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竜に生まれまして  作者: 雷帝
人竜戦争編
36/211

大地の王(前編)

お待たせしました

今回はベヒモスと呼称される竜のお話です

次回はほぼ戦闘場面?

 ふと大嵐龍王は微かに身体を揺らした。


 『水の気配か。久しいな』


 長い、長い時が過ぎて、気づけば最古の龍と竜は四体。多種多彩な力を持つ者達ではなく、奇しくもただ一つの属性を持つものが残った。これまた奇妙な事に四つの属性に一つずつ、ここまでくると何等かの神の意志か運命とでも呼ぶものを感じてしまう。

 ただ、それでも長く、本当に長く生きた故に彼らは殆ど自らの終の地と定めた場所から動く事はなかった。

 しかし、その莫大な年月故に彼らのいた場所はそれぞれの属性の莫大な力が宿り、またそのおこぼれにあずかろうとするかのように、実際にはその力に惹かれて野生動物、すなわち下位竜や魔獣達もまたその地に住み着くようになった。

 上位の竜や龍はいない。

 余りにも強大な属性の力を宿す存在に怯えてしまって近寄ろうとしないからだ。

 それなら本能のままに生きる動物達こそ逃げ出すのではと思うかもしれないが、ここまで巨大な力だと彼らにとっては逆に自然の一部としか認識出来ないらしい。事実、大嵐龍王の領域にもさすがに暴風の結界の為に空を飛ぶ動物こそいないが、逆にその暴風域に守られ、海の中には下位竜を含めた豊かな生態系が育まれている。

 むしろ、問題あるとすれば海の領域に人が入れた点にある。


 この中央大陸は周囲から流れ込んだ海流の影響によってある程度以上沖合に出ようとすると強い流れによって大陸に押し戻される。

 この為、外部から入り込めても、外部の他の大陸へと出るのは非常に困難。逆に周辺の大陸からは一旦捕まれば逃れようのない海流として怖れられ、それが中央大陸と周辺大陸の交流を断ち切っていた。中央大陸を囲むように存在する大陸の存在自体は海流に捕まって辿り着いた人々の存在によって知られていても、これまでの帆や櫂を用いた船では突破出来なかった。

 そして、リヴァイアサンの領域へと到達する為にはその海流を超えねばならず、それ故にこれまでそこまで到達されずに済んできた。

 それが到達された。すなわち、中央大陸の人々は遂にある意味中央大陸を封じ込めてきた海流を超える力を得た、という事でもある。


 「良い事だと素直に喜べれば楽なのだが」


 海に続き、大地の所でも騒動が起きている以上そう言ってもいられないのだろうな。


 「そこの所どうなのだ?」


 そう言って、大嵐龍王は視線を、荒れ狂う海洋の上に穏やかに立つ人影に尋ねた。

 その声に人影もまた口元に笑みを浮かべてからその口を開いて――。




 ◆




 黄金連山。

 そう呼ばれる地域がある。

 金属の塊のようなその山々は遥かな遠目に黄金色に輝く事で有名な山々だった。

 その見た目から「黄金で出来ている山」という伝説が自然と生じ、やがては黄金連山という呼称が定着したが、遠目にならば山々を走る街道を抜ける際に見る事が出来てもいざそこまで到達しようとすれば下位竜や魔獣の跋扈する大森林地帯を抜けねばならない。

 しかも、その地は方向感覚すら失わせる魔の森であり、まともに進む事すら困難。

 ある国に援助された大商人は森を少しずつ切り開いて街道を開く事で到達しようとしたが、異様な速度で成長する森は切り開かれた道を翌日には埋め尽くして再び森へと戻す有様。

 ならばと火を放っても燃え広がらない。

 

 『きっと竜が住んでいるんだ』


 そんな伝説が生まれたのは必然と言えるだろう。

 世界によってはまた別の『神様が住んでいる』とか『呪いだ』とかいった形となっていただろうが、訳が分からない現象が起きた時、この世界の住人が真っ先にその原因として考えるのは竜であり龍だ。この場合も、その常識が適用されただけに過ぎない。

 しかし、それでもまた黄金の輝きは人を惹きつけ続けていた。

 これがまだ伝説、伝承の類、『あの魔の森の奥には黄金で出来た山があるって話だ』というものであれば僅かな物好き、道楽者、一攫千金に賭けた博打打ちなどが目指した程度だっただろう。

 だがその連なった山々は遠くに、ではあっても確かに黄金の輝きでもって人の目で見る事が出来た。実際に見る事が出来るとなると、噂話と笑ってもいられない。まるで火に誘われる蛾のように、大勢の人がそこを目指し、そして誰一人として帰って来る事はなかった。


 結論から述べてしまうなら、ここにもまた技術発展は影響を及ぼす事になった。

 確かに森は一日もあれば切り開かれた道を飲み込んでしまう。しかし、それは道があくまで土が剥き出しのレベルであり、また幅も狭かったという部分が大きい。何しろ、森を切り開くというのは重労働だ。ちょいと人の手の入っていない森へと足を伸ばし、そこに道を作ろうとしたら、と考えてみれば即座にそれが困難なものである事が分かるだろう。

 藪一つとっても鉈や鎌で楽に刈れるのは下草程度で、ちょっと太い灌木になると鉈で大きく振って斬りつけても一撃で切れるどころか、刺さって抜けなくなる事だってある。密集した地帯ともなれば大きく振りかぶる事も出来ない。ましてや太い樹木ともなれば一本切り倒すのも至難の技だ。切り倒したら倒したで、今度は巨大な切り株が残り、これもごっそり引き抜いて、残った穴を埋めて、そこに道を作るとなるとこれまたとんでもない手間がかかる。

 結果として、これまでは幾ら人海戦術でといっても、なるだけ樹木を切り倒さないで済むようなコースを選び、そんなコースでもきちんと地面を固める為に掘ればすぐ根にぶち当たったりする為にあくまで表面を歩きやすくした獣道でしかなかった。

 ところが、ここに多数の魔術師が投入された。

 これまでと段違いの速度で木が切り倒され、倒れた木はゴーレムが運び出し、残った切り株も地属性の魔法で土ごと持ち上げられ、取り除かれる。

 空いた穴をまた地属性魔法で呼び出した砂利と土で埋めて、ゴーレムローラーで押し固めて道を作り上げる。表面も馬車が走れるように加工する。

 これらがこれまでの数百倍という速度で進められた。

 更に、植物の育成が極めて速く、あっという間に道を覆い尽くしてしまうという前例から植物の侵入を防ぐ為に火属性による結界を土の中にまで伸ばした。これによって根の侵入をも防ぐ。土の中に火属性結界というとイメージが湧きにくいかもしれないが、溶岩まではいかないにせよ土中で尚燃える石炭といったケースはある。

 

 無論、これ以外にも襲撃もあった。

 この森には魔獣もいるし、下位竜もいる。

 しかし、これらもまた冒険者や竜狩り達によって全てが撃退された。そもそも、彼らの大半は基本的には獣の類であり、何度も執拗に襲撃をかけてくるというものはそう多くはない。大抵の獣は敵わないと悟った時点で撤退し、以後は距離を置く。

 そして、極僅かなものだけが尚も襲撃をかけてきた。もし、これが冒険者の一般的なパーティのように少数で動いているならば何時襲ってくるかも分からない、常に緊張を強いられる状況など極めて厄介な状況であっただろう。だが、今回に関して言えば相手が悪かった。多数の作業員や魔術師によって構成され、護衛もたっぷりいる状況では確実に捕捉された襲撃は的確に迎撃を受け、そして散っていくのは必ず獣の側だった。

 そうしてこれまで『見えているのに果てしなく遠かった距離』は遂に『届く距離』へと変わった。


 「やれやれ、やっとここまで来たな」

 「そうですな」


 今回の道の主役は二名。

 商人達の連合と国。

 無論、こうなるまでには理由があり、昨今の技術発展に伴いある冒険者達が大規模なレイドパーティを組み、一攫千金を狙って魔の森の突破を図った。

 結論から言えば、ある意味それは成功し、ある意味失敗した。

 彼らは無事突破を果たし、黄金連山へと到達。その金属塊を持ち帰ろうとしたがここで問題が生じた。

 別に「見た目は派手だが実はガラクタだった」という訳ではない。黄金連山は確かに希少鉱石の塊のような山であり、莫大な価値がある事は疑いない。問題はその鉱石の種類。黄金もそれ以外も強い魔力を帯びた魔鉱石と呼ばれるものだったからだ。

 この魔鉱石、あらゆる金属がそうなる可能性がある。

 金の魔鉱石もあれば、鉄の魔鉱石もあるし、錫や銅、石炭の魔鉱石なんてものも存在する。

 これらはいずれも本来の金属の性質を宿しつつも、同時に強い魔力を帯びており、様々な魔法具に加工される際に重宝される。とはいえ、一定以上の強い魔力を長年浴び続けないと魔鉱石とならない為、時に自然の属性が溜まりやすい魔力溜まりだとか、魔力の噴出する異常地脈、強い魔物の巣などで偶然発見されるという極めて貴重且つ高価な鉱石だ。その価値は同じ黄金でも通常の黄金に対して魔鉱石の黄金では1000倍以上の値で取引されると言えば分かるだろう。

 ただし、同時にもう一つ大きな問題も存在する。

 常に魔力を帯びた状態である為に魔法の影響を酷く受けづらい、という事だ。

 いや、だからこそ魔法抵抗を高めたりもするのだが、その分加工もしづらく、何よりこれまた単なる魔力のせいと言ってしまっていいものかはさておき重い!

 一応、学者が『鉱石というものの性質を魔力が引き出している』、重量もまたその影響を受けている、という事らしいが通常の鉱石よりずっと重い。

 というより、鋼鉄製の何十トンもの鉱石を運ぶ事前提の機械なんてものがあればまた話は別だろうが、生憎機械もまだまだ発展途上、そんな巨大なものを機械のみで動かせるようなものは存在していない。したがって、冒険者達が持ち込んだのは精々が各自が荷を運ぶための背負子や籠、これらに重量軽減の魔法をかけて一気に運ぶ、はずだったのだが。魔鉱石が相手となると、そんな籠に一杯入れたりしたらさすがに重すぎる。無論、価値が高いのだから少量の持てるだけ持って帰っても十分な儲けになるのだが……ここで臨時のパーティという事が問題になった。 

 これが長く続いたパーティならいい。気心も知れているし、『一緒に儲けよう』で済む。

 しかし、しかしだ。

 今回、突発で組んだこれまでライバル関係だったような、腕は認めていたし、仕事仲間程度には心を許していたといっても身内同然のパーティとは彼らは明らかに違う。もう、お分かりだろう。彼らは誰もが考えてしまった訳だ。


 『もしかして、こいつらこの山の情報を売るなりして自分達だけ大儲けするんじゃ』

 『自分達だけでこっそり独占とか企んでないだろうな…?』


 そんな考えが思い浮かぶのはそう考えている当人も心の内でそんな事を考えはした、という事でもあるが、いずれにせよ僅かな魔鉱石を得た段階で仲間割れの危機に彼らが陥ったのは確かである。

 慌てたのは各パーティの知恵袋的存在達、もしここで分裂して「じゃあここからは早い者勝ちだな」などという事になれば今度は少数のパーティで森を抜けなければならなくなる。行きより人手が減る分、格段に危険度が増す事は間違いない。幾ら新たな技術が開発された事で、魔法の種類も増え、結果としてここまで辿り着けたにせよ決して楽な道という訳ではなかった。そもそも、楽な道だというなら彼らはレイドを組んだりしてはいない。単独パーティでは無理だと判断したから彼らはレイドを組んだのだし、それは正しかったと認識してもいた。

 それを指摘してやれば、先程まで殺気立っていた者達も気まずそうな顔になった。

 

 「だから落ち着け、どうせ俺達ではここの立地は活かせないんだ」

 「そうだぞ。大体独り占めなんてした所で意味ないだろうが、この複数の山丸ごとだぞ、俺達全員が掘りまくったってろくに削れもしない内に寿命だろうが」

 『……そりゃそうだ』


 思わずといった様子で複数の者が呟いた。

 確かにこの巨大な山複数だ。しかも魔鉱石。ここにいる全員が一生遊んで暮らせるだけの金を得るだけの量を何度か掘りに来て持ち帰ったとしても殆ど削れたようには見えないだろう。例えるなら尽きる事のない札束がどこまでも連なっているようなものだ。全員が欲しいだけ持って行ってもその何十倍どころか何万何億倍もあるとなればここで命がけで戦うのも馬鹿馬鹿しい話だ。

 そう理解すると一同の肩から力が抜けた。


 「けど、何度も命がけで採りに来るってのもどうかと思う」

 「どういうこった?」

 「つまりだな……」


 ここまで来るのは危険。

 毎度毎度採りに来るのは大変な話だ。

 それよりは、と提案されたのは商人ギルドへとこの情報を売る事。

 そして、それと引き換えに利益の1%を彼らが死ぬまで得る、というものだった。

 

 「1%か……」

 「だが、悪い話じゃねえ。それなら連中も認めるだろうし、俺達も安定した収入が苦労せず得られるってもんだ」


 あくまで利益の1%。

 それでもこの一同が遊んで暮らすには十分すぎるだろう。

 商人ギルドも、この情報を得れば最初の多大な投資に見合うリターンがあると判断すると彼らは考えたのだ。

 結果から言えばこの話は成功した。一つだけ彼らの想定外だったのは大規模開発という事で、国も絡む事になった事だった。とはいえ、彼らが得られる利益には新たな契約でも変わる事はなかったので特に不満が出る事もなかったが。

 こうして、商人達は実際に提供された拳大の塊の魔鉱石を見て(通常、塊でなどありえない)、その話を信じた。

 そうして、道が作られ、遂に彼らは連山へと到達した。

 到達したはいいが、期待と違ってクズ鉱石の山だった、などという可能性もあったからこれまで「莫大な金をかけてまで開発する価値があるのか?」と二の足を踏んでいたが、計画だけは何度も立てられていた為に一旦物事が動き出せば全ては迅速に進んだのだった。

 かくして、彼らは到達し、大鉱脈を得た。

 国は新たに魔の森を貫く街道を維持し、商人達が魔鉱石を供給し、加工し、それが雇用を生み、国は栄えた。

 

 需要と供給が出来れば、そこに商売が生まれるのが世の常。

 黄金連山の麓には次第に街が形成されていった。

 無論、他国もこの莫大な価値を持つ山からの利益を得ようと考えないでもなかったが、ことごとく挫折し、やがて素直に交易によって利を得る事になっていった。

 当然と言えば当然の話だ。

 いくら道が作られたとはいえ、周囲は元々魔の森と呼ばれた地域であり、国はこの魔の森を敢えて残し続けた。

 確かに、襲撃を受ける危険性はあるが、同時に他国からの侵入を防ぐ防壁ともなりえる。

 元々、この連山へと辿り着くにはこの国の国内へと入り込んで十日以上進むか、竜の領域と呼ばれる人が殆ど足を踏み入れる事の出来てない領域を踏破するかしなければならない。必然的に他国がこの連山へと到達するにはこの国に戦争を吹っかけて、連山までの道を確保するか、或いは少数の潜入部隊を送るしかない。

 そして、戦争はといえば莫大な利益によって国は強力な武装を整え、砦を構築し、守りを固めた。財宝を守る為に彼らは金を惜しまなかったと言えるが、これを突破するには多大な損害を受ける事が確実で、しかも必ず突破出来るとは到底言えない。

 かといって鉱山街とは別の密輸を図るにしても今度は魔の森が立ちはだかる。

 魔の森は武装なしで突破出来るような場所でもなく、また派手な魔法を使えば当然警備にばれやすくなる。損ばかり多くて、利は少ないと各国は嫌でも理解せざるをえなかった。

 平穏の中、街は急速に発展していった。

 確かに危険地帯の中にある街ではあるが、ここでの採掘は他と比べて極めて楽だ。

 何しろ、目の前には魔鉱石の塊が存在しており、例えるなら超巨大な金塊がそのまま転がっているようなものだ。わざわざ坑道なぞ掘らなくても露天掘り、いやただ切り出せばいいだけである為に事故も極めて少ないし、精錬が必要ないので鉱毒に悩まされる事もない。

 莫大な利が得られる為に街への投資も多く、どんどん街は栄え、国は連山からの収入に依存していくようになる。

 最初の冒険者達も莫大な収入を得て、冒険者を引退し、ある者は故郷へ錦を飾り、ある者は趣味に没頭し、またある者は享楽に耽った。そして――。


 それから二年の後、街へと大規模な襲撃が起きた。

地中で火、と言われるとイメージ湧かないかもしれませんが、そうなった街は実在しています

アメリカ、セントラリア。ゲーム『サイレントヒル』のモデルとなったとも言われる街で、地下に広がる無煙炭の層に火がつき、今も尚燻り続け、地表温度は場所により70~80度に達するというゴーストタウンです

怖い所ですよねー、でも街の人が全員いなくなっちゃうと採掘権の問題があれこれあるので未だ国の退去勧告にも関わらず少しの住人が残ってるんだとか……

 

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