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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
59/211

兄と妹

一日遅れで投稿です。体調崩して寝込んでました

なんか熱中症の初期症状だったくさい……大分涼しくなったからと油断してた

 あやしい。

 

 最近、テンペスタが思うのはその一言に尽きる。

 異なる大陸に移住した帝国の住人達の間で体を壊す者が続出していた。

 いずれも同じ症状、体がだるい、妙に疲れるといった事から始まり、次第に寒気を感じ、そこからどんどん体の機能が低下していくというそれを当初、彼らはその土地特有の病気、風土病の類だと考えた。テンペスタもそう判断した。

 そうして、調べた者達は揃って「何かが足りない」そこまでは分かった。

 体にとって何かが致命的に足りていないのだと、そこまでは分かったがそれが何かが分からなかったため行き詰ってしまったのだ。

 当然彼らは守護竜と崇めるテンペスタに解決策を求めたのだが、テンペスタ自身もこれには困ってしまった。考えあぐねた末、父である大嵐龍王に相談してみたのだが……。


 『ああ、そうか。分かった、何とかしておこう』


 それだけだった。

 そして、その翌日から劇的に病状は改善していった。

 無論、新帝国の住人達は『守護竜様のお陰』とますますテンペスタに対する崇拝を高めたのだが、テンペスタ自身からすれば物凄く複雑な気分だし、何より。


 「あの父、何を知ってやがる」


 これに尽きる。

 何かあるのは間違いない。

 推測も立つ。

 竜がいる大陸といない大陸、大きく異なる成長速度。おそらく不足しているのは属性と自分達が呼ぶもの。問題は「ではそもそも属性とは何か」、それに尽きる。

  

 (これまで当然と考えて使ってきたからなあ……)


 余りにあるのが当然であったためにそれが不足している状態など考えた事もなかった。

 これで魔法が使えなくなっている、というのならまだ分かる。

 しかし、魔法は普通に使う事が出来る。魔法の使用過多な奴が先に倒れるといった事もない。使いすぎて倒れる者はいるが、それは別に異なる大陸に赴く前と変わらない。

 正直に本音を言うならば、テンペスタとしてはじっくりと時間をかけて研究したい。だが、問題は果たしてその時間があるかどうか、だ。

 元々、テンペスタがこうした異なる大陸へと飛び、そこへと移住を求める者達を移し、面倒を見てきたのは一重に「新たな生活の場を人に提供できるかどうか」を知るためだった。人が新たな大陸を知ればそこへと移住を求め、大航海時代が起きるかもしれない。

 竜と戦わずとも新たな土地が手に入るのならば、そちらを求める声も大きくなるだろう。誰だってハイリスクハイリターンよりはローリスクハイリターンを求めるに決まっている。そうした勢力が一定以上になれば国も竜と戦うよりもそちらへと力を向けるのではないか……そう思った訳だが。


 (属性に関して知らん事にはそれも難しいな)


 ただでさえ植物の生長だの動物だの色々な部分で違いが出ている。

 特に巨大な違いが植物の生長で、これにも属性が関係しているとなると猶更放置したまま移住など勧められるものではない。移住したはいいけど、元の大陸の感覚で森を伐採して、穀物を育ててたら全然違ってて開拓村が全滅しました、なんて事になりかねない。

 当然だろう、「すぐ生えてくるさ」と思って木を切っていたら森を丸ごと切り倒しかねない。そうなれば森の恵みは失われてしまうし、そこに住む動物達もいなくなる事で狩猟にも支障を来す事になる。保水力にも雲泥の差が出るために折角の森と水の豊かな地が荒れ果てた荒野へと変わりかねない。

 穀物や野菜にした所で、「こんぐらいでいいだろう」と元の大陸と同じ感覚で植えたら、全然育たなくて飢えてしまった、という事もありえる。

 

 (しかし、知っていそうな相手となると)


 父龍は間違いなく何かを知っている。

 しかし、素直に教えてくれるだろうか?そんな疑問をテンペスタは持っていた。

 もし、素直に教える気があれば最初に聞きに行った時、教えてくれるだろう。

 もしかしたら、単にうっかり忘れていたという可能性もあるが、父龍の力を考えれば遠くに飛んでいった自分に対して声を届けるなど簡単な事だ。つまり、その場合なら後で思い出して連絡してくるぐらいの事はしてくれるだろう。それがなかったという事はこれに関しては教える気が(少なくとも当面は)ないと判断していいだろうと推測出来た。

 加えて、父龍の元気の無さも気になっていた。


 「最初に会った時は元気一杯だったのにな……」


 その声はどこか寂しげだった。

 無気力というか無関心というか、自分が会いに行ってもどこか虚ろな様子があった。

 

 「とりあえず、他の知ってそうな相手に聞きに行ってみるか……とりあえずはサラマンダーさんからだろうな」


 そう呟くと一気に空へと舞い上がったテンペスタだった。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「よし、それじゃ行ってきましょうか」


 滅竜教団のパーティでの調理は引き受けたが、すぐに行われる訳ではない。というか、日数的にはまだ一月以上先の話だ。

 これは当然といえば当然の話で、貴族なども参加するようなパーティであればそれなりの料理を用意しないといけない。そして、そうした料理というのは食材の調達にどうしたって時間がかかる。良い素材というものは「くださいな」「はい、どうぞ」とはいかないのだ。

 しかも、量もそれなりに必要になる。

 このため時には「素材の入手にこれだけかかって、熟成にもこれだけかかるからパーティは最低でも何時以降、余裕を考えるともう少し」と料理の素材調達からパーティの日取りが逆算される事もあるぐらいだ。貴族が開くパーティで下手な料理を出せばそれこそ恥になってしまうのだから気合も入ろうというものだ。

 だから、今回、王宮料理長であった彼女が食材調達に行くという理由をつけて王都の外へと出るのも何も問題はない。

 きちんと普段から取引のある、信頼出来る商会に頼んで手に入る物は発注済だし、一応王宮にも連絡は入れた。

 何より自分は今は役職もないのだから、出かけるのを止められるような事は何もない。


 ……などと考えているのは当人ばかり。

 無論、実際には「ちょっと食材調達に出かけてくる」旨を一応ではあるが連絡を受けた王宮上層部は密かに大慌てだったりする。何せ、冗談でも何でもなく一軍をあっさり叩き潰すような戦力がどこかに出かけてくるというのだ。中には当然のように「彼女が王都の外へ出るのを止めるべきだ」と主張した貴族もいた。

 いたのだが、それに関して返って来たのは一言。


 『では諸君らが言ってくれ』

 『ああ、無論、君ら自身の責任でな。王宮は知らん』


 そんな事を言われて「では私が」などと言える貴族がいる訳がない。そんな事を言ったが最後、料理の邪魔をされた王宮料理長の怒りがどこに向かうかなど考えたくもない。

 仕方なく、せめてどこへ行ったか追跡班ぐらいはと思ったが、それも早々に「すいません、見失いました」という報告を受ける事になるのだった。


 「さて、兄さんはどこにいるのでしょうか?」


 当初から追跡者の事に気づいていたルナは彼らが彼女の姿を見失ってすごすごと帰っていくのを空から見下ろしていた。

 兄から教わった知識を見事にものにしていた彼女は光を歪めて姿を消し、そのまま空へと音もなく舞い上がっていた。さすがに追跡者達も姿が見えなくなった上、まさか空を飛んでいるとは思いもしなかったため見つける事も出来ず撤退したのだった。もっとも、追跡を命じた上も当の追跡班も最初から「あれを追跡出来る」などという夢は見ていなかったため、これだけすんなりと引き上げたとも言える。

 

 「まったく。あの兄ももっと目立つ行動を取るか、昔みたいにどこかに定住していれば楽なものを」


 などと自分勝手な事を呟きつつ、とりあえずは母竜でもあたってみるかと考えたルナは一気に加速していったのだった。 

 

テンペスタとルナ、それぞれ行動開始です

もっともテンペスタはルナが自分を探してるとは思ってませんし、ルナはテンペスタがどこにいるか知らないのでまずそこからですが

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