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竜に生まれまして  作者: 雷帝
幼竜編
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第四話:始末顛末

今回はちょいと短め

前回の裏話などです

 王都。

 その一角にある通り、繁華街に程近いがその喧騒からは離れたそこの裏通り。

 近くでありながら、裏に回ると一気に静かになる民家と思しき、けれどもそれなりに大きな家が立ち並ぶ閑静な住宅街と呼べる、そんな場所。その家の一軒からキアラは出て来た。一見すれば極普通の住宅にしか見えないそこから冒険者と思われる姿が出て来た事は別に違和感を感じさせるものではない。というのも冒険者と言っても色々な職種があるからだ。

 下位の竜を狩る事を専門にするような連中や護衛を専門とする連中もいれば、荒事とは無縁は代々街の何でも屋としての立場を確立しているような者達もいる。或いは薬などの為にちょっと危険な場所に生えている薬草や鉱石の採取、獣の素材を求める者だっているし、中には街から街へと手紙や荷物の配達を専門に請け負う者達までいる。冒険者が普通の家から出てくる事はおかしな事ではないのだ。

 もっとも、キアラは屋根の修理だの届け物だのといった仕事でこの家を訪れた訳ではない。彼女が仕事の終了を告げに来たのは他の家を訪れる冒険者と同じだが、彼女の仕事はもっときな臭く、表に出せない類の仕事である。

 そう、先日の「お仕事」の件だ。


 「いや、お世話になりました、無事保護出来たそうですよ」

 「そうですか、それは良かった」


 キアラが話しているのは一人の老人。

 好々爺に見えるが、その実キアラも所属する事になった組織の長であり、人を殺す事を命じる立場でもある。もっとも、冒険者をしていれば犯罪者を殺める事は決して少なくはない。犯罪者とて捕まりたくはない、彼らの中には捕まれば問答無用で死刑!という者だって多い、というかそういう者でなければわざわざ高い金を払ってまで冒険者に殺傷許可つきの追跡・捕縛など依頼されたりはしないし、盗賊団のような相手となれば冒険者より数が多い事が多く、そうなれば手加減などしている余裕もない。

 そんな体験をして、手が止まってしまう、或いはトラウマを抱えてしまい冒険者を辞める者も毎年出ており、冒険者を続ける上での壁の一つとも言われる。

 ただし、それらがあくまで『殺害も許可される』依頼であるのに対して、老人が命じるのは『必ず殺す』依頼である点が異なる。

 目の前の老人こそが、闇奴隷商人の抹殺を図る組織の長なのだ。

 

 現在の王国で、最も闇の奴隷商人達を嫌い、憎んでいるというのはどんな人々であろうか?

 無論、彼らによって無理やりに奴隷にされた人々であるのは間違いないであろうが、それ以外となるとどうだろうか?

 王?庶民?或いは貴族?

 実は正解は同じ、けれども真っ当な奴隷商人達である。

 彼らにしてみれば長年の苦労が実り、ようやっと表の世界で認められようとしているというのに、それを邪魔するのが彼ら、闇商人だ。現在の奴隷商人と呼ばれる職業斡旋所を経営している者の中には元奴隷、という者もおり、そうした人々は特に彼らを忌み嫌っていた。そもそも最初に現在の斡旋業を始めた奴隷商自身が解放奴隷であった、という話は有名な話であったりする。

 結果として、そうした解放奴隷やそうでなくとも現在のやり方に賛同している者、そうした者達が集まって作り上げた組織が何時の頃からか存在していた。

 勘違いしないで欲しいのは、彼らがやっているのはあくまで違法だという事。

 もし、法に反して旧来の奴隷商をやってる連中がいたとしても、皆殺し前提ではなく、本来は捕えて司法に引き渡すのが法。捕える際の結果としての殺害はやむをえないとしても降伏した後の皆殺しは違法だ。

 まあ、本当に皆殺しにしてしまえばそれを証明する者もいない訳だが、だからこそ闇の奴隷商はある程度の抵抗はしても最後はまだ十分に余裕を残した内に降伏する。追い詰めて死に物狂いの抵抗をされたいか、そうほのめかしている訳だ。その上で活動している場所の貴族と繋がり、司法の裁きを逃れ、また同じ事を繰り返す。

 だからこそ、それに対抗し、闇から闇へと葬る、という組織が生まれたとも言える。

 

 「ま、急な仕事、お疲れさんでした。こっちはお礼です、些少ですが…」

 「はい」


 些少と言いつつ、ずっしりと重い袋を受け取りながらキアラは内心で(他にも仕事請け負ってるんじゃ?)と思ってはいるが、口にはしない。

 世の中、知らない方がいい事だってあるのだ。

 実際問題として、今回の仕事は大変だった。

 大本の原因は人手不足だが、今回は組織が取引を察知した段階ですぐに動かせる現地の人員には十分な戦力がなかった。彼らにはそれなりの諜報網こそあったものの、戦力という面ではチンピラ相手の荒事なら十分、という程度の力しかなく、護衛として来ているであろう傭兵を相手にするには到底戦力としては数えられなかった。そして、組織はその性質上、普通の冒険者ギルドに依頼を出す訳にもいかない。

 そこで動く事になったのがキアラ。彼女ならば迅速に現場まで移動する事が出来、戦力としても十分過ぎる。

 彼女が壊滅という名の皆殺しをやった上で、後は現地の「たまたまそこにいた」正規奴隷商の手先が「金で揉めた末、殺し合いをやらかして相打ちとなった」闇奴隷商達を発見し、無事だった奴隷達を保護する、という形になっている。領主は大丈夫なのか?と思うかもしれないが、別に領主とその配下は闇奴隷商達に義理がある訳ではない。領主自身は国王への反発の為だし、領主の配下に至っては単なる金の付き合いだ。全滅した、となったのであれば後は彼らの残された船に残された財産を(必要な情報を抜いた上で)提供してやればいいだけの話。

 場所を通報すれば、回収が行われ、何しろ全滅しているのだから返せという連中もいない。向こうも薄々察してはいるだろうが、知らん振りするであろう事は疑いない。幾ら金で繋がっていたとしても彼らも国の方針に反しているという後ろ暗い面を重々理解しており、わざわざ奴隷の引渡しまで要求して王家に対して公然と反旗を翻した、という口実を与える気はないのだから。

 露骨ではあっても公然とした動きを示さぬ限り、王家も動かない……今はまだ。

 

 「まあ、またお願いする事があるかもしれませんが……」

 「いえ、都合が合えばこちらとしても人助けですから」


 キアラは自身が出て来た家から程近い家屋へと到着する。

 王都内部に家を持つ、というのは実は大変だ。

 何せ、この世界にはモンスターという現実の脅威が存在している。襲撃されづらい、或いは襲撃が長年起きていない土地を選んでいるとはいえ都が発展し、土地が選ばれた時代から何十年何百年と経った後も襲撃がないとは断言出来ない。当時はあった大河の流れが変わってしまうかもしれないし、或いは下位竜達の生息域に病気の発生などの異変が起きて大移動が起きるかもしれない。

 それらを防ぐ為に王都の周囲、いや都市と呼べるレベルのものには自然を利用したものか人工のものかはさておき、がっちりした城壁と防御施設が築かれている。必然的に内部は限られた空間となり、拡張する事は難しくなる。

 もちろん、城壁の外でもいいからとばかりに住む者は出る。  

 しかし、そうした都市外に暮らす人々は普段はいいだろうが、万が一が起きた時真っ先に被害に遭う事になる。家や財産が被害に遭う事だってあるし、場合によっては命まで失う事になる。が、それでも王都となればただ金を積めば敷地が得られるという訳でもなく、コネや何らかの条件が不可欠。

 そうした意味ではキアラは案外簡単に王都内部に家を得る事が出来た。というのも……。


 「ただいまー」

 『おかえりー』


 いわずと知れた竜のお陰である。

 一応、国に登録が必要なのでキアラと相談の結果、あの育った島のイメージから嵐を意味する『テンペスタ』という名前を今は名乗っている。

 実は竜持ち、というのは非常に各国で優遇されている。戦力という意味もあるが、知恵ある竜がいるとなると下位竜などのモンスターが襲撃対象とする可能性が大幅に下がるという実利が大きい。

 野生の獣は竜の気配を感じて、避ける。

 同じく野生の下位竜も知恵ある竜の気配を敏感に感じ取って避ける。

 そして、同じ知恵ある上位竜は怒らせるような事を仕出かさない限り、わざわざ人の都を襲ったりしない。

 野生の獣や下位竜はあくまで得る物があるから襲うのであって、危険を感知すれば素直に避ける。長らく暮らせばその地には竜の気配が宿り縄張りと認識した彼ら下位竜は知恵ある竜自身がいなくなっても長期に渡り襲撃を避ける。だからこそ、竜持ち、ドラゴンライダーは優遇される……。


 「疲れました」

 『あはは、やっぱりね』


 傍から見れば、愚痴るキアラを冷静に無言のまま佇む竜が穏やかに聞いている、ように見えるだろう。

 けれども当のキアラの頭の中にはテンペスタのどこか楽しげな、からかい混じりの声が聞こえている。


 『ま、面倒なのもあるけど、ついてけないのも本当だからねー』

 「それはそうだよね」


 心理的なものではなく、物理的に。

 今のテンペスタはあれからそう成長している感じではないが、元々がちょいとした小屋サイズだった。それが多少成長すれば小さめの家サイズにはなる。そんなの連れて街中を歩ける訳がなく、また秘密にしておくべき組織のアジトに一緒に行ける訳がない。さすがに目立ちすぎる。

 誤魔化す方法はある。というより、今回の仕事にもおおいに活用している。

 テンペストは全属性を持つがその中でも矢張り一番最初に用いた火属性を最も得意としている。

 ただし、彼が普通の竜と比べ変わっているのは普通は火と言えば赤く燃える焔をイメージするであろうはずが、光を操作したり、白や青い焔を用いる事にある。どうも、彼の知識にはこの世界では異質なものがあるらしい、とはテンペスタの母からの言葉だったが……。

 今回もその力が活躍した。

 大地の束縛の力を緩めて巨大な岩を浮かせ、それを光をちょちょいと弄って隠した(当竜談)。

 それをゆっくり降ろして、入り江を塞いだ後、念の為にキアラが怪我しないよう支援しながら、奴隷達を大地に属する闇の力で眠らせ、最後にレーザーで捕捉する全員を撃ち抜いた、という訳だ。

 頼りすぎなのはキアラも理解している。

 きっと自分だけでもそれなりに冒険者としてやっていく事は出来ただろう。それでも今ほど簡単に生活の確保は出来なかったはずだ。

 王都にとっても知恵ある竜の存在は何とか長期に渡って居続けて欲しいからだろう、竜の食費と称した保証金(実際はテンペスタは多少の品をあくまで嗜好品として食べる程度なので殆ど残る)も出ているし、王都内部での家屋など「何時かは」と目指す目標だったはずだ。

  

 (何で自分にここまで付き合ってくれるんだろう?)


 時に、そう不思議に思う事もある。

 下位竜の中には馬などと同様に調教によって乗り物や荷運びに使われる種もいる。しかし、それはあくまで動物を調教するのと同じ事でテンペスタのような知恵ある竜にそんな事は出来る訳がない。当然、人と共にある竜の数は極めて限られる。大抵の場合は竜王級の竜が古に何らかの理由で人と契約を結び、竜ならではの寛大且つ気の長い感覚で契約を結んだ子孫にも付き合ってくれている、といった形だ。

 ちなみに大抵の場合、最後は勘違いした子孫が竜王に呆れられて見捨てられる事になる。

 以前に一度聞いてみた所、テンペスタ曰く「気紛れ」だそうだ。もっともそこには同時に「人の一生ぐらい付き合ってもたいした時間じゃない」という事もあるらしい。……ここら辺は人と竜の感性の違いとしか言いようがあるまい。

 

 (まあ、いいか)


 これまでのテンペスタの反応からきっと今の状況が「彼の好意」なんだと忘れなければ……きっと。

 

 (きっと他の人みたいにいなくなったりはしない……)


 そう思い、キアラはテンペスタの体に寄りかかるように体を預ける。

 全属性を持つテンペスタの傍は地面は柔らかく草が生え、外は底冷えする寒さだというのに暖かく、結晶のような見た目でも優しく柔らかく受け止めてくれる。ただ、こうやって傍にいてくれる事が、テンペスタと一緒に何もせずにぼうっとしているのがキアラにとっては何よりの休息。

 この後は体が鈍ったりしないように行う訓練や食事の時間がある訳だが……。


 (少しぐらいはいいよね)


 キアラは頭の片隅でそう思いながら、この穏やかな時を過ごしていた。

 そんなキアラの姿をテンペスタ当竜はといえば、落ち着いた視線で見ていた。

 実の所、彼がキアラに寄り添っているのはそう難しい話ではなく、単に自分の「初めての友達」だから、という理由からだったりする。

 人はあれこれと理由を考える。

 けれど、テンペスタにはそんな事は関係ない。単独でも生きていける彼は駆け引きなど興味はない。というより、竜王級は大抵そうだ。だからこそ、真摯な思いにはきちんと対応するし、逆に下種な思いには報いを与える。

 素直にキアラが親愛の情を、友人としての思いを向けてくるからこそ、テンペスタは彼女を友と思い力を貸す。

 これがもし、彼女が彼の助力を受ける事を当然と思い、傲慢となれば……その時は……。

 うとうとしだしたキアラの周りを力を用いて快適な状況に保ちつつ、自らの力の制御の練習を繰り返す。

 昨今テンペスタが気に入っているのが光の操作だ。

  

 『お前には異界の知識が流入している』 

 

 そう告げたのは母竜だった。

 この世界のそれとは異質な知識、時折人にも現れ、けれども大抵の場合は活かす事が出来ず消えてゆく。

 竜であれば興味を持つ者は殆どおらず、知恵ある竜でなければ理解すら不可能。仮に興味を持つ知恵ある竜があっても殆ど活用される事はない……竜はそんなものがなくとも困らないからだ。もし、目の前に一生遊んでも困らない程の財宝があればどうだろう?もし、そこに追加でこの世界としては異様に高性能な馬車を与えられても、自分の移動以外にそれの仕組みを調べて活用しようとわざわざ考える者はどれ程いるだろうか?

 人であっても一日を生きるのに汲々としているような者にとってはそんな知識を得ても構う余裕はあるまい。

 そもそもこの世界の魔法が存在しない世界の知識を渡されても、困る、という事もあるかもしれない。

 けれど、テンペスタにとって、この知識は面白い遊び道具であった。そのまま活用する事は道具などが必要であろうし、他にも色々な不具合、人であれば到底魔力が足りないといった問題も竜ならではの力ずくで解決出来てしまう。

 と、同時に彼には一つの疑問があった。


 (この知識はどのような世界から来たのだろう?そして、何故流れてきたのだろう?)


 人としては普通、竜としては異質。

 そんな思考に捕らわれるテンペスタは今日もその力を弄る。


 (うん?)


 と、その前に気がついた。


 『キアラ』

 「……ん?」

 『お客さんのようだよ』


 半分眠りの世界に落ちかけていたキアラにテンペスタは声をかける。

 気付けば誰かが家の前にやって来ていた。

 家自体は広いが、この家に使用人などはいない。そもそも家が広いのはあくまで巨体を誇る竜がいるからであり、テンペスタが基本食事が必要ないと知らなかった為にそれなりに大きめの倉庫が設けられており、人としての居住区としての部分はそう大きくはない。ごく普通の一般家庭より少し大きいぐらいだ。

 メイドとして一通りの事は出来る訓練を受けていたお陰で、掃除から食事の支度まで一通りの事は出来る。

 結果として稼ぎの割に人がいないという訳だ。さすがに竜のいる家に忍び込む泥棒もいない。いや、初期にはそんな不届き者もいたのだが、テンペスタがそんなのに容赦する訳もなく、貴族の密偵だろうが単なる泥棒だろうが全部まとめて処理してしまった為にさすがに手を出す者もいなくなった。

 まあ、そうはいってもさすがに仕事で出かける時は留守番としての人を雇うぐらいはするのだが。こうした留守番役の仕事は駆け出しの冒険者にとっては宿代の節約に危険を冒さずに財布が潤うと案外美味しい仕事だったりする、と同時に成功したと言える先輩冒険者達から後輩への援助という面もある。


 「うーん、誰かな?」

 『同じ冒険者みたいだね、ふむ、前に見た事があるような』

 

 その言葉に首を傾げながらもキアラは仕方ない、とばかりに立ち上がり、表へと向かうのだった。

次の更新はチョコチョコ進めてたワールドネイションになる予定です

その次がまた竜予定

次回は冒険者のお仕事の場面です

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