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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
51/211

高司祭の抱くもの

竜王戦直前

竜王戦終わるまで連続して(週一更新ですが)お送りしたいと思います


7/4修正

 竜王はすぐに見つかった。

 あの時は気づかなかったが、我輩達と最初に戦った場所から然程離れてはいない所にいたのである。


 「……意外であるな」

 「別にそうでもありませんよ。竜にとって長く住まう土地は自らの庭園と化します。すなわち彼らにとって最も居心地の良い場所なのですよ」


 命の危機にさらされたのならともかく、そうでもないなら移動などしませんよ。

 そう続けられてむっとする。

 自分達はあの時、間違いなく手傷を負わせ、戦い、そして自分の部下は命を落としたのだ。


 「それはあなた方の考えですね。最初に傷を与えた後はまともに戦う事も出来なかったのでしょう?」


 多分、竜王にしてみれば蜂にでも刺されたようなものだったのではないですかね?

 だから、未だ周囲にぶんぶんと飛ぶ相手を潰そうとして、いなくなったからまた寝た、と。

 ……言われれば納得せざるをえないのであるが、腹が立つのであるな。なるほど、確かに我輩達は竜王に傷を負わせたが、それは最初の一撃のみ。いざ相手が出てきて真っ向戦ってみれば、まったく歯が立たず蹂躙されたも同然であった。

 確かこやつジェナス高司祭であったか。滅竜教団では高司祭というのは高位の部隊指揮官。我輩達で言えば将軍の地位にある。

 見た目はまだ若い美貌の男であるし、どこぞの貴族出身と言われても信じてしまいそうなのであるが、それでも滅竜教団は完全実力主義故、こやつはきちんと実戦を経て、ここまで上ってきたはずである。何せ相手が竜であるからな。竜相手に身分を振りかざした所で即行であの世逝きなのである。

 そんな奴には誰もついていかんのであるな。

 現在は部下達が配置についている途中で、我輩達はこうしてここで準備が終わるのを待っているのであるが……ふと気づくと、ジェナス高司祭の体がぶるぶると震えていたのである。

 むう、やはり竜王と戦うとなると怖れを感じているのか、それとも緊張しているのであろうか?と思い、ふと顔を見て、我輩ぎょっとしてしまったのである。


 「ど、どうしたのであるか?」

 「え?ああ、コッペルマン卿ですか、ええ、嬉しくて」


 奴は、ジェナス高司祭は顔を両手で抑えていたのであるが、それは恐怖に引きつりそうだったからではない。むしろ逆、必死に笑い崩れそうな顔を抑えていたのである。いや、何というかなまじ顔立ちが綺麗なだけにえらく恐ろしいのであるよ……。


 「そんなに竜が嫌いなのであるか…」

 「嫌い?いえいえ、私は竜が好きです。愛していると言ってもいい」 


 むむ?

 てっきり、やっと竜王を殺せると喜んでいるのかと思ったが、妙な答えが返ってきたであるな。

 

 「竜は怖ろしい怪物であろうに愛していると?」

 「そんな事はありませんよ。竜というのはね、実の所実に平和的な生物なのですよ」


 我輩、少し耳をほじってみたのである。

 うむ、耳に異常はなさそうである。


 「平和的?」

 「ええ。まあ、あなたの言いたい所は予想がつきますよ。世の中にどれだけ竜によって被害を受けている人々がいるのかと言いたいのでしょう?」

 「うむ」


 毎年のように人は竜によって被害を受けておる。

 だからこそ、滅竜教団は竜と戦っているはずなのであるが……。


 「皆さんが言っているのは知恵のない獣の事ですね」


 む? 


 「下位の知恵なき竜など竜に値しません。あれは単なる獣です」

 「そうですね……これだけでは分からないと思いますのでたとえ話を致しましょう。コッペルマン子爵、あなたがた王国軍は先日まで帝国と戦っていた訳ですが、帝国に棲む猿の群れが王国の民家を襲ったとして『おのれ、帝国の輩め!』などと思いますか?」

 

 そんなもん考えるまでもないであろうに。


 「思う訳ないのである。猿と人は違うのである」

 「その通りです。ですが、それは竜とて同じなのですよ。何故、あなた達は知恵ある上位竜と、知恵なき下位竜を一緒くたに考えるのです?話をする事の出来る相手と、話の出来ない獣。人と猿ではきちんと分けて考えられるのに、竜では何故考えられないのですか?」

 「そ、それは……」


 結局、見た目が似ているという事になるのであろうが。

 しかし、竜といっても今回の目の前で寝ている竜王(推定)と野良竜という名の下位の竜が同じ生物とは思えんのは確かなのである。というより、確かに冷静に考えるなら魔法を使う獣は全部魔獣、単なる獣以外の鱗を持つ相手はまとめて竜呼ばわりしているのであるな。

 とはいえ、我輩達とは別の竜王と思われる竜なぞ、もはや生物と呼んでいいのかすら分からなかったようである。

 だが、「似てるから」なぞ目の前のジェナス高司祭に言っても納得してもらえるとは思えんのである。いっそ、割り切ってしまえば楽なのであるがなあ。

 我輩が黙っている、いや言葉に詰まっているのを見て、にこやかにジェナス高司祭は頷いたのである。


 「私達滅竜教団は、竜と戦うからこそ竜に関する情報を集め、真摯に向かい合います」

 「竜の良いものは良いと素直に認めなければ、こちらが負けるだけです。良い部分とは相手の強みでもありますからね」


 その中で浮かび上がってきた事実。

 それが下位でも属性竜以上の竜が非常に穏やかな竜だという事実だそうなのである。


 「竜の被害と言われるものの内、九割以上は下位竜によるものです。数少ない属性竜や上位竜による被害も人の側からちょっかいを出した結果、というものですね」


 ふむ。


 「だからこそ私は言うのです!竜とは平和的で、穏やかな生物であると!ああ、そんな相手と命を賭けた戦いが出来るなぞ……どれ程この時を待ち望んだ事か!」


 成程、それで……うん?

 待て待て、竜が平和的で穏やかという意味は分かったのであるが、後半何やら妙な言葉を聞いたような気がしたのであるぞ!?

 思わず、ジェナス高司祭をまじまじと見つめてしまったのであるが、彼は陶然とした顔なのである。これが普通に喜んでいるような内容であれば、こちらも穏やかな気持ちで見ていられるのであるが、その口から洩れる内容と来たら……。

  

 「遂に、遂に竜王と殺し合えるのですよ。蹂躙されるのでもなく、戦う!愛する者にとって最もつらいのは何だと思いますか?嫌われる?いえいえ、無関心なのですよ」


 憎むにせよ、嫌われるにせよ相手に意識してもらわねばなりません。しかし、無関心は意識すら向けてもらえてはいないのです!

 そう熱意を持って主張されても我輩困ってしまうのであるよ……。


 「正直に申し上げましょう、私はあなたが羨ましい!初めて、竜王と戦った!それが妬ましい!」


 うっ、眼光が怖いのである。

 ……こういうのを狂気を孕んだ目というのであるかな。正気とは思えんのである。


 「それが遂に、遂に私も竜王と戦える時が来たのです。これが歓喜とならずして何と言いましょう!!」


 こうでなくては竜と戦えんのであろうか……。

 いや、こういうのは滅竜教団でも極一部の例外であろう、そうであってくれ!滅竜教団の連中が揃いも揃ってこんな笑みを浮かべて竜と戦う光景を一瞬想像したのであるが……いかん、怖い、怖すぎるのである!というか、早く竜王との戦いが始まらんであるかな!傍で時折、くふ、くふ、などと笑い声を洩らしておるのが気味悪くて仕方ないのである!!


 そんなコッペルマン子爵の願いはもうしばらくの時を経て、やっと叶った。

 幸いというべきか、準備が整った事を伝えに来た滅竜教団の伝令はジェナス高司祭の事を知っているのか、どことなくジェナス高司祭から距離を取っているコッペルマン子爵の姿にどことなく哀れみを抱いた視線を向けてきた。

 何故そんな目を向けてきたのか重々理解しているコッペルマン子爵は苛立ちも感じず、「ああ、これがこの高司祭殿にとっては平常運転であるか……お前さん達も苦労しているのであるな」と、同じ体験をした者ならではの共感の籠った視線を向けたのだった。


 「そういえば竜王を倒す算段はあるのであるか?」


 これより竜との戦場に向かおうとするジェナス高司祭にコッペルマン子爵はふと声をかける。

 相手が正真正銘の竜王であり、恐るべき敵である事は疑いようのない事実だったからだ。ただし、返ってきた言葉には首を傾げざるをえなかったが。


 「ええ、大丈夫ですよ。他ならぬあなた達が倒し方となる鍵を教えてくれたので」


という訳で、竜王と戦う高司祭の狂気をお送りしました

いよいよ次回から戦闘開始。戦闘終了という区切りのよい所まではしばらく竜に生まれましてを投稿予定です

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