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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
47/211

彼女の事情と国造り伝説

遅くなりました

 竜王様からのそれは救いの言葉でもありました。


 私達の国、メスティア帝国は王国の攻撃でほぼ滅亡したと言ってよいでしょう。

 未だ帝国の全地域を制圧してはいないものの、残る貴族でメイゼン伯爵のような勝てないまでも最後に一花、などと考えている貴族は極少数。ほとんどはへき地で未だ王国軍が来ていないから、とか必死になって降伏の使者を送っている最中といっただけのはずです。

 当然でしょうね、近衛の者達は憤りましたが、彼らには彼らの守る者があり、生活があります。滅びた帝国に殉じてなどいられないでしょう。

 そして、メイゼン伯爵のような例外とて、王国軍に勝てると考えている者はいないでしょう。

 伯爵ご自身がそうですが、今更降伏など出来はしないから戦う、ただそれだけなのです。戦って、そして死ぬ。既に決まった道、他に選びようのない道。そのはずでした。

 だからこそ、竜王様のお言葉は私達に与えられた細い糸のような、けれどもう一つの道でもありました。

 

 「新しい土地、それは私達が生きられる地、という事でしょうか」

 『さて、そこに他に住む人はおらぬし恵みも存分にある。だが、家や田畑は一から切り開かねばならぬ。他に人がおらぬという事は助けてもらう事も出来ぬ。それでも選ぶか?』

 「はい」


 躊躇いはありませんでした。

 それならば苦労はあくまで私達が努力するか否かの問題。それは試練ですらないでしょう。少なくとも間違いなく死ぬという状況とは比べるべくもないはずです。

  

 亡き父、帝国最後の皇帝の一人娘(兄弟は他に何人かいますけど)である私はこの戦争が始まって間もなく、帝都から避難させられました。

 あの時既に、父は王国が用いた新たな兵器、機械の竜の事を知っており、帝国の敗戦も見据えていたのでしょう。そして私を帝都から離したのは生き残れる皇族として一番可能性が高いのが私だったからでしょう。

 皇族の男は処断されたとしても、女は統治の役にたつとして生かされる可能性があります。王国の王が側室として迎え入れる事で寛容さを示すと共に帝国の民や貴族を納得させる事も出来ますし、男子より利用価値は高いからです。少なくとも、殺すよりは生かして利用する可能性の方が高いのは間違いないでしょう。

 そうして、信頼のおける者達をつけて避難した私の下に帝国と王国の決戦の結果が伝わってきたのはしばらく前の事でした。

 結果は帝国の完敗。

 昔ながらの騎馬兵と魔法兵を用いる帝国に対して、王国側は機械の竜に加え、魔法板を用いた魔導兵を採用。

 これによって使う魔法の種類こそ限定されるものの、帝国を圧倒的に上回る数の魔法使いによってもたらされる豊富な魔法の支援と、切り札である機械の竜によって帝国軍は常に劣勢を強いられた、と私への報告の為に敗戦濃厚な戦場より父の命によって脱出させられた兵士は涙ながらに語っていた。

 そこから後は想像がつくだろう。

 決戦で皇帝は戦死。兄である皇太子はそれを受けて、帝都を王国に引き渡した。その時、責任を取る存在として兄はそこに残っていたが、幸いというか王国軍は兄を処刑はしなかったようだ。そこは勝者の余裕というべきか、寛大な姿勢を見せる事で他の貴族達の反抗を抑える道を選んだのだろう。

 皇太子でも大人しく恭順の姿勢を見せたなら受け入れる、という王国側の姿勢を見せると共に、皇太子でも王国の前には膝を屈した、という帝国側の姿勢を見せる事によって貴族達はこぞって王国側に降伏を申し出たという。

 むしろ、王国側としてはメイゼン伯爵のような一部貴族が反抗姿勢を示した事の方が驚きだったかもしれない。

 そして、私はといえば選択を迫られていた。

 王国に投降するか、それとも徹底抗戦するか。

 一つ言える事は、私の意見はそこにはなかった。むしろ周囲の長年帝国に仕えてきた者達や、近衛が盛り上がったといった方がいいかもしれない。

 王国軍が私が避難していた城へと来た時、僅かな近衛と共に城を抜け出し、残る者達は城と共に徹底抗戦をして果てた。あの瞬間に、私の道も断たれたのだろう。王国は間違いなく私が降伏するつもりはないと判断するであろうし、周囲の近衛達は私が降伏する事を許しはしないだろうから……。

 下手にそんな事を言おうものなら、激昂した彼らに殺されかねなかっただろう。

 しかし……。


 「ひ、姫様!?」

 「最後まで帝国の為に戦おうとする者達、帝国に殉じようという彼らを助ける道があるかもしれぬのです……私は貴方達にも死んでほしくはないのです」

 「「「「「……姫様」」」」」


 その言葉には彼らは一様に何も言えない様子でした。

 ええ、そしてこれこそが私が助かる唯一の道でもあったのです。 

 誰にも言えなかったけど、私はまだ死にたくない!

 お父様は私に死んで欲しくて逃がした訳ではないはずなのです!!

 

 そして、これが私の、私達の新たな帝国建国伝説の幕開けだったのです。




 ◆




 その後、お姫様をあの後、伯爵とやらの城まで運んで相談してもらった。

 何せ、あのままだとえらい時間かかりそうだったし、伯爵の所に到着する前に伯爵とやらの領地を監視している王国の偵察兵に見つかりそうだったしなあ。

 

 その結果から言えば、彼女達は移住を了承した。

 最初はベヒモスの爺様に乗せてもらうよう頼むかと考えていたんだが、その前に、自力でやれるだけはやってみる事にした。さすがに自分から助けてやろうか、みたいな事を言っておいて、実は最初から誰かに助けてもらうつもりだったというのは恰好悪い。

 というか、やってみればそう難しくもなかった。

 伯爵領の面々は結構な人数が伯爵の館の周囲に集まっていた。ま、館って言ってもちょいとした城だがね。

 これに移住希望がいるかを領民に確認し、その全員が砦周辺に集まった所で土台ごと持ち上げた。

 そうだな、空飛ぶ城、もしくは空飛ぶ小島に城がくっついてる、というのが正しいのか?

 周囲の地面ごと持ち上げて、空を飛んだ。

 向かう先はこの大陸を中央に見て、北東にある大陸。

 おそらく一番過ごしやすい環境にあるはずだ。キアラだったらそうだった。

 

 地の属性の力でもって重さを削る。

 ベヒモスの爺様はこの力でもって自らの重量を(あれでも)相当削ってるらしい。そうでないとめり込んで動けないと言っていた。ただ、あの惨状からすると「自分が歩ける」程度に重量を削っている、という事なのだろう。

 その上でぐりっと大地を抉り、風の属性で包んで移動を開始する。

 空を舞う事に大人達は驚愕し、恐れていたが、子供はすぐに順応して淵にまで近づいて覗き込んでいた。


 「わーすげー!!」

 「きれー!!」

 「あ、危ないから戻ってきなさい!!」


 と、子供達が騒いでいた背後で、大人達が顔色を変えて叫んでいたが……風の属性で包んでいるから落ちる事はないのだがなあ。

 まあ、いちいち説明する必要もないだろう……。

 さて……。 


 『新たな大地が見えてきた訳だが……どこに下ろせば良い?望みの場所があれば言うがいい』

 

 と声をかけた。

 ゆっくり飛んで数時間もあれば、この程度の荷物ぐらいなら持って海を渡れるものなのだな、うむ。

 キアラと一緒の頃よりは成長したのだと実感出来る瞬間だ。

 

 「え?ええと……伯爵、どのあたりが良いのでしょう?」

 「ひ、ひひひひひ姫様、危のうございますぞ!!」

 「でも、見なければ決める事も出来ません」

 「……わ、分かりました。おい、姫様が覚悟を決められているのだ!!我らが怯えておってどうするか!!」

 (別に覚悟を決めている訳ではないのですが……)


 何か互いに食い違っているような印象を受けたが、とにかく彼らは空の上からああだこうだと話し合って、結局水量の豊かな河を見下ろす小高い丘の上を望んだ。

 そのままだと不安定なので、丘の上を削ってはめ込んでおいた。

 ふむ……成る程、河が氾濫した時の事を考えて、丘の上にしたという処か?

 森もほど近い場所にあるし、そちらからの恵みも得られるだろう。

 

 『何か望む事はあるか?』

 「……出来れば水を」

 

 水?

 なるほど、城内部に井戸が欲しい訳か……まあ、そこは水の属性でちょいちょいと誘導して砦内部の井戸に引き込んでおいてやるとしよう。

 ついでに水路を引いておいてやる。

 申し訳なさそうな様子だったが、まあ、この程度なら別に、なあ。

 

 『これからどうなるかはお前達次第だ。さらばだ』

 

 そう告げると翼を広げ、飛び立った。

 うむ、拝まれるとどうにもくすぐったいものがあるな……。

 さて、後は適度に監視していれば、人があの地以外でもやっていけるか分かろうというものだが……? 

という訳で大陸移動

テンペスタ自身はこっちとあっちを移動しながら様子を見ていく事になります

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