ルナ迷走
テンションが物凄く下がる話がありました
テンションが上がるようなちょっと嬉しい事があったと思ったら、それをどん底に突き落とすような話が
まだ確定した訳じゃないが、良い話になりそうにないのがまた……
「困ったな」
轟轟と吹雪が吹き荒れる氷の大地。
北大陸と呼ばれる地は不毛というも馬鹿馬鹿しい程の凍てついた大地だ。
近辺の海は凍結し、巨大な氷が浮かぶ。端に至れば砕け、彷徨う。少し大きなものは一つの都市を優に超え、更に巨大なものすら存在する。
北大陸自体もまたその吹雪がやむ事はない。穏やかな時など必要ないとばかりに常に激しい暴風を伴う吹雪が吹き荒れ、視界は酷く悪い。耕作に適した地などまともに存在せず、魔獣でさえ獲物となる動物が存在しない事から大陸周辺の海に住みつくのみ。
ただし、その周辺に生きる魔獣の数は極めて多い、としか言いようがなく、それもまたこの大陸の危険度を増している。
このような大地で人族は生きてはいけない。
まず液体の水が存在しない。
氷と雪は幾らでもあるが、飲み水を確保しようにも少し外に出しておけば即凍てつく。大陸のどこかに湧き水があろうともそれもまた凍り付いているのに違いなく、この地で普通に液体の水を得る方法は一切存在してはいない。
では、火を起こして氷を溶かすかと言えばそれもまた難しい。
何しろ、この地に生える植物と言えば雪と氷に順応した魔法植物しか存在せず、氷細工としか言いようのないそれらは火にくべた所で溶けるだけで暖を取るには向いていないどころか役に立たない。当然、それらを燃やして氷を溶かすなど出来る訳もなく、燃料は全て北大陸の外から持ち込むしか方法はないだろう。
次に耕作に向いた土地が存在しない。
風向きやその他の要件で雪や氷が積もっていない場所があればそこに温室などを形成する事で多額の金は必要であろうが、実験としての耕作自体は可能かもしれない。
だが、北大陸にそのような甘い場所は存在しない。
家畜や獣を狩猟してというのも極めて厳しい。
このような地に住んでいるのはいずれも属性竜である。当り前だが、滅竜教団のような専門家集団であっても属性竜を狩る、という行為は極めて危険だ。
ましてやこの地では水も食べ物も持ち込むしかなく、暖を取る為、水を溶かす為に大量の燃料が必要。それも液体の燃料では意味がなく、石炭などの固形燃料が必要となる。圧倒的な寒さのために外を出歩くには魔道具を用いたとしても分厚い衣類を着込む必要があり、活動は困難。
周辺は巨大な氷が漂い、現在、世界で最新の船でさえ氷に閉ざされ動けなくなり、粉砕される可能性が大きい。
はっきり言ってしまえば、研究目的でこの地に滞在したい、という人物がいたとしても莫大な国家予算の裏付けと膨大な数の犠牲者を覚悟しなければ無理だろう。
「母様はどこにいるのだろう?」
そんな大地に僅かに浮かぶようにして存在する見た目人族が一人。
もちろん衣服は極自然なものであって、普通の人族が同じような恰好でここに立てば、即座に吹き荒れる雪に埋もれていき、凍えて動けなくなって丸まり、そう遠くない内に凍死。やがて氷の中に遺骸は閉じ込められて数百年、或いは数千年の時を過ごす事になるだろう。
事実、漁師などが恐ろしいまでの不運によって船が流されてこの大陸に辿り着いた事はない訳ではない。
中には外縁部に生きて辿り着いてしまった者もいなかった訳ではないが、一日と生き延びた者は未だかつて存在しない。
そんな中、雪に埋もれるでもなく、暴風に吹き飛ばされそうになるでもなく平然と普通に立っている者が普通の人である訳もない。
「命の気配など探っても意味はなさそうだ」
無論、ルナがまずは母竜をと思い、やって来た結果だった。
空を高速で飛び、飛来した彼女にとってはこの暴風は自らの力にこそなれ、力を削るものではない。そもそも本当の意味で物質的な肉体を持たなくなって久しい彼女の体は単なる寒さで凍てつくような事はありえない。彼女にとって凍てつく事があるとすれば、それは水の属性を用いた攻撃を受けた時ぐらいだろう。
それはいいのだが、いざやって来てみればどれが自分の母竜なのか、ルナには分からなかった。
人族にとっては単なる地獄の大地だろうが、ルナにとってはこの北大陸には竜という生命が満ち溢れていた。
この中から自分の母竜を探し出すというのは予想以上に難しそうだ、とため息をついて諦めざるをえなかった。頻繁に会っていたならばともかく、生まれて間もなく別れて以来、もう何百年と会っていない相手の気配を探れる程、ルナはそうした探知の技に優れてはいない。となると、母竜から気づいてくれるのを期待するしかないのだが、それも難しい。
幾ら我が子といえど、数百年以上前に産んで以後、会っていない子を果たして我が子と認識できるのか?
(そもそも……)
ルナは自身の体に視線を向ける。
上位の竜、更に竜王という存在はその性質を大きく変える。変わらないのは持って生まれた属性のみで、見た目などルナにした所で生まれた頃の印象を残しているのは髪が当時の毛皮の色を残しているぐらい。果たしてそんな相手を自分だったら我が子と認識し、迎えに来るだろうか?
「……無理だな」
あっさりと頷く。
そんな彼女の視界の端を巨大な影が複数移動してゆく。彼女自身はこちらに敵対意識を向けていないので気にもしていないが、彼らもまた属性竜達の群れだった。属性竜であるが故に狩りのような生存競争は存在しないけれども、下位の属性竜達はルナと異なり、普通に肉体を持ち、子を産む。
そうして子育てをするのだが彼らはそれを家族単位ではなく群れで行う種族なのだろう。
実は何気に自分達の前方にいる圧倒的に巨大な属性の気配を感じ取って、群れは進路を変えていたりするのだがそんな事もルナは気にしてはいない。
「仕方ない、まずは生まれ故郷に行って、何かないか調べてみるとしよう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「最初からこちらに来るべきだったのか」
余りにあっさりと判明した兄の居場所に脱力感とでも言うべきものをルナは感じていた。
生まれ故郷の島へと向かったルナはすぐにその上空に位置する自分と比べても尚圧倒的としか言いようのない巨大な力に身を震わせた。
さすがに警戒しながら向かってみれば、予想以上の歓迎で迎えられた。
『おお、娘よ!こうして会うのは初めてであるな!!』
大嵐龍王。
全ての風を支配するのではないかと思える程の圧倒的極まる力の塊。
息子を迎えた際のハイテンションから比べれば大きく落ちてはいるのだが、ルナはそんな事は知らない。分かったのは自分では到底どうしようもない圧倒的極まりない存在がいて、それが自身の父と名乗り、兄の居場所を教えてくれた、それだけだ。そして、それで十分だった。
ただ、分からないのは……。
「あの場所、どうもおかしいよね?」
風が尋常ではない。
風の属性を持たない存在は竜であっても大嵐龍王の許可なしでは近づく事さえ出来ないだろう。もちろん、同格が他にもいれば話は別だけれど。そこまでしてあそこにあれだけの力を集めているのは何故なのか?ただ単に当龍の力が強いから属性が集まっている、それだけではないような気がした。多分、身を隠す以上の何かが……。
いずれにせよ、今の自分にはそういう事を考察する必要はないと一つ頭を振って切り換える。
「考えてみれば、料理より優先すべき事でもないわね。とりあえずは兄さんだけど……何やってるのかしら」
国を育てているとは聞いた。
しかし、一体何故そんな事をしているのか?そこまでは父は語ってはくれなかった。
早く終わらせて、また料理と食材を追求したい。美味しいものを味わいたい。
そう考えて、ルナは溜息をつくのだった。
という訳でルナの動きでした
前書きで書いた通り、本当ならもっとテンション上がってる状態だったんですけどね……
思い切り脱力感を感じるような事があってめっちゃブルーな気分です




