動乱の始まり(+大陸設定)
お知らせを二点程
別作品となりますが、ワールドネイションを書き直す事に致しました
当初は引き上げて、再投稿予定でしたが、残したまま別投稿を、という意見の方が多そうなのでそちらで行く事に致しました
また、後書き部分にて舞台となる世界の大陸について書いております
「防げ!防ぐんだ!!」
城壁の上で必死に声を張り上げる男がいた。
そんな男の声に反応したかのように再び城壁が揺れる。
「ぐっ、被害はどうかっ!!もったか!?」
「駄目です!!ここの城壁では防ぎきれませんっ!!」
ギリっと男、この街を守る騎士団長は歯を食いしばる。
竜を防ぐ為にこの街の城壁はそれなりの防御力がある、はずだった。少なくとも大型の弩の矢程度なら防げる、そのはずだった。
しかし、現実は、と言えば既に至る所に風穴が開けられ、城壁の一部は崩れ落ちている有様だ。それを為したのは。
ギリッ、と騎士団長は音を鳴らす程に歯を食い縛る。
「滅竜教団の兵器か!あれを流用するとはな……!!」
「……やはり無断で流用されたものでしょうか」
「奴らは竜退治用なら相応の代価と引き換えに提供するからな。当然まだ使っていない物や使ったと称して隠蔽した物はある。我が国とてそうだ」
それを聞いた副官がはっとした顔で言う。
「ならば我が国もそれを持ち出せば……」
「無理だ」
苦い顔が更に苦さを増す。
「我が国のそれらは各地に分散配置してある。……ましてやあれをこうやって流用した以上、今後真っ当に考えるなら滅竜教団の連中はあの国に兵器を卸しはせんだろう。となれば……」
相当大量に溜め込んだのは想像に難くない。
そして、その大量の対竜用の兵器でもって攻撃されるこちら側が奴らに同じく兵器で反撃を行ったが最後、今度はこちらも売ってもらえなくなる。
「!そんな!!攻め込まれたのは我々ですよ!?」
「奴らにそんな事は通用せん。奴らが重要視するのは一つだけ、それが竜に向かって使われたかどうかだけだ」
だから、反撃であっても対竜兵器を彼らに対して用いたならば滅竜教団の制裁は我が国にも平等に為される。
そして、あちらはそれを見越しておそらくは多額の金をつぎ込んで大量の兵器を備蓄し、しかもそれを集中して用いている。
こちらは普段は金の無駄遣いになる故に、そこまでの備蓄はなく、しかも各地に分散して配備してある。おまけに、もしそれらを根こそぎかっさらってきた場合、そこが竜に襲われた時に反撃の術がなくなってしまうというおまけつきだ。
どう考えても直ちに供出命令が出せたとしても、街を守る為に、ひいては自分の身を守る為に現地の領主は一部を隠し持つだろう。そうなれば集まる量は更に減る。
足りない、そして間に合わない。
(少なくとも)
この戦には。
そう考えた時だった。
「!?団長!!あれは!?」
「なに?」
だからこそ、必死に撤退方法を考えていた騎士団長は副官の声に顔を上げ、絶句した。
「なん、だ。あれは」
外見は竜。
しかし、それが竜であるはずはない。いや、正確には。
「動いている?いや、だがあれが生きているはずがない!」
見た目は確かに竜だ。
赤い鱗からしておそらくは火属性系の竜。
だが、それには翼が片方ない。
いや、それどころか至る所に欠損が生じ、それらを埋めているのが……。
「機械、だと?」
三分の一からが機械とかいう代物が埋めているそれ。
機械自体は知っている。
しかし、騎士団長はそれが蔓延るのが納得出来ない、出来なかった部類の人だった。もっともそうした者は案外多い。いきなり「これからは機械の武器です!」と言われても、これまでの剣や槍で戦ってきた者達が「はい、そうですか」とはいかないのは当然。
騎士に憧れ、目指してきて、そこに辿り着いた者が騎士を否定するような事に拒絶反応するのもまた当然。
なのだが。
「……あんなものが滅竜教団の兵器一覧にあった覚えはない」
さすがに彼も竜相手に剣だの槍だのに拘るつもりはなく、人との戦争とは違う狩りなのだ、と割り切っている。
そうして、滅竜教団は自らが開発した兵器の一覧を各国に配布している。商品カタログという面もあるが、国内組織が重武装をしているという事に理性で納得はしても、不快感を持つ輩はどこの国でもいるのでその対策としての面もある。
「いや、待て。まさか」
嫌な予感が団長の胸に湧き上がる。
「まさか、そうなのか?」
「団長?」
不審げに副官が声を掛ける。
「まさか奴らの使っている兵器、あれは滅竜教団から仕入れたのではなく……奴らの国が新たに作ったのか!?」
無論、参考にはしたのだろう。
折角完成品があるのだ。それを元にして、自国で開発した、という可能性は十分にある。
完全に自国の開発品とは言えず、コピー品といった方が良くても、構わない。竜を倒せるだけの兵器を自国で生産出来るようになったのならばそれを他国に対して使うのにも躊躇いはないだろう。
「くそっ、すぐに誰か後方にこの事を伝達…!」
「だ、団長、奴が!!」
「なにっ!?」
機械で増設されたゾンビ竜とでも呼ぶべき代物。
その胸部に設けられた大型の砲口に赤い光が灯り、次第に強くなっていく。本来発射される頭部ではなく、腹部なのはその方が大型のものを設置しやすかったからか?とどこか現実味を忘れた頭で考える。
そうして、その光が放たれて直撃した事で騎士団長はそれ以上考える必要をなくした。
この後間もなく、長らく停滞していた国の拡大。
それが破られ、大国の一つが消えた。
そうして、これこそが人竜戦争の前哨戦でもあった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
どうやら終わったか。
しかし……。
「恐ろしいな、これは……」
これが量産された暁には、旧来の国々など物の数ではなかろう。
上位竜の骸を用いて生産された機竜。
その第一号。
通称レッドマスク号。
「……何故レッドマスクなのだ?」
「さ、さあ……何故でしょう?」
もっともこれはただ単に開発者が「見た目赤っぽくて」「顔の鱗がまるで仮面をかぶってるようにも見える」事から仮称として呼んでいたのを知らずに王が「開発に当たっていた者が呼んでいた名前でよかろう、彼らへの褒美という意味合いも兼ねてな」という事でそのまま通った結果だったりする。
ただし、後で名前を聞いて「早まったか?」と思わず報告者の前で呟いてしまったという事を彼らは知らない。
「まあ、いい。今更変更するのも面倒だし、そう目くじら立てるような事でもなかろう」
「そうですね」
機竜か。
初期に聞いた時には何とも言いようのない気持ちになったものだし、初めて見た時はその歪さに恐怖を感じたものだが……奇妙なものだ、こうして使えるとなった途端に頼りがいを感じてしまっている。いや、それは私だけではない。副官も含めた周囲もそうか。
兵士達も先日まではどこか不気味なものを見る目で見ていたものだった。
まあ、それは仕方あるまい。竜という存在の恐ろしさは小さい頃から誰もが聞いている。それが更に機械だらけで不気味な姿となっているのだ。距離を置かれて当然と言えよう。
だが、現金なもので役立つと分かった途端に態度が明らかに変わっている。
(無理もないがな)
敵であれば恐ろしいが、味方であれば頼もしい。眼前で振るわれた力はそういうものだ。
「使える力であれば問題ないのでは?」
「まあ、そうだな。何より我が国が先見の明を持っていた事こそ喜ぶべきだろう」
どちらも機嫌は良い。
少なくとも蹂躙される側になるよりは、蹂躙する側になった方が気分的に楽なのは間違いない。
このまま進めば当初の予定通り、この国の制圧は問題ないだろう。
(問題はその後だ)
将軍は改めてチラリと機竜に対して視線を向ける。
素材自体は問題はない。
将軍は詳細を知らないが、これらの素材の供給元が滅竜教団であろう事は容易に想像がつく。そして、教団がもし、自分達が使った兵器が元で、彼らの兵器の供給を渋ったとしても素材の売却自体は行うだろうと上からそれとなく知らされていた。
彼は知らない。
既に教団上層部と王国との間で密約が成立している事を。
本格的に竜王すら倒せる目途がついたと判断した滅竜教団であったが、彼らは人の総力を上げねば竜との戦いに本当の意味で勝利する事は不可能だと判断していた。もし、竜王級の相手を仕留めそこなえば、そうして彼らが何時か戻ってくれば……竜王を倒して手に入れられるであろう地は現在の土地ではそう遠くない内に飽和状態に達する人族を支える為の地域。数十年後の更に人族が膨れ上がった後にそれを再奪還されれば、その時にはそれこそ餓死者が続出しかねない。
その為には彼らは人の勢力の結集が不可欠だと判断していた。
故に彼らは大陸の三つに分かたれた地域から、三つの国家を選び出した。
その事を知る者はまだ、殆どいない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ふむ、あれを見ても心は揺るがぬか。
死体に各種の機械を組み込み動かす、生命への冒涜とも言える光景を見て、尚動かぬ自身の心に見切りをつける。
「どうやら我らの限界も近いようだな」
「貴公もか。思えば長き時だったがな」
「……zzz」
「……人であれば寝るな、と言う所だが、お前の場合、それで容量を稼いでいる面もあるからな……」
「……大丈夫、起きた」
どうやら他の彼らも自身と似たり寄ったりのようだった。
誰一人として憤りを示す者がおらぬ。
仕方あるまいな。しかし……。
「我らが消えるのも仕方なき事だが、それでも今、離れる訳にもいくまい」
「そも、担う者が必要なのは変わらぬからな……」
「やはり当初の予定通りか?」
「それしかないと思うんだ。僕らは消えても、残さないといけないものはあると思う」
やはり、予定通りか。
「……しかし、壁を燃やし、風を通し、海を探りて道を通し、やっと手に入れた種。実った、いや実りそうなのは結局一つだけか」
やれやれ、だ。
「しかも、その道を通じてこちらの世界に流れ着いた魂と因果が、今のあの破壊を生む原因となっている」
これでプラス面がなければ、マイナスしか生まぬ行為だったな。
「仕方あるまいよ」
「然様、やらねばこの世界は滅びを確実に迎えていた」
「開いた事が滅びになりうる原因の一つを招いたにせよ、開かねば確実に滅びを迎えていた。何ともこれもまた因果としか言いようがあるまい」
まったくだ。
この世界は酷く不安定だ。
生憎、人がそれを知る事はなかろうが。
我らとて割と初期には努力しなかった訳ではないし、我らの言葉を信じてくれた人族もまたいた。だが、本当の意味で友と呼べるような関係にならぬ限り、どれだけの者が「この世界は危ない!」と語った所で信じてくれようか?
結果から言えば、そうした人材は人族の片手の指で足りる数に過ぎなかった。
その場は信じると言った者でも我らに対する恐怖からそう語っただけで、実の所信じてはいない、という者ばかり。
いや、それは分かっていたのだが、別段取って食う訳でもなし。一旦そうなってしまえば、何をこちらが言った所で意味はなかろうと解放せざるをえなかった。一応、その後様子を多少は見てみたが、誰一人としてそうした者はこちらの告げた事をまともに広めはしなかった。
ああ、無論酒の場での話として語った者ぐらいはいたが、大抵「そんな恐ろしい竜に襲われて何でお前生きて帰ってこれたんだよ」と笑われるか、もしくはそう思われて酒の場での物語だと誰しもが思っているようであった。何時しか我らは無意味を悟り、そうした行動も取らなくなった。
「自力で生まれていてくれればもう少し楽だったであろうに」
「無理だろう」
願望だと分かってはいるが、そうも断定せんでも良かろう、風よ。
「風の言う通りだ、そうでなければ始まりの時より残った者が我ら四体のみなどという事はなかろう」
「同意」
水と土までか。
だが、それも道理。
始原より残り、世界を回し続けてきた者も一人削れ、また一人削れ残りは我ら四体のみ。
残りは皆去ってしまった。
「なに、間に合ったのだ。それでよしとしておけ」
「そうだな、我らでは届かなかったが」
「間に合った」
そうだな、その通りだ。
無駄にはならなかった。それで十分ではないか。
いや……。
「無駄にならぬと良いのだが」
「そうだな、後はあちらはあと一つだが」
「その後が問題よな」
「世界がどれだけ残るか、それ問題」
まったくだ。
幾らあれでも零からとなれば手間もかかるだろう。
「まあ、仕方あるまい」
そうだな。
三獄が四凶とならなかっただけマシであろうよ。
『世界設定』
・中央大陸
世界最大規模の大陸。
面積的にはユーラシア大陸を上回る規模の大陸が赤道を挟んで南北に広がっている。大陸の形状はほぼ円形。
巨大な山脈が大陸をほぼ三つに分割している。
イメージ的にはベンツのマークを連想してもらうと分かりやすいと思われる。
この三本の山脈が集まる中心点が大火竜サラマンダーの暮らす大陸最大のボルシオン火山であり、だからこそ以前のような制圧を目指す動きが出た。
山脈を超える事自体は幾つかのルートで可能だが、いずれも二千メートル以上の高度の峠を越えねばならず、三地域の独立性は高い。
赤道を横切る形で存在しながら、砂漠も存在せず比較的温暖な環境にあるという異常な面を持つ大陸。
今回出てきた王国は三つの地域で見ると下方に位置する地域に存在している。
・北方大陸
北極点に広がる大陸。
海流、気流の関係に加えて寒冷地を好む水属性の竜が多数生息している為に極寒というのも生温い一年中吹雪が吹き荒れる氷の大陸。
まともな飲み水さえ確保出来ないこの地で、人族が生活するのはさすがに無理があるだろう。
・西方大陸
中央大陸から見て西方に位置する縦長の地。
熱帯、亜熱帯地域の環境を持ち、大陸中央付近には砂漠地帯がある。
森からの恵みは多大だが、それなりに厳しい環境であるとも言える。
・北東大陸
中央大陸から見て北東に位置する大陸。
歪んだ五角形のような形状。
北は寒冷だが、北方大陸程ではなく、普通の生物も生息している。
また、大陸の大部分が温帯気候であり、水量も多い。
・南東大陸
中央大陸から見て南東に位置する大陸。
北東大陸とは繋がってはいない。大陸形状は先端が二時方向(と八時方向)を向いたラグビーボール。
やや乾燥気味の大陸で、草原が広く広がっている。
乾燥気味なのは大陸西側に沿って山脈が続いている為で、その為、この山脈には多大な降水量がある。




