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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
50/211

再び戻りて(我輩は嫌である)

新話をお届けします

テンペスタが新大陸にかかりきりになってる間に……

 「君達が戦った竜王が弱いからこちらと戦うという訳ではないのは理解しておいて欲しい」

 「はあ」


 我輩ことコッペルマン子爵は半年ほど前に酷い目にあった竜の巣に再び来ているのである……。

 正直に言えば二度と来たくなかったのであるがなあ!

 以前に竜王と戦った時同様、上からの命令には逆らえぬのだよ、まったく困ったものである……。


 帰還した後、我輩は報告を行った訳であるが、特に咎められる事はなかったのである。むしろ、よく兵をまとめて生きて帰ってきたと褒められたのである。さすがに機竜を三体も失い、一体もズタボロという結果になった故、褒美などはなかったがそれは仕方ないのである。

 それに亡くなった部下にはちゃんと報いてもらえたのでその点に関しては文句はないのであるが。

 

 「もう一体の確認された竜王はどうにも予測がつかなくてね。こちらの竜王の方が攻撃力防御力生命力などは上だろうと推測はつくのだが、やはり『何をしてくるか分からない』というのは想像以上にこちらを警戒させるものなのだよ」

 「はあ」


 今現在我輩の隣で延々喋っておるのは滅竜教団の高司祭なのである。

 王国正規の指揮官と共にこういう人員が派遣される辺り、滅竜教団が国と結びついたというのは事実なのであろうな。

 にしても……。

 ちらりと周囲に視線を向ければ皆目を逸らすのであるな。

 

 「しかるに、もう一体の竜王の持つ庭園はこちらと違って非常に分かりやすく、半透明な樹木とでもいうべき木々が生い茂っていたそうで、剣を突き立てればやすやすと貫通するもすぐ塞がるという特性があって」

 「はあ」


 ……我輩先程から「はあ」しか言っておらんのに気づいて欲しいのである。

 こやつ進軍開始以来暇さえあれば延々とこの調子で喋り続けているのである!!


 「故にこちらの竜王は周囲の樹木が目立たぬ形で変異しているか、或いは地下にて庭園があるかの確認も取らねばならぬ。まあ、いずれにせよ移動したと思われる竜王自体の捜索が必要ではあるのだが」

 「はあ」


 ……頼む、代わって欲しいのである。

 というか滅竜教団、お前らの上司であろうが!早くこいつを引き取って欲しいのである!

 我輩の部下達は仕方ないにせよ、お前らまで一緒に目を逸らしているのではないのである!!

 ……気持ちは分かるが、我輩に押し付けないで欲しいのである!


 「それでですな、現状の戦力を持ちまして私としてはまず砲撃のための足場をしっかりと確保したいと思いましてな」

 「はあ」

 「その上で、砲撃地点を分散するのはどうかというのが私の考えなのですがな」

 「……いえ、砲撃は集中した方が良いでしょう。あの図体相手では分散して砲撃しても効果は薄い」


 ぐぐっ、たまにまともな事を言いだしおって!!

 これだから我輩としても迂闊に油断して、聞き流す訳にはいかんのであるっ!!

 砲撃に関する案件であれば、我輩の専門分野でもある事だし、聞き流してこちらの考えとは異なる配置となってしまえば苦労するのは我輩や部下達であるのであるからな……むむっ、もしやこやつ!ああしたクドイ程の話を続ける事で相手の思考を鈍らせ、自らの思惑を通す類の輩かっ!?

 ならば、油断は出来ぬっ!

 これは紛れもなく、王国と教団、それぞれの代表による戦なのであるっ!!

 などと気合を入れているコッペルマン子爵には滅竜教団から派遣されてきた人員が……。

 

 「助かったな、あの方悪い方じゃないんだが……」 

 「一旦話始めると長いんだよなあ……」

 「まあ、この際だ、王国の指揮官殿に全部任せちまおう。その分俺らに被害が回って来る可能性が下がる」 


 などという事をひそひそと話していた事を知るはずもなかった。



 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ぜえぜえ、何とか乗り切ったのであるな!!

 無事目当ての森に、到着……。


 「むう、何だか以前より生い茂りようが酷くなっておるのではないのであるか?」

 「確かにそうですねえ……」


 副官は相変わらずであるな。だが、それで良い。あの高司祭殿を相手にした後では落ち着くのである……。

 

 「密集しているといいますか、何と言いますかこう……『くんな!』と言われてる気分ですな」

 「いやまあ、相手からすればそう思われても仕方ない話ではあるのである」


 森の生育が早いのは普段の木を切り倒す場合には有難い話なのであるが、この度のような進軍のために森を切り開かねばならん時には困り物なのである。折角前回作った道も最早完全に森に埋もれてしまい、見当たらんのであるな……。そこら辺は痛し痒しという奴である。

 我輩達は上からの命令で竜王討伐に向かう故、この密集した木々は邪魔である。

 しかし、寝てる所を散々邪魔された竜王からすれば我輩達の感想なぞ「勝手な事を言うな」としか思えんであろうなあ……。我輩が逆の立場だったら「ふざけておるのかおぬしは!」と間違いなく怒鳴りつける所である。相手が上司でなければ、であるがな!!


 「とはいえ仕方ないのである。まずは道を切り開くのである」

 「ですなあ」


 と、その前に……。

 気は進まぬのであるが、やるべき事はやらねばならぬのである。


 「高司祭殿はどうされるのであるか?」

 「お任せしますよ。私達は今回工作僧は連れてきておりませんし。代わりに戦闘はお任せ頂きたい」


 ふむ?ここは言質を取っておくべきであるか。


 「それは我輩達は戦闘時は下がっていろという解釈でよろしいのであるか?」 

 「おや、そう取られては申し訳ない話ですね。前回この森を切り開いた経験のある皆さんにお任せする分、戦闘では前に立つつもりだったのですが」

 「確かに。では先陣はお任せしてよろしいかな?」

 「おお!お任せして頂けるか。それはこちらとしても望む所ですよ、お任せ下さい」


 ……ちらと見ただけであるが、周囲の連中も皆嫌そうな顔はしておらんのであるな。

 我輩の部下達であれば、多少は顔が歪みそうではあるのだが……さて、これは統率が厳しくなされているとみるべきか、それとも単純に滅竜教団だから、と考えてしまうか……。いや、どうでも良いのであるな、先にあの竜と戦う責任押し付けられただけで十分であろう。

 まったく、竜狂い共にはついていけぬ。

 

 「滅竜教団の方々が先陣を切っていただけるそうである。故に我輩達はその道を切り開くのを任務とするのである。よいな?」

 「承知いたしました」


 部下達の所へ戻って告げると、副官含め他の部下達もどこかほっとした様子なのである。

 ……うむ、これが竜王と戦えと言われた者の普通の反応であろう。

 にしても……。

 改めて我輩は滅竜教団が持ち込んだ兵器の数々に視線を向けてしまうのである。

 前回の我輩達の敗北を教訓に相当な兵器類を持ち込んだのであるな……おまけに此度は相手がどのような竜王であるかも多少は判明しているのであるが……さて、竜王が勝つのか、それとも人が勝つのか。後者となれば歴史上初の快挙であるな……。 

という訳でコッペルマン子爵再びです

戦闘は次回以降になります

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