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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
66/211

惨劇は終わらぬか?

 オーベルニエ帝国は団結した。

 というより、皮肉にも竜の襲撃という情報が広まった事で貴族達は団結せざるを得なかったとも言う。

 竜の襲撃が行われたのが襲撃の中心人物だった辺境伯の領都や、それに協力した貴族、西部方面軍駐留の塞都に対して行われたのであれば彼らはそこまで焦りはしなかっただろう。その時は彼らはきっとこう考えていたはずだ。


 『バカ共の自業自得だ』


 しかし、襲撃が行われたのは西部方面に近いとはいえ、襲撃とは関係のない貴族の領都だった。

 確かに逃げ散った兵士の受け入れぐらいはしたが、同じ国の兵士だ。さすがに責任ある立場にあった者は捕らえねばならないだろうが、兵士達は基本命令に従って動いただけだ、それぐらいで竜に目を着けられて攻撃されたというのか?

 一部の貴族達や民衆にしてみればそんな気持ちだ。

 無論、もっと常識的な考えを持つ者達は一杯いた。


 『竜達からすれば同じ国の同じ貴族だ』

 『他国に攻め込んで、あれは一部の独断でしたと言っても納得してもらえるはずがない』

 

 特に上層部はそれをはっきりと理解していた。

 ボルシオン火山を国、人族達をそこに住む民とし、竜達を貴族と考えれば自国に対して攻め込んだ国に対して報復行動を行う事はむしろ当然だ。オーベルニエ帝国にした所で、他国が攻め込んで来たりしたら如何に相手が「いや、それは極一部の馬鹿達が暴走した結果でしてな」などと言った所で「分かりました、それなら仕方ないですね」などと納得などしたりしない。当然のごとく「関係ありませんな。あなた方は我が国に攻め込み、我が国の民を傷つけた。その責任は当然、そちらの国が負うべき事でしょう?」という事になるだろう。

 自国を馬鹿にした行動を取られたり、自国に対して攻撃と取れる行動をされて尚、処罰というべき行動を取らないとすればそれは単なる馬鹿か、自国内にその他国に通じる貴族が多数いるか、或いは相手がそれが許される程の大国であるかのどちらかだ。

 さて、ではそれに当てはめて竜達はどうだろう?

 間違いなく馬鹿でもなく、ボルシオン火山にオーベルニエ帝国に通じるような竜がいる訳もなく、オーベルニエ帝国と竜の集団では明らかに後者が上回る。

 せめて、前回のボルシオン火山への襲撃で竜が誰も傷ついていなければ、竜達は多少苛立ったかもしれないが、何とか収まったかもしれない。しかし、前回の襲撃で滅竜教団から提供された(実質的には奪った)対竜兵器によって竜の一体が傷ついた。

 それが決定的だったのだろう。


 「どうする?」

 「ボルシオン火山に謝罪の使者を」

 「馬鹿な、奴らに頭を下げろというのか!?」

 「ではどうする!次に竜が襲撃するのはこの王都かもしれんのだぞ!!」

 「それは―」

 

 喧々諤々。

 竜に頭を下げるのは嫌だ。

 でも、竜に襲撃されるのはもっと嫌だ。

 竜にお詫びの品を持っていくとして何がいいんだ?

 いや、そもそも頭を下げに誰が行くんだ。

 当然、今回の事態を引き起こした奴らだろう?

 いやいや、奴らが更に馬鹿げた真似を仕出かしたらどうする!

 せめて、議長役として亡き宰相がいればもう少し話は手早くまとまっていただろう。だが、今いるのは同格の大貴族のみ。「会議は踊る、されど進まず」という状況になり、収拾がつかないかに見えた。事実、もう何日も無駄にしてしまっている。


 「静かにしてくれ!!」


 そんな中、宰相の子息が叫んだ。

 宰相の家もまた大貴族であったが故に、彼は若手ながらこの場にいる事が出来た。生憎地位はまだこれから順次父である宰相が取り立てる予定だったのでそこまで高いものではなかった為に、また同じ家から宰相が立て続けに出る事を周囲が嫌った為にその地位に就く事は出来なかったが。 


 「こうして争っている間に王都に竜がやってきたらどうするのですか!まずは謝罪を行うべきでしょう!」

 「……だが、誰が行くのだ!!」


 そうだ、と声が上がる。

 正直、この場にいる誰もがそれは理解していた。だが、結局の所彼らの本音は『怖い』から行きたくない、というものだった。

 そりゃあそうだろう、誰だって怒れる竜の前に謝罪に行くなどしたくない。だが。


 「私が行きましょう」


 ただし、立候補がいればまた話は異なる訳だが。

 ただし、一つだけ問題があった。


 「ただし一つ条件が、私に宰相位を頂きたい」

 「「「「「なっ!!」」」」」


 一瞬怒号が飛びかけたが。


 「まさか、ただの何の位も持たぬ者が謝罪に行って、相手が納得するとでも?」


 そう続けられた言葉に沈黙した。

 また同時に投げかけられた「どなたか代わりに行かれる方がいれば、その方が宰相の位を持って行かれるのがよろしいかと思いますが?」という言葉に反応出来なかった、というのもある。

 ここで下手に頷きでもしようものなら、間違いなく自分が行かされると分かっていて、手を挙げられる者はいないし、確かに幾ら名門の貴族であっても何の地位もない若造の貴族がやって来ては相手が不快に思う可能性だってある。

 これがこちらが圧倒的優位に立っての事であればともかく、敗北したも同然の状態なのに、だ。反面、例え若かろうが相手が宰相という国でも王を除けば文官としてトップの地位にあれば交渉において出てくるのは不思議な話ではない。


 「それに長々と議論している時間などあるのですか?既に民草にはどのような噂が広まっているかご存知でしょう!?」


 当初こそ竜が襲撃した、という話が広まっていた。

 これは真っ先に情報を得た貴族達が積極的に情報を流した成果だ。竜が襲撃した、特に理由もなく、そんな情報を流す事で先に貴族が手を出したという情報を隠そうとしたのだが。生憎、民衆もそこまで単純な者ばかりではなかった。

 最初こそその貴族の思い通りに行っていたものの、その後次第に「何で襲撃されたんだ?」という疑問が自然と湧き上がってきた。

 問われた者、聞いていた者含めて「そういや……何でだ?」そう考える者は多かった。もちろん、中には考える事をやめて「竜に考えなんてあるかよ!」と怒鳴る者や、「そ、そりゃおめえあれだ。なんか俺らには分からねえ理由があったんだろ!」と誤魔化すために怒鳴る者もいたが、首をかしげる者は次第に増えていた。


 「なるべく急ぎ、竜に交渉を申し込まねばならないのです!」


 そう叫んだ時だった。

 会議室のドアが大きな音と共に開け放たれた。

 そこにいたのは必死に走って来たと思われる衛兵の姿が一人。

 貴族が何事かと叫ぶ前に必死の形相で彼は叫んだ。 

 

 「大変です!竜が……竜の群れが王都上空に迫りつつあります!!」


 会議室はパニックに陥った。

大変遅くなりました

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