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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
65/211

惨劇の光景

今回は残酷な描写があります

了解した方のみお進みください

 竜にとって、基本人がどこにいて、どこに所属しているのか。

 実はあまり関係がない。

 ボルシオン火山の住人ぐらいならさすがに共に暮らし、彼らを崇める一族である事もあって覚えている。竜というのは基本、頭は良い生命なのだ。通常は記憶力の問題などが生じる所だが、竜王ともなると単純に肉体の制約から解き放たれる為だろう。その記憶力はその気になれば人のそれとは桁違いのものとなる。

 ……そう、あくまで「その気になれば」だ。

 そして、生憎今回の人の都に関する襲撃において、彼らはいちいち調べようなどという気を起こしたりはしなかった。

 もし、調べる気になれば方法はいくらでもある。ボルシオン火山の人族達に聞くのもありだし、彼らと交易をしている商人に聞くのもいい。

 しかし。


 「同じ人族の街だろう?」


 竜達はそう考えた。

 無論、問答無用に攻撃した訳ではない。ボルシオン火山の民と交易している商人がいる可能性も考え、人族の言葉で警告を発した。


 『ボルシオン火山へと侵攻してきた報復として人族の街を攻撃する!』


 しかし、これで逃げ出したのはボルシオン火山と交易をおこなった経験のある僅かな行商人ぐらいだった。

 彼らは旅から旅をして稼ぐ商人だ。

 身代は小さいが、逆に言えば身軽だった。

 だからこそ、彼らは竜の恐ろしさを理解しており、知り合いに声をかけ、早々に街から離れた。

 もし、この街にせめて中堅以上のボルシオン火山と取引していた商人がいたら、彼らが逃げ出していたなら他の住人からも逃げ出す者がいたかもしれないし、領主に報告も行っていただろう。だが、生憎この街にそうしたそれなり以上に力のある者はいなかった。

 だからこそ領主も、そして街の住人達もこう考えてしまったのだ。


 「なあに、この街は火山に攻め込んだバカ達とは関係ないんだし、大丈夫さ」、と……。


 そして、それが間違いだった事に気づいた時には手遅れだった。

 



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「おかあさあああん!」

 「誰か、誰か手を貸してくれ!!親父が家の下敷きになってるんだ!頼む!!」

 「痛い、痛い、誰か助けて……」

 「うちの子は、うちの子はどこ!?どこにいるの!!」


 一つ舌打ちした。

 有体にいって今、街中で繰り広げられているのは地獄絵図だ。

 警告があった翌日。街は竜の攻撃に晒された。

 一体の攻撃なら滅竜教団が、滅竜教団から購入した武器で何とか追い払えたかもしれない。

 だが、相手は数十を数える竜だった。それも下位竜なんて知性の低い竜達じゃなく、最低でも上位竜という知性を持った竜や龍が確固たる意志を持って、この街を滅ぼしにかかってきた。こうなると最悪だ。獣同然の下位竜ならば多少打撃を与えれば厄介だと考えて、別の獲物を狙いに行く可能性がある。下位竜なら魔法を使ったりはしない。彼らの使うのは確かに魔法に似ているし、魔法と同じようなものだがある種の特異能力だ。それを応用し、工夫したりはしない。

 上位竜は違う。

 彼らはいずれも人族以上の頭を持ち、考えて行動する。おそらく先だってのボルシオン火山への攻撃に対して報復を考えた竜達がこの街へと攻撃を仕掛けて来たのだろう。


 (だが……!それならきっちり的を選びやがれってんだ!!)


 男は街の警らを行う衛兵の一人だった。

 だから多少は事情を知っていた。

 この国の貴族の一部が暴走して、ボルシオン火山へと軍を送り込んだのは兵士達の間では密かな噂になっていた。原因は極めて単純で、この街へと逃げ込んだ敗残兵がいたからだ。敗れた軍勢はもうその時点でてんでバラバラに逃走したらしく、男も我武者羅に逃げて、方向を見失い、最初に辿り着いたのがこの街だったという訳だ。薄汚れた、けれど国の兵士である事を示す鎧を着た男を保護して、話を聞いた時は男も、同僚も「なんでそんな馬鹿な事したんだ」と呆れたものだったが。

 まさか自分の住む街が襲撃の対象になるとはその時は想像もしなかった。

 竜達による警告が為された時、一部の者からは「お、おい逃げた方がいいんじゃないか?」なんて声も出た訳だが。


 「はあ?俺らがやった訳じゃないんだぜ?」

 「そうそう、何で逃げなきゃならないんだよ」

 「大体、逃げてどこ行くんだよ。俺ら仕事なくすぜ?」

 「なあに、竜達って賢いんだろ?なら、俺達がやったんじゃないって理解してちゃんとやった貴族を攻撃するさ」


 そんな風に考えた自分をあの時に戻れるなら殴ってやりたいと思う。

 きっと、他の同僚の衛兵達も同じだろう。

 もし、この時彼が衛兵の恰好をしていれば、きっと誰かにすがりつかれていただろう。周囲からは助けを求める声が幾らでも聞こえてくる。

 もし、この時竜の襲撃で街が紅蓮の炎に染まっていなければ、彼の顔が埃や煤で汚れていなければ顔見知りの誰かが気づいたかもしれない。衛兵というのは顔が知られている事も仕事の内、知った顔なら相手も気を緩めるし、相談もしてくる。

 だが、彼はたまたま今日は非番だった。

 だから独身の彼は気になる女の子を初めて誘いに出かけて、ものの見事に同僚の一人が彼女と仲良さそうに家を出る所を目撃したせいで昼間から酒場に入り込んでいたのだった。さすがに彼も何の気なしを装って、知り合いでもある同僚に声をかけて帰って来た答えが照れた様子での「幼馴染みなんだ」という返事や、彼の腕に手を絡める彼女を見れば関係なんぞ一発で分かる。

 彼に出来た事なぞ、精々たまたま目撃した振りを装って、「へえ、可愛い子じゃんか。いいねえ、彼女持ちは」と気のない素振りを装ってからかうぐらいだった。

 そうして、酒場で酒を煽ってる所で響いた轟音に思わずいつもの癖で店を飛び出したお陰で、彼は命拾いしたのだった。何せ、直後に店は炎の弾丸の直撃を受けて炎上、彼より後に店から飛び出してきたのは人の形をした炎の塊でしかなかったのだから。


 「畜生、親父、おふくろ、ライザ、無事でいてくれよ……!」


 両親と妹は家にいたはずだ。

 同じ衛兵だったが怪我で今は事務方に移ってそれなりに出世している父、商家の出身だった母。自分より一足早くそこそこ裕福な商人の所に嫁ぐ事が決まっていた自慢の妹。

 父はまだ帰っていないかもしれないが、母と妹は家にいたはず……!

 無事でいてくれ、そう願いつつ駆け戻った実家は倒壊していた。


 「おい、誰か、誰かいないか!?」

 「に、にいさ…ん?」


 その声が聞こえたのは本当に偶然だったんだろう。

 微かな声が倒壊した家の中から響いたのを彼は聞きつけた。


 「ライザ!ライザか!?生きてるんだな!!」

 「うん……でも、母さんが」

 

 自分を庇って崩れる壁の下敷きになったと聞いて絶句したが、まだ死んだと決まった訳ではないと気を奮い立たせる。


 「なに、まだ埋まっただけだ!今助けてやるからな!!」


 懸命に石をどけ、木をどけて掘り続ける。

 周囲に声をかけても無駄なのは分かりきっている。誰もが必死だった。これでも自分はまだ幸運だ、と考えるだけの頭が彼にはあった。現在、仕事に就いていた衛兵は家族の所に駆け戻る事すら出来ていないだろう。きっと振り解く事も出来ないぐらい街の者達に次々すがりつかれているはずだ。

 大丈夫だ、きっと助かるさ……!

 そして、その願いは半分だけ叶った。


 「兄さん……」

 「……大丈夫、大丈夫だ」


 きっと母が守ってくれたんだ。

 奇跡的に軽傷で済んだ妹に対し、母は事切れていた。押し潰され、ぐちゃぐちゃになった体の中で顔だけは綺麗に、その顔は娘を守れたと信じていたのか綺麗で、安心したような顔だった。

 泣きじゃくる妹を抱きしめ、その背を擦りながら彼にはそう呟くしかなかった。

 後に父も無事だった事が分かったが、彼のような幸運はほんの一握りでしかなく。両親を失った孤児、愛する妻も子も失った父親が多数この街からは生まれる事になったのだった。  


襲撃を受けた街の姿、でした

自分が聞いた某震災での知り合いの話のような展開も考えたのですがさすがにそっちは洒落にならないのでやめました

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