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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
46/211

テンペスタの事情

久方登場のテンペスタです

 王国が貴重な竜王との戦闘記録を元に会議を重ねている頃、遠く離れた地に大空から一体の竜が大地に舞い降りた。

 巨大な両手足を包むのは煌めく朱き結晶。テンペスタだった。


 『……この大地もか』


 ひたすら巨大な気配から逃げようと駆けてゆく獣達の姿がテンペスタには見えていた。

 無論、彼らは本能で怖れを抱いたテンペスタから逃げている。


 (死にたくなければ逃げろ!)


 敢えて声に出すならそうなるか、そんな内なる声に急かされて、肉食獣も草食獣も、老いも若きも必死に逃げる。

 もちろん、テンペスタには彼らを襲おうという気は皆無だ。

 だが、生命としての圧倒的な格の差とでも呼ぶべきものが彼らを逃走に駆り立てている。そんな姿をテンペスタはじっと見つめていた。


 『やはりいない』


 そこに見える獣達の姿はあくまで獣。

 下位に属する竜の姿すら見えない。

 自らの母竜が暮らす北大陸こそ結構な数の竜を見たが、他の大陸では竜と呼べるだけの巨体を持つ相手は一体も存在していなかった。精々がところ「ちょっと大きめのトカゲ」と呼べるぐらいの、全長1メートルにも満たない大きさのものを海岸付近で見かけたぐらいだ。

 そして、大陸の力の流れはいずれも荒々しいものだった。

 これが中央大陸のものならば安定している。

 それらが何を生むかと言えば、気象現象の安定化だ。すなわち、中央大陸では大嵐龍王の領域などいくつかの例外を除き巨大暴風雨などの災害もないし、突然の大規模火山噴火もない。地震さえ僅かな揺れがあれば大騒ぎになるぐらいだ。

 ところが他の大陸はそうではない。

 海で発生した嵐が大陸に上陸し、火山爆発や火山の活動が地域の生息環境に大きな影響を与え、地震が全てを粉砕する。

 

 『あまりにも異なりすぎている……』


 大火竜サラマンダーの下を離れ、四竜王の下を回り、その後、テンペスタは世界各地を回っていた。

 現在の中央大陸は人にとっての限界が来ているのだろう、という事は理解出来ていた。ならば、他の大地はどうなのか?

 中央大陸の人は、現在暮らしている大陸の外に異なる大陸がある事など知らない。加えて、中央大陸近辺では海も穏やかであるために外洋航行に優れた船なども必要とされなかった。大嵐龍王の領域などの危険地帯に好き好んで突入しなければ対竜用の戦力を整えれば良かった。

 嵐を突破するための船を作るのではなく、戦闘を考えた船が建造され続けてきた。

 だからこそ、外の領域に、中央大陸の影響から離れ、それ以外の大陸を目指した時に嵐に遭遇すれば一たまりもなかった。張り巡らされた装甲はトップヘビーを招き、嵐に遭遇すれば容易に転覆を招く。商業用のものであればさすがにそこまでのトップヘビーにはなっていないために多少は固定された嵐の圏内にトラブルで巻き込まれても必ずしも沈没するとは限らないのだが……。

 

 『中央大陸や北大陸との違いは竜の有無。竜がいる事で様々な自然の要因を抑え込み、安定させている?』


 だが、これまで出くわしてきた数多の竜王達にそんな意識があったとは思えない。

 もし知っている可能性があるとしたら、間違いなく知っている者がいるとしたら、最古の四体の竜王達だろう。

 けれども、これまで素直に教えてくれなかった彼らが聞いたからといって素直に話してくれるのか?


 『まあ、言ってみりゃいいか。それでダメならまた考えよう』


 改めて周囲を見てみる。

 自然現象を除けば中央大陸より脅威となる相手もおらず、豊かな大地。であるのに、ただ人の姿のみなき大地を。いや、人がいないのはまだ分からないでもない。中央大陸で人の祖が生まれ、以後大海に阻まれて人が中央大陸から出ていく事がなかった、という事もありえる。

 だが、それならば何故竜もいないのか。

 竜の中には飛行種もいる。風竜ならば延々と飛び続けて、別大陸に定住するものがいてもおかしくはないだろう。


 『でも、何でかな?自分も住みたくないわ』


 何故か分かってしまう。ここに竜が定住していない訳が。

 理屈ではない。感情、というのが正しいだろうか?自分がこれなら、もっと感覚的に判断する竜王以下の竜達が定住しないのも当然だろう。

 では、人はどうなのだろうか?


 『うーむ、試してみないと分からないが、かといってなあ……』


 まさか、どこからか連れてくる訳にもいくまい。

 人の国の事ならば移民を募るという事も出来るだろうが、竜である自分にそんな伝手なんぞある訳がない。

 どこぞに今いる所から遠くへ離れたいという人はいないものか。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 先日はそう考えていたのだが、あっさりと見つかった。

 原因は人の間で起きていた大規模な戦争だ。

 当り前だが、戦争が起きれば勝ち負けが生じる。

 これが負けたといっても領土の一部割譲などで終わり、国が残っているならともかく、完全に滅ぼされてしまうと滅んだ国の王族や貴族などは行き場を失う。

 まだ勝者となった国に味方した者は味方した代わりに領地を安堵してもらい、勝者の国の貴族としてやっていくという道もあるかもしれないが、大抵の場合、そう上手くはいかない。勝者となった側は部下に褒美を与えねばならないし、褒美を与える際に金銭だけで済むという訳でもない。

 貴族であれば、新たな土地持ちの領主になりたい。より広大な領地を治める領主になりたいと願う者は必ずいる。まあ、現実には統治ってものは真面目にやるととてつもなく面倒で、大変なものな訳だが実際にやってみる前にはそんな事分かる訳がない。

 何が言いたいかというと、敗北した側にはそれまで治めていた土地を奪われて逃亡するような連中が必ずいるという訳だ。

 

 「くそっ、こんな所でこんな竜に出くわすなんて……!」

 「姫様!!お逃げください!!」

 

 などと熱く語ってる連中は十名足らずの少人数だ。


 「もう少し、もう少しでメイゼン伯爵領に到達出来るというのに!!」


 ふむ、そのなんとか伯爵の所へ逃げる気だった訳か。

 姫様という事は亡国の姫、という奴かな?とはいえ……その伯爵とやらが果たして庇ってくれるものなのか?

 たとえ肉親、例えばこの姫とやらの母親が伯爵家の出身だったとしても家を守るために差し出されるって考えはないのか?いや、或いはあったとしても、もうすがる相手がそこにしかないのかもしれないけど。

 

 『まあ、待て。こちらには戦う気なぞないぞ?』

 「しゃべった!?」

 

 大気を震わせ音を出す。

 喋ってる訳じゃないんだが、まあ、向こうからすればどっちでも大差ないだろう。

 

 「会話が出来る程に高い知性を持つ竜……竜王、という事ですか?」

 「姫様!?」

 「竜王が相手なら戦うだけ無駄です。むしろ会話によって道を切り開くべきでしょう」

 『賢明な判断だ』


 度胸も据わっている。

 たとえそれが隠れているスカートの中の足が震えながらのものだとしても、だ。いや、分かってしまうんだよ、別に覗きとかじゃないぞ?僅かな大気の揺れがそれを理解させてしまうんだ。

 

 「一体何用でしょうか?ここに舞い降りてこられた以上、私達に何かしらの用事がある事は確かなのでしょう?」

 『ま、そうだな。だが、その前に』

 「?」

 『伯爵とか言っていたようだが、そこは逃げ込んで匿ってくれるのかね?』

 「大丈夫でしょう、メイゼン伯爵は元から徹底抗戦派で、今更寝返った者達に合流など出来ませんから……」


 なるほど、程々の所で折り合いつけた連中とは対立してた訳だ。それも致命的なまでに。

 今更降伏を考えても口を利いてくれるような伝手もない、と。だが、逆に言えば……。


 『良いのかね?そうなるとそこはそう遠くない内に滅ぼされるだろう。今、逃げた所で滅びがほんの少しだけ先延ばしになるだけだと思うが?』

 「……どのみちそうするつもりでしたから」


 どこか寂しげに、そんな事を言われると気になるじゃないか。

 なので聞いてみれば、元々はこの姫様とやら王家の別荘の一つに避難してたらしい。王家の血筋を残すため、って奴だな。万が一の事だったんだろうが、その万が一の事が起きて首都は陥落。首都に残っていた王家は全員が最後の最後まで奮闘し、全滅状態。

 姫様もこのままでは別荘を知る者に貢物として差し出されかねないと悟って、信頼出来る者達と脱出したが、行き場がない。ならばせめて滅び行く王家の誇りを見せようという事になって、どこへでも逃げるようにと暇を出した上で、尚ついてきてくれた死に場所を求めている騎士らとここまで来た、と。

 どうやらメイゼン伯爵家にはそうした王家に殉じる覚悟を決めた連中が「一泡ふかせてやろう!」と集結しているらしい。

 ……それって、敵側が意図的に流してる部分ありそうだなあ。各地に散らばってる反抗勢力を一つ一つ潰していくのは面倒だし、それなら情報流して集結した所でまとめて叩く、とか。ありそうだなあ、でなけりゃ敗北した側が迅速に情報を得て、尚且つ移動を邪魔されずに集結出来てるってありえんだろう。

 とはいえ、それを指摘したからといって意味がある訳でもなし。……いや、待てよ?


 『ふうむ、ならばいっそ死ぬ気ならば一つ新たに国を興してみないかね?新天地という奴でな』


 そんな言葉をふと口にしていた。

 どういう事かと困惑しているようだが、どのみち死ぬ気なら可能性ありそうじゃないか。

 何千人とかになると運搬が面倒だけど、いや、大地竜ベヒモスの爺様なら手伝い案外あっさり了承してくれるかもしれない……。

 

 

今回は執筆は順調

ただ、問題は風邪引いてしまった事でしょうか

喉が痛くて痛くて、久しぶりに病院のお世話になりました

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