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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
48/211

その後の様子

お待たせしました

 その日、王国軍は、より正確には指揮官らは呆気に取られていた。

 帝国軍残党、その集結を許したのは効率の為だ。バラバラに散らばって抵抗されるよりは、まとめて一撃で叩き潰した方がいい。だからこそ、帝国軍残党が伯爵領へと集結しようという動きを敢えて見過ごしたし、片端から叩き潰すのではなく見張りも緩いもの、集結した帝国軍残党が出撃した時に警告を出せるよう、その程度のものでしかなかった。

 それが災いしたというべきか。

 そろそろ頃合いかと、軍を差し向けてみたが、予想された進軍途上での奇襲は微塵もなし。

 ならば最期は惨めに隠れて生きながらえるのではなく、真っ向叩き潰されるのがお望みか、と到着してみれば、そこにあったのは。


 「ここは城があったのではないのか……?」

 「は、確かにそのはずなのですが……」

 「それならば何故、『湖』なんぞに変わっているのだ!」


 そう、伯爵ら帝国軍残党が籠っているであろう城など影も形もなく、そこには湖が出現していた。

 原因は知る者がいれば、話は簡単だ。

 元々、ここの水堀は川の流れを引き込み、またあふれ出ないよう川へと戻す支流を作り、利用していた。更に、城内には井戸もあったが、それは当然地下水脈の存在も意味している。

 結果、テンペスタがごっそり城とその周囲ごと持ち上げて飛び去った結果、そこには半球状の巨大な空間が生まれ、流れてきた川の水はその中へと流れ込んだ。更に、地下からは剥き出しとなった地下水脈が湧水となって噴き上がった。

 川の流れに乗って、水草の種が運ばれ、魚が流れ込み、王国軍が到着した日、城が飛び去っておおよそ一月の後には見事に湖が一つ出来上がっていた訳だ。

 不条理と言えば不条理な話だが、もっとも、この世界の住人にはこのような状況にある種の耐性があった。

 残った領地の者達に色々確認した結果、一人の子供から彼らの期待通りの証言を聞き出した後、彼らはそれを真実として上へと伝えたのだ。


 「真っ赤で綺麗なおっきな竜を見たような気がする」


 それで十分。

 ただし。


 『帝国軍残党は集結した所を竜に襲撃され、城ごと消し飛ばされたものと思われる』

 

 と真実とは逆のものだったが。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 「おかしい」


 テンペスタは自らが運んできた大地、そこで暮らす人々を遠くから見ながら、そう呟いた。


 「何で、あんなに自然の回復が遅いのだ」


 竜の顔ゆえに人の目からは分からないだろうが、もし、同じ竜が今のテンペスタの顔を見たなら渋い表情をしていると感じた事だろう。

 新たな大陸に帝国の生き残りを運んで、はや三年。

 ちょいと様子を見に戻った時に、王国は帝国を未だ完全に統治しきれているとは言えなかった。

 こう言ってはなんだが、王国が機竜を採用し、魔法使いも板を用いる事で魔法の種類は限定的ながら多数の魔法使いを揃えるなど新しいものを積極的に取り入れている国だとするならば、帝国は伝統……という名の旧来のやり方に拘ってきた。

 これが友好的なお付き合い、商売というなら、そこら辺は腹に収めておくだろうが今回は勝者と敗者だ。

 何かと、王国側が「古臭い連中」「かび臭いのろま」と言い、帝国側は「新し物好きの節操なし」と罵る。

 幾ら王国上層部が帝国の迅速な統治の為に、喧嘩を売るような物言いは控えるように言っていても、今や飛ぶ鳥を落とす勢いの王国ではどうしたって傲慢になる奴が出る。しかも、王国は帝国に匹敵するほどではないものの、複数の国を落としているし、残る周辺国家は王国の脅威に同盟して対抗しようとしている。

 あれじゃ、当面は動けないだろう。

 そう判断して、ちょっとの間折角移住させたんだから、どうせなら賑やかになって欲しいな、と思い見ていて訳だが……三年足らずでもう違いが出てきた。

 

 「なんで、森の回復があんなに遅いんだ?」


 中央大陸なら、木を伐採しても数年もすれば回復するはず。

 それが一向に回復する様子がない。これじゃ何十年かかるのやら。


 「なんで、同じ土地で年三回やそこら作物育ててるだけで土地が痩せるんだ?」


 中央大陸なら、毎年のように作物を同じ畑で作ったって元気に育っているというのに。

 水がないならともかく、水はきちんとまいている。

 それ以外にまくものなんて何かあったか?見た覚えがないんだが。

 運んできた彼らも困惑しているようだ。とはいえ、この地で生きて行くしかないんだから、と考え直して色々工夫はしているみたいだ。樹木を植えてみたり、畑は順番に使うようにしてみたり、或いは畑に色々まいて作物の成長度合いを調べてみたり。

 まあ、そういう事が出来るのも自分が手を貸してるからじゃあるんだが。

 あのお姫様が余りに暗い顔をして、バルコニーで悩んでる姿を見かけたものだからつい声を掛けてしまった。ちょっと風の属性を使って、空間渡った訳なんだがさすがに誰もいないと思ってた所にいきなり空中から声かけられて、顔を上げればそこにあったのは大きな竜。

 さすがに驚いて大声出しかけもするか、とは後で気づいた。

 まあ、騒ぎになるのも面倒なので、大気振動抑えて、声が広がらないようにしておいたから誰も来なかったけどな。火の属性の力を使って、光を歪めておいたから見回りの兵士にはこちらの姿は見えなかったろうし、実際気づかれた様子はなかった。

 当のお姫様はといえば、すぐこちらがあの時の竜だと気づいて、謝ってきたからな。

 何というか、あの姫様、どうにもキアラに印象が被るんだよな。だからか、つい甘い対応をしてしまう。

 

 やった事は単純だ、作物の実りを良くし、森を回復させた。

 その上で、お姫様が「あの時の竜王様が今一度力を貸してくだされた」と語る。その上で、自分が姿を空中に現して「これより五年力を貸そう、その間にこの地に慣れるが良いと言われた」と続けた訳だ。 

 こっから五年間は昔と同じやり方が通じる、それまでに慣れないといけない。だから、皆必死に試行錯誤しているようだ。


 「しかし、この回復速度の遅さといい、これも竜が関係してるっていうのか?いや、そうなんだろうなあ……」


 どうやら、中央大陸は他とは根本から違うようだ。これは下手に移住させて、中央大陸と同じ感覚で伐採とかされるとえらい事になりそうだな……。

   

次回……ある用件が入る可能性があるので、更新キビシイかもしれません

決定したら、その事情込みで改めてご報告させていただきます

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