竜王戦その1
暑いですね……
「先だっての尊い犠牲となってくれた方々のお陰で集まった情報には幾つかの攻略情報が含まれています」
ジェナス高司祭がそう周囲に聞こえるように言った。
横でうちの上司、コッペルマン子爵が渋い表情をしているが、知らんぷりだ。
まあ、馬鹿にしている訳ではないので爆発する事はないだろう、と副官たる私は判断している。
「この為それらを元に今回の作戦を立てました」
場所を選んで設置した大型砲。
地魔法で地面を盛り上げてまで斜め下方向への射角を確保してある。
「重要な事ですが、本物の竜というものは実に平和的な生き物です」
ジェナス高司祭のこの言葉にはやや顔をしかめた者もいたが、口を挟むような事はしない。
確か、彼らは竜に対して思う所がある、いわゆる恨みのある連中だったはずだ。とはいえ、それで暴走するような奴なら今ここにはいないだろう。滅竜教団は実質対竜特化の軍。そして軍というものは規律には煩い。命令に従わない兵士なんて百害あって一利なしだしな。
それに、数字の上では確かに属性竜、上位竜などはいずれも下位竜などとは比べ物にならない程被害は少ないそうなので嘘じゃない。
「故に我々はそのやさしさにつけこみ、先制の一撃を撃ち込みます」
あの、その言い方だと我々が極悪人みたいなんですけど。
とはいえ、客観的に見れば実際、極悪人だよな、と判断している私がいます。
だってそうでしょう?
ずうっとそこに住んで、家を建て、自分にとって快適な場所にした訳ですよ。
それを突然やって来た見知らぬ連中が暴力振るって、自分をそこから叩き出したりしたら……。
うん、相手が竜だから、という事で誤魔化してはいますが、どう考えても極悪人でしかありませんね。
それを考えるなら、ジェナス高司祭はそれを忘れるな!と言い聞かせているのでしょうか?ありそうですね。……まあ、良い方に解釈したら、の話ですが。
「そして、彼らが集めてくれた情報で二番目に重要なのがその本体です」
そうですね、子爵も当初はあれだけ巨大だからあれが本体だろうと思っていたら、体の一部でしかなかったんですよね。
「故に、そこへ一撃を撃ち込みます。さあ、始めましょう!!」
恍惚とした表情でジェナス高司祭が合図を出しました。
それと共に我々王国軍は後退を開始しました。
「良いのでしょうか?」
「仕方ないのである。今回指揮権はあちらにあるのである」
そうですね、今回の指揮権はあちらにあります。
ですが、我々に下された命令は後退。その後、戦闘態勢を取る事、されど攻撃に関してはジェナス高司祭が死んだ時に限り行うように、と。
「もしや、死ぬ気なのでしょうか?」
「……黙って従うのである」
これは……何かしら閣下は別命を受けていますね。
それもこの様子からして……(あまり気分のよろしい命令ではない、という事ですか)とあたりをつけます。出来れば、その命令を果たすような事態にはならずに済めば良いのですがねえ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さあ、さあ、さあ!
いよいよ殺し愛ですよ!!
「砲撃用意」
現状用意出来る最高の砲です。
さあて、どこまで通用しますかね。
「全砲照準完了!」
「よろしい、直ちに第一砲撃を行いなさい、続けて第二砲撃。発射後は直ちに再チャージ開始」
「はっ」
砲撃命令を下せば、音を立てて力が集中していきます。
轟音!
着弾!
手前の地面に着弾した一撃は大地を穿ち、穴を開けます。そこへ第二砲撃!
今回の砲撃は二回に分けています。
一撃で竜王本体にまで到達すればよいのですがね。それが出来ない可能性があります。だから、半数でまず地面を抉り、そこへ間髪入れず、続けて叩き込む事で確実に相手の本体へ攻撃を届かせ……。
ゴ…ッ。
「なにっ!?」
周囲から驚きの声が洩れます。私も声を押し殺しましたが……。
潜った!?
いや、そうですね!知性を持つ上、あれが致命傷になっていなければ地の属性を持つ竜が取るであろう手段は!
「機竜部隊退避!!来ますよ、ここに!!」
咄嗟に飛び退った部隊。
その直後に更なる轟音と共に大地が噴き上がる……!ああ、これは。
竜王の姿が大地から飛び出す。
チャージ済の大砲が次々と下からの土砂と共に転がる。
自らの体も吹き飛びながら……それでもジェナス高司祭は笑みを未だ浮かべていた。
最近の暑さが辛いです
汗をかくと敷布団なんかもまたどこかべったりしてしまうし
洗濯物が短時間で乾くのはありがたいんですけどねえ……




