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竜に生まれまして  作者: 雷帝
幼竜編
4/211

第三話:裏のお仕事

赤切れになると、キーボード打つ時痛いですね

ハンドクリームがかかせません……


※読みづらいという指摘があったので修正してみました

 街から程近く、程遠い。

 逆に言えば中途半端な距離にある場所、海に面したその入り江はそんな場所にあった。

 海側から見れば崖に入った深い切れ込みにも見えるそこはそれなりの幅があり、時代が時代ならばちょっとした見物になるぐらいの光景ではあったがこんな時代にのんびりと海を遊覧という仕事があるはずもなく、そんな変わったといえる趣味を持つだけの道楽者もそう多くはないし、わざわざ見に行くならもっと見物な光景は世の中に幾らでもある。その程度の谷だった。

 この谷、奥へ進むと海岸のような砂地があり、そこからは次第に緩やかな坂となって崖の上へと続いている。

 この為にある連中にとっては非常に格好の場所となっていた。無論、後ろ暗い者達の取引場所、隠し港として、だ。

 今そこに、新たに船が一隻、夕暮れに合わせてひっそりと入り込んでいた。

 

 「やれやれ、面倒な時代になりましたね」

 「まったくですな」


 砂浜に設けられた臨時の桟橋。現代でもドラム缶を浮体として上に板を渡したものを簡易な桟橋としているものがあるが、同じようなものが展開されていた。もっともこちらは浮体として丸太を用いている為に持ち運びという面ではずっと重たいのだが、必要な時に展開出来、片付ける事が出来るという面では十分だ。普段は崖に掘られた洞穴に仕舞われている。

 そこで今、会談しているのは二人の男。

 一人はにこやかな人当たりの良さそうなまだ若い男性。

 もう一人は中年の小太りのどこにでもいそうな男。

 両者共怪しげな雰囲気は持たない。しかし、ここで取引などやっている時点で彼らがごく普通の取引の為にここにいるという事はありえない。

 

 「先代の頃はもっと楽だったらしいですね」

 「せやな、ま、昔は昔や。今更嘆いた所でどうにもならへん」

 「そうですね。今は今です、で商品は?」

 「こっちや」


 示した方向には鎖で繋がれ、どこか虚ろな目をした人間亜人達がいた……。


 実はレオーネ王国においては、現在こうした奴隷の扱いは違法である。だが、奴隷商と呼ばれる人々は存在する。

 どういう事かといえば、この国の奴隷商というのは今で言う職業斡旋所みたいな役割を果たしているのだが、そうなったのは割と最近の話なのだ。

 お金がない、働きたいという人物はどこにでもいる。

 だが、現代日本とは違い、誰でも面接だけで雇う訳にはいかない。お金のない人間を下手に雇って一番手っ取り早い金の入手手段である持ち逃げ、盗みをされたりしたら大変だからだ。結果、雇用で最も多いのはどこからか信用のある場所、人物からの紹介を受けて、というコネによる斡旋が圧倒的に幅を利かせていた訳だが、そんな折ある知恵者が考えたのが奴隷商が扱う隷属の首輪と呼ばれる魔道具を用いた雇用である。

 隷属の首輪、これをつけている限り、主を裏切る事は出来なくなる。

 そこでこれを身に着け、その上で仲介を行い、雇ってもらう。

 雇用側は隷属の首輪を相手がつけている為に裏切られる心配なく、雇えるという訳だ。その上で将来的に「これなら大丈夫」と雇用側が判断すれば首輪を外せば良い。

 実は少女を最初に買った貴族も娘の社交界デビュー時に首輪外す予定で準備をしていた。無論、態度に問題がある場合や特に守秘義務が必要な仕事の場合は敢えて外さないというケースもある。

 これによって雇用側は安定した裏切られない労働力の供給を得られるというメリットがあり、雇用を求める側は誰かの推薦という紹介がなくとも雇用が得られるというメリットがあった。首輪というのは見た目が悪いので形状は間もなく腕輪へと変わり、需要が生じた事でこうした奴隷用に隷属の内容の変わったものも生まれた。犯罪を命じられた場合や、強引な伽を命じられた場合には抵抗出来るように、だ。

 こうなってくると奴隷の売買によるメリットは低下する。

 また、奴隷売買と雇用、両者の支払いを一括と分割払いと考えるなら分割を選ぶ者も出る。

 それに雇った者の仕事への積極性もだ。奴隷は命令されるまで動かないという者も多く、また命令された以上の事は行わない、一部の例外を除けば重要な職務を任せられないといった弊害もあったが、雇用という形態となればむしろ雇われた側が積極的に働いて給与の向上や待遇の向上、最終的には隷属の腕輪からの解放を目指す事になる。

 王国としても金を持たない奴隷や仕事を持たない、持てない事による治安の不安定化よりも仕事を持つ者と、金を持つ者が増える方が治安、税制双方に有利であると現実に数字として出てきた事で考えるようになり、数年前、奴隷制は廃止された。現在も奴隷商という名が残ってはいるが、これはまだ正式に廃止が決定されて数年しか経っていないという部分が大きい。

 だが、施行されて数年、仕事内容が変わりだしてからなら既に十年以上の年月が過ぎていながら未だ悪いイメージが付きまとっている理由の最大の原因は裏の奴隷商とでもいうべき存在達の為だ。

 そう、確かに真っ当な雇用を考える者は奴隷制の廃止を支持出来た。

 しかし、真っ当でない者……真っ当でない使い方をする者達にとって奴隷制の廃止は納得のいかないものであった。

 そして、需要があれば、供給を図る者は出る。

 と同時に表で禁止されていればいる程、必然的に取引額は大きくなる。元となる商品がその気になれば比較的安く手に入る、となれば尚更、闇の奴隷商としての取引を行おうと考える者は出る。どんなに社会が発展してもスラムで暮らす者はおり、そうした場所で暮らす人の数は国でさえ正確には把握しておらず、そんな場所では孤児が一人二人消えてもそう気にする者はいない。

 ここに更に領主が絡んでくるような場合であれば、権力と結びついた故の方法、罪を着せて刑罰ゆえに昔の奴隷と扱いが大差ない犯罪奴隷へと落とす事もある。

 かくして闇取引はなくならず、現実に基づいた噂、或いはかろうじて生きて帰って来た者の口から語られる話が奴隷商という言葉から後ろ暗いイメージを消させない。そして、今ここにいる彼らはそんな闇の奴隷商と呼ばれる者達だった。


 「じゃあ、商品の確認をさせてもらいますよ」

 「ええ、どう……」


 さて、とばかりに奴隷に向かって歩き出そうとした船主たる若者は中年男が不自然に言葉を切った事を不審に思い、奴隷から取引相手である中年男へと視線を戻した。

 当の中年男は、というと唖然とした様子で船の方へと視線を向けている。


 「どうかしましたか、うちの船になにか」


 あったのか、と若者も尋ねつつ後ろを振り向いて……同じく唖然とした様子で固まった。

 自分達のボス二人が会話を止めて同じ方向を見ているという事で一人また一人と「一体何が」と同じ方向へと視線を向けては固まり、また別の者がその様子に気付いて、と次々と船の方へと視線を向ける。船に乗っていた者達は自分達の方へと視線が集まっているのに気付いて、はて後ろに何かあったかと更に後方へと視線を向けて……やはり同じように固まった。


 ふわり、と。


 空中に岩が浮いていた。

 ただちょっとした岩が浮いていただけならば、そこまでの驚きはなかっただろう。簡単な魔法ではないが、魔法にはそれを可能とするものもあるからだ。

 だが、彼らが固まった理由として、まず一つ目だが、その岩は巨大だった。

 この入り江は船が安全に入って身を隠す事が出来る。つまり、谷幅の方が船のそれより大きい。その谷を埋める程の巨大な岩であった。 

 もう一つはその岩が空中から滲み出すように出現しつつあった事だ。

 先程まではあんな岩は存在しなかった!という以前の問題だった。何せ今も尚、岩の上半分は見えておらず、下半分が見えている状態……から音も立てずに次第に下へと岩が降りてくるに連れて全体像が見えてくる。 固まっている連中の中でも冷静な者は頭の中ではゆっくり降りてきているのは大波を起こさない為だろうか、ぐらい考えたりしていたのだが、それでも余りと言えば余りな光景に思考が追いつかず、行動に移せぬままに時間は過ぎる。

 彼らが再起動したのは大岩が完全に船の後方、谷を塞いだ後の事だった。


 「……はっ、しまった!これでは出れません!」

 「……あ、そ、そうや、呆けとったらあかん!」


 呆然とする一同で一足早く我に返ったのはそれぞれのリーダー格の二人だった。状況的には既に手遅れだが、それでもこの状況の中、それぞれの配下をまとめて、指示を下せただけたいしたものだろう。

 ひとまず荷物をまとめるよう若者が指示を下し、中年男はそれを手伝うよう指示を下す。それと同時に用心棒や傭兵といった戦える者には海の反対側、谷から上る道を警戒するよう指示を下す。両者共、これが偶然に起きた出来事だとは欠片も考えておらず、何者かによる工作だと判断した。であるならば海側の出口を塞いだ以上、反対からも何か仕掛けてくると判断したのだ。 

 そう考えるならば、片方の勢力だけでさっさと逃げようとしても今更無駄。各個撃破の対象となる可能性が高く、それならば協力して突破した方が良いと判断した訳だ。

 

 「と、考えるんでしょうね。まあ、もう遅いんだけど……」


 女性の声が響いたのはそんな彼ら全員が動き出した直後だった。

 ぎょっとして彼らは一斉に声がしてきた方向を向いた。

 ……何時の間にそこにいたのか、一人の女性が奴隷達の傍にいた。顔はどこか派手な獣のような仮面に覆われて見る事は出来ず、その服装もまた意図的にだぼついた服を着込んだ上にマントを羽織っている為に体型も良く分からない。かろうじてくぐもった声ではあるが、声から女性だろうと推測出来るぐらいだ。

 

 「馬鹿な……」

 「い、何時の間にそこにいたんや!?」


 若者と中年男二人が驚愕の声を上げる。 

 当然だろう、そちらに隠れる場所などない。ないからこそ奴隷達を集めていたのだ。

 いや……。


 「そうか、上から降りてきたな?」


 すぐに気付いた中年男が苛立たしげに言った。

 確かにそれしか道はなかった。魔法は万能ではない。自由自在に空を飛ぶとなると相当な大魔法使いでもなければ無理だが、高所から飛び降りて落下速度を緩め、安全に着地するぐらいの魔法ならばそれなりの腕の魔法使いならば使いこなす。

 おそらくは同じ魔法を使ったのだろう、と判断した中年男はニヤリと笑った。


 「奴隷どもを助けようとしたか?だが、そこに立ったのは間違いだったな。奴隷共!『そいつを捕えろ』!!」


 隷属の腕輪を嵌められた者は事前に腕輪によって定められた管理者に抵抗出来ない。

 現在は前述の通り腕輪は雇われた者が犯罪を犯したりしないという保証の為に持ちいられるものであり、加えて昨今は改良が為されて犯罪行為を命じられた場合は嵌められた側も抵抗出来るようになってきているが、今、ここにいる奴隷達に用いられているのは旧来の絶対服従の為のもの。それを外すには特定の鍵を用いなければ不可能……のはずだった。

 だというのに、中年男が命じた瞬間、その声を鍵としたかのように……。


 かちん、かちん、がちゃり。


 次々と音がして、奴隷達に嵌められていた腕輪が外れ、落ちた。

 思わず「はっ?」と間の抜けた声を中年男が上げる。いや、中年男だけではなく、若者も彼らの部下達も一様に唖然としていた。

 当然だ。ありえないはずの光景なのだから……そんな簡単に外れるようならこんなものわざわざ使ったりしない。大量生産品とはいえ魔道具である以上、決して安い品ではないのだから。


 「ば、馬鹿な!!それは絶対外せないはずだ!!」

 「ああ、うん、そうだね……(人には、ね)」


 確かに外せない、ただし人の常識の範囲では……という但し書きがつく。

 無論、既に誰か分かっているであろうが女性はわざわざ口にしたりはしない。

 しかし、自分達が何もしていない以上、女性もしくはその仲間が何かしたのが確実な事ぐらいは分かる。何をしたのかと警戒するが故に動けない彼らだったが……。


 「で、素直に降伏してくれないかな?」


 女性の降伏勧告には若者は苦笑し、中年男は鼻で笑った。

 そんな彼らの背後に控える男達の中から若者の合図を受けて一際凄味を漂わせた男が歩み出る。


 「生憎そういう訳にはいかんのじゃ」

 

 そう語る男からは血の匂いが漂うようだった。

 男が出てきた事で、他の者もようやく兄貴に続けとばかりに武器を抜く。

 それを制して、男は雇い主に確認する。


 「殺しちまっていいんでしょう?」

 「構いませんよ。まあ、背景を聞く為に余裕があれば生かしておいてくれると有難いですが……」

 「努力はしやしょう」


 ずい、と男は更に三歩程大股で歩を進め、立ち止まる。

 

 「お前さん魔法使いなんじゃろう?」

 「さあ?どうだかね」


 素直に答えるとは思っていなかった男はその返答にも何か言うでもなく剣を構える。

 無論、男自身は相手が凄腕の魔法使いと判断して動いている。あれだけ魔法使いとしか思えない事をやってくれたのだ、当然そう判断する。男が立ち止まった距離もそれを如実に物語っていた。同じ剣士と思えば、もっと無造作に間を詰めている。だが、しかし……。


 「お前さん、仲間は出てこないのかい?薄情だねえ……」


 どこか挑発気味に声を掛ける。

 もちろん、これで動揺を誘う気などなく、僅かな会話、態度からでも相手の手の内を引っ張り出す為、それと同時に下っ端達に「仲間がいるかも」という事を気付かせて警戒させる為だ。

 彼自身の経験から考えても、さすがに一人でこの場にやって来るなど無謀極まりない。よしんば彼女が一人で軍隊に匹敵するような世界有数の魔法使いだとしても、無理して一人で来るよりは仲間を連れて来た方が安全性が増すのは間違いない。


 (まずは様子見に一撃)


 男の勘が警戒を呼びかける一線、相手の間合いの内へと踏み入り、駆け出す。

 砂浜であろうとも鍛えられた男の足はしっかりと砂を噛み、一気に距離を詰めながら、その鋭い眼差しで僅かな相手の動きをも見逃すまいとしながら駆けるが未だ攻撃はない。


 (どういう事だ?)


 不審を感じる。もしや、魔法使いは別に隠れていて、こいつは剣士なのか?そうも考えるが相手の挙動は素人ではないが、剣士のそれではないと判断する。

 疑念はあるが、いずれにせよ攻撃しなくては始まらない、そう判断し、剣を振るのに合わせるように女もまた腕を振る。ただし、無手のままだが、同時に砂がざっと音を立てて動く。


 (詠唱破棄か!?)


 詠唱破棄、その名の通り魔法の呪文を唱える事なく魔法を発動させる技術だが、その最大の欠点は射程の短縮化にある。

 魔法の威力こそ大して変わらないが、射程は大幅に短くなり、結果として下手に火炎系や冷凍系の広範囲に影響をもたらす魔法を使えば自分すら巻き込んでしまう。

 反面、射程が短くても構わない自分を巻き込む心配のない魔法を用いての攻撃や、自身に強化魔法をかける分には問題なく、またそうした戦いを専門とする者もいる。詠唱破棄を前提とした近接魔法戦闘技能者……。


 「てめえ、魔闘士か!!」


 だとしたら魔法使いでありながらこれだけ接近を許した事も頷けるというもの。

 もっとも言われた当の女性からすればただ単にあの生活の中では詠唱破棄を鍛えるしかなかったとも言う。いきなりじゃれついてくる子達をいなすにはいちいち詠唱なんかしてる暇なんてなかったのだ。……お陰で避けも上手くなり、結果として魔闘士と呼ばれるスタイルと同じ戦闘方法となっていたお陰で冒険者となるのには苦労しなかった。

 砂が盾となって剣を弾く。

 咄嗟に飛び退いた男の着地寸前にその足元の地面が凹む。

 男の視界からは死角で起きたそれには対応出来ず、がくん、とバランスを崩した男に横向きにギロチンと化した砂の刃が飛来する。  

 

 「うおおおおおっ!!」


 声を張り上げ、無理やりに男は攻撃を回避するべく跳ねた、そのつもりだった。

 本来ならばかろうじてその体の下を砂の刃が通り過ぎる、はずだった。

 だが、砂浜からは鎖のように男の体に砂が伸び、巻きついいた。砂でありながら鉄の鎖にも勝る頑強さで男の動きを停止させたそれが男の挙動を決定的に遅らせた。回避が間に合わない事を悟り、真っ二つに断ち割られる寸前の男は驚愕、ではなくどこかほっとした僅かな微笑を浮かべ、鮮血と共に転がった。

 ふう、と溜息をつく女性に拍手が送られる。

 

 「いや、たいしたものです。さすが瞬間的な強さにおいては最強と謳われるクラスは伊達ではないという事ですか。彼も今いるうちの手駒では最高クラスの剣士だったのですがねえ」


 若者がにこやかな笑みを浮かべたまま、手を叩いていた。

 その様子には最高の手駒を失ったといえど、怯える様子も何もない。

 一つには当人が言った通り、瞬間的な強さにおいては魔闘士は極めて強力な反面攻防全てに魔力を使う為に持続力に欠ける、ここにいる全員を倒すのは難しいという事もあるだろう。或いは……。


 「どちらにせよ君が私達を捕えても無駄だとは思いますよ」

 「そうやのう。どこのどいつか知らへんがこのままで済むと思うんやないで?」

 「あ、やっぱりここの権力と結びついてるんだ」


 若者と中年男が自分達の言葉に女性が返した反応に僅かに笑みを浮かべる。

 そう、これこそが若者が落ち着いていた最大の理由、彼らは自分達が本当の意味では捕まらない事を理解していた。

 レオーネ王国にも貴族がいて、領主がいる。彼らは実質的に司法を握るこの地方の領主と結びつく事で法の網をすり抜けてきた。

 こうした事が起きる原因の一つには現王の中央集権を目論む行動に対して旧来の貴族が反発しているという事もある。それはいきなり自分達の権利を剥奪しようという動きに出られたら反発が出るのは当然だろう。最初は司法権でも次は徴税権などにも手を出してくるかもしれない、となれば尚更だ。何事も一つの事で引けば、次を押してくる原因となる。引いてはならない時、というのは間違いなくある。現王が奴隷の禁止という政策を打ち出したのは確かに財政面などの点も大きかったが、こうした貴族との対立により平民からの支持を得る必要があったという面があるのは否めない。

 結果、貴族の中には意図的に奴隷の解放や取引に対して悪意を持って行動する者も出ている。

 領民に対しては善政を敷いている者もいるのでここら辺は非常にややこしく、暗闘も激しい。王都のような大規模な奴隷取引の市場などが存在していた大都市ならばともかく、地方領主の領民となると奴隷とはろくに縁がないという事も珍しくなく、「自分達には関係のない話」、と領主が奴隷制度に関して無視していても領民の反発はなきに等しい、という事もそれに拍車をかけていた。そして、この地方の領主もそうした王に反発する貴族の一人だった、という訳だ。

 それが領主の配下の者にも影響を与え、結果的にこのように闇の奴隷商も賄賂と引き換えに役人からの目こぼしを受ける原因となっている。


 「やっぱりね……だから、ああいう依頼になったと……ねえ、最後通告だけど大人しく降参しない?私の友達、もうさっさと片付けようって言い出してるのよ」

 「ほう、矢張りお仲間がいましたか……その自信はそのお仲間を信頼しているから、ですかね?」

 「ええ、貴方達の返答次第では即効で終わらせる事が出来るのよ」


 若者と女性が言葉を交わす。

 その言葉に中年男と顔を見合わせて二人して苦笑すると……。

 

 「お断り(です/や)」

 「そう、じゃあ、仕方ないわね……」   


 その言葉が終わるか終わらないかの次の瞬間、奴隷商人達は光が見えたような気がした。

 けれども、(なんだ?)と脳裏に浮かぶ時間も許される事なく、彼ら全員の頭が綺麗さっぱり焼滅していた。


 「御免なさいね。実の所はどのみち始末するよう言われてたの」


 どさりどさりと次々と死体となって転がる彼らにどことなく申し訳なさそうに女性は告げた。

 ついで、とばかりにちらり、と確認すれば奴隷達は全員完全に熟睡している。

 どうやら頼んでおいた通り上手くやってくれたようだ、とキアラはほっと安堵の溜息をついたのだった。


次回で裏事情などを


基本、幼竜編は人の世界の人の視点などから

成竜編は竜である彼の視点から世界を回って、この世界での竜達の生活と触れあいを

その次の竜王編で以前投稿していた本編のような縄張りを決めてのお話という順番を予定しています

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