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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
61/211

兄妹の対策会議

大分涼しくなりました、皆さんも季節の変わり目だけに体に気を付けて下さい

 空中を漂う一個の結晶塊、に見える竜が一体いた。

 もっとも、この時代にその姿を見る事が出来るのは同じ竜だけだろう。鳥でさえこの高空には至る事が出来ない。地上からでは到底見えないし、そもそもこの場所は大海の上空だ。だからこそ、誰にも邪魔されずに思索に耽る事が出来る。

 

 (そもそも『属性』とは一体何だ?元素というくくりとは違う、そんな明確なものじゃない。意味はあるのに不明瞭、余りにも漠然としている)


 先日以来ずっとこの状態のテンペスタだった。

 テンペスタもまた竜王の一体、次第に思考に耽る癖が出て来たという事か。もっとも、そういう性質でもなければ長い長い寿命の大半をどう過ごすか、というのは大きな問題な訳だが。

 そんな思考に陥っていたテンペスタだったが、背中に軽い衝撃を感じ、ふと意識を思考の深みから上げた。


 「うん?誰か」

 

 そこにいたのは一人の少女。

 テンペスタの様子を見て、どこか不機嫌そうに呟いた。


 「私があれだけ蹴ってもまともに感じてもいませんか……兄さんも強くなったというべきか、それとも単に図太くなったというべきなのか」


 その呟きからどうやら先程の軽い衝撃はあれでも結構な勢いで蹴ったのか、と推測するテンペスタ。

 その直後にその言葉から気付いた。


 「うん?兄さん?……お前、まさかあの時別れた我が妹竜か」

 「そうですよ、今はルナと名乗っています」


 別れた時にはまだ人型ではなかった故に、テンペスタも驚いた様子だった。

 ルナはルナで兄に対して結構な驚きを持っていたのだが。

 実の所、ルナは父である大嵐龍王に居場所を聞き、向かった先でその姿自体は容易に見つける事が出来た。

 問題はそこからで、最初は軽く叩いてみたのだが、まったく意識を向ける様子がない。

 仕方ないので属性を用いた攻撃を撃ち込んでみたのだが、こちらに至っては目覚めさせるどころか吸収されてしまう有様。最初は怪我をさせまいと手加減していたルナだったが、次第に威力を高め、終いには本気で撃ち込んでみたがこれまた効果がない。

 遂に諦めて、実力行使とばかりに上空からドロップキックを喰らわせた。

 これが地上ではなくて良かったというべきだろう。ルナが先程用いた属性を用いた攻撃は風でも炎でも余波だけで周囲の雲を消し飛ばし、蒸発させた。その威力はかつて一軍を蒸発させた時のそれより威力だけなら間違いなく上回っていた。以前のあちらは精密な制御を行い、自らの周囲に一定以上踏み込まなければ何ら効果を及ぼさない、それこそ範囲内に一歩踏み込む直前まで何も異常すら感じない程だったが、最後の一撃では人族であれば見た瞬間に足が竦むだろう。それほどの力が制御しきれず漏れ出した余波だけで溢れ出していた。

 蹴りも同じ。

 軽く蹴った一撃にしてもちょっとした城壁を揺るがすぐらいの一撃はあったし、最後の一撃に至っては直撃すれば王都の巨大な正門でさえ木端微塵に吹き飛んでいただろう。

 それなのに、結晶質の体にはわずかな皹すら入らず、テンペスタもダメージを負った様子はない。


 (これが私の限界という事なのでしょうか?それとも兄さんが竜王としても上位に位置するまで力を上昇させた?)


 自分と大差ない年月しか生きていないのにここまで差がつくのか、とは思ったがそこは黙っておく。

 間違いなく、そこには自分とは異なる生き方があったはずだ。ルナは自分の生き方を後悔などしていないし、むしろ誇るべきものだと自信を持って言える。竜としては変わり種もいい所だろうが、食を追求してきた事もそうだし、幼い子供の頃から何代も見続けてきた王族との交流も大事なものだと考えている。

 だが、それは竜としての力を鍛えるのとは別の物だという事もまた事実だった。

 人の中では凶悪極まりない力を誇る自分とて、同じぐらいの年月を重ねた竜王と比べたならば弱い部類に属するだろうとも。体の大きさは竜王となった時の属性の蓄積度合いによって変わる。ルナの場合は若年の時点で竜王となれたのは人サイズという小型の竜王としての道を選んだからに他ならない。

 だが、大量の属性を溜め込み、その上で竜王となったであろう兄竜テンペスタの場合、体が作り変わった際に自分より効率的な構築が為されたであろう事も推測出来た。


 「それでどうした。旧交を温めたいなどという理由で探していた訳ではないのだろう?」

 「そうですね、実は相談があります」


 今はそんな事はどうでもいい、とばかりにルナは頭を切り換えたのだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「そうか、そこまで来ていたか」


 ルナから話を聞いて、テンペスタも内心で溜息をついていた。

 今、人に足りなくなりつつある物を竜や龍から奪い取る。

 短期的にはそれもありだろう、そうテンペスタは思う。竜や龍と戦い、莫大な損害と引き換えにその領域を奪い取る。

 その結果、人が減り、と同時に人の領域が広がれば破滅は大きく先延ばしに出来るはずだ。後は後世に託せばいい。


 「だが、そう上手く行くと思うか?」

 「思えないからこうして来た」


 ルナの言葉に頷く。

 まず無理だろう。

 そこまで強引な手段を取れば、そこから先はさすがの竜達も団結する。長く生きた竜王はともかく、若い上位竜達はこぞって人族を敵と看做すだろう。場合によってはまだ若い竜王もそれに加担するだろう。いや、放置しておいては次は自分かもしれないと思えば、自然へと帰りつつある竜王や龍王以外は協力体制を築くはずだ。

 侵攻を止めたとしてもそれは変わらない。

 人の側が自分達の都合で侵攻を止めたからといって、既に刃を交えた竜や龍の側からすれば考慮する価値はない。


 「一方的に殴りかかって、もう満足したから止めよう。そんな事を言って納得する相手がどこにいるのだ……」

 「いるはずがない。今の王達はそれでもこれしか方法がないと思い込んでいる」

 

 ルナも今の国王へと少し話はしてみたそうだが、「他に手があればそちらを選ぶのだがね」と苦笑しながら言われただけだったそうだ。

 そして、自分にはそれを否定する手段が思い浮かばなかった、とも。


 「私は良くも悪くも料理しかしてこなかったし、場所が場所だから多少は陰謀も知ったけど基本戦闘とか政治は分からない、興味もなかった」


 実を言えばかつて一軍を真っ向から壊滅させたのも戦術戦略を知らなかったのでそれしか出来なかったとも言う。

 

 「はっきり言うなら兄さんにもそういう事が分かるか分からないけど、一人で悩むよりはいいかなって」

 「ふむ」


 人の事に多少なりとも知識を持つ相手で、尚且つルナの話に耳を傾けてくれるような竜。そんな竜などルナにはテンペスタ以外に思い浮かばなかったそうだ。

 テンペスタがルナの話した情報を元に、人を効果的に叩き潰すような未来も考えたそうだが、そこまで考てしまうと今度は相談する相手が存在しなくなってしまう。

 人相手の伝手は一杯あっても、国を相手にどうこうという話になると誰も当てには出来ない、というのもまた納得だった。


 「一つ方法がないでもない」


 しばし考えた後、テンペスタはそう言ったのだった。

  

最近、鍼灸院とか行ってみてます

肩こりとか改善するといいなあ……

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