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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
43/211

戦争開幕前、その映像

やっと身辺落ち着いてきました……

先週アイフォンが突然壊れた時は困りました

次回は4/4にワールドネイションの新バージョンの一話を公開予定です


 吾輩は王国軍砲兵大隊長を務めるエルジー・コッペルマン子爵である。

 この砲兵という職も昔に比べて随分と変わったものだ。吾輩が軍に入った頃は確か投石機を使っていたのに、その後対竜兵器を扱うようになって大型の荷車に乗せて運ぶ弩を扱うようになり、そしてしばらく前に更に新しい兵器に変わった。

 吾輩の若い頃に比べ、余りにも激変したせいで未だ覚える事が多くて大変なのである。

 ただまあ、吾輩はきちんと勉強したお陰でちゃんと武器の扱いを覚え、結果として出世も出来たのである。同期の連中や、かつての上官は兵器が複雑化するにつれて段々と脱落し、気付けばこうして大隊の隊長にまで出世した。子爵という地位はあれど、領地の経営も厳しい貧乏子爵にとっては有難い話なのである。

 このまま順調にいけば、退役までに将官にもなれるであろう……。


 「隊長、いい加減現実逃避はやめましょうよ、気持ちはわかりますけど」


 ええい、分かっているのである!!

 この副官、長い付き合いという事もあって遠慮がない。いやまあ、遠慮なく正論を言ってくれる副官というものがどれだけ貴重かは長らく仕事していれば、真っ当な頭を持っていれば分かるのでこちらも文句はないのであるが。軍人をやっていれば命に関わる故に。

 

 「やるしかなかろう、やっと戦争終わったと思ったのに」

 「まあ、『戦争が終わってもそれだけじゃこれまでと変わらない』と言われればその通りですしねえ」


 ……副官はまだ知らんからな。

 吾輩は貴族という立場にあり、小さいながらも領主だからこそ、というべきか?薄々気づいてはいる。

 吾輩の領地は既に飽和状態。

 百人しか養えない場所に、更に子供が生まれて百二十人になれば、その内二十人には出て行ってもらわねばならぬ。

 同じような小領主に聞いても似たり寄ったり。寄り親の上位貴族らの話に少し混ぜて頂いた事もあるが、やはり同じような悩みを抱えていた事を覚えている。おそらくどこの領地も、いや国全体が似たり寄ったりなのだろう。大規模な災害でもあった地域は別かもしれないが、それとて一時的なものであろう。

 つまりは未開拓地を開発しなければやがては国すら行き詰る。

 いやまあ、こういう話を吾輩が知っている時点で、おそらく我が王国がその方針として「何で、こうやって戦争吹っかけて、こういう事やってるのか」という事を吾輩含めた下っ端にも知らせる為なのだろう。実際、話を上の方から聞いた際も、そういうぼかした話を理解出来ておらん者の為に、わざわざ説明してくれたようであったしな、今から考えると。

 吾輩達現場の者が知っておれば、部下達から不満が上がった際に「他言無用だぞ」と称して、説明も出来る。

 実際、吾輩も副官だけでなく、既に大隊の基幹ともいうべき下士官連中などには説明してある。だからこそ、こんな作戦でも皆、不満を言うでもなく従ってくれておる訳だ。


 そう、竜王がいると噂される森林地帯への攻撃なんて真似をな!!


 森林地帯という場所は余り軍としての活動に向いた場所とは言えん。

 とはいえ、重火器の運搬困難な山岳地帯、更にそれが難しい山岳の万年雪の近辺、水源としての役割もある沼沢地域の中央にある巨大湖などに比べれば、まだマシだ。

 平原地帯に住んでればまだ楽なんだがなあ……。

 ああ、いや、そういう竜王もいるらしい。そっちは元・他国だったからかなり有名な守り神的な存在らしいんだけど。

 ……というか、その竜王が寝てる神殿の周囲が既に畑や田んぼになってるってどうなんだろうな?討伐しても、別に耕作地帯は広がらんし、戦うとなれば当然畑だの田んぼだのを荒らしまくる事になるから地元の反感買いまくるでいい事ないから、あの滅竜教団でさえ放置状態らしいが……。

 いいのか、竜王?それで。

 尚、この竜王も古参の部類に属し、既に何かをしようとする活力を失い、消えるのを待つだけの存在故にこんな事が起きていたりする。結果として、誰も退治に来ないせいで延々眠り続けるという事になっていたりする訳だが。


 「道は順調なのだろう?」

 「はあ、とはいえ遅々として進んでおりませんが」


 ま、吾輩としてはそれで文句はない。

 副官も分かっているから焦りはない。 

 いや、正直な話をしてしまえば吾輩達にしてみれば今回の仕事、やりたくないのである!!

 だーれが好き好んで技術開発部の連中の「自慢の一品」など担いで、竜王なんぞ退治にしにいかねばならんのか!!

 最低でもこの兵器がきちんと竜王に効くのだと分かってからにしたいのである!吾輩達以外にも同じような仕事を命じられて動いている部隊があるので、そちらで先に竜王と遭遇する事を願っているというのが本音である。魔獣の住む森を強引に突き進むのが危険なのも事実なので、遅々として進まない事に後方も文句は言ってこないのであるが。

 そこら辺をきちんと理解してくれる上司はありがたいのである。現場を知らない者が上司だと冗談抜きで「何故たかだか森を切り開いて進むぐらいの事が迅速に出来んのか!」と怒鳴りつける輩もいる故。

 人の胴体程もある木を切り倒し、これだけでかなりの重労働だ。

 救いは、兵器に使うには質の劣る魔重機(魔物の体を用いた低出力の作業用半機械)の存在と、四肢を持つ故に平らな道を必要としない機竜が主力という事で、これが昔使っていたような大型兵器であればそれらを通す為に根っこまで掘りだして、平らな道を作らねばならんかっただろう。

 そんな作業しながら、竜王と戦えなどとそれこそ出来るかっ!!と怒鳴り声を上げる所である。

 ……考えてみると、これまでこの森が切り開かれなかったのはそこら辺の事情もあるかもしれぬのである。 

 しかし……。

 ちらり、と魔重機に視線を向ける。

 便利ではあるが、我が王国も不気味なものを開発したものである。

 竜の死骸だの、魔獣の死骸だのを加工し、機械を組み込んだ道具が出てきたのは割かし最近の話である。

 

 (とはいえ、こんなもんがぱっと作れる訳がない事は阿呆でも分かる)


 自分達が普通の戦で戦ってる間、国元では時間をかけて、これらを開発していた、という事なんだろう。

 統一戦争に勝利する程の大国である自国が時間と人と金をかけて作り上げた兵器。

 それを任されているのは嬉しいのだが……。


 「魔獣の襲撃はどうなのであるか?」

 「やはりそれなりに頻繁にありますね。昔みたいに馬なりで引っ張っていってない分、対応が楽ですし、機竜とはいえ竜の気配を感じてるせいか頭のいい魔獣は姿現しませんけど」

 「そういえばそうであるな」


 成程、頭がいいから竜と思って、近づかないでおるのか。

 良い事である。

 

 「この調子なら竜王のねぐらまで時間かからなそうですね」


 ぼそりと呟かれた副官の言葉に一気に萎えたが。

 ええい、やな事を思い出させおって。とはいえ……。


 「仕方あるまい。やりたくはないが、不意打ち喰らうよりマシである故、斥候をそろそろ出す事を考えよう」

 「既に準備は始めさせています」


 さすがに長い付き合いだけあって、分かっておるな。

 一応、メンバーや装備に関して確認もしたが問題なかろう。

 機竜の搭乗者達も本来の乗り手は休息を取らせる。戦闘はともかく、ついてこさせるというか動かすだけなら可能な者は他にもおるしな。

 そして、我輩のささやかなる願いは叶わなかったのである……。




 ◆




 「ああ、遂にこの時が来てしまったのである!」

 「往生際悪いですね。まあ、お気持ちは分かりますが」

 「なら代わるのである!」

 「それはお断りします、というかさすがに私じゃ拙いですよ」


 で、あろうな。

 竜は気にもせんかもしれんが、人はそうはいかん。

 我輩が部下に責任押し付けて、後ろで震えてたなんぞと報告が行きでもしたら、それこそ我輩の首が物理的に飛びかねないのである!責任を果たすからこそ、高い地位と権限、給金が保証されているのであって肝心要の部分を部下に押し付けるような奴は早々に消えるのみ、なのである!

 

 「そこら辺、うちの上層部厳しいですからね」

  

 逆よりはいいですけど、そう呟く副官の言葉に内心で同意なのである。

 まあ、裏事情を明かせば、昔の貴族の足の引っ張りあいが原因なのであるが……。

 互いに足を引っ張る為に告げ口、捏造やらかした連中が一時大量に湧いたせいで、『貴族であっても容赦しない』体制が整ったのであるな。何しろ、貴族同士の足の引っ張り合い故、取り締まりも相手が貴族だからといってびびるようでは話にならんのである。

 おまけに、互いに当時の連中が「自分はそんな事しないのでもっと厳しくしても大丈夫ですがな」「いやいや、うちこそ」と張り合った結果、監察官の殺害なぞしようものなら公爵家でさえ一発取り潰しという極悪なものに仕上がったのである。おまけに脅迫とかそういうのを仕出かした、或いはそれをせざるえない状況に追い込んだ上で現場を押さえ、競争相手を引きずり落とすやり口まで生まれたせいで監督官の周囲には複数の思惑は入り混じってるわ、互いに監視しているせいで貴族達も迂闊に動けんとかもある。その分、監督官が不正やらかした時の対応も極悪だが……。

 ああ、昔ちらりと見た時の不正発覚した監督官への容赦なき連行の様が脳裏に……。

 物理的にダルマにされて運ばれていったあの男の様が脳裏に浮かぶというのは我輩がそれと自分を重ねているのであろうか。

 何故か、ドナドナーという音楽が耳に聞こえてくるような気がするのである!!

 ええい、しっかりしろエルジー・コッペルマン!!ここまで来たら、男は度胸なのである!!

 と、気合を入れた瞬間、森が開けた。

 それと同時に我輩だけでなく、副官や護衛の兵士達まで絶句したのが分かるのである。

 もっとも、それは我輩にも重々理解出来るのであるが……。


 それの見た目は苔むした巨岩である。

 だが、これを見てただのデカい岩などと思う奴はおるまい。

 分かるのであるよ、命が。

 言葉にせずとも目の前のそれが生きていると分かるのであるよ、頭とか感情とか以前の、そういわば本能とでもいうべき部分で!どんな鈍感な奴でもこればかりは理解出来るであろうよ!そう確信できる。これが理解出来ん奴がいたら、そいつは生命を生命だと認識出来ない異常を抱えているに違いない。

 ああ、いや、我輩も自分で思っている以上に混乱しているようである。


 「……さて、先制攻撃をかけるか、交渉でどいてもらうか、であるが……」

 「大陸のどっかに行ってくれ、って話になるんですよね?でも、その場合……」

 「分かっているであろう?」


 あくまで交渉成立を前提として、ではあるが、ではどこに行ってもらうか、という問題がある。

 領内のどこかでは間違いなく角が立つ。

 おそらく最善の一手となれば山脈の人気のないどこかか、或いは大陸の外、になるが……果たしてそれを受け入れてもらえるのか?という疑問がある。

 少なくとも、自分達であれば……。


 (いきなり来て、長年暮らした自分の家から出ていけ。移る先は我らの迷惑にならん適当な所を自分で探せ、などと言われたら……うむ、切れる自信があるな)


 喧嘩売ってんのか、と思われても仕方あるまい。

 というか、喧嘩売ってる以外の何物でもないだろう。

 竜や龍の概念ではもしかしたら別の感覚があるのかもしれないが、そんなもんを前提に動ける訳がない。


 「攻撃用意だ」

 「……分かりました」


 それらをひっくるめて命じた我輩の言葉に副官も覚悟を決めた声で答えた。

 さて、いよいよ対竜王戦か……幸いなのはこの戦い開始直後から大部分の部隊は離脱が決定しておるという事か。

 ここまで道を切り開いてきた工作部隊や、魔獣への警備部隊は元より竜王戦なんぞ想定しておらんからな。


 「では再会できる事を願っております」

 「うむ、我輩もそうできる事を願っておるよ」


 それら離脱部隊は副官がまとめる。

 そして我輩は……。


 「自分にこんなもんの適正なんぞあって欲しくなかったな……」


 機竜の一体に乗り込む。

 どこか生暖かい肉のようなシートに埋もれるようにして自らを機竜と接続する。

 砲撃型として設計されたこの機竜の一撃が人と竜との戦いの開戦となるのであろうか……。 

長らくお待たせしました

ようやっと落ち着いてきたので何とか週に一回のペースで更新していきたいと思ってます

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