などと叫んでも無駄だ。何せ、本当の意味でまったく関わってない訳じゃないからだ。

 はっきりと口にはしないだけで、知ってはいたが滅竜教団の武器の力を見るために黙っていた者や、金を積まれて少し援助した者、同じく金で黙っていた者は確実にいる。

 そして、その時が来た。


 「あ……」


 そう声を上げたのは誰だったか。

 天に輝きが増えていた。

 明々と燃える炎の球、鋭く尖った氷の槍、バチバチと音を立てる雷。

 それらが天空に次々と現れる。

 複数の竜達が協力する事で炎はより巨大に、氷はより多数が、雷は更に派手な放電を繰り返す。

 死。

 それを目にした誰もがそれを感じた。

 次の瞬間、それらは一斉に帝都へと降り注いだ。

 炎は帝都へ、無数の氷の槍と、拡散した雷は帝都全域へと降り注ぎ。


 「……あれ?」

 「……おや?」


 思わず目をつぶった者達が轟音も立てず、痛みも襲ってこない事に気づいて空を見上げる。

 そこにはうっすらと光るドームが空を覆いつくしていた。

 竜達もまた混乱していた。自分達の攻撃が突如出現したそれにぶつかった途端に綺麗さっぱり消え失せてしまったからだ。

 

 『やれやれ、間に合ったか』


 そんな声が響いたのはそんな時だった。

 人にも聞こえた。そして、竜にも聞こえた。

 通常の声ではなく、魂そのものに語り掛けるような、そんな声。

 全ての視線が吸い寄せられるように一方向へと向かう。誰もが、その声の主がそこにいる事を本能が理解して。

 そして、そこにいたのは一体の、一際巨大な竜。

 全身を赤みがかった結晶に覆われた巨竜だった。 

活動報告にも書きましたが、昨日ひどいこむら返りを久しぶりに体験しました

両足、それもふくらはぎだけじゃなく、太ももまで来て、しかもとにかく痛くて悶絶して動けませんでした

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